MWームウー(日本映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年5月1日鑑賞
2009年5月8日記
手塚治虫生誕80周年の今年、あの“禁断の一作”が映像に。MW(ムウ)とは一体ナニ?そして若きモンスターを生み出した、16年前にあの島で起きた戦慄の出来事とは?玉木宏が『真夏のオリオン』(09年)でのカッコいい艦長役から一転して、美しきダークヒーローに挑戦!それを追い詰める刑事や、真相を探る新聞記者が直面する真実とは?対米従属気味(?)の日本の外交を考え、また小沢一郎、二階俊博への西松建設の献金事件を絡めながら鑑賞するのも一興では?
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監督:岩本仁志
原作:手塚治虫『MW』(小学館刊)
結城美智雄(エリート銀行員)/玉木宏
賀来裕太郎(神父)/山田孝之
牧野京子(新聞記者)/石田ゆり子
溝畑(新聞記者、牧野のアシスタント)/山本裕典
沢木和之(刑事)/石橋凌
美香/山下リオ
松尾(望月大臣の秘書)/鶴見辰吾
三田(新聞記者、牧野の同僚)/風間トオル
岡崎俊一(建設会社役員)/中村育二
山下孝志(銀行員、結城の上司)/半海一晃
望月靖男(大臣)/品川徹
橘誠司(刑事、沢木の部下)/林泰文
2009年・日本映画・129分
配給/ギャガ・コミュニケーションズ、Powered by ヒューマックスシネマ
<手塚治虫の“禁断の一作”が、なぜ今?>
『鉄腕アトム』『火の鳥』『ジャングル大帝』など手塚治虫の漫画は、誰もが親しみ楽しむことができる漫画とアニメの世界と思っていたが、『ブラック・ジャック』や『アドルフに告ぐ』はかなりの問題提起作。そして、テーマの衝撃性とスケール感から映像化不可能と言われていたのが、“禁断の一作”“最大の禁忌(タブー)”の呼び声も高い『MW-ムウー』とのこと。テーマの衝撃性とは、16年前のあの事件を契機とした主人公結城美智雄(玉木宏)の生々しいモンスターぶり。そしてスケール感とは、MWの謎をテーマとし、米軍と結託した日本の中枢政治の腐敗を描いたこと。人間の原罪やどうしようもない政治の悪を強烈に主張する原作が今映像化されたのはナゼ?
それは何よりも、2009年が手塚治虫生誕80周年の年にあたるためだが、それ以上にきっと日本と世界を包む不安な政治・経済情勢という現実のため?もしそうだとしたら、そんな時代に製作・公開された本作から、私たちは何を学べばいいの?
<最初から迫力ある映像が次々と>
陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『黄色い大地』(84年)や張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『紅いコーリャン』(87年)を観た時は、その圧倒的な迫力と映像美にびっくりしたが、本作も最初から色彩とカメラワークに凝った迫力ある映像が次々と登場する。その舞台は、沖之真船島という人口600人の小さな島。冒頭はその島民を焼き尽くし、殺し尽くしているシーンだが、これは一体どの国?そして、これは誰の命令でやっていること?戦後、米軍保護の下で平和と安全を保障されてきた日本国が、ホントにこんな残虐な行為をやっているの?
徹底したマスコミ操作、そして島外で生活していた人々への徹底したアメとムチの政策によって、この16年前の島民皆殺し事件は封印され、闇に葬られてしまったが、命からがら島から抜け出した少年が2人いたのがミソ。それが、今は外資系のエリート銀行員になっている結城と、神父になっている賀来裕太郎(山田孝之)。本作は、少年時代にそんな悲惨な体験をした結城がモンスターとなり、その加害者や社会システムそのものに対して復讐を加えていく物語だが、そのターゲットは一体誰?映画冒頭に沖之真船島で起きた事件を印象強く観客に示した物語は、さていかなる展開を?
<石橋凌の玉木宏へのチェイサーぶりは?>
最初のストーリーは、タイで娘を誘拐された沖之真船島出身の建設会社役員岡崎俊一(中村育二)が1億円の入ったカバンを抱え、犯人の指示どおりに走り回らされるところから始まる。大量の捜査員を動員してそれを監視し、犯人を検挙しようと必死になっているのは当然地元のタイ警察。そして、そこに日本から応援に来ているのが、沢木和之刑事(石橋凌)とその部下の橘誠司(林泰文)。捜査員を完全に出し抜いたこの誘拐事件は犯人側にあまりにも手際が良すぎる面もあるが、それは結城の悪の天才ぶりを観客に見せつけるため仕方ないところ?
他方、白いスーツに付け髭姿で、1億円の入った白いアタッシュケースを手に颯爽と現場を去ろうとする結城を、沢木が「怪しい!」とにらんだのはさすが。そして、警察官の質問をかいくぐって逃げようとした結城を、必死で追いかけたが・・・。天願大介監督の『世界で一番美しい夜』(07年)で存在感ある演技を見せつけていたベテラン俳優石橋凌が、韓国映画『チェイサー』(08年)でのキム・ユンソクのように一生懸命走る姿を見せるが、あのメタボ気味のお腹では、結城のシャープな肉体美を出すため体重を7kgも絞ったという玉木宏の足に追いつくのは所詮ムリ?
<結城と対比される神父のキャラは?>
本作は全編にわたって、第81回アカデミー賞助演男優賞を受賞した『ダークナイト』(08年)のヒース・レジャーとよく似た(?)結城のダークヒーローぶりが目立つが、それに対置される賀来神父のキャラは少し軟弱すぎ?賀来はあの時結城に助けてもらったから生きているという負い目のため、結城がくり返している復讐劇を止めさせることができないばかりか、結城の思うように事実上の助手までさせられているらしい。したがって、賀来は結城と会うたびに「もういいだろう」「もう止めよう」と言っていても、「お説教はたくさんだ」と結城から跳ね返されるだけ。
映画全編を通じて賀来が演ずる役割がそうだとしたら彼の役は全然面白くないが、さて賀来はいつ、どの時点で、何を契機として豹変するの?
<こんな新聞記者がいれば心強いが>
1つの大きな事件をめぐっては、新聞社の中でも取材と報道のあり方をめぐって議論や対立があるのは当然。1985年8月12日の日航ジャンボ機墜落事故をめぐる北関東新聞社の取材を描いた『クライマーズ・ハイ』(08年)はその展開が面白かったが、誘拐事件とその後父娘共に死体で発見された岡崎事件の報道のやり方をめぐって今意見が対立しているのが、三田(風間トオル)と牧野京子(石田ゆり子)。その対立点はあなた自身の目で確認してもらいたいが、これまで岡崎事件を担当していた京子は、岡崎がなぜ狙われたのかについて「これ以上取材は不要!」と編集長から宣言されてしまったから大ショック。
それでも京子はアシスタントの記者溝畑(山本裕典)と共になぜ岡崎が狙われたのかを調べていくうちに、遂に一連の被害者の共通は沖之真船島出身者だという結論にたどり着いたのは立派なもの。そして、16年前のあの事件を取材中に、交通事故で死亡した先輩記者のもとを訪れることに。担当を外されたからといって会社の意向に反してここまで独自取材を展開するのはどうかと思う行動だが、そこで発見した先輩記者の手帳の中には、どんな驚愕のメモが?
<小沢一郎と二階俊博の説明責任は?>
西松建設の政治献金疑惑をめぐる民主党代表小沢一郎の説明責任をめぐって、民主党は今きわめて厳しい状況下にある。他方、二階俊博経済産業相の違法献金疑惑については、政治資金規制法違反の疑いありとして東京地検への告発が受理されたことが09年5月1日新聞報道された。政治とカネをめぐっては田中角栄元首相のロッキード事件をはじめとして事件が山ほどあるが、本作では外務大臣はおろか将来の総理の座さえ狙っている有力政治家望月靖男(品川徹)とその側近で秘書の松尾(鶴見辰吾)が「黒い疑惑」のキーパーソン。本作のいう「黒い疑惑」とは、まさに「MW(ムウ)とは何か?」をめぐる疑惑だが、残念ながらそれをここで書くわけにはいかないのは当然。
結城の上司で、こんなに軽いキャラで大手銀行本部長が務まるの?と思うのが山下孝志(半海一晃)だが、彼も沖之真船島出身者らしい。そして何とこの山下は望月大臣の後援会の有力会員。山下は今結城のアドバイス(?)に従って岡崎の隠し口座にあった1億円を隠蔽したうえ望月への政治献金にしようとしていたが、そんなことが簡単にできるの?まあ、橋本龍太郎元総理、野中広務、青木幹雄の3人が日本歯科医師会からの1億円の小切手を受け取ったことをめぐって、村岡兼造(だけ)が有罪になったから、政治の裏側ではそんなことは日常茶飯事?
<MW(ムウ)ってナニ?それはあなた自身の目で>
MW(ムウ)とは1976年から78年にビッグコミックに連載された漫画で、ピカレスク(悪党)コミックというらしい。ところで、このMW(ムウ)という記号のようなタイトルには意味があるの?それは「Man&Woman」「Mad Weapon(マッド・ウェポン)」の頭文字をとっているなど諸説があるらしいが、結局それ自体は意味のあるものではないようだ。
しかして、本作を観ていく中、次第に明らかになっていくMW(ムウ)の実態とは?それを言っちゃお終いなので、それはあなた自身の目でしっかりと。あの日からモンスターと化した結城を主人公としたMWをめぐる事件を描いた本作はそれなりの結末を迎えたが、さてMWそのものの問題は解決したの?映画鑑賞後は、それもじっくりと考えなければ・・・。
2009(平成21)年5月8日記