ロビン・フッド(アメリカ映画・2010年) |
<試写会・TOHOシネマズ梅田>
2010年9月28日鑑賞
2010年9月30日記
ロビン・フッドは誰でも知っているが、本作が描くのはそんなロビンの誕生秘話?ロビンが十字軍に従事したってホント?リドリー・スコット監督は自由奔放な仮説の下、筋骨たくましいロビン像をエンタメ性豊かに表現!同時に弁護士の私としては、1215年のマグナカルタに注目!民主主義が機能不全に陥っている今、こんな映画からその原点を考える必要があるのでは?
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監督:リドリー・スコット
ロビン・ロングストライド/ラッセル・クロウ
マリアン(ロバートの未亡人)/ケイト・ブランシェット
ウィリアム・マーシャル(リチャード1世から摂政に任命された貴族)/ウィリアム・ハート
ゴドフリー(ジョン王と同じ乳母を持つジョン王の幼なじみ、
フランスのスパイ)/マーク・ストロング
タック修道士(ノッティンガムの協会に仕える修道士)/マーク・アディ
ジョン王(リチャード1世の末弟)/オスカー・アイザック
獅子心王リチャード1世(イングランド王)/ダニー・ヒューストン
アリエノール・ダキテーヌ(リチャード1世とジョン王の母)/アイリーン・アトキンス
リトル・ジョン(ロビンの十字軍の戦友)/ケヴィン・デュランド
ウィル・スカーレット(ロビンの十字軍の戦友)/スコット・グライムズ
アラン・ア・デイル(ロビンの十字軍の戦友)/アラン・ドイル
サー・ウォルター・ロクスリー(ノッティンガム領主、ロバートの父)/マックス・フォン・シドー
ロバート・ロクスリー(マリアンの夫)/ダグラス・ホッジ
2010年・アメリカ映画・140分
配給/東宝東和
<あれっ、こんなロビン・フッドが?>
ロビン・フッドと聞いてすぐに連想するのは、「弓の名手」と「シャーロットの森」。そして「アウトロー」として時の権力に抵抗した「義賊」というイメージだ。したがって、本作品で主演したラッセル・クロウ演じる主人公ロビン・ロングストライドという名前には全く馴染みがない。そのうえ12世紀末に獅子王リチャード1世(ダニー・ヒューストン)が率いた十字軍の遠征にロビン・フッドが参加したことや、当時どん底状態にあったイギリスを一つにまとめ、海を渡ってきたフランス軍によるイギリス占領を阻止したことなどは全く知らなかった。
本作のクライマックスは、海岸線上でフランス軍を迎え撃つロビンたちイギリス軍の戦いぶり。これは、私が中学生時代に観たチャールトン・ヘストン主演の『エル・シド』(61年)における十字軍とイスラム軍との戦いを彷彿させるが、そこでロビンが見せるヒーローぶりは、今までロビンについて持っていたヒーロー像とは全く異質のものだ。
「あれっ、こんなロビン・フッドが?」。そう、リドリー・スコット監督が本作で描くロビン・フッドは、私達がよく知っているシャーロットの森の中で奮闘するアウトロー・ロビン・フッドの誕生秘話なのだ。
<なぜノッティンガムへ?わかりやすく、説得力ある設定に拍手!>
映画冒頭、サー・ウォルター・ロクスリー(マックス・フォン・シドー)が治めるノッティンガムに盗賊が侵入し、食料品を盗んでいく姿が描かれる。これに猛然と立ち向かうのが、ウォルターの息子ロバート・ロクスリー(ダグラス・ホッジ)が騎士として十字軍の遠征に赴いたため、今は盲目で年老いた義父に代わってノッティンガムの領土を守っているロバートの妻マリアン(ケイト・ブランシェット)。マリアン役でケイト・ブランシェットが出演する以上、ロビン・フッドが大展開する冒険大活劇の中には、ロビンとのロマンスが描かれるはずだから、本作の舞台の中心はきっとイギリス北部の村ノッティンガム。
そう思っていると案の定、ロビンはイギリスへの帰路中の戦いで戦死した獅子王の兜をロンドンに届ける任務を遂行中、待ち伏せにあって死亡してしまったロバートから、父親のウォルターに剣を返してくれと頼まれ、やむなくこれを承知することに。義理堅いロビンとしては、こうなった以上ロバートとの約束を果たさざるをえなくなるわけだが、そんなよくあるパターンながらわかりやすい説得力ある設定のもとで、次々と物語を展開させていくリドリー・スコット監督の手腕に拍手!本作のもうひと捻りは、その剣に刻まれてあった「小羊は何度でも立ち上がる」という言葉だが、これは一体何の意味?
フランス国内からイギリスのノッティンガムまで今なら飛行機でひとっ飛びだが、ロビンの生きていた時代では、そこに行き着くだけで大仕事。ロビンは、ロバートを襲ったゴドフリー(マーク・ストロング)率いるフランス軍を蹴散らせてロバートから剣を預かったわけだが、ロバートとの間で一つの義理を果たそうとすると、ゴドフリーとの間で新たに宿命的な対立が生まれることに・・・。
<本作にみる権力闘争は、まだまだ甘い?>
去る9月28日の新聞・ニュースは、「北朝鮮の将軍サマ」こと金正日の三男・金正恩氏に対して「朝鮮人民軍大将」の軍事称号を与えるとともに、金正日の妹の金慶喜氏も女性としてはじめて「大将」に選任されたことが報じられた。金日成・金正日・金正恩と三代も続く世襲体制は異例そのものだが、今北朝鮮ではどんな権力闘争がくり広げられているのだろうか?
そんな超生々しい(?)権力闘争に比べると、本作にみるリチャード1世からジョン王(オスカー・アイザック)へのイギリス王位の承継はきわめてシンプルだ。また、フランス王の姪イザベラを妻に迎えようとするジョン王と、それに反対する母親アリエノール・ダキテーヌ(アイリーン・アトキンス)との議論を聞いていても、その権力闘争はかなり牧歌的?
それに対して、ジョン王の摂政の座をめぐるウィリアム(ウィリアム・ハート)とゴドフリーとの対立・確執は、ゴドフリーが実はフランス王のスパイであったという驚くべき事実が伏せられていたこともあって、深まっていくことに。もっとも、ジョン王の幼なじみであったゴドフリーがなぜフランス王のスパイになったのかについて、本作がきちんと説明していないのは本作唯一の欠点だし、ゴドフリーがフランス王のスパイであるというウィリアムの諫言を聞き入れないジョン王が、愛妻イザベラからの命を懸けた諫言であればそれに納得するというのも、ちょっと薄っぺらい。
21世紀初頭の今、北朝鮮でくり広げられている現実の権力闘争に比べれば、12世紀末から13世紀初頭にかけてイギリスで展開された権力闘争は、まだまだ甘い?
<ロビン・フッドって、意外にちゃっかり者?>
日本では鳩山由紀夫から菅直人へと続く民主党総理大臣の八方美人ぶりが際立っているが、本作ではロビン・フッドのリーダーシップと決断力が際立っている。ロビン・フッドの三人の悪友リトル・ジョン(ケヴィン・デュランド)、ウィル・スカーレット(スコット・グライムズ)、アラン・ア・デイル(アラン・ドイル)とのつきあいぶりや、ちょっとケッタイなキャラのタック修道士(マーク・アディ)とすぐに仲良くなる姿を見ていると、ロビン・フッドもNHK大河ドラマ『龍馬伝』における坂本龍馬と同じように、人たらしの天才?また、『龍馬伝』では岩崎弥太郎も羨む坂本龍馬の女のモテモテぶりが際立っているが、ノッティンガムに到着したロビンがサー・ウォルターからの「しばらくここに留まってくれないか」との要請に「YES」と答えたうえ、続く「マリアンの夫になってくれ」との要請にも即座に「YES」と答えたことに私はビックリ!ロバートから預かった剣に刻まれていた「小羊は何度でも立ち上がる」という言葉に大きなこだわりがあったため、しばらくノッティンガムに留まろうと考えたのは当然だが、これほど簡単にマリアンの夫になる話を承知したのは意外!
これは、坂本龍馬が千葉定吉道場の華であったお佐那さまを嫁に貰ってくれと兄の重太郎から何度も頼まれたにもかかわらず、それを頑に拒否し続けた坂本龍馬の姿と好対照?
なぜロビン・フッドはこんなに簡単にマリアンの夫になることをOKしたの? そんな姿を見ていると、ロビン・フッドって、意外にちゃっかり者?
<やっぱり『十三人の刺客』よりこっちの方が・・・>
三池崇史監督の『十三人の刺客』(10年)は、ラスト50分にも及ぶ、「斬って斬って斬りまくれ!」の戦闘シーンが見モノだったが、本作のクライマックスは海岸線に上陸しようとするフランス軍とそこに駆けつけたイギリス軍との戦い。『史上最大の作戦』(62年)は、ノルマンディ海岸への連合軍の大上陸作戦を描いた史上稀にみる大作だったが、本作が描く13世紀初頭の上陸作戦は20世紀のノルマンディ上陸作戦にも匹敵する大作戦?アメリカの海兵隊が使うような上陸用の船を使っていることにも驚いたが、「上陸軍は海岸線で叩け!」との鉄則をイギリス軍が実践していることに感心。その唯一の例外は『父親たちの星条旗』(06年)、『硫黄島からの手紙』(06年)二部作で観たように、硫黄島で栗林忠道中将がとった「籠城作戦」だが、兵力の差がそれほど大きくないなら敵は上陸時の混乱に乗じて叩くのがベスト!もっとも、ここでロビン・フッドが進言し、ジョン王が採用した作戦は、射手は崖の上から矢を射ることとし、騎兵は海岸線を駆けて敵の歩兵をやっつけるというだけの単純なもの。私はあれだけ雨あられと矢を放つことができるのなら、それだけでフランス軍を全滅させることができるのでは、と一瞬思ったが、それだけの量の矢は用意できていないのかも?
また、それでは大スペクタクルの戦闘シーンを堪能できないことになるから、作り物の映画としては、いかにそのスペクタクル性をつくり出すかが腕の見せ所だ。『十三人の刺客』でも当初の大道具・小道具や火を使った奇襲作戦の後は「斬って斬って斬りまくれ!」の戦いとなったが、本作でも大量の矢を放った後は騎兵と歩兵の肉弾戦。ロビン・フッドは単なる弓の名手だけではなく、肉弾戦にも強いことは、『グラディエーター』(00年)を演じたラッセル・クロウの頑強な肉体を見ればよくわかる。もっとも、ロバートを襲った時のゴドフリーは何とかロビンの矢をかわして逃げることができたが、今回海岸線に沿って馬を疾走させながら逃げていくゴドフリーを狙ったロビンの矢は?これぞ活劇!これぞエンタメ!これぞ満足!そんなハイライトの戦闘シーンを満喫しよう。
<民主主義の原点がここに!>
日本人なら誰でも中学時代に西洋史の授業で「マグナカルタとは何か?」を学んだことがあるはずだが、それを覚えている人は少ないのでは?09年8月30日の政権交代後、著しく進んできたわが国の民主主義の劣化状況を考えると、1215年6月15日にイギリスで制定されたマグナカルタの意義をしっかりこの作品から学びたい。
リチャード1世は獅子王としてイギリス国民から尊敬されていたが、十字軍遠征という目的は崇高なものであったとしてもそれに失敗するとともに、それによって国の財政を大きく悪化させたことをみれば、結果的にリチャード1世の政治と政策は大失敗?リチャード1世の母親アリエノールはたくさん子供を産んだが、リチャード1世の跡を継いだジョン王は、どうも兄のような神聖な目標も持たない、出来の悪い権威者だったらしい。今や腐った民主主義国に成り果てたニッポン国では消費税の値上げを議論することすらタブー視されているが、ジョン王は「納税は国民の義務だ。その義務を拒むのは反逆だ」という単純な論理で、圧政を施したから始末が悪い。それに反発した北方を治める貴族たちの連合軍が掲げたのが、王の権力を法で縛る、すなわち「法の支配」をうたったマグナカルタだ。
私たち日本人は、アメリカからの輸入によって戦後に制定された憲法の人権条項に詳しいが、その原点は自由・平等・博愛を掲げて命懸けで国王から権利(人権)を奪い取った1789年のフランス革命にあると考えている。しかし、実はそのさらなる原点がこのマグナカルタなのだ。しかして、そのマグナカルタの原案を起草して多くの貴族たちからの賛同を集め、結果的にこれは国王に対する反逆だとみなされてその首を切られたのは、なんとロビン・フッドの父親だったらしい。もちろん、それはリドリー・スコット監督の作り話だが、作り話でもここまで説得力を持って描けばたいしたもの。マグナカルタのことを全然知らない人には、本作のお話は本当に思えるのでは?
リドリー・スコット監督とラッセル・クロウのコンビによる『グラディエーター』に続く大活劇は、エンタメ作品として絶品であるばかりではなく、民主主義の原点の学習にも絶好!
2010(平成22)年9月30日記