レスラー(アメリカ、フランス映画・2008年) |
<GAGA試写室>
2009年4月10日鑑賞
2009年4月11日記
初の(?)本格的プロレス映画の名作がここに誕生!文字どおり肉弾相撃つ、身体を張ったミッキー・ロークの演技に感動。また、ストリッパーとの恋、愛娘との愛情の復活にみせる、中年男の哀愁に満ちた人間ドラマにも感動!第81回アカデミー賞主演男優賞受賞確実と思われていた『レスラー』は、これぞ男のドラマ。こりゃ必見!
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監督:ダーレン・アロノフスキー
プロデューサー:スコット・フランクリン
脚本:ロバート・シーゲル
ランディ(元人気レスラー)/ミッキー・ローク
ステファニー(ランディの一人娘)/エヴァン・レイチェル・ウッド
キャシディ(ストリッパー)/マリサ・トメイ
2008年・アメリカ、フランス映画・109分
配給/日活
<プロレス映画は初?>
ボクシング映画には『ロッキー』シリーズや『シンデレラマン』(05年)など名作が多いが、プロレス映画の名作は?本作は、ダーレン・アロノフスキー監督が映画学校を卒業した時、「真剣なプロレス映画は1本も撮られていない」と思いついたことから生まれたらしい。
「K-1」や「PRIDE」全盛の今の日本ではプロレスは日陰のプロスポーツ(?)だが、力道山の時代はもちろんアントニオ猪木やジャイアント馬場が活躍していた頃の日本ではプロレスは大人気だった。かくいう私もその隠れファン(?)で、弁護士になってからもテレビでジャンボ鶴田や長州力そして兄ドリー・ファンク・ジュニアと弟テリー・ファンクのザ・ファンクスなどの活躍をよく観ていたものだ。もっとも、プロレスはもともと「出来レース」の面が強く、場外乱闘戦や武器使用による流血戦など真剣勝負に程遠く、「流血ショーだ」という批判があるから、真剣勝負であることが大前提のボクシングに比べると、映画化は難しいのかも?また、スピードを身上とするボクシングはスローモーションを含む撮影技術によって試合の迫力を増すことができるが、1つ1つの技の動きが大きいプロレスでは、プロレスラー役をホンモノらしく演ずるのはすごく大変。さあ、そんな世界初(?)の本格的なプロレス映画の出来ばえは?
<主演男優賞受賞ならず!残念!>
第81回アカデミー賞は作品賞と監督賞にノミネートされた作品が5本とも共通という珍しい事態の中、『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)とそのダニー・ボイル監督が受賞したが、主演男優賞もかなりの激戦だったはず。結果的に『ミルク』(08年)のショーン・ペンが受賞したが、本作で栄光と挫折のレスラー、ランディを演じたミッキー・ロークの文字どおり肉弾相撃つ熱演を見ていると思わず涙ぐむことも。
本作の撮影中にミッキー・ロークは、「肩、肘、膝を故障。さらに、前から痛めていた脊椎の第5腰椎がはずれる事態に見舞われ、首が回らなくなり、指も動かなくなった」らしいが、スクリーン上にはかなりえぐい格闘シーンが再三登場する。とりわけ、ホッチキスのお化けのようなもので身体を刺されるシーンや、鉄条網の上に身体を叩きつけるシーンなどは迫力満点(?)で、流血嫌いの私(?)は思わず目をそむけることも・・・。
『ミルク』のショーン・ペンはたしかにすばらしかったが、それはあくまで演技力のすばらしさ。それに対して、これだけ自分の身体を切り刻んで熱演したミッキー・ロークの本作における演技はまさに身体を張ったすばらしさ。そう考えると、私としてはミッキー・ロークに主演男優賞を取らせてやりたかった感が・・・。
<ミッキー・ロークが裸の熱演なら、私だって!>
柔道や剣道の選手は柔道着や剣道着を着ているが、相撲、ボクシング、K-1、プロレスなどは基本的に裸の闘い。そこで本作では、ミッキー・ロークの身体に刻まれたさまざまな傷に注目!
2008年ベネチア国際映画祭金獅子賞、2008年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞し、第81回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたミッキー・ロークが裸の熱演なら、ランディからのアプローチに戸惑いつつ、最後にはそれに応じていくキャシディ役のマリサ・トメイもストリッパー役として裸の熱演をみせている。『クローサー』(04年)ではナタリー・ポートマンがストリッパー役で登場し見事な肢体を魅せてくれたことに大感激したが(『シネマルーム7』44頁参照)、本作におけるマリサ・トメイは中年の子持ちのおばさんストリッパーだから、その魅力はイマイチ?いやいやそんな失礼なことを言ってはダメ。彼女は1964年生まれだから、ナタリー・ポートマンに比べると顔はさすがに老けているが、大胆に露出し悩ましげに踊るそのボディは20代の女の子に負けない美しさ。
第81回アカデミー賞助演女優賞には本作のマリサ・トメイの他、『それでも恋するバルセロナ』(08年)のペネロペ・クルス、『ダウト~あるカトリック学校で~』(08年)のエイミー・アダムスとビオラ・デイビス、『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』(08年)のタラジ・P・ヘンソンがノミネートされ、ペネロペ・クルスが受賞したが、彼女らはそれぞれその演技が評価されたもの。それに対して、本作のマリサ・トメイがノミネートされたのは、ミッキー・ローク同様、演技力プラス文字どおり身体を張った裸の演技のおかげ?
<人間ドラマの主人公としても、すばらしい味を>
『シンデレラマン』は、実在のボクサー、ジム・ブラドックの「伝説」を基にラッセル・クロウが熱演したすばらしい作品だった(『シネマルーム8』218頁参照)。ジム・ブラドックは禁酒法時代の1920年代に大活躍したボクサーで、その後の挫折、失意の時代を経て、見事に復活したが、そこには大きな妻の愛が存在した。したがって、なぜ彼がシンデレラマンと呼ばれたのかが大きなテーマだった。
本作におけるランディも、かつての栄光は過去のものとなり、今やトレーラーハウスの家賃にもコト欠くほどに落ちぶれた存在。それでも試合があり、プロレス仲間やファンとの交流の場があればよかったが、長年のステロイドの使用がたたり、心臓発作で生死の境をさまよった身体ではもはや現役続行は不可能。そう悟らざるをえなくなったランディは、馴染みのストリッパーであるキャシディに自分の気持を正直に打ち明けたが、店の客とは一線を画したいキャシディにしてみれば、そりゃうれしいけど多少迷惑な話・・・。まして、キャシディは9歳の息子を抱えてストリッパーとして健気に生きている女性だから、そうすんなりとランディとの恋や愛そして結婚に結びつけられるはずはない。
しかしキャシディが、引退を考え、正直に心の悩みを打ち明けたランディに対して、家族の絆が大切だとアドバイスしたのはきわめて適切だった。その結果、ランディは長年連絡すらとっていなかった愛娘ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に電話し、彼女の家を訪れたが、「何を今さら!」と拒否されることに。本作は、2人の女性キャシディとステファニーに対する孤独感を漂わせる中年男ランディの哀愁に満ちた演技も感動的だ。
『ロッキー』で「イタリアの種馬」と呼ばれたロッキー・バルボアはエイドリアンとの愛が成就したが、ランディとキャシディとの恋の行方は?また、心臓発作に見舞われたことによって、やっと愛娘ステファニーとの絆に気づいたランディは、いったんはステファニーとの間に父娘の愛情を取り戻したかに見えたが、その結末は?ボクサー映画『シンデレラマン』の主人公ジム・ブラドックに勝るとも劣らない、プロレス映画の主人公ランディの人間ドラマをじっくりと味わいたい。これぞ男のドラマ!こりゃ必見!
2009(平成21)年4月11日記