あしたのジョー(日本映画・2011年) |
<東宝試写室>
2011年1月5日鑑賞
2011年1月6日記
団塊世代が定年を迎えている今、あの伝説の「クロス・カウンター」が実写版でスクリーン上に!見どころは『ロッキー』シリーズのシルベスター・スタローン以上(?)の山下智久と伊勢谷友介の肉体美!アントニオ猪木とモハメド・アリの「格闘技世界一決定戦」は「凡戦」だったが、過酷な減量作戦を貫行した力石とジョーとの対決は?ちなみに、白木のお嬢サマはなぜ下町のドヤ街の再開発に固執するの?そんな視点も忘れずに・・・。
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監督:曽利文彦
矢吹丈(バンタム級ボクサー)/山下智久
力石徹(フェザー級ボクサー)/伊勢谷友介
丹下段平(元ボクサー、丹下ジムの経営者)/香川照之
白木葉子(白木ジムのオーナー)/香里奈
西寛一(丹下ジムのボクサー)/勝矢
食堂の親父/モロ師岡
食堂の女将/西田尚美
安藤洋司(ヤクザの幹部)/杉本哲太
花村マリ(宿屋の女主人)/倍賞美津子
白木幹之介(葉子の父、白木財閥のオーナー)/津川雅彦
2011年・日本映画・131分
配給/東宝
<私には断然こっちの実写版の方が!>
私は『宇宙戦艦ヤマト』のストーリーや音楽は大好きだが、どうしてもアニメの印象が強すぎるため、現在上映中のキムタク主演の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10年)は観る気がしない。私が大学に入学したのは1967年4月だが、『あしたのジョー』の少年マガジンへの連載が始まったのは、1968年1月1日号から。学生運動まっ盛りで、下宿にはいつも多くの人たちが集まっていたあの時代、誰か(金持ち)が買ってきていた少年マガジンは毎号隅から隅まで熟読したものだ。したがって、矢吹丈も力石徹もそして丹下段平も、そのイメージは頭の中に焼きついているが、さてその実写版は?
そんな心配もしたが、本作の実写版はベリーグッド!少年マガジンで力石徹が死亡するのは連載開始から約2年後の1970年2月15日号の第106話だが、そこまでのストーリー形成の軸は矢吹丈と力石徹のライバル物語。さて山下智久扮する矢吹丈の不良ぶりは?また伊勢谷友介扮するプロボクサー力石徹の風格は?そして、NHK大河ドラマ『龍馬伝』でもNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』でも独特の存在感をみせつけていた香川照之が扮する、もともと超個性的な丹下段平のキャラは?
<ボクシング映画の金字塔が、またここに!>
ボクシング映画といえば、シルベスター・スタローン主演の『ロッキー』シリーズが最も有名だが、ラッセル・クロウが主演した『シンデレラマン』(05年)(『シネマルーム8』218頁参照)やヒラリー・スワンクがアカデミー主演女優賞を受賞したクリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)(『シネマルーム8』212頁参照)なども有名。また「昭和」を代表する俳優・石原裕次郎が、若き日に見せた『勝利者』(57年)でのボクサー姿も今や語り草になっている。
今ドキのカッコいい若者は、スタイルが良く足が長いけれども、さてボクサーとしての筋肉は?また、何よりも俊敏さが要求されるボクシングにおけるスピードと亀田三兄弟のような野獣の目は?アニメ版ならそれはどうにでもできるが、実写版でジョーや力石とピッタリ重なるボクサーを演ずる俳優を見つけ出し、作り出すのは至難のワザ。そう思っていたが、矢吹丈を演ずる山下智久はトレンディドラマでカッコいい主人公役だけでなく、不良役も意外にピッタリ。また、打たれても打たれても、倒れても倒れても立ち上がってくる矢吹丈の役にもピッタリだ。昨年の大晦日、私は『紅白歌合戦』と『Dynamite』を交互に鑑賞していたが、ジョーほど打たれ強い格闘家は存在しないのでは?他方、いくらケンカに強くても、プロボクサーの力石の目で見れば少年院時代のジョーは所詮悪ガキ。したがって、少年院の中で運命的な出会いを果たした力石が、必死に立ち向かってくるジョーをあしらうのは至極簡単なこと。ところが、ジョーが段平から教わった左ジャブの打ち方を実践してみると・・・。
『ロッキー』シリーズを代表とするボクシング映画のハイライトシーンは1つに決まっているが、本作はラストにみるハイライトシーンの他、2つも3つもハイライトシーンがあるから大いに楽しめる。ボクシング映画の金字塔が、またここに!
<クロスカウンターをいかに撮影?>
亀田三兄弟は今やすっかりプロの顔になってきたが、デビュー当時のやんちゃな頃はデビューしたばかりの矢吹丈にそっくり?相手をおちょくるかのようなノーガード戦法を実際の試合で見ることはめったにないが、ノーガード戦法の本家本元は矢吹丈?
ジョーにボクシングの基本を教えたのは丹下段平だが、その必殺技がクロスカウンター。これはノーガード状態で相手に左ストレートを打たせたうえ、それにクロスしてこちらから右ストレートを打ち返すものだから、相手に対する打撃は本来の右ストレートの4倍と言われていた!学生時代、少年マガジンのそんなシーンを見て、血湧き肉踊らせたものだ。力石相手にジョーの左ジャブは通用したが、バンタム級でプロデビューしたジョーのクロスカウンターの冴えは?そして、本作ではそれをいかに撮影?
<この肉体改造に注目!こりゃ必見!>
弁護士業も激務だが、映画俳優はそれをはるかに超えた激務。そう実感し感心させられるのは、俳優が役づくりのために体重を極端に増減させたり、肉体改造を実行すること。私が最高に驚いた(というより正直ゾッとした)のは、クリスチャン・ベイルが体重を30kgも落として365日間眠っていない主人公を演じた『マシニスト』(04年)(『シネマルーム7』382頁参照)。また、オーストラリア出身で今やハリウッドのトップスターに上りつめたラッセル・クロウは『グラディエーター』(00年)に続いて現在『ロビン・フッド』(10年)で筋骨たくましい肉体を披露しているが、『インサイダー』(99年)の時はあえて体重を増やし小太りの体型を作り出していた(『シネマルーム1』46頁参照)し、『シンデレラマン』の時はライトヘビー級の実在のプロボクサージム・ブラドックになり切った肉体美をつくり出していた。しかして、本作における山下智久と伊勢谷友介のプロボクサーへの肉体改造とは?
その指導をしたのは梅津正彦トレーナーだが、まずはバンタム級の山下智久の肉体美をしっかり堪能したい。ひょっとして山下智久の女性ファンはその肉体美を鑑賞するだけで本作の値打ちがあるのでは?他方、『マシニスト』のクリスチャン・ベイル並みの語り草となることまちがいないのが、伊勢谷友介の減量作戦。原作の中でもあえてジョーと対戦するため、本来フェザー級の力石がバンタム級まで体重を落とす過程が描かれていたが、それを実写版で目にするとその過酷さが肌身に伝わってくる。昨年12月26日に行われた亀田三兄弟の試合では、次男の大毅が約12kgの減量に苦しんだそうだが、本作にみる力石の壮絶な減量作戦とは?現実に伊勢谷友介は計量の数日前からレモンとキウイだけの生活を続け、計量シーンの前日はレモン1個だけで水も飲まなかったというからすごい。バンタム級ギリギリの体重で計量をパスするシーンにおける伊勢谷友介のあばら骨が透けて見えそうな肉体をみると、これでホントにボクシングの試合が出来るの?と心配になるほどだ。片手での腕立て伏せ、腹筋を鍛えるためのパンチの雨、等々にも感動だが、何よりも伊勢谷友介のボクサーらしい筋肉美には、男の私も思わずうっとり。
<東京下町のドヤ街とは?白木のお嬢サマはなぜ?>
大阪には新今宮というところに有名なドヤ街があるが、1968年当時、東京の下町にもドヤ街があったことを、私は『あしたのジョー』ではじめて知った。ジョーというボクシングの「至宝」を見つけ出した段平はそれまでの自堕落な生活を改め、ドヤ街の中に丹下拳闘ジムを創設したが、そのドヤ街一帯を再開発し大変身させようと計画しているのが白木財閥のオーナー・白木幹之介(津川雅彦)の孫娘であり、白木ジムのオーナーである白木葉子(香里奈)だ。力石はこの白木ジムに所属するプロボクサーとして快進撃を続け、今や世界ランキング入りはもとよりタイトルマッチも目の前に迫っていた。したがって、葉子にしてみればなぜ力石がデビューしたばかりのバンタム級のひよっ子にすぎないジョーにライバル心を燃やすのかが理解できなかったが、実はその白木財閥のお嬢サマにもこのドヤ街に対するさまざまなこだわりが・・・。
『あしたのジョー』は矢吹丈と力石徹の宿命のライバル物語がストーリーの軸だが、実は私がライフワークとしている都市問題の視点や、富める者VS貧しき者との階級対立の視点も?ドヤ街に住み一貫してジョーを応援する庶民代表が、食堂の親父(モロ師岡)と食堂の女将(西田尚美)そして飲み屋の女主人・花村マリ(倍賞美津子)たち。そしてまた、ドヤ街で遊び回る大勢の子供たちだが、ジョーはそんな応援をバックにいかなる奮闘を?ちなみに、力石から「ジョーにこだわっているのはお嬢さんの方」と指摘されてはじめて気付いたように、白木のお嬢サマはなぜジョーに、そしてこのドヤ街にこだわりを?
<ウルフ金串との闘いは?ダブル・クロスカウンターとは?>
力石との対戦を希望したジョーに対して、白木ジムのオーナー葉子がバンタム級で「殺人マシーン」と恐れられているジョーよりはるか格上のウルフ金串との対戦を用意したのは、かなりのサービス。所詮バンタム級のひよっ子が、ウルフ金串に勝てるはずはないと世間が考えたのは当然。しかも、ウルフ金串はビデオでジョーのクロスカウンター対策をしっかり練ったらしいから、自信満々だ。しかして始まったジョーVSウルフ金串の対戦はジョーのクロスカウンターが2度3度と封じられたから、その度に倒れるのはウルフ金串ではなくジョーの方。丹下会長はさかんに正攻法でウルフ金串と闘うようにアドバイスするのだが、それを聞き入れずわが道を行くのはいつものジョーのやり方だ。
人間、大学で教育を受け、さらに大学院で学ぶのも悪いわけではないが、それは所詮上から教えてもらう学問。やはり一番強いのは世界的建築家となった安藤忠雄氏のように、自分の努力でつかんだ学問だ。少年院あがりのジョーがロクな学問を身につけていないのは当然だが、トコトン現場派、実践派のジョーにはクロスカウンターの失敗をくり返す中で、ある知恵が。それは、クロスカウンター返しには、ダブル・クロスカウンターがあるということ。しかして、それって一体どんなもの?それは、あなた自身の目でしっかりと。
<トップ同士の対戦は意外と凡戦?イヤイヤ本作では・・・>
1976年6月26日に行われたアントニオ猪木とモハメド・アリとの「格闘技世界一決定戦」は予想外の凡戦に終わりファンをがっかりさせたが、壮絶な減量作戦を貫行してバンタム級の試合に臨んだ力石とジョーの試合は?宿命のライバル同士の待ち焦がれた対戦だけに、その試合は第1ラウンドから見応えのある打合いになったが、どうみてもやはり一日の長があるのは力石の方。クロスカウンター封じの強烈なアッパーに何度もジョーはダウンをくり返したが、減量苦がたたっているのか、今日の力石は少しヘン?そして、何と力石はあるラウンドを境に突然ガードを下げ、ジョーの専売特許だったノーガード戦法を採用したから、これにはジョーもビックリ。丹下会長はすかさず、「つっこむな!」とアドバイスしたが、そう言われたってジョーは一体どうすればいいの?
そこで始まったのが、互いのノーガード戦法。しかし、これには激しい打合いを期待した観客席から大きなブーイングが。そりゃ当然だが、勝ち負けに命をかけている本人たちにしてみれば、ノーガードのにらみ合いも真剣勝負そのものだ。ダブル・クロスカウンターがあれば、トリプル・クロスカウンターも・・・。他方、クロスカウンターの進化形もいろいろあるが、ボクシングにはフックという必殺のパンチもある。さあ、ジョーと力石の勝負のかけひきは?そして、リング上にノックアウトされるのは、さてどちら?
トップ同士の対戦は意外と凡戦?そう思う面もあるが、ジョーと力石の宿命の対決は、アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦のような凡戦ではない。したがって、その結末はあなた自身の目でしっかりと。
2011(平成23)年1月6日記