さそり(日本映画・2008年) |
<ユウラク座>
2009年10月24日鑑賞
2009年10月27日記
私が大好きだった太田雅子改め梶芽衣子主演の名作『女囚さそり』が、水野美紀主演、香港のスタッフと俳優陣によってリメイク。こりゃ必見、と思って公開初日に鑑賞したが・・・。スタイリッシュな映像展開はオーケーだが、『さそり』最大のポイントである「恨み」の説明は?幸せな結婚を控えていた松島ナミが、なぜ女囚701に?さそりに?そして復讐の鬼に?後半のワイヤーアクションの多用と日本刀登場のバカバカしさを含め、もう少し脚本をしっかり練らなければ・・・。
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監督・脚本:ジョー・マ
原作:篠原とおる
松島ナミ(女囚701、さそり)/水野美紀
ケンイチ(刑事、ナミの恋人)/ディラン・クォ
ソウロウ(暗殺集団の一人)/サム・リー
赤城(暗殺集団の一人)/ブルース・リャン
セイコ(暗殺集団の女ボス)/エメ・ウォン
マスター(バーの経営者)/石橋凌
エリカ(女囚)/夏目ナナ
刑務所所長/ラム・シュ
死体収拾人/サイモン・ヤム
サヨ(ナミの医学部時代の同級生)/ペギー・ツァン
2008年・日本映画・100分
配給/アートポート
<『さそり』と聞けば?>
『さそり』と聞けば梶芽衣子、梶芽衣子と聞けば『さそり』。私が大学3回生だった1970年、司法試験の受験勉強を始める少し前に、ビッグコミックに連載されていた篠原とおるの漫画(劇画?)『女囚さそり』をかなり興奮しながら読んだことを今でもよく覚えている。また、梶芽衣子は太田雅子から改名したものだが、私は日活入社直後の初々しい彼女が石原裕次郎や小林旭主演の映画に出演していた姿を鮮明に覚えている。『さそり』の主演女優になってからはそのイメージをガラリとチェンジさせたが、まさに彼女は一目見た清純派の時から印象的な女優だった。そんなさそり=女囚701=松島ナミを、近時アクション女優としてのきらめきを見せている水野美紀が熱演!
<香港、台湾、中国のスターが登場!>
本作が香港のスタッフを中心に製作された映画だったことを、私は本編が始まるまで知らなかった。本作に登場するのは①主役の水野美紀、②前半、ナミとすさまじいバトルを展開する女囚エリカを演ずる夏目ナナ、③マスター役の石橋凌、以外はすべて香港、台湾、中国の俳優たちだ。
ナミのかつての恋人と新たな恋人という不思議な役ケンイチを演ずるのは台湾のイケメン俳優のディラン・クォで、私は彼を『夜の上海』(07年)で観たことがある。もっとも馴染みがあるのは、女子刑務所内での女囚同士の殺人バトルと、それに続く刑務所からの体罰を受けて瀕死状態のまま森に捨てられたナミを拾いさまざまな技を仕込む死体収拾人を演ずる香港のサイモン・ヤム。そして、ナミにセクハラを加える刑務所所長を演ずる中国人のラム・シュだ。サイモン・ヤムは『エレクション』(05年)、『エレクション2』(06年)、『エグザイル/絆』(06年)などの杜琪峰(ジョニー・トー)監督作品の常連。またラム・シュは、『カンフーハッスル』(04年)、『エグザイル/絆』『新宿インシデント』(09年)などで私にはお馴染みの顔だ。
<香港のスターがさらに続々と!>
他方、本作の後半、ナミと壮絶な(多少マンガ的な?)カンフーバトルを演ずるのが、既に還暦を超えた香港のブルース・リャン。彼はかつてブルース・リー、ジャッキー・チェンと共に三龍(スリー・リトル・ドラゴンズ)と呼ばれていたらしい。そして、80年代半ばに政治的トラブルのため映画界から姿を消し実業家になっていたが、『カンフーハッスル』で映画界に復帰したらしいが、私にはあまり印象がない。
もっとも、私の興味の対象は、例によって美しい女優陣。前半はナミにある行為を強要する暗殺集団の美しき女ボス、セイコを演ずる香港のエメ・ウォンが登場し、後半はナミの大学の医学部時代の同級生サヨを演ずる香港のペギー・ツァンが登場する。
こんな風に俳優陣は香港、台湾、中国のスターが次々と登場するが、さて作品の出来は?
<ナミはなぜ復讐の鬼に?>
私は印象派の絵のように(?)ストーリーが緻密に組み立てられた映画が好きだが、近時は抽象画の絵のように観客の判断に委ねる演出も多い。また、香港映画は音響とともに映像が次々と切り替わっていくスタイルも多い。そういう意味では、本作は抽象画でスタイリッシュな演出?そう言えばそうかもしれないが、本作が抽象画になったのは『さそり』最大のテーマである「恨み」の根拠が不十分なため。つまり、冒頭から再三流される結婚を控えたケンイチとナミとの幸せな風景が、なぜセイコ、赤城、ソウロウ(サム・リー)らの暗殺集団によってぶち壊しになったのか、がきわめて不十分なのだ。
原作の『さそり』では愛する人たちに次々と裏切られるナミの若き日の姿が印象的だったが、本作ではなぜナミが復讐の鬼になるのかが不明確。ミニワンピース風の囚人服を着て、両手を後手に縛られて吊るされる姿が冒頭に登場し、これをさまざまな角度から執拗に追っていくショットの展開は刺激的かつスタイリッシュだが、ナミがなぜそこまで追い込まれたのかについて説得力ある説明がなければ、ちょっと白けてしまうのでは?
<ワイヤーアクションは、ノーサンキュー>
タイ映画『チョコレート・ファイター』(08年)のアクションを観てしまうと、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『HERO(英雄)』(02年)や『LOVERS(十面埋伏)』(04年)のワイヤーアクションもつまらなく思えてくる。他方、『カンフーハッスル』のようなとてもありえねーワイヤーアクションを観ると、そこまで徹底すれば立派なものとも思えてくる。そんな感覚でいうと、後半からさかんに登場するワイヤーアクションはハッキリ言ってチャチ。また、梶芽衣子という主演女優と一心同体だった「女囚さそり」のイメージは、こんなワイヤーアクションとは無縁のはず。また、ナミが死体収拾人のおっさんからカンフーのみならず日本刀の使い方まで教えてもらったうえでの復讐劇の展開は、まるでタランティーノ監督の『キル・ビル~KILL BILL~Vol.1』(03年)、『キル・ビル~KILL BILL~Vol.2』(04年)の焼き直し?
前半のナミとエリカとの肉弾対決は見応えありだが、後半のナミとセイコ・ソウロウ連合軍とのカンフー対決や、ナミと赤城とのカンフー対決におけるワイヤーアクションはノーサンキュー。
<もっとエロスを!杉本彩を見習わなきゃ!>
梶芽衣子主演の『女囚さそり』シリーズは1972年から73年にかけて4作つくられたが、エロスで売る作品ではなかった。それは本作も同じだが、青春時代に見ていた梶芽衣子主演の『女囚さそり』に対し、60歳になって見る『さそり』にはなぜかエロスを期待。1970年代と2009年の今とでは映画におけるエロス感やセックス感が全然違っていることは、杉本彩主演の『花と蛇』(03年)、『花と蛇2 パリ/静子』(05年)などが堂々と上映されていることからも明らか。
『踊る大捜査線 THE MOVIE』(98年)等に出演していた水野美紀は、本来清純派。「倉田アクションクラブ」でアクションの訓練を積んだ今はアクション女優として独自のスタンスを形成しているが、ポルノ女優ではない。したがって、そのエロス度には限界があるのは当然だが、本作はR-15指定。したがって、エロオヤジとしてはその方面にそれなりの期待をしていたが、それは大きく期待はずれ!水野美紀はもっとエロスを!杉本彩を見習わなきゃ!
2009(平成21)年10月27日記