霜花店(サンファジョム) 運命、その愛(韓国映画・2008年) |
<角川映画試写室>
2010年1月19日鑑賞
2010年1月21日記
『王の男』(05年)に継ぐ、韓国の時代劇歴代2位の興行成績はR-18指定のおかげ?『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION)』(07年)とよく似た生ツバものの性愛シ-ンに注目だが、筋骨たくましい男同士のベッドシ-ンは?俺の代わりに王妃を抱け!国王からのそんな命令に端を発した男女3人の愛憎劇は、「去勢」シ-ンを含めてトコトン韓国流!日本風のあっさり味ばかりではなく、たまにはこんな濃い「フルコ-ス」を味わってみては?
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監督・脚本:ユ・ハ
ホンニム(乾龍衛隊長)/チョ・インソン
コンミン王(高麗の王)/チュ・ジンモ
王妃(高麗の王妃、元の王女)/ソン・ジヒョ
スンギ(乾龍衛副隊長)/シム・ジホ
ハンベク(乾龍衛隊員)/イム・ジュファン
ノダク(乾龍衛隊員)/ソン・ジュンギ
テアン公(王妃の実兄)/チョ・ジヌン
2008年・韓国映画・133分
配給/エスピーオー
<湯唯(タン・ウェイ)VSソン・ジヒョ、中韓R-18比較>
本作は観客動員数400万人、韓国時代劇歴代興行成績第2位という大ヒットらしい。すると、韓国時代劇歴代興行成績第1位はナニ?それは当然イ・ジュンイク監督の『王の男』(05年)。その観客動員数は1230万人で、第1位1300万人の『グエムル~漢江の怪物~』(06年)に次ぐ堂々の歴代第2位だ。本作が時代劇歴代第2位といっても、第1位の『王の男』とは400万人VS1230万人だから、その差は大きい。それほど『王の男』の観客動員数はすごいわけだ。
他方、『王の男』はR-15指定だったが、本作はR-18指定。本作がなぜR-18に指定されたかはあなた自身の目で確認してもらいたいが、その第1は男同士の同性愛のシーンであり、第2はギリギリの線まで見せた男女の性愛シーン。私は前者には全然興味がないが、非常に興味のある後者についてそう聞くと思い起こすのが、李安(アン・リー)監督の『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION)』(07年)。私は『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION)』の評論で「その特徴は、①まるで性愛の教科書のように複雑に絡まるさまざまな体位、②接合部分丸見えか、というホントにギリギリまでの演技(ひょっとして演技ではない・・・?)、③ワンからの積極的かつ執拗なイーへの性愛攻撃」と書いたが、この際、中韓の大ヒット作についてR-18指定を比較してみるのも一興では?
また、キレイな女優さん大好き人間の私は『ラスト、コーション』の新人女優湯唯(タン・ウェイ)に注目したが、本作では元から高麗の国のコンミン王(チュ・ジンモ)のもとに嫁いできた王妃を演ずる美女ソン・ジヒョに注目。私がソン・ジヒョをみるのは本作がはじめてだが、ずっと誰かに似ているなと思っていた。そして映画鑑賞後思い出したのが、和久井映見(の若い頃)。小顔で丸顔そしていかにも知的な雰囲気は和久井映見そっくりだが、そう思ったのは私だけ?
『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION)』におけるタン・ウェイと梁朝偉(トニー・レオン)との性愛シーンもすごかったが、本作における王妃と乾龍衛隊長ホンニム(チョ・インソン)との再三の性愛シーンも、こりゃ本番そのものではないかと思うほどの生ツバもの。中韓のキレイな女優さんによる、R-18指定を受けた激しい性愛シーンの比較もまた一興だ。ちなみに、この2人に匹敵するような日本のキレイな女優さんは?
<『王の男』のイ・ジュンギなら私でも?しかしチョ・インソンは?>
本作で乾龍衛隊長ホンニムを演ずるチョ・インソンは、『卑劣な街』(06年)で野心に燃える三流ヤクザの主人公を演じた長身で男臭い俳優(『シネマルーム15』79頁参照)。つまり、官吏の子弟の中から眉目秀麗な少年たちを選んで構成された、王を護衛する乾龍衛の隊長という役柄は、そんな男臭さと背の高さが決め手となって決定したものだ。乾龍衛隊長だから当然少年の頃から武芸に励み常に王の側で王を護衛しているわけだが、国王が36人の乾龍衛を眉目秀麗な少年に限定したのはナゼ?それは、元(モンゴル)の王女を嫁に迎えた高麗王コンミンが女性を愛することができなかったためだ。
そこらあたりが本作のトコトン生々しくかつ悲劇的な結末となる男女3人の愛憎劇を生むことになる伏線だが、長身でいかにも男っぽいホンニムと、ホンニム以上に身長のあるこれまたいかにも男っぽい国王コンミンの同性愛シーンをさてあなたはどう観る?そんなチョ・インソンに比べると『王の男』でコンギルを演じたイ・ジュンギはいかにも女っぽくて色っぽく、私でも少しゾクゾクしたほど。したがって『王の男』ではそんなコンギルの姿をみて国王燕山君(チョン・ジニョン)がクラクラし、コンギルとの一夜を所望したうえ、その寵愛がエスカレートしていったのもうなずける。
つまり、『王の男』でコンギルを演じたイ・ジュンギなら私でも・・・?しかし、本作におけるチョ・インソンは同性愛の対象としてはどうも?
<二者択一?それとも第三の道?>
二者択一の決断が難しいのは世の常。またそんな場合応々にして二者択一ではなく、第三の道を探ろうとする考え方も生まれてくる。しかしその場合、その第三の道が決断の先延ばしにすぎないケースが多いのは、沖縄の普天間基地の辺野古への移転問題を巡る鳩山総理の迷走ぶりをみても明らか?
コンミン王が元(モンゴル)の王女と結婚したのは政略結婚だから、コンミン王が女より男の方が好きなら、王妃は適当に飾っておき、大好きな乾龍衛隊長のホンニムと同性愛の日々を送ればいい。ところがそれでは困るのは、世継ぎが生まれないこと。コンミン王がそれをどう解決しようと考えていたのかは、本作からは全くみえない。そんな中、王妃の親元である元(モンゴル)から、コンミン王に世継ぎが生まれなかったら、元の王族を高麗の次期国王にすると迫られたから、さあコンミン王は困ったことに。コンミン王はホンニムは抱きたいが、王妃は抱きたくない。しかし、王妃に世継ぎを産ませることは必要。さあ、コンミン王はホンニムをとるの?それとも王妃をとるの?そこでコンミン王が考えた、第三の道ともいうべき苦肉の策とは?
<コンミン王の嫉妬心がストーリーの軸に>
コンミン王が考え出した第三の道とは、ホンニムを王妃の寝所に赴かせて肉体関係を結ばせ、子供を産ませること。ホンニムによく似た子供が王妃のお腹から産まれたら、コンミン王はそれを喜んで次期国王に据えることができると考えたわけだ。しかし、こりゃいかにも独善的かつ独断的な発想であるうえ、ホンニムや王妃の意思を無視した決断。万が一にも、普天間基地移転問題がこんな突飛な結論に至らないことを祈るばかりだ。
性的不能の夫が妻に若い愛人をあてがい、その性交渉を密かに覗き楽しむというのは官能小説の一つのパターン。しかしコンミン王の場合はそうではなく、目の前に提起された世継ぎ問題を解決するため自分が最善の道として考え出したものだから、コンミン王は国王の権威のもとにそれを命令すればいいだけ。もちろん、ホンニムも王妃も当初は「そんなバカな!」と拒否するに決まっているが、国王の命令となれば仕方ないもの。国王たるもの一旦命令を下せばあとは粛々とその実行を見守ればいいのだが、それは現実に2人の性交渉を見守るという意味でないのは当然だ。
ところがそれが気になる国王は、谷崎潤一郎の『鍵』ばりに(?)密かに2人の性交渉の場面を覗いたのだが、そこでムラムラと沸き起こってきたのが嫉妬心。この心理状態をどう分析すればいいのかは心理学者にお任せするが、コンミン国王はこの嫉妬心を誰にどうぶつければいいの?この嫉妬心が以降のドロドロとした愛憎劇とシェイクスピア劇並みの悲劇的結末を招く根本原因だが、その嫉妬心を軸とした以降のストーリーと、副隊長のスンギ(シム・ジホ)も加えた愛憎劇は見どころいっぱい。こういうドロドロした愛憎劇が大好きな韓国で本作が大ヒットしたのは当然だが、どちらかというと淡白な恋愛劇が大好きな日本ではさて?
<三者三様のプレゼントの意味は?>
映画中盤、身体を重ね合わせ激しい愛を重ね合ったことによって、互いの心を開いたホンニムと王妃の仲むつまじい姿が登場する。しかしこれは同時に、ホンニムとコンミン王、王妃とコンミン王の良好な関係が崩れ、またそれまで順調だったホンニム、コンミン王、王妃の三者の関係に亀裂が入ることを意味するもの。そんな状況下で登場するのが、雙花餅。これは王妃の手作りの餅で、王妃の説明によれば、「元では娘は愛する人にこの餅をあげる習慣がある。私も愛する人に食べてもらいたかった」というものだ。こりゃ、ホンニムにとって最高のプレゼント!
他方、せっかくホンニムのためにすばらしい馬をプレゼントしようと待っていたのに、それをすっぽかされた国王の怒りは相当なもの。しかも、ホンニムが王妃と肉体関係を結ぶのは、本来コンミン王の命令に従ってコンミン王の世継ぎを生むための事務的手続(?)であるはずなのに、ホンニムと王妃が心から愛し合うとは一体何ゴト!さらに、ホンニムが王妃に対して「情欲を催し」、コンミン王に隠れて王妃と密会するとは一体何ゴト!
恋人同士が節目の日にプレゼントを交わすのはごく普通の情景だが、本作ではホンニムから王妃に渡されたあるプレゼント、コンミン王からホンニムに渡されることのなかった馬のプレゼント、そして王妃からホンニムに渡された雙花餅のプレゼント、がそれぞれ大きな意味を持ってくるから、そのそれぞれの意味をしっかりと。
<「霜花店」とは?それがわからないと・・・>
しかして、本作のタイトルである「霜花店」とは?それは雙花餅をモチーフにしたものらしい。すなわちプレスシートによれば、「霜花店」というタイトルは、高麗25代目の王・忠烈王(1274~1308年)の時代に作られた作者不詳の高麗歌謡「雙花店」をモチーフにしているとのこと。そして、「雙花店」とは餃子のような食べ物を売る店のことで、こうした店で男女が大胆に語らっていた姿が、監督が描こうとする映画の中の身分や制度、倫理を超えた3人の男女のイメージと重なり合うとして名づけられたらしい。そして「雙花」ではなく同音異義語である「霜花」の字を当てたのは、一時熱く燃え上がった情熱的な愛がやがて冷たく冷めてしまう様を表すのにぴったりくるという理由かららしい。
なるほど、「霜花店」とはそういう意味なのだ。それがわからなければ雙花餅のプレゼントのシーンが十分に理解できないから、本作を鑑賞するについてはタイトルの意味をしっかり理解したい。
<国王と乾龍衛隊長、どちらが強い?>
韓国の高麗時代の剣は戦いのための剣だから重い。また型や技術もさることながら、力によって圧倒する感じが強い。乾龍衛隊の少年たち36名はコンミン国王が青年時代に集めたものだから、国王と少年たちの間には、10才ほどの年の差があるはず。したがって、ホンニムは乾龍衛隊の隊長としてピカ一の剣の腕前を持っていたが、それでも国王の腕前には及ばないらしい。その意味では国王としての義務を果たしながら、なおかつ剣の修行も怠らないコンミン国王は偉いものだが、果たしてその実力はホンモノ?
ちなみに、映画中盤には嫉妬に狂った国王が久しぶりに本気になってホンニムと剣を交えるシーンが登場するが、そこでも結果は国王の圧勝。しかし、これもホンモノ?だって、いくら本気で立ち向かえと言われても臣下たる者そうそう剣で国王をやっつけることなど難しいはずだから。そう考えると、さて国王と乾龍衛隊長、どちらが強いの?
<迫力ある剣づかいが最後のハイライト>
ところがそんな中途半端な気持は、ラストにおけるホンニムとコンミン国王の迫力ある対決シーンを見れば、いっぺんに払拭されるはず。この時点のホンニムは身も心もボロボロ。だって、ホンニムの子を宿した王妃とはもはや二度と会えないのだから。そのうえ、自分は国王の命令によって「去勢」されてしまったのだから。したがって、この時点におけるホンニムはもはや失うものは何もなく、執念を燃やすのはただ国王との対決のみ。
そんな気持が乗り移っているためか、ラスト対決におけるホンニムの剣はそれまで見たことのない激しさだ。寝所にたった一人で現れたホンニムの挑戦に応じないわけにはいかない国王は当然これに対応したが、ホンニムのあまりの剣の激しさに国王もたじたじ。しかし時間がたつにつれて、国王も本気度を増し、次第に反撃。しかして、この剣によるラスト対決の結末は?
韓国の男優の肉体美と格闘技術の高さはおおむね日本の男優より優れているが、それは徴兵制のたまもの?そんなことを考えながら男同士の剣の対決を堪能したが、やっぱり身長が高く筋骨たくましい男優であるチョ・インソンとチュ・ジンモには、キスをしながら裸で絡み合う同性愛シーンより、剣によるアクションシーンの方がお似合いでは?
2010(平成22)年1月22日記