アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン(フランス映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年5月11日鑑賞
2009年5月12日記
「美しき男たちの競艶」が売りの映画だが、タイトルの意味は?また、その深遠なテーマとは?フランスの俊才トラン・アン・ユン監督の映像の特徴は色気と質感だが、本作ではそれ以上に残忍さと不気味さが顕著。こんな映画、好きな人は好きだろうが、合わない人は?キムタクファンは、『武士の一分』(06年)のようなカッコいい姿を期待してはダメ。あえて言ってしまえば、イエス・キリストの「受難」に興味のある人以外は観ない方がいいのかも・・・?
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監督・脚本:トラン・アン・ユン
クライン(元刑事の探偵)/ジョシュ・ハートネット
ハスフォード(連続殺人犯)/イライアス・コティーズ
ス・ドンポ(香港マフィアのボス)/イ・ビョンホン
シタオ(不思議な力を持つ謎の男)/木村拓哉
メン・ジー(クラインの刑事時代の仲間)/余文樂(ショーン・ユー)
リリ(薬物中毒の女、ドンポの恋人)/トラン・ヌー・イェン・ケー
2009年・フランス映画・114分
配給/ギャガ・コミュニケーションズ
<トラン・アン・ユン監督に注目!>
村上春樹の世界的ベストセラー小説『ノルウェイの森』を近々映画化することになっているのが、12歳の時にベトナム戦争から逃れるため両親と共にフランスに亡命したというベトナム出身のトラン・アン・ユン(陳英雄)監督。彼は初監督作『青いパパイヤの香り』(93年)でカンヌ国際映画祭新人賞を、2作目の『シクロ』(95年)でベネチア国際映画祭グランプリを受賞した1962年生まれの有望株らしいが、私が彼の作品を観るのは今回がはじめて。ネット資料には、「色気と質感のある独特な映像世界を創り上げる俊才」と書かれている。その特徴は本作でも冒頭から顕著だが、さらに目立つのは、『ある愛の風景』(04年)や『アフター・ウエディング』(06年)で私が注目しているデンマークの女性監督スサンネ・ビアと同じような、クローズアップの多用。
しかしそれ以上に本作で目立つのは、色気と質感の他、残忍さと不気味さ。冒頭はいきなり元刑事の探偵クライン(ジョシュ・ハートネット)と連続殺人犯ハスフォード(イライアス・コティーズ)との緊迫感溢れる「対決」シーンだが、その残忍さにビックリ。そんな残忍かつ不気味な映像はその後も次々と。こんな映像をスタイリッシュと言うのかもしれないが、私はどうも苦手・・・。
<米・韓・日の大スターが結集したが>
椎名桔平がハリウッドスターのゲイリー・オールドマンと共演し、さらに長谷川京子まで出演したマックス・マニックス監督の『レインフォール/雨の牙』(09年)の人気はイマイチらしい。つまり、多額の出演料を覚悟してハリウッドスターを招いても、製作費に見合うだけの興行収入をあげるのは大変ということだ。かつてのチャールズ・ブロンソン、アラン・ドロン、三船敏郎が共演した『レッド・サン』(71年)は大ヒットしたが、最近は世界的大スターを共演させても大ヒットまちがいなしとは言えないようだ。
そんな目で見ると、他人の痛みを引き受けるイエス・キリストのような不思議な力を持つ男シタオ役で登場する木村拓哉は、雑誌『anan』の好きな男ランキングで2008年まで15年間連続1位を獲得している大スター。また韓国のイ・ビョンホンも、最近は多少人気が落ち目とはいえ(?)韓国を代表する大スター。しかし、トップスターがゴロゴロいるハリウッド俳優の中で、クライン役のジョシュ・ハートネットのランクは?これがブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオだったら、木村拓哉やイ・ビョンホンと同格だろうが、ジョシュ・ハートネットでは?
<狭い香港ならすぐに?>
香港がイギリスから中国に返還されたのは1997年7月。それから10年以上が経ち、香港の「中国化」は著しい。そのため、今台湾は「第2の香港にならないように」とさまざまな工夫をしているが、さて・・・?
冒頭の血なま臭い「対決」で観客をあっと驚かせた後、「経費使い放題」という破格の条件で、行方不明となっている息子シタオ捜索の依頼を引き受けるクラインの姿が登場する。その舞台はロサンゼルスだが、クラインが最初の手がかりを求めて向かったのはフィリピンのミンダナオ島。ところがその後、本作のメインとなる舞台は高層ビルが建ち並ぶ香港に移動する。なぜ、ミンダナオ島で殺されたはずのシタオが香港にいるの?
そんな謎を含みながらクラインは1人香港に向かい、刑事時代の仲間であるメン・ジー(余文樂/ショーン・ユー)の協力を得ながらシタオを捜索しようとしたが、さてシタオはどこに?他方、香港には同じくシタオを探し求めている香港マフィアのボス、ス・ドンポ(イ・ビョンホン)がいたが、それはドンポの最愛の女リリ(トラン・ヌー・イェン・ケー)がシタオと一緒にいるという情報を得たため。
中国本土はバカ広いが香港は狭いから、シタオが香港で生活していればすぐにでも発見できそうなものだが、さてクラインとドンポのシタオ捜索の展開は?
<表現はセリフではなく、映像と表情で?>
テレビドラマの延長のような安易な邦画はセリフによる説明の多さが目につくが、キム・ギドク監督はじめ才能ある監督のスタイリッシュな映像表現には、セリフは不要。そこまで言わなくても、セリフは最小限にとどめ、映像力と俳優の表情力によってあの主張、この主張を表現しようとする作品が多い。トラン・アン・ユン監督もそれを目指していること明白だから、本作ではイ・ビョンホンも木村拓哉もほとんどセリフがない。冷酷な香港マフィアのボスを演ずるイ・ビョンホンは、3月30日に観た『チェイサー』(08年)における連続猟奇殺人犯のように、命令どおり実行できなかった部下を金槌でメッタ打ちする「動の演技」と、顔の表情であの表現、この表現をする「静の演技」を見せてくれるが、さて彼のファンはそれをどのように?
他方、『武士の一分』(06年)でえらくカッコいい演技をみせた木村拓哉の本作での演技は?それは血まみれになって苦痛に苦しむシーンのオンパレードだから、キムタクのファンにはあまり見せたくないものばかり?唯一人クラインだけは多少セリフがあるからそれによってストーリー構成が理解できるが、クラインもシタオを見つけられないイライラや、ハスフォードを追い詰めていく時の回想シーンでは、トラン・アン・ユン監督は表情のみによる演技を要求。
こんなシーンばかりが続くと、見ている観客もかなり疲れてくるのでは?
<紅一点は?それを救うのは?>
各国を代表する「美しき男」たちの競艶の中、紅一点として登場するのが、ドンポの美しき恋人リリ。リリ役のトラン・ヌー・イェン・ケーはトラン・アン・ユン監督の過去の2作でも主演を務めているらしいから、中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督のミューズ趙涛(チャオ・タオ)や台湾の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督のミューズ陳湘琪(チェン・シャンチー)と同じように、彼女はトラン・アン・ユン監督のミューズ?そう思ってネットを調べてみると、何とトラン・ヌー・イェン・ケーはトラン・アン・ユン監督の配偶者とのことだ。彼女の経歴は全然わからないが、そんな紅一点の評価は?
ちなみに、リリは薬物中毒で苦しんでいるらしいから、ドンポとの間で美しいベッドシーンを見せてくれても、それは一時的?そんなリリの薬物中毒の苦しみを引き受け、リリを立ち直らせるのは一体誰?
<タイトルの意味は?>
椎名桔平がハリウッドスターのゲイリー・オールドマンと共演した映画のタイトルは『レインフォール/雨の牙』。また、かつて高倉健がマイケル・ダグラスと共演した名作も『ブラック・レイン』(89年)。そして、本作のタイトルも『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』と「レイン」が共通のキーワードだが、それはなぜ?
それは偶然の一致だが、本作の邦題を原題どおりにしたのは、やはり「レイン」の意味を強調したいため。つまり、日本一美しい男木村拓哉の傷ついた身体の上に降り注ぐ雨の意味をじっくりと考えてもらいたいからだ。これ以上はネタばれとなるので書けないが、本作ではそんなタイトルの意味をじっくりと考える必要が・・・。
2009(平成21)年5月12日記