インスタント沼(日本映画・2009年) |
<角川映画試写室>
2009年4月14日鑑賞
2009年4月14日記
この奇妙なタイトルは一体ナニ?麻生久美子の麻生久美子による麻生久美子のための本作には、摩訶不思議な三木ワールドがいっぱい!沈みっぱなしのジリ貧OLは、どうやって「開けゴマ!」ならぬ「開け沼!」を実現できたの?芸達者な共演陣を従えた、芸達者な麻生久美子の全開された魅力を満喫したい。こんな映画、私は大好き!
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本・原作:三木聡
沈丁花ハナメ(出版社のOl)/麻生久美子
沈丁花ノブロウ、通称電球(骨董屋「電球商会」の店主)/風間杜夫
ガス(モヒカン頭のパンクロッカー)/加瀬亮
沈丁花翠(ハナメの母親)/松坂慶子
飯山和歌子(電球商会の客)/相田翔子
西大立目部長(ハナメの上司)/笹野高史
市ノ瀬千(ハナメの友人)/ふせえり
立花まどか(出版社のハナメのライバル)/白石美帆
雨夜風太(カメラマン)/松岡俊介
サラリーマン/温水洋一
椹木(刑事)/宮藤官九郎
隅部(刑事)/渡辺哲
東(リサイクル業者)/村松利史
川端(リサイクル業者)/松重豊
大谷(リサイクル業者)/森下能幸
亀坂(泰安貿易社長)/岩松了
2009年・日本映画・120分
配給/アンプラグド、角川映画
<本作は、麻生久美子の麻生久美子による麻生久美子のための映画?>
私が見た三木ワールドは、脱力系の『ダメジン』(06年)(『シネマルーム11』247頁参照)と、「魔術系」の新境地へ到達した『図鑑に載ってない虫』(07年)(『シネマルーム15』425頁参照)の2本で、『イン・ザ・プール』(05年)と『亀は意外と速く泳ぐ』(05年)は観ていない。
今回観た『インスタント沼』は、プレスシートにある轟夕起夫氏のコラムによれば、「しょうもない日常へと斬り込んでいく『遊撃隊=ゲリラ』の横顔が凛々しく見える」とか「現実への抵抗運動の軌跡を描いた、ある種の“レジスタンス映画”」とえらく小難しい。しかし、私に言わせれば本作は、『インスタント沼』というイメージをネタに、想像力をハチャメチャに膨らませていった、麻生久美子の麻生久美子による麻生久美子のための映画。だって、ジャスト2時間の本作で主人公(ヒロイン)沈丁花ハナメを演ずる麻生久美子はホントにスクリーン上に出ずっぱりで、彼女が映らないシーンは1つもないというつくり方なのだから。
しかして、前2作の私の採点は星3つだったが、今回は自信を持って星4つ。
<奇妙なタイトルと奇妙な登場人物たち>
インスタントラーメンは日本が世界に誇る大発明だが、『インスタント沼』って一体ナニ?そのヒントはハナメが小さい時から毎朝食べ続けている(飲み続けている?)という奇妙な食べ物(飲み物?)にあるから、それに要注意。
ハナメは西大立目部長(笹野高史)の下である雑誌の編集長をしているが、雑誌は売れず休刊になりそうなジリ貧OL。また、ハナメには恋人らしきカメラマンの雨夜風太(松岡俊介)がいるが、彼は今はイタリア。そして、目の前には目下仕事上のライバルの立花まどか(白石美帆)が。映画冒頭はまず、そんなジリ貧OLの実態が、ハナメ自身のナレーションを含む、三木流のハチャメチャなフィルム回しの中で紹介される。その後に登場するのが、本作の本質を射抜くような、占いや心霊術、霊感などを一切信じないハナメと、その正反対の性格で、庭でカッパの姿を見たと平気で話す母親翠(松坂慶子)との会話。これによって、たちまちあなたはワケのわからない三木ワールドに引きずり込まれるはずだ。
その後、翠はカッパを探しに行き、池の中に落ちたことによって、ベッドの上で昏睡状態になってしまうが、そこで発見されたのが翠から沈丁花ノブロウに宛てた一通の手紙。そこには何と、ハナメの父親がノブロウだと書かれていたから大変。ノブロウって一体誰?また手紙に書かれているあることってホント?ハナメがノブロウを訪ねていくと、そこにいたのは、電球と呼ばれている骨董屋「電球商会」の店主のノブロウ(風間杜夫)。またハナメとノブロウの会話に割り込んできて「2人の顔はそっくりだ」といらざる感想を述べるのが、モヒカン頭のパンクロッカーであるガス(加瀬亮)。
タイトルも奇妙なら、こんな奇妙な登場人物たちも三木ワールドにふさわしい。さあ、「インスタント沼」をテーマとした三木ワールドの展開は?
<奇妙なキャラがお似合いの相田翔子にも拍手!>
元Winkの美人歌手相田翔子は顔に似合わずコミカルな役が意外と得意だが、彼女は本作でも飯山和歌子役で見事にそれを発揮。今やハナメはすっかり電球やガスと溶け込んでしまっていたが、そんな時「電球商会」を訪れたのが楚々とした和服姿の美女和歌子。彼女が電球に依頼したのは、女子高生時代に出会ったというツタンカーメンによる結婚占いの機械を探すこと。そこでいろいろ調べてみると、たしかに20年以上前に輸入していたらしいが、今さらそんなものを探し出すのは到底ムリ。しかし、名前はガスだが意外に電気に詳しいガスや、ハナメがアパートをリセットするために依頼したリサイクル業者の東(村松利史)、川端(松重豊)、大谷(森下能幸)らの働きによって、意外にも廃棄物の山の中でそれを発見することができたから、こりゃ奇跡。そして、100円玉を入れてツタンカーメンが占った結果、その口から吐き出された写真にはどんな男が?
和歌子が今日まで結婚しなかった(できなかった)のは、女子高生時代にツタンカーメンの口から吐き出された写真を、なぜか自分の口に入れて飲み込んでしまったため。すると、20年ぶりにツタンカーメンの口から出てきた写真を見て、彼女が下した決断とは?
こんなケッタイなストーリーをシャーシャーと見せて楽しませるところが、三木聡監督の才能だが、それを真面目に信用する、とぼけた和服美人を見事に演ずる相田翔子にも拍手!
<落ち込んだ時は、水道の蛇口をひねれ!>
いくら担当の雑誌が休刊にされても、出版社をあっさり辞めたのは近時の就職難を考えればあまりにも短気すぎ。ハナメの友人である市ノ瀬千(ふせえり)がそんな風に心配したとおり、辞めた後もハナメのジリ貧状態は改善せず、ますます悪化する一方。もっとも、貯金していた100万円をはたいて始めた小さな骨董店がうまくいったのは意外で、これを見るとやっぱりハナメはノブロウの娘?
相当落ち込んでいたハナメがそんな風に気持を切り換えることができたのは、ノブロウの「落ち込んだ時は、水道の蛇口をひねれ!」という奇妙なアドバイスのおかげだが、さてその意味は?洗面台の栓を閉めて、蛇口をいっぱいに開けて外に出たら?またバスタブの栓を閉めて蛇口をいっぱいに開けて外に出たら?それぞれ、数十秒後、数分後には水が溢れてあたり一面水浸しになるはずだ。しかし、外での用事を急いで済ませ、走って帰ってきたら?滑り込みセーフとなった時の充実感と快感は?
そんなケッタイなアドバイスをする電球ことノブロウもヘンな男だが、そんなアドバイスにまんまと乗って、生き方を前向きに変えるハナメもヘンな女?
<いい感じに曲がった古い釘の価値は?>
テレビではテレビ東京の『開運!なんでも鑑定団』が人気らしいが、電球商会に置いてある品物の数々を見ていると、どの骨董品にいくらの値段をつけるのかはお好み次第のようだ。ハナメがヘンな女であることを明確に示すのは、いい感じに折れ曲がった古い釘にハナメが惹かれるシーン。
少女時代にそんなアートなお宝を発見したハナメは学校の友達にそれを見せたが、クラスメイトは全員それを無視。さらに、今やハナメに少し心を開いたガスにそれを見せたが、その釘にはガスも全然興味を示さなかった。ところがノブロウは、「この曲がり具合といい、この古さといい、こりゃすばらしい」と絶賛したから、まさにこの娘にしてこの父親ありということだ。
結局この釘は、「黒フェアー」を開催したハナメの小さな店で興味を示した客に売ることになるのだが、さてその値段はHow much?人間の幸せなんてものは、所詮こんな意外なところにあるのかも?そんな大切なことを、三木ワールドでしっかりと学びたい。
<怒濤のクライマックスとハチャメチャワールドは、あなた自身の目で>
そもそもノブロウはフーテンの寅さんのような放浪癖のある男だから、電球商会で長く納まっていたのが不思議なくらい。しかも、あのツタンカーメン騒動によってノブロウはその思惑どおり和歌子といい仲になったらしく、電球商会を閉めて旅に出るらしい。そこで、ハナメがノブロウから渡されたのが、沈丁花家に代々伝わっているという蔵の鍵だ。
ハナメはそれをタダで預かるものと思っていたが、ノブロウの申し出は「100万円で買ってくれ」ということ。それって、ひょっとしてインチキでは?もちろん、ハナメもそう思ったが、骨董品店開店のために出資した100万円を簡単に回収できていたハナメは気持がデカくなっていたらしく、気前よく100万円をノブロウに渡したのは何とも意外。そんなやりとりの後、ノブロウは旅立ったが、ハナメは翠がノブロウに書いたという手紙のことをノブロウに話したの?ノブロウのことを父親と呼ばなかったのは、つまらないハナメの意地のせいでは?やっとそう気づいたハナメは父親と涙の対面をするべく電球商会を訪れたが、そこは既にもぬけの殻だったから残念。
そこでやっと気持を切り換えたハナメは、ガスたちの協力を得て100万円で買った鍵を持ち古い蔵へ向かったが、その蔵に収められていたのは一体どんな骨董品?1つでも2つでも金目のものがあればハナメは大満足だが、蔵から出てきたのは何と土の山。こりゃ一体ナニ?ひょっとして、ハナメは騙されたの?
さあ、ここから始まる怒濤のクライマックスと、「インスタント沼」の種明かしをメインとしたハチャメチャの三木ワールドの展開は、あなた自身の目でしっかりと。
2009(平成21)年4月14日記