アンダーワールド ビギンズ(アメリカ映画・2009年) |
<ソニー・ピクチャーズ試写室>
2009年2月20日鑑賞
2009年2月23日記
バットマン、レクター博士、007の誕生秘話と同じように、第1作、第2作で描かれたアンダーワールドの200年前の誕生秘話=起源が、今私たちの目の前に!全3作を通した物語を正確に把握するには、人物関係図と歴史の勉強が必要だが、「美しき女処刑人」や「禁断の恋」というキーワードへの興味があれば、理解は十分可能。あまり屁理屈を言わず、素直にヴァンパイア族VSライカン族(狼男族)の決戦を楽しもう。
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監督・クリーチャー・デザイン:パトリック・タトポロス
ルシアン(ライカンの始祖)/マイケル・シーン
ビクター(ヴァンパイア一族の長老)/ビル・ナイ
ソーニャ(ビクターの娘)/ローナ・ミトラ
タニス(年代記編者)/スティーヴン・マッキントッシュ
レイズ(ルシアンの右腕)/ケヴィン・グレイヴォー
セリーン(闇の女処刑人)/ケイト・ベッキンセール
2009年・アメリカ映画・92分
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
<「アンダーワールド」3部作、ここに完結!>
『アンダーワールド ビギンズ』と題された本作は、『バットマン ビギンズ』(05年)がバットマンの誕生秘話を描き、『ハンニバル ライジング』(06年)がハンニバル・レクターの誕生秘話を描き、『007/カジノ・ロワイヤル』(06年)が007の誕生秘話を描いたように、アンダーワールドの誕生秘話=起源に焦点をあてたもの。
バットマンもレクター博士も007も1人の人間だからその誕生秘話に遡るのはせいぜい数十年だが、アンダーワールドは闇の世界におけるヴァンパイア(吸血鬼)族とライカン(狼男)族との種族の存亡をかけた抗争をテーマとした一大歴史絵巻。したがって、ヴァンパイア族の美しき女処刑人セリーン(ケイト・ベッキンセール)を核とした第1作『アンダーワールド』(03年)とそれに続く第2作『アンダーワールド:エボリューション』(06年)の時代が15世紀だったのに対して、第3作『アンダーワールド ビギンズ』の物語は13世紀と一気に200年も遡ることになる。
第2作の評論で書いたように、その物語は複雑で難解(『シネマルーム10』82頁参照)。そして本作は第1作、第2作の前史を明らかにし、第1作にストーリーをつなげるものだから、その物語はさらに複雑かつ難解。幸いプレスシートには、ヴァンパイア族とライカン族に大きく分けた人物相関図と年代順に整理された出来事が載っているから、全体をきちんと理解したい人はこの勉強が不可欠だ。もっとも、概ね理解できればいいという人は本作だけで十分楽しむことができるからご安心を。私はいつか是非、資料をいっぱい参照しながら3本を通して観てみたいもの。
<13世紀はヴァンパイア族の一人天下>
およそ西暦5世紀頃のヴァンパイア族の始祖はマーカスで、狼男族の始祖はウィリアム。この2人は双子の兄弟だが、その後ヴァンパイア族とライカン(狼男)族に分かれて種族抗争を展開していくことに。
それから約700年後の13世紀はじめ、永遠の命を持つ吸血鬼ヴァンパイア族の長ビクター(ビル・ナイ)が凶暴な狼男ウィリアムを牢獄に監禁したため、アンダーワールドの時代はヴァンパイア族の一人天下になっていた。そんな中で誕生したのが、従来の狼男と違って自らの意思で狼や人間に変身できるという初のライカン族の男ルシアン(マイケル・シーン)。狼男とは知性のレベルが異なり、武器を持ったり、議会による政治を行ったりするヴァンパイア族が獰猛な獣にすぎない狼男族より強いのは当然だが、なお荒野には狼男がいっぱい。そこでビクターは奴隷にしている人間たちとルシアンを使って多数のライカン族をつくり出し、ヴァンパイア族の奴隷として使っていた。もちろん、ルシアンだけには特権を与えていたが、首輪を外すことは厳禁。
そこで問題は、ライカン族でありながら自分だけビクターに取り立てられて、ライカン族の男たちを奴隷として使っていることにルシアンは疑問を感じていないのかということだが、そんな質問に対するルシアンの答えは・・・?
<あのフロストの俳優がルシアンを!>
09年2月9日に観た『フロスト×ニクソン』(08年)でニクソンを追いつめる司会者フロスト役を演じたのが、イギリス人俳優マイケル・シーン。『アンダーワールド ビギンズ』の売りは、第1作・第2作のセリーンと酷似する運命をたどる、ヴァンパイア族の美しき闇の女処刑人ソーニャ(ローナ・ミトラ)だが、実質的な主人公は誰が見ても明らかにライカン族の始祖ルシアン。そのルシアンを演じているのが、フロストを演じた俳優マイケル・シーンだ。
目の大きさは共通だが、同じ俳優だと指摘されなければ、私には絶対見抜くことができないほどフロストとルシアンは全然違う役柄。人間の姿から突然狼に変身したり、凶器を先につけたムチで背中を50回も打たれて血まみれになったりと、トークバトルの面白さを見せつけたフロスト役とは全然違うルシアン役は大変だが、さすが一流俳優の演技力はしっかりしたものと感心。
<ここでもヴァンパイアの禁断の恋が・・・>
09年2月3日に観た『トワイライト~初恋~』(08年)は人間の少女とヴァンパイア族の美青年との禁断の恋を描いたもので、『ハリー・ポッター』に続くシリーズ化が確実と思われている映画。それと同じように、ヴァンパイア族と狼男族の種族抗争を展開している闇の世界で、ビクターの娘ソーニャとライカンの始祖ルシアンとの間に禁断の恋が生まれるところが本作のミソ。もっとも、2人が監視の目を盗んで密会し、身体を重ね合う状況がどんな風にすれば実現できるのかは不思議だが、そこは映画だからと割り切らなくちゃ。
しかし私には、映画冒頭に登場する鎧兜に身を固めて馬を駆り、追ってくる狼男たちをバッタバッタと斬り捨てるカッコいい女剣士ソーニャと、ヴァンパイア族の長の娘という立場を忘れてルシアンにメロメロになり、正常な判断力を失ったとしか考えられない行動をとるソーニャの女心がイマイチ結びつかない。だって、ソーニャはヴァンパイア族の長ビクターの一人娘として父親の愛情を一身に受けて育ち、将来はヴァンパイア族の長になるべき立場。そんなソーニャが、将来の後継者という重要な立場を恋の前に簡単に忘れられるの?そして、たかがライカン族ごときルシアンになぜあんなにホレ込むの?さらに最後にはルシアンのために父親と対決し、剣を交えるところまでできるの?ソーニャはもう少し、自分の立場をわきまえなくちゃ。
こんな風に考えるのは、私が遂に60歳の還暦を迎えた、娘を持つ1人の父親だから・・・?
<キーマンは年代記編者のタニス>
ソーニャとルシアンの密会はやっぱりある1人の男にバレていた。そりゃ、そうだろう。鍛冶屋の仕事をやりつつ、奴隷たちの監督官の役割を果たしているルシアンが、ヴァンパイア族の長の娘ソーニャと視線を合わせたり、会話を交わすことなど本来ありえないこと。したがって、ちょっとでもそんな行動があれば不審に思うのは当然。それを見抜いたのは、年代記編者のタニス(スティーヴン・マッキントッシュ)だ。
しかも、タニスは密会を終えた2人が別れを惜しむシーンを目撃したから、それをすぐにビクターに報告?誰でもそう思うはずだが、タニスがそうしなかったのは一体ナゼ?この映画ではそれをよく考える必要がある。そしてある時、2人の密会がタニスに気づかれているとソーニャが知った時、その疑惑はさらに広がることに。人間の姿をしたライカン族の始祖ルシアンの知力は相当なもの。だってルシアンはそんなタニスを敵に回すのではなく、味方にできないまでも彼を利用して、城からの脱出を目指そうとしたのだから。
現に、ルシアンが牢獄に閉じこめられている多くの囚人たちを失いながらも、ルシアンの右腕的存在のレイズ(ケヴィン・グレイヴォー)らと共に城から脱出できたのは、タニスがルシアンにあるカギを渡してくれたから。ルシアンとソーニャが交わした固い約束では、2日後にソーニャと落ち合うことになっていたが、さてソーニャはルシアンの後を追うことができるの?
そんなタニスは、ビクターからカギを渡したことを追及されながらもかろうじて一命を取り留めたうえ、クライマックスにおけるヴァンパイア族VSライカン族+狼男族連合軍の戦いの中、密かにある行動をとることに。さらに、タニスがルシアンに殺されかけたビクターを救い出し、第1作の物語への架け橋となるから、いささか地味ながらこのタニスこそ重要なキーマン!
<ヴァンパイア族の死刑執行方法は?>
死刑の執行方法は、かつての石川五右衛門に対する釜茹での刑や、平安時代後期の陸奥国における藤原経清に対する錆び刀による鋸挽き刑など残忍なものがあったが、近代刑法は絞首刑や電気イスなどに限定している。ルシアンとの関係がバレてビクターに軟禁されているソーニャを救出するため、ルシアンは単身城に忍び込んだが、すべて見透していたビクターの手によって2人とも捕われたのは当然。そこで、再びルシアンへのムチ打ちの刑が執行された後、ルシアンの目の前でソーニャの死刑執行が。
さてそれは一体どんな方法?興味津々にそれを見守っていると、なぜかビクター以下全員部屋から退出。そして、何やら高い天井がゴソゴソと動き始めたが、こりゃ一体何?さあ、その後展開される、あっと驚くソーニャの死刑執行風景はしっかりあなた自身の目で。なるほど、これがヴァンパイア族に対する死刑執行方法か、と納得!
<なぜ、もっと早く変身しないの?>
ライカン族の特徴は人間から狼へ、狼から人間へ自由に変身できること。もちろん知性的には人間の方が圧倒的に有利だから、その始祖であるルシアンは通常は人間の姿をしているが、ある時ルシアンが狼男に変身する様子を見ることができる。それは貴族たちを迎えるため城の外に出たソーニャが、予想外の多くの狼男に襲撃され危険な状態になった時。なるほど、こんな風に瞬時に人間から狼に変身できるのならイザとなれば・・・。
そう思うのだが、なぜルシアンはむざむざ目の前でソーニャが死刑執行されるのを見逃したの?繋がれている両手の鎖を解き放つのは人間の力ではムリだが、狼男なら可能。そうだとすれば、ビクター以下全員が部屋から退出しているのだから、そこで狼男に変身して鎖を断ち切ればソーニャを救出できるのでは?現にルシアンはソーニャの死刑執行終了後、狼男に変身することによってその後のストーリー展開が成り立っていくのだから、ここでの変身の遅れは致命的・・・?
こんな屁理屈ばかり言う観客は迷惑かもしれないが、やはり、「なぜもっと早く変身しないの?」との疑問は仕方なし。
<クライマックスの迫力はあなた自身の目で>
『ナルニア国物語 第1章ライオンと魔女』(05年)、『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(07年)、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01・02・03年)などのハリウッド大作のシリーズもさまざまな姿をしたクリーチャーたちがくり広げる一大決戦がクライマックスだったが、それは本作も同じ。人間から狼男に変身し単独での戦いを続けたルシアンだったが、城内の防御体制は万全で、数本の矢に射抜かれたルシアンは今や息も絶え絶え。そんな中、遠くの森の中では不気味な音が。ビクターが耳を澄ませて聞いていると、それは荒れ地を埋めつくすかのように結集した狼男たちの怒濤のような城への一斉攻撃だった。これに呼応するのが、ビクターに対して不満を持つ貴族たちを味方にしたレイズたちの勢力。
さあ近代的な武器を誇り、鎧兜で身を固めたヴァンパイア族軍と、凶暴な突破力を誇る狼男族の大軍の激突は如何に?そんなクライマックスシーンは、あなた自身の目でしっかりと。
2009(平成21)年2月23日記