県庁の星(日本映画・2005年) |
<東宝試写室>
2006年2月13日鑑賞
2006年2月14日記
産経新聞大阪府下版(平成18年3月3日)「That´sなにわのエンタメ」掲載
「郵政民営化」法の成立後、行政改革・公務員改革が焦眉の課題となっている現在の日本において、実にタイムリーな企画が実現した。人気コミックの映画化とあなどるなかれ!200億円のプロジェクトを80億円に圧縮するには、政官業の癒着へのメスと公務員の意識改革が不可欠だが、その端緒はタダで飲み放題となっていた公務員たちのコーヒーを一杯100円にすることから・・・?これなら今どきの学生諸君にも、役所の構造改革の必要性が、ひしひしと実感できるはず・・・。リクルート活動中の学生必見の映画として推薦したいものだ。
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監督:西谷弘
野村聡(K県庁産業政策課係長)/織田裕二
二宮あき(満天堂パート店員)/柴咲コウ
浜岡恭一(惣菜厨房担当)/和田聰宏
清水寛治(店長)/井川比佐志
浅野卓夫(副店長)/益岡徹
桜井圭太(野村の同期入庁者)/佐々木蔵之介
北村康男(産業政策課課長)/矢島健一
小倉早百合(県知事)/酒井和歌子
古賀等(県議会議長)/石坂浩二
篠崎貴子(野村の婚約者)/紺野まひる
篠崎威嗣(篠崎建設社長)/中山仁
東宝配給・2005年・日本映画・132分
<県庁のエリートが考えることは?>
今日は、K県庁産業政策課係長の主人公野村聡(織田裕二)が200億円の大プロジェクト「特別養護老人複合施設建設」についてのプレゼンテーションという晴れの日。県知事小倉早百合(酒井和歌子)や県議会議長古賀等(石坂浩二)ら幹部を前に、とうとうと述べる野村の構想は壮大なもの。そして野村の説明を聞いていると、このプロジェクトを成し遂げられるのは自分しかいないという自負心がありありと・・・。いるいる、こんなエリート官僚が・・・。主人公の野村はタイトルどおり「県庁の星」として期待されている人材だが、それと同じ価値観や精神構造を持った公務員は、中央官庁にもそして市役所にも・・・。彼らは概ねきわめて優秀で職務に熱心なことは私も認めるが、問題はそれを誰のためにやっているのかということ。中央官僚は国民のため、そして県庁や市役所の公務員は県民のため、市民のため、と口では言っているのだが・・・?
<民間との人事交流という企画の内実は?>
小泉改革の2大スローガンは「小さな政府」と「官から民へ」だが、その実現が難しいのは当然。県の公務員から民間企業への人事交流研修のメンバーに選出された7名はそれぞれエリート官僚たちで、6カ月の研修が終わればまた県庁に戻り、一歩上昇した立場での仕事が待っているはず。そんな前提で三流スーパー「満天堂」に派遣された野村の教育係は、ベテランながら身分はパート店員にすぎない二宮あき(柴咲コウ)。役所流のスタイルでスーパーの現場に臨んだ野村には、試練がいっぱい。というより彼が、何の戦力にもならない「お飾り」の「お客サマ」であることは、店長の清水寛治(井川比佐志)、副店長の浅野卓夫(益岡徹)、そしてイヤな教育係を押しつけられたあき達にはわかっていること。
その予想どおり、野村はやる気を持って行動するものの、そのやることなすことがすべてウラ目。そこで店長が思いついたアイデアは、野村を客と直接接触することのない惣菜の厨房に回すこと。そこで何もしないで6カ月が終わってくれれば、万々歳。しかし、店長のその思惑は・・・?
<政官業の癒着にメスを入れるものは?>
この映画は「県庁の星」野村の生きザマに焦点をあてたものだが、この映画における行政改革のテーマは、政官業の癒着が問題となる箱モノ行政へのメス。消費者の立場に立つことによってスーパー満天堂の「構造改革」に成功した野村は、かつて自らが中心となって推し進めていた「特別養護老人複合施設建設」プロジェクトを、同じ県庁内でも産業政策課の視点すなわち事業実施側からではなく、福祉推進課の視点すなわち県民の側から見ることによって、200億円がいかに政官業の癒着にもとづく数字であるかを実感し、これを80億円に圧縮する案を提出した。もちろんこれは映画の中だけの架空の話であり、いくらエリート官僚とはいえ、現実問題としては単なる一係長がこんな提案を提出できるわけがなく、また知事が議会の特別委員会で自らその説明を求めるなどということはありえない話。したがって、この映画でもそんな大プロジェクトの修正過程については詳しく説明しないが、わかりやすいのは、公務員たちに対してそれまでタダで飲み放題として提供されていたコーヒーに1杯100円という値段がついたこと。そう、200億円のプロジェクトを80億円に圧縮することは、タダのコーヒーを100円にすることがスタートなのだ。そういう意識改革ができれば、100億円以上のムダな経費を削減することも可能に・・・?
<やはりキーワードは「競争」・・・>
惣菜の厨房に配属された野村は、満天堂では賞味期限切れ直前の食材を使ったり、売れ残りの揚げ物を再度揚げ直して380円の弁当をつくっているのを見てビックリ。野村は猛然とそれを指摘するものの、「それがお客のニーズ」と突っぱねられてしまった。そんな対立の中、副店長の浅野が思いついたアイデアは、競争システムの導入。すなわち、野村が主張する高級食材を使った弁当と従前どおりの格安弁当を、Aチーム・Bチームに分けて、売り上げ高によって競争させること。さすがに頭のいい野村はさまざまなアイデアを思いつき、試行錯誤をくり返し、自信満々に高級弁当を製作し、ワゴンに並べたが・・・。結果は、従来からの安モノ弁当に惨敗。
なぜ・・・?どうして・・・?それがすぐにわかれば何の苦労もいらないというもの。「特別養護老人複合施設建設」プロジェクトから外され、婚約者の篠崎貴子(紺野まひる)からも見放され、絶望状態に陥った野村がその答えを見い出すまでには、その後なお数カ月を要することに。そんな野村を支えたのは、意外なことに、野村に対して冷たく接していた教育係のあきだった。
<民間=善ではないヨ!>
今の日本は、第1に耐震強度偽装問題、第2にライブドアのホリエモンによる証券取引法違反問題、第3に東横ホテルの違法改造問題で持ちきりだが、私流にあえてその三者に共通するキーワードを指摘すれば、それは「違法スレスレ」ということ。すなわち三者とも、結果的に違法となっているが、途中までは違法スレスレでセーフ、あるいは東横ホテルの西田憲正社長が1月27日の記者会見で笑顔を見せながらしゃべっていたように、60kmの速度制限のところを67、8kmで走ったようなものという認識だったわけだ。
しかして、このスーパーでも、何でもマニュアル文書に頼る役所とは異なり、「何事もお客さま第1」をモットーにしているものの、要は視聴率至上主義の民放と同じようなもので、「売れなきゃダメ」というだけのことだから、弁当の素材なども前述のとおりひどいもの。さらに在庫の山の中、消防法違反の実態は明らかで既に注意も受けているのだが、建築基準法違反問題と同じで、そんなことまで真剣に配慮しているフシはまったくなし。要するに、違法スレスレはオーケー。そして多少の違反は、おめこぼししてくれるはずと考えていることは明らかなのだ。こんな実体を見れば何も、役所=悪で、民間=善というわけではないことがよくわかる。したがって、このスーパーの現場では、原理原則どおりの主張を展開し、「店舗改革」を求める野村の主張に正当性があるというわけだ。そんな野村の主張は完全に黙殺されていたが、いざ「査察」が実行されるとなるや、急に野村の存在感が増してきたから不思議なもの・・・?
<シューカツの学生諸君必見の映画!>
失われた10年、経済活動の低迷、デフレ経済進行の中、有効求人倍率は長い間1倍を切り、氷河期、超氷河期と言われてきた。しかし小泉改革の成果を受けて景気は持ち直し、株価も1万5千円を超え、有効求人倍率も1倍をオーバーすることになった。かつて、モーニング娘。が歌った『LOVEマシーン』が大ヒットしたのは、暗い時代の中何とか光明を見い出そうとしていたためだが、今はシューカツに精を出せば、何とか仕事にありつけそうな時代・・・?そんな中、昔から「安定したやりがいのある仕事」と言われていた公務員への就職希望の状況は・・・?「官から民へ」の動きが強まる中で公務員への視線は厳しくなっており、とりわけ大阪市におけるそれは最悪!さらに、国レベルで言えば公務員数の5%純減を打ち出した公務員改革が目下の焦点。それやこれやの政治・経済状況をきちんと勉強する必要があるが、公務員の仕事内容やその心構えを理解するためには、この映画を観るのが1番。シューカツ中の学生諸君必見の映画だよ。
2006(平成18)年2月14日記