路上のソリスト(アメリカ映画・2009年) |
<東宝東和試写室>
2009年4月16日鑑賞
2009年4月17日記
埋もれた天才音楽家がここにも!『北京ヴァイオリン』(02年)はバイオリンの天才少年の出生にまつわる感動作だったが、本作は路上生活を送る天才チェリストとコラムニストとの心の交流を描く感動作。統合失調症ってナニ?なぜ天才音楽家が路上生活を?コラムニストの「応援」はひょっとして無用なおせっかい?考えさせられることが多くテーマはグッドだが、『北京ヴァイオリン』に比べると音楽の扱いがイマイチ・・・?
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監督:ジョー・ライト
原作:スティーヴ・ロペス(祥伝社刊)
ナサニエル・エアーズ(天才チェリスト)/ジェイミー・フォックス
スティーヴ・ロペス(LAタイムズのコラムニスト)/ロバート・ダウニーJr.
メアリー・ウエストン(スティーヴの離婚した妻)/キャサリン・キーナー
グラハム・クレイドン(LAフィルの主席チェリスト)/トム・ホランダー
ジェニファー・エアーズ(ナサニエルの姉)/リサ・ゲイ・ハミルトン
2009年・アメリカ映画・117分
配給/東宝東和
<すべての出発は、1本のコラムから>
本作はロバート・ダウニーJr.が演じた、実在の人物であるロサンゼルス・タイムズのコラムニスト、スティーヴ・ロペスが書いた原作を、『つぐない』(07年)でアカデミー賞作品賞を含む7部門にノミネートされたイギリス人のジョー・ライト監督が映画化したもの。
コラムニストは常にネタ探しをしなければならないが、2005年4月17日のロサンゼルス・タイムズにスティーヴが書いたのが「弦2本で世界を奏でるヴァイオリニスト」と題するコラム。そのバイオリニストは、少年時代には「本気で取り組むなら、世界がひれ伏す才能だった」と絶賛されてジュリアード音楽院に入学した天才音楽家ナサニエル・エアーズ(ジェイミー・フォックス)だが、なぜ彼は今路上生活者として2弦のバイオリンを奏でているの?
スティーヴのコラムが大反響を呼んだため、彼はさらに突っ込んでナサニエルの取材を続け、自分の人生とも絡めながら現在進行形でナサニエルの物語をコラムに書き続けたらしい。そして、その連載が大人気となったため、スティーヴはそれを1冊の本として出版することに。こんなに話がうまく進めば、コラムニスト冥利に尽きるのでは?私もいつかどこかで、こんなヒットコラムを書かなければ・・・。
<ナサニエルは統合失調症?>
第77回アカデミー賞主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックスの『Ray/レイ』(04年)における熱演は感動モノだった(『シネマルーム7』149頁参照)が、本作でジェイミー・フォックスは統合失調症のため(?)路上生活をしている天才音楽家という難役に挑戦!映画の大半は、ロサンゼルスのダウンタウンにあるスラム街に本拠地をおくランプコミュニティというサポートサービスを提供する施設が舞台となる。そこでは、ある時期からナサニエルに対する薬物治療の必要性を主張するスティーヴと、路上生活者たちの心のケアをしているデイヴィッドの「診断なんて役に立たない。必要ないのは彼を病人扱いする人間だ」との言葉に代表される統合失調症に対する見方の対立が焦点となる。
希望いっぱいにジュリアード音楽院に入学したナサニエルが幻聴、幻覚に悩まされ始めたのは、一体なぜ?ストーリー展開の中で描かれる彼の症状はかなりひどいが、これは第三者には全くわからないだけに、その治療は難しい。そんな統合失調症の障害をもった(?)ナサニエルをスティーヴは好意をもって応援しているつもりだったが・・・。
<援助、救い?それとも無用なおせっかい?>
スティーヴがナサニエルに興味を示したのはまずその演奏のすばらしさからだったが、スティーヴの関心は次第にベートーベンと音楽をこよなく愛しながら路上生活を続けるナサニエルの生き方そのものに移行していった。スティーヴが「統合失調症」のナサニエルを助けたいと願い始めたのは、何よりもコラム執筆の対象としての大切な素材というのが第1の理由だが、その他に一体何が?
しかしてスティーヴはナサニエルに対して①アパートの提供をはじめとして、②LAフィルの主席チェリストであるグラハム・クレイドン(トム・ホランダー)へのレッスン依頼、③個人演奏会の場の提供をしたが、これはナサニエルに対するホントの援助、救い?それとも無用なおせっかい?映画後半に展開される2人のぶつかり合いから、それを正確に判断したい。
<スティーヴの人生にも、ナサニエルの人生にも変化が>
同僚だったメアリー・ウエストン(キャサリン・キーナー)と結婚したにもかかわらず、それが破綻し仕事への情熱も失いかけた頃にスティーヴがナサニエルと出会い、コラムのネタを獲得できたのはラッキーだった。しかし映画を観ていると、スティーヴはナサニエルのケッタイな行動に引っかき回されて、頭がおかしくなりそうな感じがいっぱい。そんな悩みを打ち明けることができるのは、スティーヴにとってメアリーしかいないらしく、今スティーヴとメアリーとの関係には微妙な変化が・・・?
他方、スティーヴの無用なおせっかいにブチ切れたナサニエルは一度は怒りを爆発させたが、逆に言えばそれは互いに友人だからこそできるケンカ。ナサニエルの姉ジェニファー・エアーズ(リサ・ゲイ・ハミルトン)はスティーヴからの連絡によってナサニエルが路上生活者になっていると聞かされたが、ナサニエルは依然として姉との再会は拒絶したまま。しかし、スティーヴと仲直りができた今、ナサニエルとジェニファーの関係の修復は?
ナサニエルの人生に深く関与することによってスティーヴの人生も大きく変わったが、同時にそんなスティーヴの変化を確認することによってナサニエルの人生にも大きな変化が。そしてまた、そんな2人の男の変化は、スティーヴの妻であったメアリーとナサニエルの姉であるジェニファーにも大きな変化を生むことに。
<音楽の使い方は?やっぱりチェロよりバイオリン?>
私は陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『北京ヴァイオリン』(02年)が大好きだが、それは映画の中で使われるチャイコンことチャイコフスキーのバイオリン協奏曲をはじめとする10曲以上の音楽の使い方がすばらしいから(『シネマルーム3』18頁、『シネマルーム5』299頁参照)。そのため、ジョエル・シュマッカー監督の『オペラ座の怪人』(04年)(『シネマルーム7』156頁参照)と共にそのサウンドトラックを入力したiPodは、私にとって新幹線での東京往復に不可欠なグッズとなっている。バイオリン協奏曲やバイオリンソナタの名曲は数多いが、チェロが主役となる曲は少なく、ドヴォルザークのチェロ協奏曲がその代表?これはムチャクチャカッコいい曲で、学生時代からの私の大好きな曲の1つだ。
本作で使われる音楽はベートーベンの交響曲第3番『英雄』や、弦楽四重奏曲12番、14番、15番など、そしてグラハムがナサニエルにレッスンするのはバッハの『無伴奏チェロ組曲』。しかし、交響曲におけるチェロは「その他大勢」の役割で、バイオリン協奏曲におけるバイオリンやチェロ協奏曲におけるチェロのような主役ではないから、チェロがその部分だけを弾いても感動は薄い?ちなみに、ベートーベンの代表作である交響曲第9番「合唱」もその一部が流れるが、さてそれはどこで?
2009(平成21)年4月17日記