フィリップ、君を愛してる!(アメリカ映画・2009年) |
<アスミック・エースDVD試写>
2010年2月5日鑑賞
2010年2月8日記
『クヒオ大佐』(09年)のウソは女は騙せても男にはバレバレだったが、本作の主人公スティーヴンのウソは?彼の詐欺の腕前は『クヒオ大佐』以上、そして脱獄の腕前は『板尾創路の脱獄王』(09年)以上?しかし、愛する人から「ウソで固めた関係はもうウンザリ!」と三下り半をつきつけられては、元も子もない?そこでIQ169の天才詐欺師がとった一世一代の大ウソとは?『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』(08年)の同性愛は生々しく重かったが、こんなヤンキー流の陽気で楽しい同性愛なら大歓迎?
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監督・脚本:グレン・フィカーラ、ジョン・レクア
スティーヴン・ラッセル/ジム・キャリー
フィリップ・モリス/ユアン・マクレガー
デビー・ラッセル(スティーヴンの妻)/レスリー・マン
ジミー・ケンプル(スティーヴンのボーイフレンド)/ロドリゴ・サントロ
2009年・フランス映画・97分
配給/アスミック・エース
<『アイガー北壁』が実話なら、これだって実話>
さる2月3日に観た『アイガー北壁』が実話にもとづいた悲しい物語なら、『フィリップ、君を愛してる』だって実話にもとづいたチョー面白い物語。
『アイガー北壁』はナチスドイツの国威発揚のため、1936年アイガー北壁の初登頂に挑んだ4人の登山家達の悲劇をリアルに描いたものだったが、『フィリップ、君を愛してる』は、懲役167年の刑を科され、現在テキサスの刑務所に収監されているIQ169の天才詐欺師、スティーヴン・ラッセル(ジム・キャリー)の破天荒な人生を描いたもの。連続殺人犯ならともかく、たかが詐欺罪(?)でスティーヴンはなぜそんな懲役刑を?それは、詐欺罪で収監されるたびに脱獄をくり返したためだ。
2009年11月19日に観た『板尾創路の脱獄王』(09年)はモノトーンの暗い色彩の中で展開されるリアルな脱獄シーンが売りだったが、金さえあれば買収を含み何でもOKの国アメリカ(?)では、スティーヴンの手にかかれば脱獄なんてチョロいもの?いやいや、なかなかそうはいかない。あるときはニセ判事になって文書を偽造、あるときは医者の制服に身を包んで計3回の脱獄を試み、いいところまでいったものの、あえなく失敗。しかしてやっと4度目の脱獄を成功させたが、彼はなぜそんなに脱獄をくり返すの?
<「あの脱獄」は何のため?「この脱獄」は何のため?>
『板尾創路の脱獄王』における板尾演ずる主人公鈴木雅之の脱獄への執念は、スティーブ・マックイーンの『パピヨン』(73年)を彷彿させるすばらしいものだった。ところが鈴木は脱獄しては捕まり、また脱獄しては捕まっていた。せっかく脱獄に成功したのなら、なぜもっとうまく逃げないの?誰もがそう思ったはず。そして何度も脱獄と逮捕をくり返すうち遂に鈴木は監獄島に送り込まれることになったが、実はそれこそ彼が待ち望んでいたこと?
『板尾創路の脱獄王』はそんな面白い設定がミソだったが、本作の主人公である天才詐欺師スティーヴンはなぜ脱獄をくり返すの?それは、愛する人と一緒にいたいと強く望んだため。そして、その人こそタイトルになっているフィリップだが、「きみ」という以上フィリップは男。えっ、これって同性愛の映画・・・・。
<「あの同性愛」は生々しいが、「この同性愛」は陽気?>
去る1月19日に観た、『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』(08年)における、筋骨たくましい国王コンミンとホンニム乾龍衛隊長の生々しい同性愛シーンは思わず目を背けたが、ヤンキーの同性愛はあくまで陽気?
思いもかけない交通事故に遭い生死の境をさまよったスティーヴンは、以降「自分の人生に嘘はつかない。好きなことだけやってやる。本当の自分として生きるんだ」と決心したが、さて彼の言う本当の自分とは?それは、妻のデビー・ラッセル(レスリー・マン)、娘のステファーとの幸せな生活を捨て、同性愛の自分をカミングアウトし、その道一筋に生きること。そんな風に人生を180度転換したスティーヴンが、最初に見つけ出した恋人はジミー(ロドリゴ・サントロ)。そして、スティーヴンはジミーと二人で買い物に豪遊にと人生を謳歌していたが・・・。
<アメリカでは刑務所も一種の出会いの場?>
本作前半におけるスティーヴンのそんな姿を見ていると、ジム・キャリーの達者な演技もあって、いかにも陽気なヤンキーの同性愛ぶりに思わず笑いがこみ上げてくる。しかし待てよ、そんな豪遊する金が一体どこに?そんな中で発揮され始めたのが、IQ169というスティーヴンの天才詐欺師ぶりだ。
2月1日に殺人容疑で再逮捕された、インターネットの結婚紹介サイトで何人もの男を騙し続け、挙げ句の果てに次々と殺していたという結婚詐欺、連続不審死事件の木嶋佳苗容疑者の騙しっぷりにも驚かされたが、保険金詐欺、クレジット詐欺など、あらゆる詐欺をくり返すスティーヴンの手口にも注目!しかし、やがて木嶋容疑者が逮捕されたのと同じように、スティーヴンも逮捕。元警察官だったため刑務所の実態をよく知っているスティーヴンは、何とか刑務所行きを免れようと薬物自殺を図ったが、結局失敗し刑務所に収監されることに。これにて、彼の詐欺人生も同性愛人生もおしまい。誰もがそう思ったはずだが、何の何の・・・。スティーヴンは刑務所内で生涯の恋人となる男フィリップ・モリス(ユアン・マクレガー)を見つけ、一目惚れしてしまったから、収監も悪くはない?
それはともかく、本作中盤におけるスティーヴンのフィリップへの猛アプローチのサマとスティーヴンがさまざまな手をつくすことによって実現した、刑務所内での二人のアツアツぶりに注目!そういえば、2003年に第75回アカデミー賞作品賞、助演女優賞など6部門を受賞した『シカゴ』(02年)でも獄中で囚人たちが大パーティーをやっていたが、ロマンティックな監獄ライフを満喫している本作の二人の姿を見ていると、アメリカでは刑務所も一種の出会いの場?ついついそんな風に思ってしまったが・・・。
<きっとあなたも騙される?怒濤のクライマックスはあなた自身の目で!>
2009年9月10日に観た『クヒオ大佐』(09年)は女性ばかりをターゲットにした結婚詐欺師だったが、私を含む男性諸氏は、なぜ女はあんなインチキ野郎にコロリと騙されるの?そう不思議に思ったはず。スティーヴンの超豪華な生活は「僕は弁護士だ」をはじめ、「フィリップ、君を愛してる!」以外は嘘で固めたスティーヴの類まれなる騙し能力によって維持されてたから、そんなウソがバレるとフィリップの気持は?フィリップもスティーヴンを愛していることはまちがいないが、そうそうウソばかりつかれたのでは?しかも、脱獄してきた挙げ句「何も心配はいらない。一緒に逃げよう」ではフィリップの気持は離れてしまうのでは?そんな無茶苦茶なスティーヴンの行動のために、スティーヴンだけではなくフィリップも共犯者とされ一緒に投獄されてしまったのだから、事ここに至ってフィリップがスティーヴンに対して三下り半を叩きつけたのは当然。これにて遂にスティーヴンとフィリップの蜜月関係はジ・エンド。そう思ったが、本作のクライマックスは何とここから。
スクリーン上には、とことん痩せ衰えていくスティーヴンの姿が映し出されていく。そして遂にスティーヴンにはエイズの宣告が下され、余命いくばくもない旨の宣告が。これによってスティーヴンは刑務所から民間の施設に移され、死の直前になってやっと待ち望んでいたフィリップからの電話が。「愛する人」からの涙ながらの別れの言葉を聞くことができたスティーヴンは、きっと喜びながらあの世へ旅立つことに・・・。
そんなラストシーンは私を含む多くの観客の涙を誘うものだが、さて、これってホント?ひょっとして、これも詐欺なのでは?もしそうなら、「ああ、俺も騙された!」とあなたが地団駄を踏んで悔しがる光景が目に浮かぶようだ。そんな怒濤のクライマックスは、あなた自身の目でしっかりと・・・。
2010(平成22)年2月8日記