半分の月がのぼる空(日本映画・2009年) |
<シネ・リーブル梅田>
2010年4月11日鑑賞
2010年4月12日記
近時の難病モノ、純愛モノにはちょっと見飽きた感があるが、本作にはあるヒネリが・・・・。それを売りモノにするといやらしい(?)が、ラストに向けて展開される怒涛の謎解き(?)は結構面白い。前半一人だけ浮いた感のある芸達者な大泉洋は、後半一体どんな役割を?そして、前半嫌なヒロイン感も垣間見せた美女忽那汐里の演技力は?「ああ、なるほど!」と納得しつつ、感動の涙も流れるはずだ。
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監督:深川栄洋
裕一(高校2年生)/池松壮亮
里香(心臓病を患う入院患者)/忽那汐里
夏目先生(医師)/大泉洋
亜希子先生(看護師)/濱田マリ
保(裕一の友達)/加藤康起
司(裕一の友達)/川村亮介
みゆき(裕一の友達)/緑友利恵
夏目先生に訴える少年/森田直幸
現・青葉病院院長/螢雪次朗
里香の母親/中村久美
青葉病院院長/西岡德馬(特別出演)
2009年・日本映画・112分
配給/IMJエンタテインメント、マジックアワー
<また難病モノ?純愛モノ?しかし・・・>
試写の案内が届いた時変わったタイトルだナと思ったが、原作は累計140万部を突破した橋本紡の同名小説とのこと。その案内を読むと、心臓病のため9歳の時から入院生活を送っており、高校にも行っていないというヒロイン里香(忽那汐里)が、同じ病院に入院している高校2年生の裕一(池松壮亮)と知り合い恋に落ちるという物語らしい。また難病モノ?純愛モノ?そう思った私は少し腰が引けて結局試写を見逃していたが、その後新聞批評などを読むとこれが意外と好評。
沖縄生まれかナと思ったヒロインを演ずる忽那汐里は1992年オーストラリア生まれで、2006年の第11回全日本国民的美少女コンテストにおける審査員特別賞の受賞者だから可愛いに決まっている。そして、監督は1976年生まれという若さなのに『60歳のラブレター』(09年)でいい味をみせた深川栄洋(『シネマルーム23』183頁参照)。そんな中、たまたま時間がとれたので是非これは観てみようと思い、株主優待券を使って少し離れた映画館へ。なるほど、こりゃちょっとヒネっている・・・。
<高校2年生で肝炎?その恐しさは?>
本作の舞台は原作者・橋本紡の故郷であり原作の舞台でもある三重県伊勢市らしい。映画冒頭、その街中を轟音を立てながら疾走するバイクと、それを必死で追いかける自転車の姿が登場する。バイクに乗るのは裕一の親友(悪友?)の保(加藤康起)と司(川村亮介)。「俺は病人だぞ!」と叫びながら、必死にそれについていっているのが裕一だ。
裕一は肝炎で入院しているらしいが、高校2年生で肝炎?ガンマGTPなどによる肝臓のチェックが気になっている私は、肝炎は酒飲みの病気だと思っていたが、意外にそうでもないようだ。しかし、高2の裕一にとって入院生活がいくら退屈だといっても、夜毎病院を抜け出して悪友と遊んでばかりでいいの?肝炎の恐ろしさとは?
「われ今日も無断外出に成功せり!」とほくそ笑みかけていた裕一の前に登場したのが、看護師の亜希子先生(濱田マリ)。裕一の両頬をつねり上げながらお説教をたれる亜希子先生の姿は今ドキ珍しい風景だが、ちょっと変わった大阪弁のおばさん看護師が裕一に対して科したある罰とは?
<美人だが、このヒロインは嫌なタイプ?>
小学校高学年から中学生の頃は、女の方が男より精神的にも肉体的にも先に成長しているが、高2ともなればほぼ対等あるいは男の方が上。それが常識(?)だが、亜希子先生から「お友達になれ!」と命令されてはじめて里香と出会った時の裕一と里香のやりとりを聞いていると、高2でも完全に女の方が上手。
そりゃ悪友と遊んでばかりの裕一に比べれば、心臓に穴が空いている病気だと知らされたうえ、その手術をしてくれる先生が見つからない中で病院をたらい回しにされている里香はその間本だけが友達だったようだから、その読書量はハンパではない。すると、今の高2の時点で、精神的にも知能的にも完全に里香の方が裕一より上なのは当たり前。その結果、裕一は「里香の命令には何でも従う」という屈辱的な合意をさせられたわけだが、こりゃ1853年にペリーが浦賀沖に来航した後の日米交渉の姿と同じ?
それにしても、ニコリともせず「これは命令よ!」と言い放つ里香の冷たさが目につく。ひょっとして、本作のヒロインは美人だが嫌なタイプ?
<芸達者な大泉洋が一人ポツンと・・・>
『アフタースクール』(08年)で怪演をみせ、NHK大河ドラマ『龍馬伝』でも今後商人から武士に転身する近藤長次郎役を演ずるのが、味な脇役ぶりが期待される大泉洋。そんな芸達者な彼が、本作前半では妻の心臓手術をしたのに結局妻を救えなかったことによって心臓外科医から今は内科医に転身し、娘と2人ひっそりと暮らしている夏目先生役で登場する。妻を亡くしたのは6年前のことだから、もうそろそろ立ち直ってもいいのではと思うのだが、夏目先生の心の痛手はかなり大きいようだ。その結果、夏目先生の腕を期待して夏目先生の勤めている病院に転院してきた少女がいるのに、夏目先生はそれすら固辞。さらに病院長(螢雪次朗)から「手術をしてみれば」と勧められても、頑にノーサンキュー。
裕一と里香が入院しているのは伊勢市内の青葉病院だが、この病院でも里香の手術をしてくれる先生はなかなか見つからないらしい。ところで夏目先生が勤めている病院は?そこらあたりが本作はきわめてあいまい。しかも、裕一と里香の純愛の展開に夏目先生が関与することは何もないから、なぜ裕一と里香の純愛模様の合間に時々夏目先生の姿が登場するの?
<夏目先生のお説教の説得力は?>
映画後半、少女の手術を断った夏目先生に対して文句を言いにくる少女の彼氏(森田直幸)に対して、夏目先生が逆にお説教をたれるシーンが登場するが、さてその説得力は?どちらかというと、観客の多くは夏目先生の説教より「少しでも彼女の側にいてやりたいんだ!」と叫び、夏目先生に見切りをつけて飛び出していくこの若者の方に共鳴するのでは?この腑抜けのような中途半端な医者は一体ナニ?
きっと、あなたは前半からそこらあたりが気になるはずだが、これって深川栄洋監督のつくり方がヘタなせい?それとも・・・?
<劇中劇は面白い!布団の中も面白い!>
『恋におちたシェイクスピア』(98年)のすばらしさは劇中劇をふんだんに取り入れたところだったが、それと同じように本作の見どころの1つは、里香が裕一の高校の文化祭で『リチャード三世』のヒロインを演ずる劇中劇。こんなシーンをみると、忽那汐里は女優なんだということがよくわかるが、青葉病院に入院しているはずの里香がなぜそんなヒロイン役で舞台上に登場?それは、しっかりあなた自身の目で。
他方、純愛モノでは『ロミオとジュリエット』のバルコニーのシーンをはじめとして、最初に愛を語り合う場面が最大の見どころだが、本作ではそれはどんなシーン?本作におけるそれは、これまでの純愛モノの中で最高に安上がりの演出で登場する。つまりそれは、病院内の裕一のベッドの中。どうしても裕一に対して「ありがとう」と言いたいため裕一のベッドを訪れた里香が、密閉された狭い空間の中で裕一に語ったある告白とは?
劇中劇も面白いが、布団の中も面白い!
<日露戦争のポイントは203高地、本作のポイントは砲台山>
日露戦争では東郷平八郎率いる日本海軍がロシアのバルチック艦隊を破った日本海海戦が有名だが、この艦隊決戦が実現したのは日本艦隊が激戦の末、203高地の奪取に成功したからだ。去る3月13日~18日の大連・威海・青島旅行で私は旅順に出かけ、東鶏冠山、白玉山、203高地を見学したが、あなたはなぜここが203高地と呼ばれていたか知ってる?それは旅順港を見下ろす戦略上の拠点であるこの山の高さが203mだったため。日本軍が203高地攻略に方針を切り換えたのは、東鶏冠山への真正面からの攻撃に何度も失敗したため。また、203高地を攻略したことによって日露戦争の戦局が大きく変わったのは、203高地に着弾測定点を設け、日本から運んできた日本式280ミリメートル榴弾砲を旅順港に浮かぶロシアの軍艦に対してぶっ放すことができたためだ。
このように日露戦争においては203高地がポイントとなったが、本作のポイントとなるのは203高地とよく似た地形の(?)砲台山。里香が裕一に対して「砲台山に登りたい。私をそこに連れていって」と頼んだのは、そこは里香と同じ心臓病で死亡した父親と一緒に遊んだ思い出の場所だったため。そこには私が203高地でみた“爾霊山”碑とは違うあるモノが建てられていたが、さてこの砲台山をめぐって物語はどのような展開を?
本作はネタばれ厳禁の映画。したがってこれ以上書けないのが残念だが、病院を抜け出して2人で砲台山に登る前半のシーンをしっかり目に焼き付けたうえで、後半のあの展開、この展開をしっかり確認したい。
2010(平成22)年4月12日記