ゲキ×シネ「蛮幽鬼」(日本映画・2010年) |
<試写会・梅田ブルク7>
2010年8月31日鑑賞
2010年9月2日記
4人の若者が鳳来国(ほうらいこく)から果拿の国(かだのくに)へ留学した目的は?彼らの仲違いはなぜ?そこにうごめく陰謀とは?上川隆也、堺雅人、稲森いずみ、早乙女太一ら異色のゲスト陣と、劇団☆新感線お馴染みのレギュラー陣が織りなす波瀾万丈のドラマはスケールがデカい。いつもながらの、中島かずきの構成力に感服!宗教を心のよりどころにした国の支配。それは聖徳太子が目指した路線とも重なるが、さて蛮教VS蛮心教の教義対決は?民主党の代表選が始まった今、本作にみる権力闘争から学ぶのもいいが、「国のため!民のため!」の叫びを聞かせたい。
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監督:渡部武彦
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
伊達土門(だてのどもん)(友の無念を晴らすことに命を掛ける復讐の鬼、
蛮心教の教祖・飛頭蛮)/上川隆也
美古都(みこと)(土門への愛を秘めながら国を立て直そうとする妃)/稲森いずみ
刀衣(とうい)(美古都への忠誠心に生きる舞の名手であり剣の達人)/早乙女太一
稀道活(きのどうかつ)(浮名の父である豪快な鳳来国の大連)/橋本じゅん
ペナン(命を救ってくれた土門を仲間たちと共に支えるハマン王朝の姫)/高田聖子
音津空麿(おとつのからまろ)(蛮教の大神官となった鳳来国の学問頭)/粟根まこと
稀浮名(きのうきな)(勘は鋭いが女と欲に塗れた鳳来国の右大臣)/山内圭哉
遊日蔵人(あすかのくらんど)(自慢の剣で美古都を守る武人頭)/山本亨
京兼惜春(きょうがねせきしゅん)
(美古都の父で道活と対立する鳳来国の左大臣)/千葉哲也
サジと名乗る男(解放と引替えに土門の復讐への協力を誓った謎の殺し屋)/堺雅人
2010年・日本映画(ゲキ×シネ)・182分
映像製作/イーオシバイ
配給/ヴィレッヂ、ティ・ジョイ
著作/松竹、ヴィレッヂ
<中島かずきの構想力に感服!>
本作のモチーフになったのは、小学生の頃に興奮しながら読んだ記憶が鮮明に残る『巌窟王』。アレクサンドル・デュマ作の『モンテ・クリスト伯』だ。アレクサンドル・デュマと言えば『三銃士』が有名だが、「絶望的な状況下でも決して復讐心を忘れず、遂に・・・」という人間ドラマは子供心にしっかり焼きついたものだ。「脱獄モノ」はスティーブ・マックイーン主演の『パピヨン』(73年)が最高傑作だが、板尾創路主演の『板尾創路の脱獄王』(09年)も結構面白かった。さて、本作の構成は?
私はゲキ×シネの大ファンであり、中島かずきの構成力といのうえひでのりの演出力にいつも感服しているが、それは今回も同じ。まず、本作冒頭に示される4人の若者たちの鳳来国(ほうらいこく)から果拿の国(かだのくに)への留学、5年間の留学を終えていよいよ帰国する段階に至っての、京兼調部(きょうがねしらべ)(川原正嗣)の暗殺と伊達土門(だてのどもん)(上川隆也)の投獄、そして土門を陥れた音津空麿(おとつのからまろ)(粟根まこと)と稀浮名(きのうきな)(山内圭哉)2人の帰国という状況設定がシンプルでわかりやすい。もちろん、この直後に土門は幽閉された監獄島を脱出して鳳来国へ戻り、空麿と浮名への復讐が始まるわけだが、その構成力に感服!
親友だった調部の無念と己を陥れた空麿、浮名両人への恨みを晴らすべく復讐の鬼となる土門を演ずるのは上川隆也。土門が貴族の出身ではなく、遊日蔵人(あすかのくらんど)(山本亨)と同じく「衛兵あがり」という身分設定も面白いが、鳳来国へ入国した後、蛮心教の教祖・飛頭蛮となって空麿と浮名への復讐を企てるという発想も面白い。オウム真理教の教祖・麻原彰晃はトコトン悪だったが、さて土門は?
<異色出演の堺雅人と早乙女太一が軟硬の演技で熱演!>
堺雅人は『南極料理人』(09年)でいい味を出していたが、本作ではそれと同じように(?)終始ニコニコ顔で、ストーリーの軸となる謎の男サジ役を熱演!中国には漢民族の他、55の少数民族がいるが、サジは生まれながらの暗殺集団狼蘭(桜蘭?)(ローラン)族の男だが、終始見せるあのニコニコ顔がクセモノ。土門や、後に女性初の鳳来国の大君になる美古都(みこと)(稲森いずみ)の大向こうをうならすオーソドックスな演技も大変だが、逆に「ニッコリ笑って人を斬る」サジの演技も大変。土門の盟友となるサジのうさん臭さ(?)は最初から暗示されているが、さてこいつの真の狙いはナニ?
他方、私も大衆演劇のスターとしてその名前だけは知っている早乙女太一が、本作では女になったり男になったりの変幻自在な姿(?)で大活躍。後半の彼(?)はもっぱら美古都の護衛役だが、その存在感は大きい。劇団☆新感線の顔は古田新太だが、彼は最近『シーサイドモーテル』(10年)や『十三人の刺客』(10年)などに出演し、少し浮気気味?本作に見る上川隆也はもちろん、堺雅人や早乙女太一らの熱演ぶりを見れば、古田新太も別の世界で浮気ばかりしていると、帰ってくる場所がなくなる恐れも?
<蛮教VS蛮心教、教義対決の行方は?>
中世ヨーロッパにおける十字軍を軸としたイスラム教VSキリスト教の対立や、キリスト教のカトリックとプロテスタントへの分裂。そんな「騒動」を見ていると、思わず宗教って一体ナニ?と考え込んでしまう。他方、『西遊記』に始まる中国における仏教の広がりや遣隋使、遣唐使の時代におけるその日本への輸入劇を見ていると、いかに宗教が時の政治権力と結びついていったのかというドラマを見ることができる。そんな全地球的視点から(?)、本作における蛮教VS蛮心教の教義対決を考えるのも一興だ。
今から11年前、若く理想に燃えた4人の若者たちが果拿の国へ留学した目的は、国をまとめる礎となるべき宗教としての蛮教を学ぶためだ。『ザ・ウォーカー』(10年)では、世界が滅亡する中でわずかに生き残った人間たちの心を1つにまとめるべく、「ある1冊の本」を守ることに執念を燃やすストーリーが描かれていたが、宗教はそれほど大きな力を持っているわけだ。もっとも、それを学び持ち帰る人間が2人しかおらず、その1人の浮名が右大臣として政治権力をふるっていれば、もう1人の空麿が学問頭として自分の都合のいいように教義を解釈していたのは当然かもしれない。宗教が政治と結びつけば必ず「お布施を出せ」「たくさんお布施を出した人にはたくさんの幸せが・・・」となるはずだが、さて空麿を学問頭とする蛮教の到達点は?
他方、最近西の方ではやっているらしい飛頭蛮を教祖とする蛮心教の教えとは?さあ、今日は蛮教VS蛮心教の教義対決の日。その行方は?そして、そこから発生してくる、予想もしなかったハプニングとは?
<こっちの愛が本筋?それともあっちの愛が?>
劇団☆新感線を代表する女優が高田聖子。もちろん、彼女は歌も踊りも演技も一流だが、何よりの特徴はアク(キャラ)の濃さ。一流女優にあるまじき、「大股開き」などのお下劣な演技を厭わない彼女の女優根性には頭が下がる。しかし同時に、劇団☆新感線の仲間たる橋本じゅんや粟根まことから、「お前、ホントにそのキャラでいいの?」と劇中で心配されるほどだから、いつまでこのキャラで・・・?いのうえ歌舞伎の特徴の1つがアホバカギャグも厭わない下品さ(?)だが、それを担うトップ女優が高田聖子というわけだ。
そんな高田聖子が、本作ではハマン王朝の姫ペナン役で熱演しているが、さてハマン王朝とは?土門と共に監獄島を脱出したペナンは、蛮心教の副教祖として土門と二人三脚で布教活動を続けているが、2人の間柄は完全に夫婦と同じ。したがって、土門の復讐心はあくまで空麿と浮名に向かっていると理解していたペナンにとって、美古都の登場は意外だったはず。なぜ、土門は美古都にこだわるの?2人のかつての関係は?そんな展開に至る中、はじめてペナンの女心が垣間見えてくるが、否応なく鳳来国の権力闘争の渦の中に巻き込まれたペナンの運命は?さあ、土門にとってこっちの愛が本筋?それともあっちの愛が?
<代表選に聞かせたい、「国のため!民のため!」>
トロとイカ、続いてトロとイカ、そんなにトロとイカばかり食っていてはいい加減飽きてくる・・・。そんな思いの中、遂に9月1日民主党の代表選挙がスタートした。しかし、そこに見えてくるのは本作の稀道活(きのどうかつ)(橋本じゅん)と京兼惜春(きょうがねせきしゅん)(千葉哲也)との間で展開されているのと同じ権力闘争ばかりで、「国のため!民のため!」という思いは全然伝わってこない。一国を運営していこうとする場合、派閥抗争や権力闘争があるのは当然。したがって、映画冒頭に見る4人の若者たちの議論はよく理解できる。そして、留学を終えて鳳来国の学問頭に就いた空麿の懸命の世渡り術や、右大臣・道活の息子として父親と共に大君の位を狙う浮名の熱意も理解できる。しかしどうも本作を見る限り、小沢一郎前幹事長同様の最高の策士であり、最高権力者は、どうも美古都の父で左大臣である惜春?自民党、民主党に限らず、権力闘争を外部から劇として見るのは楽しいものだが、目下の日本国の状態は「選挙、選挙で国が沈む」という最悪の状態に陥っている。
そんな状況下で感動を覚えるのは、本作のクライマックスに向けて展開される「国のため!民のため!」という叫び。多少オカマじみた上品な鳳来国の大君(おおきみ)(右近健一)が死亡した後、遺言(?)に従って美古都は女性初の大君となることを厭わなかったが、さて彼女が目指した鳳来国のあるべきかたちとは?そしてまた、トコトンこの女に騙されたと誤解しながらも、なお美古都への愛を断ち切れない土門が最後に鳳来国のために託したものとは?小沢一郎前幹事長や菅直人総理、そしてその側近たちも権力闘争ばかりにうつつを抜かさず、本作が魅せる「国のため!民のため!」のメッセージを示してもらいたいものだ。
2010(平成22)年9月2日記