ハルフウェイ(日本映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年1月30日鑑賞
2009年1月31日記
志望校優先?それとも彼女優先?コクった後にそんな論点が浮上!小樽の美しい風景をバックに展開される、高校3年生のピュアな恋。それが北川悦吏子監督の演出と北乃きいの瑞々しい演技によってすばらしい作品に。一瞬私も心が洗われたような気がしたが、それって錯覚?しかし、一瞬だけでも価値があるのでは?人間いくつになっても、ピュアさと瑞々しさを失ってはダメなことを痛感!
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監督、脚本:北川悦吏子
製作:岩井俊二、小林武史
ヒロ/北乃きい
シュウ(ヒロの恋人)/岡田将生
タスク(シュウの親友)/溝端淳平
メメ(ヒロの親友)/仲里衣紗
高梨先生(担任の先生)/成宮寛貴
保健の先生/白石美帆
平林先生(書道の先生)/大沢たかお
2009年・日本映画・85分
配給/シネカノン
<すばらしい才能に拍手!才能の結晶に拍手!>
格差、格差と叫ぶマスコミや世の中は、「格差はけしからん」という視点ばかりだが、映画作りの分野では、才能のあるヤツと才能のないヤツの間に格差があるのは当たり前。
例えば映画好きの私が映画を作りたいと言ってヘタな脚本を書き、ヘタな演出で監督しても、世間はその作品を認めてくれないが、それはなぜ?それは、才能のない私がくだらない映画を作っても誰も感動しないから。つまり、感動を与える映画作りは才能のある人間のフィールドであり、才能のない私のフィールドではないという格差が歴然と存在しているわけだ。
本作が初監督作品となる北川悦吏子が、そんな才能をもつ脚本家だったことを私は本作ではじめて知った。もっとも、彼女は『愛していると言ってくれ』『ロングバケーション』『ビューティフルライフ』『オレンジデイズ』等たくさんのヒットドラマを世に送り出し、「ラブストーリーの神様」と呼ばれていたそうだから、そんな彼女の才能を知らなかったのは私だけ?
そんな北川悦吏子監督をプロデューサーの立場で応援したのが、岩井俊二監督と音楽プロデューサーの小林武史。なぜそんな強力タッグチームが組めたのかについては、あなた自身がプレスシートやパンフレットを読んで勉強してもらいたい。
岩井俊二監督の『Love Letter』(95年)、『スワロウテイル』(96年)や『花とアリス』(04年)は私の大好きな映画だが、北川悦吏子監督の本作がこれらの岩井作品と共通しているのは、英語で言えばピュア、ナチュラル、日本語で言えば、瑞々しさ、初々しさ。
最近一部の邦画のくだらなさを嘆いていた私だったが、邦画で久々に発見した才能と、才能の結晶に拍手!
<いつの間にこんないい女優に・・・?>
『花とアリス』で岩井俊二監督の演出を受けて、花役の鈴木杏とアリス役の蒼井優が輝いたように、本作では北川悦吏子監督の演出を受けて北乃きいが輝いている。彼女が初主演した『幸福な食卓』(07年)は今風ホームドラマとして結構いい出来の映画だったが、逆に強烈なインパクトはなかった(『シネマルーム13』122頁参照)。彼女はその後いくつかの映画に出演しているが、私が観た長嶋一茂主演の『ポストマン』(08年)でもそこそこの演技をみせていた(『シネマルーム18』284頁参照)。
本作ではシュウ役の岡田将生も瑞々しい演技をみせているが、輝いているのは何といってもヒロ役の北乃きい。大学受験を控えた高校3年生の女の子といえば、もっとも多感で難しい時期(大都会ではもっと早いかもしれないが、北海道の小樽ではきっとそう・・・?)。保健室のベッドで親友のメメ(仲里衣紗)と並んで寝ながら、シュウへの「コクり方」をリハーサルするシーンから始まるヒロの心理描写は、さすが北川悦吏子監督の演出。時に理性的に、時にエキセントリックに、時に魔性の女的(?)に、複雑に揺れ動くヒロの感情の揺れを北乃きいは見事にスクリーン上に表現している。
『幸福な食卓』で第31回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した後に彼女が出演していたTVドラマ『14歳の母』や『ライフ』等も好評だったらしいが、1991年生まれの北乃きいは一体いつの間にこんないい女優に・・・?
<面白い告白と美しい風景に注目!>
映画冒頭はほとんどセリフなしで、ヒロとシュウが自転車で学校へ通うシーンから始まる。この2人はかなり親しそうだが、それはあくまで友人レベルで恋人レベルではなさそう。その後に描かれる最初のストーリーは、前述のように軽い貧血を起こしたヒロとそれに付き添った親友のメメが眠っている保健室に、鼻血を出したシュウが入っていくところから生まれるハプニング。つまり、目の前にいるのは親友のメメだと思い込んでいるヒロが目覚めた直後、予行演習的にシュウへの告白をしてしまったから、さぁ大変。穴があったら入りたい、とはまさにこのことだろう。
ところがその後、逆にシュウからヒロに対して「僕と付き合って下さい」と告白したため、ヒロはびっくりすると同時に有頂天状態に。折りしも2人は今、高校3年生。高校卒業と大学受験を控えて大変な時期だが、そんな中で恋人気分に浸る余裕はあるの・・・?
他方、2人が通学路として通う大きな川沿いの土手道に注目。学校内とこの土手道がこの映画の主要な舞台となるが、小樽にはこんな広くてのどかな風景がまだ残っているわけだ。北川悦吏子監督が描くピュアな純愛物語のスケッチは、こんな美しい舞台があってこそひき立つというもの。したがって、この美しい風景をたくみに映し出すカメラワークの機敏さにも要注目!
<志望校優先?それとも彼女優先?>
この映画の良さはナチュラルさとシンプルさ。しかして、大学受験を間近に控えたシュウとヒロの間に起きるケンカの論点は、シュウの受験校選定問題だ。シュウの志望校は早稲田大学。そうだとしたら、なぜコクる前にそれを言わないの?つまり、東京に行くのに私にコクってどうするつもり?というのがヒロの主張。
この年代はどうも女の方が弁が立つようで、自分の思いを次々ストレートにぶつけるヒロに対してシュウは防戦一方。もっとも、明確にその回答が出ないのは、シュウ自身もなぜコクる前に志望校を言わなかったのか整理ができていないから。ハムレットの場合、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」ったが、ヒロからそんな追求を受けるシュウの場合は、「志望校優先?それとも彼女優先?それが問題」となったが・・・。
<金八先生が2人も その1>
武田鉄矢扮する金八先生は、今や伝説的な理想の教師となった。大阪府の橋下知事の「クソ教育委発言」に私が拍手を送りたいのは、これによって荒廃した教育現場に大胆にメスが入ることになったから。もっとも、メスをいれなければならないのは、教育委員会だけでなく、私たちの時代に「でもしか先生」と言っていた以上にレベルが下がってしまった無責任教師たち。そんな今ドキの教育をめぐる時代状況の中、ヒロたちが通う小樽の学校にはすばらしい金八先生が2人もいるようだ。
1人は、担任の高梨先生(成宮寛貴)。ヒロからの攻撃(?)を受けて、早稲田受験の気持が揺らぎ相談をもちかけたシュウに対して、高梨先生は「思ってるより、人生って長いよ」とアドバイス。さてそのココロは・・・?
もっとも、相談をもちかける時、相談者は既に結論を決めていることが多いから、シュウの場合もきっと・・・。そして、そんな結論はきっと若気の至り・・・?
<金八先生が2人も その2>
女心は複雑だが、それは大人の女だけでなく、高3の女の子でも同じ。つまり、ヒロの要求によってシュウが早稲田志望を撤回すると、今度は撤回したことが気に入らなくなるわけだ。そんな女心に対して男心は単純だから、せっかく志望校優先ではなく彼女優先にしたのにヒロがムクれているのは、シュウには到底理解不可能。そんなヒロの悩みを見抜き、ヒロの不安を打ち明けさせたのが、書道の平林先生(大沢たかお)だ。
ヒロに対する平林先生のアドバイスは「後先考えて行動する男なんて男じゃない。好きだって思ったら、男はいくんだよ」という破天荒なもの。また、「東京に行ったら、他の女の人に目移りするのでは?」との不安に対しても「そりゃ、そうだろう」との明確な回答。しかしそれに続く、「東京に行っていろいろな経験を積み、いろいろな女性と付き合い、それでもヒロが1番だとなればすばらしいのでは」とのアドバイスは物事の本質をズバリ突いた正当なもの。もっとも、そう言われて「はい、そうですね」と言えるほどヒロが大人でないのも当然だ。
そんな会話の後、「今の正直な気持を筆で書いてみろ」という平林先生の注文に応じてヒロが一気に書いた言葉は「いけな」。こりゃ一体ナニ?ワケのわからない、文法的にも明らかなまちがいだが、「いけ」でもなく「いくな」でもない、揺れ動く気持をまさに正直に表現した立派な日本語。しかし、今ドキこんな立派な金八先生ってホントにいるの・・・?
<右に揺れ、左に揺れ、最後の結論は?>
ヒロの理解では、シュウとヒロの仲は、シュウが告白の時になぜ志望校を言わなかった論争によって終止符を打ったらしい。それは、以降シュウを避けていたこと、電話にも出ない状態が続いたことによっても明らかだ。しかし、シュウが早稲田志望を撤回したことによって再び2人の仲は復活。これにて万々歳となりかけていたのだが、そこで再び起きたのが前述のヒロの不安。さてこんな風に右に揺れ、左に揺れ、最後の結論は?
何日かの膠着状態が続いた後、ヒロはある決断をしたようだ。その結果、ヒロはシュウを担任の高梨先生の前に連れていき、「先生、この人を早稲田に行かせてあげて下さい。お願いします」と頭を下げたからシュウはビックリ。このシークエンスは、女心の機微を北川悦吏子監督がしっかりと把握していることを端的に示すものだが、なぜヒロはそんな行動を?そして高梨先生から「正直な気持はどうなんだ?」と聞かれたシュウの答えは?それは、あなた自身の目でしっかりと。
<少しは心が洗われた?>
さてあなたは、こんな風に大きな山を乗り越えた2人の将来をどのように占う?「早稲田大学に合格して東京に行ってしまったら、結局シュウとヒロは別れてしまうサ。そしてヒロも地元で新しい彼氏を見つけるサ。」ひょっとしてあなたの意見はこうでは?しかし、そんなことを言うのは、あなたがおじさんになり、おばさんになってしまったことを証明するもの。今はスケベおやじになってしまったあなたにだって、ピュアな心の高校3年生の時代はあったはず。そして、その時はシュウと同じように悩み、何とか悩みを乗り越えてきたはず。その時あなたが信じていたものは・・・?
思わず私自身の高校3年生の時を思い出しながら、この映画を観て少しは心が洗われた気がしたが、それって単なる錯覚・・・?
<このタイトルは一体ナニ?>
事前情報によってこの映画は高校生の恋愛モノと知っていたが、それにしても「ハルフウェイ」というタイトルは一体ナニ?それはプレスシートでも解説していないが、映画後半の2人の会話の中で解きあかされるから、それをお見逃しないように。
ちなみに英語では「HALF WAY」だが、平林先生の注文を受けて筆で「いけな」と書いたヒロのことだから、「ハルフウェイ」もひょっとしてワケのわからない、誤った言葉・・・?
2009(平成21)年1月31日記