アンナと過ごした4日間(フランス、ポーランド映画・2008年) |
<宣伝用DVD鑑賞>
2009年9月11日鑑賞
2009年9月12日記
えらく楽しげな邦題だが、ポーランド生まれの「幻の巨匠」作品らしく、内容は重厚、そして描かれる愛の姿は深遠だ。とはいっても、覗きがテーマだからわかりやすい?いやいや『ディスタービア』(07年)と対比すれば、その違いは?セリフとその解説を極端に排した本作の鑑賞とその理解は大変だが、これこそがホントの芸術、ホントの映画!
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監督:イエジー・スコリモフスキ
レオン(病院の火葬場で働く独身男)/アルトゥル・ステランコ
アンナ(病院の看護師)/キンガ・プレイス
院長/イエジー・フェドロヴィチ
レオンの祖母/バルバラ・コウォジェイスカ
2008年・フランス、ポーランド合作映画・94分
配給/紀伊國屋書店、マーメイドフィルム
<新たな勉強を、はじめてイエジー・スコリモフスキ監督作品を鑑賞>
「イエジー・スコリモフスキ 71歳。長きにわたり沈黙を守っていた伝説の映像作家、17年ぶりの最新作。“映画好き”を自認する者にとってはこれだけで十分でしょう。誰もがいち早くその作品を劇場で観たいと思わずにいられない映画の登場です。」プレスシートのイントロダクションにはそう書いてあるが、それを読んでその意味のわかる人は、よほどの映画通。とりわけ、ヨーロッパ映画に造詣の深い人だけだ。
1938年にポーランドで生まれたイエジー・スコリモフスキは、カンヌ、ベルリン、ベネチアの3大映画祭で数々の映画賞に輝く、東ヨーロッパを代表する監督らしいが、『早春』(71年)と『出発』(67年)以外は日本では公開されていなかったため幻の巨匠と呼ばれているらしい。監督の言葉によると、「この作品を一言で表すと“intimate”(親密な、私事、性的な、暗示する)という言葉になります」とのこと。そのストーリーを、私なりにわかりやすくかつ俗っぽく言えば、覗き。
舞台はポーランドの地方都市。主人公は独身の中年男レオン(アルトゥル・ステランコ)。他方、覗かれる女性、看護師寮に住むアンナ(キンガ・プレイス)は、看護師だ。同じ覗きをテーマとした映画でも、ハリウッド製の『ディスタービア』(07年)とは趣が全然違うはず。さあ、はじめて観る幻の巨匠の最新作は?
<映画へのアプローチの違いにビックリ>
フランス、イタリア、ドイツを中心とするヨーロッパ映画は監督のこだわりが強く、映画の中での説明が少ないのが特徴?したがって一見小難しく見えるが、実はそれがヨーロッパ映画本来の面白さ。邦画でも昔の名作はそういうタイプが多かったが、近時はあれもこれも全部説明するタイプが増えている。これは、途中でトイレに立ってもストーリー展開に何の支障もきたさない、テレビドラマのような映画が増えているためだ。したがって近時の邦画は2時間を超えるものが多いし、セリフがやたらと多い。
ところが、幻の巨匠の本作は94分と短いしセリフはほとんどない。とりわけ本作の軸となる、レオンがアンナの部屋で過ごす4日間の展開においては、セリフゼロといっても過言ではない。また、近時の邦画はカメラ技術の進歩もあって鮮明なシーンが多いが、本作は夜のシーンが多いこともあり、全体的に薄暗い。そこで観客に求められるのは集中力だ。したがって本作は、多くのシネコン系の劇場で若いアベックがやっているように、ポップコーンを食べ、ジュースを飲みながら観たのでは絶対ダメ。本作については、映画づくりへのアプローチの違いを噛みしめながら、精神を集中して鑑賞したい。
<前半の展開は特に集中して>
前述のように本作にはセリフがほとんどないから、特に前半のストーリー展開は説明過多の邦画に慣れている人はよほど集中して観ないとわからないかもしれない。しかも、イエジー・スコリモフスキ監督は時間軸を一定させず、あの話この話をごちゃまぜにして映していくから、よけいわかりにくい。レオンはどこで何をしているの?アンナは毎晩何を飲んでいるの?レオンは瓶の中の粉末に一体何を入れているの?もちろんこれが、のりピーこと酒井法子の事件以降、俄然有名になった(?)覚醒剤でないことは明らかだが、病床にふせっている祖母に睡眠剤をすりつぶして飲ませてやる1シーンを見逃したら、サッパリわからないかも?
前半のハッとするクライマックスシーンは、大雨が降り始めたため工場の中へ駆け込んだレオンがみたアンナのレイプシーン。しかしそこでも、犯人が立ち去った後ちらりとレオンがアンナの顔をのぞき込んだだけで逃げ出したのは一体なぜ?これでは、背後から犯されていたため犯人の顔を見ていないアンナには、レオンが犯人だと思われてしまうのでは?そんなこんなのシーンがナレーションはもとよりセリフがほとんどない中で展開されるから、あなたの感性と想像力を総動員してしっかりストーリーを組み立て、さらにレオンやアンナたちの心の中を察していかなければ。
<こんなストーカーなら、オーケー?>
本作のメインストーリーは邦題のとおりレオンが「アンナと過ごした4日間」だが、そのストーカーぶり、変態ぶりはひょっとして多くの女性にとっては到底我慢できないもの?他方、多くの男性諸氏にとっては、心のどこかにこんな願望が潜んでいるのでは?
2009年9月9日付の産経新聞には面白いニュースが載っていた。すなわち、大阪市北区天満のコンビニを襲った強盗はえらく気の弱い男だったようで、店員に対して「お金いただけますか」と言いながらナイフを突きつけたが、「そういうことは良くない」などと説得されてすぐに観念し、カッターナイフをカウンターに置き「110番して下さい」と述べ、現行犯逮捕されたらしい。レオンは変態の度合いの強いストーカーだが、そんな気の弱い強盗に近いストーカー?
レオンがアンナの部屋で過ごす4日間の姿はあなたの目でじっくり観てほしいが、あえてちあきなおみの大ヒット曲「4つのお願い」風に少しだけネタばらしをすれば、1日目はボタンつけ、2日目は足指へのペディキュア塗り、3日目は誕生日祝い。しかして4日目は?眠っているだけのアンナの「静の演技」も難しいかもしれないが、4日間にわたるレオンの一人芝居(?)はその演技力が試されるもの。性的被害を含めてアンナには何の被害もないうえ、指輪のプレゼントまでされるのだから、ひょっとしてこんなストーカーならオーケー?
<法廷シーンは、弁護士の目を離れた方が?>
本作の後半には警察官によるレオンの取調べ(事情聴取)シーン、法廷シーン、そして面会シーンが断続的に登場する。つまり、あの憎っくきレイプ犯は逮捕されず、レオンがアンナのレイプ犯だとされたらしい。ところで、それに対するレオンの反応は?レオンの弁護人は?また日本では強姦罪は親告罪だが、その点ポーランドは?
弁護士的視点からはどうしてもそんな点に注意がいってしまうが、イエジー・スコリモフスキ監督の狙いがそんなところにあるはずはない。したがって本作の法廷シーンなどの鑑賞については、弁護士の目を離れた方がいいかも?もっとも、そうは思いつつそれまで法廷での一切の証言を拒否してきたレオンが、最後の最後になって裁判官に対して「証言する」と答えたところから、私の身体にがぜん緊張感が走ったから因果なものだ。裁判官の質問は短く、レオンの回答もYES、NOで答える短いものだが、最後の質問とそれに対するレオンの回答は?そんな静かなシーンが本作の本当のクライマックス?
ビートルズの『愛こそはすべて“All You Need Is Love”』は1967年の名曲だが、やはり映画が描く最高のテーマは愛。そんなことをかみしめながら、本作のすばらしさを実感したい。
2009(平成21)年9月12日記