ソフィーの復讐(非常完美)(中国、韓国映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2009年10月28日鑑賞
2009年10月29日記
今やすっかり「国際派女優」に成長した章子怡(チャン・ツィイー)が、不気味だった『ホースメン』(08年)からガラリとイメチェンして、初のコメディに!ハリウッド的薫りいっぱいの中国語ラブコメの登場は、米中融合?それとも中国の米国進出?中国・韓国・台湾の美男美女6人が大活躍だが、日本人俳優はゼロ。これでは東アジア共同体での日本のリーダーシップ発揮はとても無理?日本人俳優も私のように中国語をしっかり勉強して、東アジアに羽ばたかなければ・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督・脚本:金依萌(エヴァ・ジン)
ソフィー(人気漫画家)/章子怡(チャン・ツィイー)
ジェフ(イケメン外科医)/ソ・ジソブ
ゴードン(カメラマン、ジョアンナの元恋人)/何潤東(ピーター・ホー)
ジョアンナ(映画女優)/范冰冰(ファン・ビンビン)
リリー(ソフィーの友人)/姚晨(ヤオ・チェン)
ルーシー(ソフィーの友人)/林心如(ルビー・リン)
2009年・中国、韓国合作映画・107分
配給/メディアファクトリー、熱帯美術館
<米中融合?それとも中国の米国進出?>
『初恋のきた道(我的父親母親)』(00年)でデビューした章子怡(チャン・ツィイー)は『SAYURI』(05年)で英語作品にもデビューし、今や中国を代表する国際派女優に成長した。日本では『ラスト・サムライ』(03年)の小雪が日本を代表する国際派女優だが、その国際的認知度やレベルは段違い?政治・経済・軍事の面における米中接近(米中融合?)が近時著しいが、映画の世界ではそれが一層突出?
本作は中国が誇る国際派女優章子怡が主演のみならず、中国人でありながら米国で映画制作を学んだ新進女性監督金依萌(エヴァ・ジン)を立て、プロデューサーとしても参加した作品。金依萌が脚本を書いた本作はいわゆる「スクリューボール・コメディ」と呼ばれる範疇のコメディ映画で、本作は舞台を北京としているものの、ハリウッドの古典的な手法を踏襲したもの。したがって、その面でも米中融合?それとも中国の米国進出?
また、鳩山由紀夫首相の登場以降東アジア共同体の議論が一層盛んになっているが、その主導権は紛れもなく日本ではなく中国にある。そのことは、本作の主たる登場人物6名がすべて中国、韓国、台湾の俳優で占められていることからも明らかだ。1977年に文化大革命が終了した後、1980年代に至って張藝謀(チャン・イーモウ)、陳凱歌(チェン・カイコー)らの才能と努力によって突如噴出した中国ニューウェーブが、二十数年後の今ここまで成長・発展・拡大しようとは。これほどの中国映画の発展は米中融合?それとも中国の米国進出?
<『ホースメン』からガラリとイメチェン!>
国際派女優章子怡の最新作は『ホースメン』(08年)。全編英語劇のこれは『羊たちの沈黙』(91年)、『セブン』(95年)、『ソウ』(04年)の系列を継ぎ、「美しい殺人鬼の罠に、世界が堕ちる」をキャッチコピーとした、ちょっとワケのわからない映画だったが、さてその中での章子怡の演技力は?新境地は?「ヨハネの黙示録」をネタにした「サスペンション(人間の皮膚にフックなどを貫通させ身体を吊り下げる行為)」の世界はさすがに章子怡も辛かったのでは?
そんな章子怡が次回作として選んだ本作は、彼女初のコメディ。ハリウッド発のラブコメの世界における女王はメグ・ライアン、ジュリア・ロバーツ、キャメロン・ディアスなど数多いが、そこに章子怡がはじめて殴り込み?本来私は10月24日から公開されている渡辺謙主演の『沈まぬ太陽』(09年)のような骨太作品、問題提起作の方が好きだが、綺麗な女優がたくさん登場する楽しいラブコメも意外に大好き。もっとも、あまりにマンガっぽいものやお笑いっぽいものはノーサンキューだが、さて章子怡初のコメディ劇の出来は?『ホースメン』からガラリとイメチェンした章子怡を、タップリ楽しもう。
<2人のイケメンと2人の美女に注目!>
私が残念に思うのは、イケメン外科医のジェフ役にも、カメラマンでジョアンナの元恋人のゴードン役にも日本人俳優にお呼びがかからなかったこと。韓国人のソ・ジソブが完璧に中国語をマスターしてジェフ役を演じたように、中国語をマスターした上で世界的美女章子怡と対等に渡り合える日本人男優はいないの?また、台湾から抜擢されたゴードン役の何潤東(ピーター・ホー)以上に背の高いイケメン男優は日本にいないの?
もっとも、本作における私の注目点は、スケベおやじらしく章子怡を含む4人の女優陣。まずは章子怡演ずるソフィーの2人の女友達に注目。1人は、大金持ちの男と結婚して贅沢三昧の生活をしているリリーを演ずる中国人女優姚晨(ヤオ・チェン)。もう1人は、リリーと逆に男をとっかえひっかえしながら毎日を楽しんでいるルーシーを演ずる台湾人女優の林心如(ルビー・リン)。2人の意見は常に対立し、顔を合わせれば口論だが、ソフィーにとってはこの両者の極端な意見が大いに参考になるらしい。
<とびっきりの中国美女、范冰冰に注目!>
もっとも、この2人は本作ではあくまで章子怡の引き立て役。それに対して、結婚を間近に控えた人気漫画家のソフィーから婚約者のジェフを奪ってしまったジョアンナを演ずる范冰冰(ファン・ビンビン)は、人気映画女優という職業からもわかるようにとびっきりの中国人美女。私が范冰冰にはじめて注目したのは『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』(04年)(『シネマルーム17』108頁参照)だが、『墨攻』(06年)では更にすばらしい役を演じていた(『シネマルーム17』128頁参照)。また、作品的にはイマイチながら、成龍(ジャッキー・チェン)主演の『新宿インシデント』(09年)でも章子怡と並ぶ中国4大女優の1人徐靜蕾(シュー・ジンレイ)の向こうを張って大きな存在感を示していた。
范冰冰は1981年生まれだから、1979年生まれの章子怡より更に若く、いわゆる「八〇后」(1980年以降に生まれた世代)の旗手だ。章子怡がコメディ役をこなせることがわかったのと同じように、范冰冰もコメディ役はひょっとしてハマり役?もしそうだとすれば、范冰冰は今後更に飛躍するのでは?そんな范冰冰に注目!
<原題VS邦題・英題>
本作の原題は『非常完美』で、邦題の『ソフィーの復讐』は英題の『Sophie’s Revenge』と同じ。もっとも、ネット情報によれば製作中の仮タイトルは『蘇菲的復仇』と紹介されていたらしい。ちなみに、中国語では西洋人名は音訳語で表すため、たとえばブラッド・ピットは布拉德・皮特と表示することを私は学んだから、ソフィーを蘇菲と表示することもすぐにわかる。したがって、『蘇菲的復仇』は邦題・英題と全く同じだ。しかし、コメディなのになぜそんな物騒なタイトルを?
男でも女でも誰でも1度は振ったり振られたりした経験があるはずだが、男に理解不可能なのが振られた女の復讐心。プレスシートによれば本作は脚本を書いた金依萌監督の実体験ではないらしいが、彼女は「女性が皆そうだとは思いませんが、心の奥底で復讐を望んでいる人は少なくないのでは?だからこそ『ソフィーの復讐』が映画になったんだと思います。」と述べている。しかもそれに続いて「ソフィーのように実際に復讐をすることはなくても、心の中で考えたことはあるはずです。」と断言しているから、男と女をめぐる本作のような復讐劇はあらゆる場面で展開されているのかも?
婚約者のジェフを映画女優のジョアンナに奪われ打ちのめされたソフィーの決意は「結婚式までの2ヶ月間で何としてもジェフを取り戻す」というもの。しかして、人気漫画家のソフィーが新作漫画の中で描いた、オトコを取り戻すための「科学的」なアプローチ方法、すなわち『ソフィーの恋愛マニュアル』とは?
2009年10月28日に始まった民主党新政権下での国会論戦も、私が35年間やってきた裁判も知的ゲームだが、恋愛だってそれと同じく知的ゲーム。まして1度振られた男を取り戻すための恋愛マニュアルづくりは、かなり高度な知的ゲーム。さて自ら書いたマニュアルにもとづくソフィーの実践は?
<ハッピーエンドが好き?それとも?脚本の妙は?>
映画は脚本が命。そして脚本づくりでは、伏線のつくり方の妙とあっと驚く結末がポイント。また映画では、クライマックスにおける映像のインパクトも大切だ。本作は邦題どおり、章子怡扮するソフィーが自分を振った男ジェフとその恋人として幸福絶頂期にあるジョアンナにいかに復讐するかがテーマ。したがって、描きようによっては松本清張原作の『鬼畜』(78年)や『霧の旗』(65年)のような生々しい愛憎ドラマにもなりうるもの。しかし、本作はあくまでラブコメだから、どちらかというとハッピーエンドが望ましい?
ソフィーの復讐にゴードンが手を貸すようになったのはふとした偶然から(?)だが、その協力によってソフィーのジェフとジョアンナに対する復讐が完遂され、無事ソフィーとゴードンが結ばれましたとさ、というストーリー構成ではあまりに平板。そこで、米国フロリダ州立大学で映画製作を学び修士の学位を持つという新進女性監督が自ら書いた脚本の妙とは?これなら、とりわけラブコメではハッピーエンドが好きな人はもちろん、そうでない人もそれなりに満足できるのでは?そんな脚本の妙は、あなた自身の目でしっかりと。
2009(平成21)年10月29日記