わるいやつら(日本映画・1980年) |
<シネ・ヌーヴォ>
2006年1月4日鑑賞
2006年1月13日記
野村芳太郎監督の「病院モノ」第2弾は、松本清張の原作で、総合病院の院長に収まっている二世のボンボンが主人公。女たらしだけならまだしも、金と欲が絡んでくるとちょっとヤバイ橋を渡ることに・・・。それにしても、薬の管理はきっちりしてもらわなければ・・・。その末路の哀れさにはゾッとするが、所詮それも身から出たさび・・・?しかし、よくこれほど「わるいやつら」を集めたものと、あなたも感心するのでは・・・?
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監督:野村芳太郎
原作:松本清張
戸谷(とや)信一(病院長)/片岡孝夫
槙村隆子(デザイナー)/松坂慶子
横武たつ子(戸谷の愛人その1)/藤真利子
藤島チセ(戸谷の愛人その2)/梶芽衣子
寺島トヨ(婦長)/宮下順子
下見沢作雄(戸谷の顧問経理士)/藤田まこと
井上警部/緒形拳
榊弁護士(戸谷の弁護人)/渡瀬恒彦
裁判長/佐分利信
松竹配給・1980年・日本映画・129分
<松本清張が病院を舞台に・・・>
黒岩重吾原作の『背徳のメス』(61年)から19年後の1980年に、野村芳太郎が再び病院を舞台としたサスペンス風映画を監督したが、これは松本清張の原作をもとにしたもの。しかし、『背徳のメス』に出てくる医師たちの欲望の生々しさに比べれば、『わるいやつら』の主人公となる医者は単純そのもの。しかし他方で興味深いのは彼をめぐる女たちの欲望とその生態。今年2006年に米倉涼子主演でドラマ化される、松本清張原作の『けものみち』にみる女の怖さとはまた異質の、複数の女たちの恐ろしさをこの映画でじっくりと・・・。
<主人公は2世のボンボン・・・>
ダンディでハンサムな片岡孝夫演ずる主人公戸谷信一は、名医と呼ばれた父親が経営していた総合病院を引き継いだ2世のボンボン。したがって病院の経営や経理は、先代からの忠実な(?)経理士の下見沢作雄(藤田まこと)に任せっきりで、自分はもっぱら女漁りの毎日。信一は妻の慶子とは別居中で、離婚に伴う慰謝料の交渉もすべて下見沢任せとし、自分は愛人めぐりに忙しい毎日。もっとも同じ女漁りの医者であっても、『背徳のメス』に登場する若い医者とは違い、信一がつき合う女は一流どころばかり。そのうえ、その女から(その女の夫から?)金を引き出すことを考えてつき合っているのだから、信一はかなりのワルでテクニシャン・・・?
<信一の愛人たちは?>
ずっと続いている信一の愛人は、横武たつ子(藤真利子)と藤島チセ(梶芽衣子)の2人。たつ子は、深川の材木商のおかみだが、年の大きく離れた夫は長い間病気を患っているため、商売はもちろん、夜の生活もダメ。したがって、若いたつ子はダンディでハンサムな信一に夢中で、かなり信一に貢いでいる様子。
他方、東京と京都にある2つの料亭を切り盛りしているのがチセで、これも信一の絶大な支援者(?)。もちろんチセにも夫がいるが、夫とは冷えきった仲で、何かと信一の面倒をみていたが、さて、その腹のうちは・・・?
さらに、信一が長い間「関係」していたのが、もっとも身近にいる婦長の寺島トヨ(宮下順子)だった。信一は既にこのトヨから心が離れていたが、トヨはそれに納得できるはずがない。プレイボーイを維持していくために不可欠な条件は、きれいに女と別れるテクニックを持っていることだが、その観点からは、この信一はどうも・・・?
<新たなターゲットは・・・?>
信一が最近ご執心なのは、デザイナーの槙村隆子(松坂慶子)。新進デザイナーとして売り出し中の、美貌で独身の隆子はモテモテだが、仕事に夢中で、特定のパトロンはいない様子。しかし仕事上、銀行をはじめとするあちこちのスポンサーとのおつき合いは必要。さて、彼女の場合、その公私の線をどのように・・・?
きれいな花を添えてそのアトリエを訪れたり、食事に誘ったりと、信一の打つ手はわりとオーソドックスだが、ある夜などはいきなり隆子の部屋を急襲(?)するなど、その手は次第にエスカレート。しかし意外に真面目(?)な隆子はすんなりとその誘いに乗らないため、信一はイライラ・・・。そこで信一が思いついたのは、銀行の融資を求めている隆子に対する巨額の資金の「提供」。金によって女の気を引こうとするその根性を私は気に入らないが、信一は1億円という資金をホントに、隆子に対して提供してやるのだろうか・・・?
<医者は薬を自由に・・・?>
信一が世間の目を避けながら、定期的に密会を重ねている愛人がたつ子だったが、その度に信一がたつ子の夫のために手渡している薬は・・・?信一の説明によれば、それはごく普通の薬ということだが、何となく2人だけの秘密の臭いが・・・。そんな中、たつ子の夫が突然死亡。当然のように、信一がその死亡診断書を書いたが・・・。
さらに怪しいのは、これも病床に伏していたチセの夫が、たまたま緊急事態に陥った時に信一が居合わせていたうえ、その死亡にも信一が立ち会ったこと。そして当然のようにここでも信一が死亡診断書を・・・。
ひょっとして総合病院の院長ともなれば、どんな薬でも自由になるの・・・?そして、2人の男の死亡について、警察は何の疑いも持たないの・・・?
<たつ子はホントにかわいそう・・・?>
たつ子が信一に貢いでいたのは、純粋に哀しい女ゴコロによるもの・・・?やっと希望どおりに夫が死んでくれたにもかかわらず、家族たちの疑いの目の前で、たつ子は自由に店の金を使うことができなくなってしまったから、かえってヤブヘビ・・・?そしてそうなれば、金もないのに結婚を迫ってくるたつ子は、信一にとってうっとおしいだけ。また、信一が隆子に夢中になっていることを知っているたつ子は、しきりにそのことで信一を責めたてた。その結果、かわいそうなことにたつ子は・・・?
<チセはかなりのワル・・・?>
チセを演ずるのは梶芽衣子。『女囚さそり』シリーズや「恨み節」で有名な梶芽衣子が演じているからかもしれないが、「このオンナ何となくヤバそう」という雰囲気がふつふつと・・・。
2つの料亭を切り回しているだけでも大したものだが、信一への支援やその思わせぶりな対応を見ていると、いかにも曲者風・・・?そんなチセが、突如料亭を売却して行方不明に・・・。さて、これは一体なぜ・・・?
<下見沢もかなりのワル・・・?>
藤田まこと演ずる下見沢は、元来私の1番嫌いなタイプ。なぜなら、本心では2世の信一をバカにしているくせに、表面上はペコペコして信一のご機嫌取りに徹し、そのおこぼれに預かろうとしていることがミエミエだから。信一もバカではないからたぶんそれは見抜いているのだろうが、あくまで自分に忠実な犬だと頭から信じ込んでいるところが、ボンボンたる所以・・・。いつか足もとをすくわれるのでは、と思っていると案の定・・・。
そもそも信一が土地を担保に入れて2億という金を用立てようとしたのは、第1に妻との離婚に伴う2000万円の慰謝料のため。そして第2に、ベタ惚れの隆子に対して君を応援しているよという「誠意」を示すため。その他、信一は信一なりにいろいろ考えていることはわかるのだが、熟練弁護士の私(?)の目から見ると、この一連の処理は言われるままに実印をポンと預けてしまうことからもわかるとおり、甘すぎるもの。
さすが松本清張の原作だけに、このお金をめぐる工作の姿は現実味たっぷりで、『ナニワ金融道』とも相通じる面白さがいっぱい。そのカラクリは、映画を観てじっくりと勉強してもらいたいもの。
<さすが宮下順子!>
信一の秘密をすべて知っているのが、ベテラン婦長の寺島トヨ。「昔は私を可愛がってくれたのに今はご無沙汰」だと信一をなじり、自ら胸を開いて関係を迫るトヨだが、そんな局面になればなるほど、男にとっては迫ってくる女がうっとおしくなるもの。もっとも、女の怖さを十分理解しているベテランのプレイボーイなら、こんなトヨを見放してしまうとかえってヤバイと考えて、適当にエサを与えることを考えるものだが、その点信一は、単にわがままなだけのプレイボーイ・・・?たつ子の夫殺し、チセの夫殺しの共犯であることを鼻にかけて(?)迫ってくる寺島婦長のあまりのしつこさに、ついにモーテルの中でキレてしまった信一は、カッとなって自らの手で婦長の首を絞めることに。そしてその後は、その「死体」を車に積んである山中へ隠したが、そのやり方は誰が見ても素人流。こりゃヤバイ、ちょっと突っ込んで調べられたらすぐにバレるのでは・・・?
それにしても野村芳太郎監督作品の中で、ここまで露骨にヌードシーンを観せるのは珍しい。それができるのは、さすが日活ロマンポルノで鳴らした宮下順子だとヘンに感心・・・。
<こんな刑事がたくさんいれば・・・>
寺島婦長が突然いなくなったため、病院は捜索願を出したが、なかなか彼女の足どりは掴めなかった。しかし同時に、不思議なことに山中から死体発見というニュースも報道されなかった。そんな中、病院を訪れたのが井上警部(緒形拳)。井上警部は、まずはたつ子の夫とチセの夫の死因に不審な点があることを指摘したうえ、「両名とも死亡診断書を書いたのは先生ですね」とやんわりと信一を追及。ところが、警察署に任意同行してからは一変し、既に把握している豊富なネタを背景として何とも厳しい追及を。こんなベテラン刑事の追及にかかれば、2世のボンボンなんてチョロイもの。あっけなく陥落した後信一は、すべてをベラベラと・・・。警察にこんな優秀な刑事がたくさんいれば、日本の治安も安泰なのだが・・・。
<意外な結末は映画を観てのお楽しみに・・・>
井上警部の追及の前に寺島婦長殺しを自供した信一だったが、山中からは彼女の死体は発見されなかった。それはなぜなのだろう?。
また信一にとって悪いことは重なるもの。井上警部からの厳しい追及を受ける直前に発覚したのが、下見沢による大金の持ち逃げ。これは信一が、無警戒に実印を預けたことの報いだが、残念ながらこの手の話は、世の中によくあること・・・。信一にとっては踏んだり蹴ったりの結果となってしまった。ここで興味深いのは、下見沢はそんな大金をどこでどのように使ったのか、ということ。その意外な結末についても、映画を観てのお楽しみに・・・。
<裁判の結末は?>
映画終盤は、弁護士の榊(渡瀬恒彦)が信一の弁護人になっての法廷シーンが展開されるが、この映画ではこれが主眼ではないため、『事件』(78年)や『疑惑』(82年)での本格的法廷シーンに比べると、実にあっさりしたもの。信一の罪名は、たつ子の夫とチセの夫両名の殺人罪とたつ子の殺人罪そして寺島婦長への殺人未遂罪・・・。そして同時に、殺人幇助罪で起訴されたのがチセとトヨ。すなわち、何とあの時、寺島婦長は死んでいなかったのだ!
弁護士として、この刑事裁判の結末だけを伝えておけば、チセとトヨは幇助罪のため軽い刑期となったが、信一は予想どおり無期懲役という極刑に。この判決を言い渡すのは、『事件』『疑惑』に続いて裁判長姿がすっかり板についた(?)佐分利信だが、さてあなたは、この結末をどのように受け止めるだろうか?
それにしても、この映画の登場人物は、まさにそのタイトルどおり、「わるいやつら」ばかり・・・。
2006(平成18)年1月13日記