ジャック・メスリーヌ Part1 ノワール編(フランス映画・2008年) |
<角川映画試写室>
2009年10月21日鑑賞
2009年10月29日記
日本が石川五右衛門、アメリカが『パブリック・エネミーズ』(09年)のジョン・デリンジャーなら、フランスには「社会の敵NO.1」と呼ばれた銀行強盗王ジャック・メスリーヌが!「ノワール編」と聞けば何となくロマンティックだが、さてその実態は?青春時代は『俺たちに明日はない』(67年)のボニーとクライドに憧れても仕方ないが、それはあくまで反面教師として観なければ。1960年代、70年代のさまざまな「トピックス」と合わせて学習できれば、最高だが・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督:ジャン=フランソワ・リシェ
脚本:アブデル・ラウフ・ダブリ、ジャック・メスリーヌ
ジャック・メスリーヌ(ギャング)/ヴァンサン・カッセル
ジャンヌ・シュネデール(ジャックの恋人、相棒)/セシル・ド・フランス
ギド(ギャングのボス)/ジェラール・ドパルデュー
ソフィア(ジャックの妻)/エレナ・アナヤ
ポール(ジャックの悪友)/ジル・ルルージュ
ジャン=ポール・メルシエ(ケベック解放戦線のメンバー)/ロイ・デュピュイ
父親/ミシェル・デュショーソワ
母親/ミリアム・ポワイエ
デローリエ(億万長者)/ジルベール・シコット
サラ(娼婦)/フロランス・トマサン
2008年・フランス映画・113分
配給/ヘキサゴン・ピクチャーズ
<有名ギャングあれこれ>
アメリカン・ニューシネマの代表作『俺たちに明日はない』(67年)は、1930年代の大恐慌時代のアメリカで銀行強盗をくり返しながら、なぜか大衆の共感と人気を得たボニーとクライドのコンビを描いた名作。また、近々公開されるハリウッド映画『パブリック・エネミーズ』(09年)の主人公も、1930年代の大恐慌時代を生きたカッコいい(?)銀行強盗ジョン・デリンジャーを描いたもの。
1960~70年代のフランスで著名な銀行強盗がジャック・メスリーヌだが、どうも彼は『パブリック・エネミーズ』でジョニー・デップが演じたジョン・デリンジャーと同じようなやり口と生き方だったらしい。その共通点の第1は銀行や金持ちしか襲わないこと、第2は約束は必ず守り、仲間を大切にすること、そして第3は女をとことん愛することだが、それってホント?こりゃ、金持ちから盗んだ金銀財宝を庶民に分け与えたため大人気を呼んだ日本の大泥棒石川五右衛門と同じように、ちょっと美化しすぎでは?
<悪の道に入るのは、たやすい?>
1965年以降のベトナム戦争がアメリカの若者たちに大きな影響を与えたように、フランスでは1945~62年のアルジェリア戦争が若者たちに大きな影響を与えた。
後にフランスとカナダで「社会の敵No.1」と称される、20世紀後半の世界で最も有名なギャングの一人となった1936年生まれのジャック・メスリーヌが、上官の命令によってはじめて人を殺したのはアルジェリア戦争に従事した1959年。除隊後パリの両親の下に戻ったジャックは父親が紹介してくれた真面目な仕事に就いたが長続きせず、悪友のポール(ジル・ルルージュ)と歓楽街へ繰り出し、娼婦のサラ(フロランス・トマサン)といい仲に。そしてポールがやっている闇商売=強盗に手を染めるようになったが、アルジェリア戦争帰りでクソ度胸のついていたジャックはボスのギド(ジェラール・ドパルデュー)とも対等に渡り合って気に入られたから、以降悪の道をまっしぐら。やはり、悪の道に入るのはたやすい?
<美しい妻よりやっぱり仲間?>
スペインの女性は開放的で魅力的。それはスペインの華ペネロペ・クルスを見れば明らかだ。1960年にジャックがポールと共に訪れたスペインの避暑地での美しい娘ソフィア(エレナ・アナヤ)とジャックとのあまりに早いベッドインを見ているとまさにそう思ってしまう。本作はPart1、Part2を通じて、ワガママで凶暴だがどこか無邪気で女に一途な愛すべき面がある(?)ジャックの人物像が興味深い。若い時は誰でも純真だしジャックは心底からソフィアを愛しているようだから、ジャックだってこの時はまだ立ち直れるチャンスが?
ある日ジャックの指に結婚指輪を発見したポールはビックリし、はやし立てたが、ボスのギドはこれを率直に祝福。子供も生まれたジャックは意外にも堅気の仕事にうまく順応し、2人目、3人目の子供まで誕生した。こうなりゃ、若い時の暴走は暴走として今は妻子を養う良きパパとして大奮闘。それが続けば「社会の敵No.1」は生まれなかったのだが、意外だったのは「仕事」を持ってきたギドとポールを見るや、ジャックは必死で止めようとするソフィアを殴りつけ「お前と仲間のどちらかを選べと言われたら、まちがいなくお前より仲間を選ぶ」と宣言したこと。こりゃ一体ナゼ?
<こりゃ、ボニーとクライドそのもの?>
ジャックが1966年のある晩、バーで偶然知り合った女がジャンヌ・シュネデール(セシル・ド・フランス)。類は友を呼ぶもので、2人は一目会ったその日から野獣=銀行強盗の匂いを互いに嗅ぎとったらしい。そう思わざるをえないほど2人の息はピッタリで、こりゃ公私とも絶妙なコンビ。まさに1930年代のアメリカを席巻したボニーとクライドのフランス版だ。
他方、本作を観ていて私が思うのは、ジャックらの銀行強盗のやり口の単純さとフランス警察の情けなさ。銃をつきつけて銀行員を脅し、「早く現金を袋に入れろ」と迫り、終了するや車で逃げ出すだけ。やっと駆けつけてきた警察との間で銃撃戦が展開されるが、なぜか警察の弾はジャックたちに全然当たらないうえ、脱出後のジャックたちが警察の敷いた犯人包囲網にかかることも全くない。これではジャックとジャンヌはやりたい放題?ところがある日、警察ではなく対立するギャングたちからジャックが路上で銃撃されたため、ジャックとジャンヌは海外脱出を決意。まあ、たんまり金を持っての若い時の海外高飛びも悪くはない、と私は思ったが・・・。
<ジャックの絶頂期は?>
政治家でも実業家でも、また俳優でもスポーツ選手でも、誰だって旬の時代や絶頂期がある。ちなみに、2005年の9・11総選挙で絶頂期に立った小泉純一郎元総理と同じように、2009年の8・30総選挙によって鳩山由紀夫総理、小沢一郎幹事長は今絶頂期にあるが、さてそれはいつまで?
そう考えてみると、ジャックのような銀行強盗の絶頂期はいつかという判断は難しい。つまり、強盗として大成功している時が絶頂期なのか、それともアリゾナの荒野で逮捕されフランスに移送されるに際して、マスコミが殺到してきた時が絶頂期なのかは微妙だ。飛行機から降り立つタラップの上でジャンヌと2人並びV字サインでポーズする姿は、とても「社会の敵NO.1」と称される犯罪者とは思えず、人気絶頂のスターそのもの。
しかし、その後ジャックを待ち受けていた、USC(特別懲罰刑務所)における地獄のような日々とは?
<脱獄から囚人解放、と志は高いが・・・>
ジャックが世界的に有名になったのは、何度も収監されながら脱獄と銀行強盗をくり返したため。スティーヴ・マックィーンを一躍有名にした『大脱走』(63年)や大スターになった彼の名作『パピヨン』(73年)では脱走は至難のワザだったが、フランスの刑務所からの脱獄はわりと容易?本作におけるジャックの鮮やかな(?)脱獄ぶりを観ていると、思わずそう思ってしまう。
さらに驚くのは、囚人たちの協力で脱獄できたことを恩に感じているジャックが、約束どおり刑務所を襲って囚人たちの集団脱獄を本気で試みるシークエンス。ジャックと共に脱獄したのは、元FLQ(ケベック開放戦線)のメンバーのジャン=ポール・メルシエ(ロイ・デュピュイ)だったが、ジャックとメルシエが立てた特別懲罰刑務所襲撃作戦は、大量の銃器を持って車で殴り込みをかけるだけのものだからとても作戦といえる代物でない。荒っぽいだけの銀行強盗の手口と同様、全然知性が感じられないのが残念だ。これでは志は高いものの、決して結果が伴わないのでは?
2009(平成21)年10月29日記