再会の食卓(団圓)(中国映画・2009年) |
<GAGA試写室>
2011年2月9日鑑賞
2011年2月10日記
中国では客人をもてなす食事には特別な意味がある。しかして、国共内戦の中で生き別れとなった台湾からの夫を40数年ぶりに迎えた、上海に住む妻やその家族の「再会の食卓」とは?また、新旧2人の夫を挟んだ「3人の食卓」とは?そこで話されるテーマとは?3人の老俳優の演技がすばらしい。脚本と演出がすばらしい。邦画ではまず実現できない感動的な人間ドラマを、じっくりと堪能したい。
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監督:王全安(ワン・チュエンアン)
脚本:王全安(ワン・チュエンアン)、ナ・ジン
玉娥(ユィアー)(上海で暮らす主婦)/盧燕(リサ・ルー)
劉燕生(リゥ・イェンション)(ユィアーの生き別れた夫)/凌峰(リン・フォン)
陸善民(ルー・シャンミン)(ユィアーの現在の夫)/許才根(シュー・ツァイゲン)
娜娜(ナナ)(ユィアーの孫娘)/莫小棋(モニカ・モー)
2009年・中国映画・96分
配給/ギャガ
<金熊賞に続いて銀熊賞を!>
王全安(ワン・チュエンアン)監督の『トゥヤーの結婚(図雅的婚事/TUYA´S MARRIAGE)』(06年)(『シネマルーム17』379頁参照)は、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『紅いコーリャン(紅高粱/Red Sorghum)』(87年)(『シネマルーム4』16頁、『シネマルーム5』72頁参照)に続いて19年ぶりにベルリン国際映画祭の金熊賞をもたらした。それに続く本作は、2010年の第60回ベルリン国際映画祭で一緒に脚本を書いたナ・ジンとともに銀熊賞(最優秀脚本賞)を受賞したもの。ちなみに、この第60回ベルリン国際映画祭では若松孝二監督の『キャタピラー』(10年)(『シネマルーム25』215頁参照)に主演した寺島しのぶが最優秀女優賞を受賞したから、アジア勢の活躍はすばらしい。
王全安監督は1965年生まれだから、『長江哀歌』(06年)(『シネマルーム15』187頁、『シネマルーム17』283頁参照)の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督らと並ぶいわゆる「第六世代監督」だが、『トゥヤーの結婚』は内モンゴル自治区を舞台とした興味津々の「かぐや姫レース」(?)を描いたユニークなものだった。その4年後の新作となる本作は、国民党と共産党の内戦によって台湾に追われた元夫が40数年ぶりに上海にいる妻のもとへ帰ってくるという、中国(政府)からみればきわめて微妙な物語。『トゥヤーの結婚』では砂漠化、水不足が進み貧しさの極みにある内モンゴル自治区の実情を知ることが不可欠だったが、本作を楽しむ(理解する)には蒋介石率いる国民党が中国本土から台湾へ逃げ出した後の中国本土と台湾の関係を理解する必要がある。1949年10月1日に中華人民共和国が成立した後、中国と台湾は完全に断絶していたが、1987年にはじめて台湾からの帰国が許可され、第一次帰郷団が中国上海を訪れることになった。もっともこれは脚本上のことで、ネット情報によると、現実は1987年7月に戒厳令が解除されたことを受けて、1988年1月に国民党の退役軍人を中心とした総勢25名の外省人帰郷親族訪問促進会が組織され、西安を経由して北京に赴いたらしい。ところで本作の邦題は「再会の食卓」だが、原題は「団圓(APART TOGETHER)」。さて、その意味は?
<ユィアーの上海での生活は?>
1970年の大阪万博から40年後の2010年に上海万博が開催された。私は既に何度か北京や上海を訪れているが、その発展の様子は私はもちろん中国人ですらビックリするほど。そして今や、GDPも日本を抜いて世界第2位に。海軍力の増強は気がかりだが、台湾との関係においても今や中国は圧倒的優位に立っている。
国民党軍の兵士だった夫、劉燕生(リゥ・イェンション)(凌峰(リン・フォン))と生き別れになった玉娥(ユィアー)(盧燕(リサ・ルー))は、そんな上海で夫の陸善民(ルー・シャンミン)(許才根(シュー・ツァイゲン))とともに近々立ち退きになるアパートに住んでいたが、その狭い部屋には家族がよく集まるらしい。その家族をユィアーに代わって私が少し紹介すれば、ユィアーとイェンションの間に生まれた子供は長男の建国(ジュングォ)だけで、ユィアーとシャンミンの間には長女と次女がいた。この2人は既に結婚しそれぞれ子供もいたが、次女の娘である娜娜(ナナ)(莫小棋(モニカ・モー))が1番ユィアーになついているらしい。
今日もそんな家族がユィアーのアパートに集まっていたが、映画冒頭映し出されるのは、みんなが注視する中で1通の手紙を読んでいるナナの姿。その手紙には、何とイェンションが40年ぶりに第一次帰郷団の1人として上海に戻ってくると書いてあった。そこで、まず注目すべきは家族たちの反応だが、さて・・・?
<中国人にとっての食卓とは?>
日本でも家族団らんの食事や仕事上の会食は大切だが、中国ではその大切さのレベルは格段に高い。そこには多少「見栄」も絡んでいるが、やはりお客さんをもてなすには最高の料理と最高の酒を用意しなければ・・・。そんな中国式会食で、勧められるままに白酒を飲み、中国式の1回毎に飲み干さなければならない乾杯を続けていると、いつの間にか酔いでダウン・・・。そんなことになりかねないことを私はよく知っているが、さてイェンションは?
普段は食事も服も倹約家で通っているシャンミンが、わざわざ市場に行って仕入れてきた上海蟹は1匹100元。40元のものも50元のものもあったが、「お客さんに出すならやっぱりコレ!」という店員の言葉に乗って大型のものを選んだうえ、それを4匹も。これには40数年連れ添っているユィアーも驚いたが、中国式の客人歓迎法とはそういうものだ。ということは、イェンションの訪問について子供たちはいろいろ意見があるようだが、シャンミンの心の中はイェンションを歓迎一色?
<イェンションの目的は?元妻と現夫の対応は?>
台湾第一次帰郷団の共通の目的は、第1に旧交をあたためること、第2に上海のまちを観光すること・・・。それだけなら何の問題もないが、シャンミンのアパートに泊めてもらいナナの案内で上海観光をしている中で、ユィアーに切り出したイェンションの上海訪問の目的は、ユィアーを台湾に連れ戻ること。私はこれを聞いて「これから、イェンションとシャンミンそしてシャンミンの家族とのバトルが始まるな」と思ったが、ワン・チュエンアン監督とナ・ジンの脚本では、ユィアーは意外にもスンナリとこれに同意。しかも、シャンミンに対してはユィアーから話をするというから、イェンションにとってはありがたい話だ。もっとも、イェンションに対して話をするタイミングを失ったため、結局イェンションとユィアーは一緒に話をしようということになり、「3人の食卓」を囲むことになったのだが、さてその席での結論は?
これも私には大いに意外で、「まずユィアーの意見を聴かなければ」と言っていたシャンミンは、既にユィアーがその気になっていることがわかると、「何だ既に2人で話ができていたのか」「よしわかった」とえらく単純にイェンションの申し出をOK。イェンション自身もシャンミンとの話し合いは「国民党と共産党の話し合いくらい難しい」と思っていたのだから、イェンションにとってもこれは意外だったはずだ。ユィアーはさかんにシャンミンのことを「良い人」だと褒めていたが、ここまでできた人だったとは・・・。
<この家族会議に注目!さすが銀熊賞!>
「3人の食卓」における元国民党兵士イェンションVS元共産党兵士シャンミンのユィアーの譲渡(?)をめぐる話し合いは、えらく円満に解決。以降、イェンションはシャンミンのことを「大哥」(大兄)と呼び心を通わせあったが、その他の家族たちは?
私は弁護士として離婚問題や扶養問題そして遺産相続問題をめぐる家族間の争いをたくさん見てきたが、本作の脚本ではユィアーとシャンミンが出した結論に反対する急先鋒は次女。この次女の言い分は誰でも理解できる当然のものだが、そこに娘婿たちの意見が絡まってくるといつの間にか金の問題に・・・。また、本来であれば一番意見を言いたいはずのイェンションとユィアーの間に生まれた長男は、「俺には関係のないことだ」となぜか傍観者的立場を・・・。次女の娘であるナナだけは何の意見も述べずユィアーとシャンミンの「決定」に従っていたが、本作に見るこの家族会議の様子は興味深い。
しかして、「これは私とユィアーとの問題だ」としてシャンミンが下したとおりの結論となったが、ホントにユィアーがいなくなったらシャンミンはやっていけるの?この席での次女のあまりの言い方にシャンミンは怒りを爆発させ「出ていけ!」とまで叫んだが、そんなことをしたらユィアーがいなくなった後の一人暮らしはどうなるの?弁護士の私としてはそこらあたりが心配だが、さすが銀熊賞を受賞しただけあって映画の脚本としては最高!
<シャンミンの本音は?「レストランの食卓」では?>
本作は『再会の食卓』という邦題どおり、食卓のシーンがきわめて多い。もっともホントの意味での「再会の食卓」は1匹100元の上海蟹を振る舞った最初の日の食卓だけだが、本作ではその後も食卓を囲むシーンが続出する。「再会の食卓」も「家族ぐるみの食卓」も興味深いが、本作では何度か登場するユィアーを中心に元夫と現夫が囲む「3人の食卓」が最大の注目点だ。
他方、本作で唯一登場する「レストランにおける会食」も興味深い。なぜなら、そこではそれまで「良い人」オンリーのように思えたシャンミンがはじめて家族に対して自己の本音や心情を披露してくれるうえ、この食卓以降状況が大きく変わるからだ。ここのレストランでの会食は、イェンションがユィアーを連れて台湾に戻ることが既定路線。したがって、シャンミンは相当寂しいらしく、酒に酔ってくると思わず本音がチラホラと・・・。それは第1に、高価な白酒を注文し「今まで倹約してきたが、これからは金を使わなくちゃ」と俄然方針転換する姿勢に表れる。そして第2に表現されるのは、40年以上連れ添い家族を守り育ててきたユィアーが、わずか1年間だけ一緒に過ごしたイェンションとの愛を選んだことに対する不満。俺は40年以上妻を守り、家族を守ってきたのに・・・。そう、1949年当時共産党軍の中隊長として前途洋々たる立場だったシャンミンは、あえて国民党軍の夫が残していった妻ユィアーとの結婚を選んだため、以降立身出世コースから完全にはずされてしまったのだ。そのうえ、1966年から始まった文化大革命の際には想像もつかないような弾圧を。このように、ユィアーを守るために40年以上続けてきた苦労は一体何だったのだろう。いくら人の良いシャンミンだって、そう考えても決しておかしくならないはずだ。
人間、酒が入り本音を語り始めると、つい声が大きくなるもの。家での会食ならそれでもよかったが、レストランでの会食はそれではまずい。隣席からの苦情に思わずかっとなった元軍人のシャンミンは、そんな苦情に対して断固立ちあがり反論を加えようとしたが・・・。
<「お笑い」の要素もしっかりと!>
お笑い芸人を集め、「これでもか、これでもか」とドタバタ劇を見せつける最近のアホバカバラエティーは見るに耐えない。しかし、ワン・チュエンアン監督が作品の中に少しだけまぶす「お笑い」の要素は、風刺が効いていてホントに面白い。前作の『トゥヤーの結婚』でもそれが含まれていたが、本作では映画中盤にユィアーとシャンミンの「離婚」をめぐって面白い中国の法事情が展開されるからそれに注目。
シャンミンがユィアーの決心を尊重して、ユィアーを台湾のイェンションの元に「戻す」ことを決意したのはいいが、今なお中台の「対立」が続く中、ユィアーの台湾への入国(帰国?)手続はスンナリできるの?それがテーマだが、その前提としては、ユィアーがシャンミンと離婚したうえ再度イェンションと結婚する必要がある。ちなみに、日本では民法733条に「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない」という「再婚禁止期間」が規定されているが、中国や台湾では?それはともかく、「まずは離婚届出を・・・」と考えた2人は役所へ出向いたが、国共内戦が続いていた1949年という混乱の年にあってシャンミンとユィアーは正式な婚姻届出をしていなかったらしい。つまり「事実婚」というわけだ。
そこで展開されるのが、ユィアーとシャンミンの離婚のためにまずは結婚証明書をとるという面白いストーリー。証明書に添付する記念写真にほどよく緊張し、老いらくの恋と冷やかされながら何とか結婚証明書をもらえたのはいいが、続けて離婚しようとすると、今度は財産分与の内容を明記した離婚合意書が必要らしい。日本では婚姻も離婚も届出だけでOKだが、中国ではそうはいかないようだ。こりゃ弁護士としてはきっちり調べなければならないが、そんなことに興味のない一般観客からはワン・チュエンアン監督とナ・ジンが書いたそんな面白い脚本に思わず笑い声も・・・。
<クライマックスにおける「3人の食卓」は圧巻!>
本作ではユィアーを挟んだイェンションとシャンミン「3人の食卓」がポイントだと説明したが、クライマックスにおけるその「3人の食卓」は圧巻!「レストランでの会食」時の騒動によって軽い脳梗塞をおこしたシャンミンは、命には別状はないものの食欲が落ち、車イス生活を余儀なくされていた。そんな風に状況が激変し、また第一次帰郷団の台湾への帰国の日が近づく中、ユィアーとイェンションの決断は如何に?
本作はユィアーとイェンション、シャンミンという3人の老人が主人公だから映画全体に華やかさはないが、それぞれの演技力のすばらしさもあって、そんな風に状況が変化した中での三人三様の「老人の決断」は見どころがある。クライマックスの「3人の食卓」において、1人台湾へ帰る決心をしたイェンションが望んだのは、はじめて2人がデートした時に歌った歌を歌うこと。すると、そんな雰囲気に乗って、ユィアーも一曲!シャンミンも一曲!と続いていき、最後は3人の合唱(熱唱)に。なぜ邦画はこんな心温まるシーンをつくり出せないのだろうと思いつつ、ワン・チュエンアン監督の演出による最高の「3人の食卓」シーンに感動!
<ラストの番外編(?)の「3人の食卓」もグッド!>
感動的な「3人の食卓」が終わると、いよいよ別れのシーン。第一次帰郷団の人数が多いこともあって台湾への帰国は飛行機ではなく船。やっぱり船の別れの方が絵になることを、ワン・チュエンアン監督はきちんと計算ずみというわけだ。これにて本作はジ・エンド。そう思ったが、実は番外編(?)として1年後の「3人の食卓」が・・・。といっても、この3人はユィアーとイェンション、シャンミンの3人ではなく、ユィアーとシャンミンと孫娘のナナの3人。場所もあの狭いアパートではなく、立退き補償をもらって移り住んだ高層マンションの広い部屋だ。料理はたくさん用意したのに、場所が遠くなったこともあって、昔のように家族は集まってきていない。電話をかけても都合がつかないらしいから、この大量のご馳走をどうするの?
そんな中ナナから報告されたのは、ナナの結婚と彼氏がアメリカへ留学するので2年間は待つということ。「2年も待つの?」「そんなに長い間待っていて大丈夫?」そう心配するシャンミンに対するナナの答えは?ユィアーとナナの女同士も「待つ」ということについていろいろな思いを抱えながら、この「3人の食卓」を囲んでいることだろう。余韻を残すラストのつくり方にも、大いに感心!
2011(平成23)年2月10日記