サンシャインクリーニング(アメリカ映画・2009年) |
<東映試写室>
2009年5月25日鑑賞
2009年5月27日記
血まみれで悪臭いっぱいの事件現場の清掃業。それが「クリーナー」だが、なぜ美人姉妹がそんな仕事を?『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)は家族の絆を描いた心温まる名作だったが、さて本作が描くバラバラなダメ家族の再生とは?「何をやってもダメ」という風潮が蔓延している今、こんな映画が一助になるかもしれないが、基本は自らの努力であることを忘れずに!
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監督:クリスティン・ジェフズ
ローズ・ローコウスキ(シングルマザー)/エイミー・アダムス
ノラ・ローコウスキ(ローズの妹)/エミリー・ブラント
ジョー・ローコウスキ(姉妹の父親)/アラン・アーキン
マック(ローズの不倫相手)/スティーヴ・ザーン
リン(腐乱死体の娘)/メアリー・リン・ライスカブ
オスカー・ローコウスキ(ローズの一人息子)/ジェイソン・スペヴァック
ウィンストン(掃除道具屋の店員)/クリフトン・コリンズ.Jr.
2009年・アメリカ映画・92分
配給/ファントム・フィルム
<あの『クリーナー』とは違った視点で>
『おくりびと』(08年)は納棺師という職業をがぜん有名にしたが、アメリカに実在する「クリーナー」という仕事を少し有名にしたのが、サミュエル・L・ジャクソンがクリーナーに扮した『ザ・クリーナー 消された殺人』(07年)。これはかなりミステリー調の映画だったが、本作はハウスクリーニングの仕事をしていたシングルマザーのローズ・ローコウスキ(エイミー・アダムス)が仕方なくチャレンジしたもの。
誰だって格別の必要がなければ、血まみれで悪臭いっぱいの死体発見現場など目にしたくないが、誰かがその片づけをしなければならないのは当然。そんな人が嫌がる仕事だからこそ高収入が見込めるわけだが、なぜローズがそんな仕事に?そりゃ当然お金のため。アメリカだってサブプライムローン問題に端を発した金融危機によって庶民は大きな影響を受けたのだから。もっともローズ一家の場合はそれ以上の問題があるようだが、それは一体ナニ?
本作はそんなクリーナーの仕事を『ザ・クリーナー 消された殺人』とは全く違った視点から。
<同じく「家族の絆」を描いた映画だが・・・>
第79回アカデミー賞脚本賞と助演男優賞を受賞した『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)はすばらしい映画で、私の評価は星5つ(『シネマルーム12』414頁参照)。本作は、そんな『リトル・ミス・サンシャイン』のプロデュースチームがオリジナルストーリーの面白さに魅せられて再度挑んだもの。そんな映画のテーマは、『リトル・ミス・サンシャイン』と同じく家族の絆。
『リトル・ミス・サンシャイン』は美少女コンテストで優勝することを夢みる、メガネをかけ、お腹がポッコリと出たとても美少女には見えない普通の女の子が主人公だった。それに対して本作の主人公は、『ダウト-あるカトリック学校で-』(08年)で第81回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた美人女優のエイミー・アダムス演ずるローズだが、その美しさをあまり引き出さないところがミソ?
ローズはハイスクール時代は花形チアガールとして鳴らしたアイドルだったらしいが、今は30代半ばとなり、一人息子オスカー(ジェイソン・スペヴァック)を育てているシングルマザーだから大変。また、かつての恋人だったマック(スティーヴ・ザーン)はクラスメートの女の子と結婚してしまったのに未だに彼との清算ができず、ズルズルと不倫関係が続いているようだからいかにもカッコ悪い。さらにハウスクリーニングのため大邸宅を訪れると、何とそこはかつての女友達が幸せな家庭を築いている家。「学生時代は私の方が花形だったのに・・・」といくら考えても現実は現実。2人目の赤ちゃんに恵まれようとしている彼女からその出産祝いパーティーに誘われたローズは、「クリーナー」の仕事が今順調に進んでいることを見せるため、仕事を妹のノラ(エミリー・ブラント)にまかせて出席したが、それが大変な事態を招くことに・・・。
『リトル・ミス・サンシャイン』は爆笑また爆笑の中で家族の絆が見事に浮かびあがる名作だったが、さて本作が描く家族の絆とは?
<こんなダメ家族では、家族の絆は難しい?>
ローズは不動産業の資格を得るため学校に通いながらハウスクリーニングの仕事をしているからまだ堅実。しかし妹のノラは結構美人だが、レストランでウェイトレスの仕事をやっても失敗ばかりでクビを宣告される始末だから、基本的にどんな仕事をやってもダメ。だからいい年をして、いまだに実家で父親のジョー(アラン・アーキン)と同居しているダメ女。ローズとノラは2人が幼い頃に亡くなった母親の死にまつわるトラウマから逃れられないようだが、そんなことで「負け組」を正当化するのはナンセンス?また名優アラン・アーキン演ずる父親ジョーも、娘たちに対する愛情はいっぱいだが、一攫千金を夢みて変な商売に手を出そうとしているから、あぶないあぶない。そのうえ、8歳になるローズの一人息子オスカーもノラから聞いた作り話を真に受けて何でも舐める変なクセがつき、ついには女の先生の足を舐めるという行為に及んだため、小学校を退学させられる羽目に。
こんな風に家族全体が踏んだり蹴ったり状態の中、ローズが元恋人のマックから聞いたのが「事件現場を掃除する仕事なら大金が稼げる」との言葉。そこで全く素人のローズがいきなりノラを手伝わせながら、「クリーナー」の仕事にチャレンジしたのだが、その仕事は大変!それはスクリーン上でじっくりと。こんなダメ家族では、家族の絆を築くのは難しい?
<ちょっとシンプルすぎだが・・・>
本作にはローズの家族以外のキャストとして、ローズの元恋人のマックの他、①ローズたちが「クリーナー」の仕事に入っていくのを応援する掃除道具屋の店員で右腕のない男ウィンストン(クリフトン・コリンズ.Jr.)、②「クリーナー」の仕事中にノラが発見した、死亡した母親のポシェットの中にあった子供の写真の主である女性リン(メアリー・リン・ライスカブ)が登場する。つまり、家族の絆をテーマとした本作でこの2人がキーマン、キーウーマンとしての役割を果たすわけだ。
しかし、ひょっとして恋に発展するのかなと思ったウィンストンは、オスカーに誕生日プレゼントをするまでの役割で、恋には至らず一定の距離を保ったまま。また、ノラがリンに対して死亡した母親のポシェットに入っていたリンの写真を示すとリンは露骨にイヤな顔をして、ノラとの交際を切ってしまったから、何が親切で、何が要らざるおせっかいかは難しいもの。つまり、この2人の人物がローズやノラたちの家族の絆の復活、再生に直接貢献することはないわけだ。すると、家族の絆の復活はどのように?
それは、ある家の「クリーナー」の仕事をローズがノラに任せたことによって発生したある大事件を乗り越えていくことによって実現してくる。そんな、ちょっとシンプルすぎる(?)家族の絆の再生の姿はあなた自身の目で。
2009(平成21)年5月27日記