新宿インシデント(香港映画・2009年) |
<東宝試写室>
2009年3月6日鑑賞
2009年3月12日記
持ち味のカンフー技とユーモアを封印し、成龍(ジャッキー・チェン)が密航者、裏社会のボス、殺人犯まで演じたのは、一体ナゼ?日本のヤクザと中国マフィアとの関係は?新宿・歌舞伎町のシマのルールは?そして、警察は市民の安全のためにいかなる対応を?結局は、血で血を洗う新宿大抗争に至るわけだが、なぜ今こんな映画が?50代半ばとなったジャッキーの失敗作とならなければいいが・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本:爾冬陞(イー・トンシン)
脚本:秦天南(チュン・ティンナム)
鉄頭/成龍(ジャッキー・チェン)
北野(刑事)/竹中直人
阿傑(鉄頭の同郷の友人)/呉彦祖(ダニエル・ウー)
シュシュ(鉄頭の恋人)、江口結子(江口の妻)/徐靜蕾(シュー・ジンレイ)
江口利成(三和会の幹部)/加藤雅也
リリー(バーのママ)/范冰冰(ファン・ビンビン)
村西弘一(三和会の会長)/峰岸徹
渡川(三和会渡川組組長)/倉田保昭
大田原(大物政治家)/長門裕之
2009年・香港映画・119分
配給/ショウゲート
<こんなジャッキー、観たことない!>
私が観た最近のジャッキー・チェン映画は、①『シャンハイ・ナイト』(03年)(『シネマルーム3』304頁参照)、②『80デイズ』(04年)(『シネマルーム6』33頁参照)、③『香港国際警察 NEW POLICE STORY』(04年)(『シネマルーム7』349頁、『シネマルーム17』489頁参照)、④『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』(04年)(『シネマルーム9』53頁、『シネマルーム17』108頁参照)、⑤『プロジェクトBB』(06年)(『シネマルーム15』103頁、『シネマルーム17』494頁参照)、⑥『ラッシュアワー3』(07年)(『シネマルーム15』98頁参照)、⑦『ドラゴン・キングダム』(08年)(『シネマルーム21』42頁参照)、⑧『カンフーパンダ』(08年)(『シネマルーム20』57頁参照、声だけの出演)。
ジャッキー映画の特徴は、何といってもジャッキー流カンフーアクションとジャッキー流ユーモア。ところが本作にはこの2つの特徴が全くなく、どちらかというとしかめっ面のジャッキーばかり・・・。こんなジャッキー、観たことない!なぜジャッキーは爾冬陞(イー・トンシン)監督の下で、こんな映画に?
<冒頭の集団密航の様子は、少し現実離れ?>
私は約7年前に関西国際空港を経て、大阪府内に密航してきた福建省出身の中国人の事件を担当したことがあるが、それは蛇頭の組織的手引きがなければ難しいものだった。本作の最後に字幕表示されるように、1990年代は貧しい中国からの集団密航がたくさんあったようだが、2000年代に入ると、豊かになってきたことや取り締まりが厳しくなったこともあって激減したらしい。したがって、この映画が描く時代は1990年代。
映画冒頭に登場する日本海沿岸の若狭湾の海辺で座礁した、鉄頭たちが乗った船がバカデカいのは映像としては面白いが、あまりにも現実味を欠くシーン。現実の密航は、小船に目いっぱい乗っての死を賭したものであるはず。もちろん、大きな船の中に1人2人もぐり込む密航もあるだろうが、それなら座礁した船から多くの乗組員も浜辺に逃げてきているはずだ。自転車でパトロール中の巡査が発見した、浜辺に座る密航者たちの数は100名規模だからすごい。その意味では、冒頭の集団密航の様子は少し現実離れ?
鉄頭が目指すのは同郷の友人、阿傑(呉彦祖/ダニエル・ウー)が暮らしているはずの東京新宿の歌舞伎町。ほとんど日本語をしゃべれない鉄頭は、警察の追求を避けながらどうやってその目的地へ?
<2人の女優は刺身のツマ?>
この映画のテーマは、新宿・歌舞伎町を舞台とした日本ヤクザと中国マフィア(?)との抗争だから、女優の役割が小さくなるのは仕方ない。しかしそれにしても、私の大好きな中国の“四小名旦”(四大若手女優)の1人である、徐靜蕾(シュー・ジンレイ)扮するシュシュの扱いは?シュシュは中国東北部・黒龍江省の寒村でトラック整備士として働いていた鉄頭(成龍/ジャッキー・チェン)の幼なじみの恋人という設定だが、そもそも1954年生まれのジャッキー・チェンと、1974年生まれのシュー・ジンレイを幼なじみとすること自体が厚かましい。また、10年以上前に叔母を頼って日本に留学したというシュシュからの音信が途絶えたため、鉄頭は蛇頭の手引きで日本に密入国したという設定だが、あえて密入国しなくても観光旅行や親族訪問など合法的な入国理由は見つからないの?しかして、やっと密入国を果たした鉄頭が見た、シュシュの現在の姿とは?
他方、『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』ではじめて私の頭の中にインプットされた若手美人女優范冰冰(ファン・ビンビン)の扱いは?バーのママ、リリー役で登場するファン・ビンビンは、酔客と一緒のところを襲われた路上強盗をやっつけてくれた鉄頭の境遇に同情していくうち、次第に鉄頭への好意を恋心に変えていくという微妙な役をうまく演じている。しかし、シュー・ジンレイと同じようにファン・ビンビンの存在感が薄いのは、やはり新宿・歌舞伎町を舞台とした、日本ヤクザと中国マフィアの抗争というテーマのせい?
<鉄頭が生きていく道は?>
不法入国という手段で日本に密航してきた鉄頭が、仮にかつての恋人シュシュを発見できたとしても、10年以上も経った今、鉄頭やシュシュに一体何ができるの?そもそも、本作はそこらあたりの基礎的論点がきっちりしていないから、表面上の出来事を追う展開ばかりに・・・。
偶然鉄頭が発見することができたシュシュは、今は何と新宿を取り仕切るヤクザ三和会の幹部である江口利成(加藤雅也)の妻となっており、子供までいるらしい。これが鉄頭にとって大ショックだったのは当然だが、そうかといって今さら合法的に中国に戻ることができないことは明らか。そこで新宿・歌舞伎町で鉄頭が生きていく道は?
そう考えると、選択肢が中国人マフィア(?)として盗みや詐欺などの犯罪行為によって金を稼ぎ、勢力を拡大していくことしかないのは当然だ。なるほど、1990年代の中国人マフィアは、こんな風に盗みや詐欺を働き金を稼ぐことによってその勢力を拡大していったわけだ。しかし、国際的大スターとなったジャッキー・チェンが、今頃あえてそんな役を演じなくてもいいのでは・・・?
<純真で気の小さな阿傑が、新宿抗争の原因に>
本作で意外なキーマンの役割を果たすのが、鉄頭の同郷の友人で純真で気の小さな青年阿傑。盗みと詐欺によって金を蓄えた鉄頭が買ってやった天津甘栗の屋台に、長年の夢が叶った阿傑は大喜び。
ところが、ある日秘かに心を寄せていた女子高生と仲良く口をきいていたことでその父親から因縁をつけられたのが、日本人ヤクザと台南ギャングそして中国人マフィアの新宿抗争の始まりだ。鉄頭の頑張りによって何とか阿傑を救出し、屋台も取り戻したが、どうも阿傑は何らかのトラブルの芽となる不幸な星の下に生まれてきたようだ。たまたま、彼が細工の施されたパチンコ台の代打ちをしたのが、彼の最大の不幸。そこに登場した台南ギャングによって彼は顔を傷つけられたうえ、右手まで切り落とされるという悲劇に見舞われることに。新宿・歌舞伎町にさまざまなヤミの勢力が存在し抗争していることはわかるが、台南ギャングってここまでえげつないことをするの?
さて、こんな事態となり、復讐を誓った鉄頭たちの次の一手は?
<3人の日本人俳優は?>
この映画では江口役の加藤雅也の他、北野刑事役で竹中直人が、三和会の会長村西弘一役で峰岸徹が登場し、三者三様の脇役としての役割をきっちりと果たしている。2008年10月11日に肺ガンのため65歳で亡くなった峰岸徹の存在感はさすがだが、加藤雅也の大阪弁が奈良市生まれにもかかわらず少し違和感があるのはなぜ?また、江口が中国人に優しいのは妻となったシュシュこと江口結子が美人だから?それとも、何らかの理論的、思想的バックボーンがあるの?新宿抗争の防波堤として鉄頭たちを利用しようとしている、計算高き野心家江口の姿をみていると「俺が中国人を差別したことがあるか?」との言葉を額面どおり受けとれないのだが・・・?
他方、せっかく不法入国者たちを一網打尽にするチャンスを得ながら、足を滑らせて下水道に落ちてしまうという大失態を演じたのが北野刑事。そして、泳げないため溺れかけている北野刑事を助けたのが鉄頭。北野刑事はその恩義を感じ、その後鉄頭との間で「借りがある」とか「借りは返した」とか、ワケのわからない「計算」をしながら奇妙な人間関係が形成されていくことに。「怪演」とまではいかないが、こんな役にピッタリの竹中直人が、いつものように目をむいた演技を見せてくれるからそれに注目。
<そこまでやるか、ジャッキー・チェン!>
映画前半は密航してまで探しに来た恋人シュシュが江口の妻となっていることにショックを受けるとともに、盗み、詐欺などの犯罪に手を染ながら仲間たちと共に新宿歌舞伎町でたくましく生きていく鉄頭たちの姿が描かれる。しかし後半は、がぜん血で血を洗う日本ヤクザVS中国マフィア抗争の様相を深めていく。
そのキッカケは、江口からの依頼を受けて鉄頭が、江口のライバルである渡川組組長渡川(倉田保昭)と三和会会長村西の殺害を決意したこと。鉄頭が見返りとして受け取るのは、長期滞在ビザと新宿のシマを仲間たちが仕切る権利だが、ここまでやれば鉄頭は立派な中国マフィア?また、いくら北野刑事との友情(?)があっても、殺人の実行犯鉄頭にはすぐに警察の捜査の手が伸びるのでは?誰でもそう思うが、いつまでたっても鉄頭が殺人罪容疑で逮捕されないのは、一体なぜ?日本の警察って、そんなにバカなの?
<新宿大抗争の展開は?>
鉄頭が渡川と村西を殺ったのは、仲間たちが新宿で生業を営むため。そんな宣言をした鉄頭は、犯行実行後自動車整備の生業に就きシマは阿傑に任せたが、私に言わせればそりゃ無責任というもの。だって、新宿歌舞伎町にヤクザが存在するのは、そこでまともな商売をやって生きていくためには警察秩序とは異なるそれなりの秩序が必要なため。つまり、「みかじめ料」は必要悪だと商売人たちはみんな認識しているわけだ。それを知らないわけではない鉄頭が、右手を切り落とされて以降心がすさんでしまった阿傑に新宿歌舞伎町のシマを任せたのは明らかに無責任だ。
今や三和会の会長となった江口の威光をバックに、ケバい風体と凶暴な性格に一変した阿傑は、「東華商事」という表看板を掲げながら、裏では麻薬にまで手を出す有り様だ。今や新宿歌舞伎町は江口と阿傑の天下だが、その裏では渡川組と江口に反発する部下たちの反乱計画が・・・。他方、今は暴力団対策本部所属となっている北野刑事は鉄頭の逮捕によって事態を収拾しようとしたが、そりゃとてもムリ。さあ血で血を洗う新宿大抗争の展開は?
2009(平成21)年3月12日記