ブラック・スワン(アメリカ映画・2010年) |
<角川映画試写室>
2011年3月29日鑑賞
2011年3月28日記
練習とテクニックによって、可憐な白鳥はOK。しかし、黒鳥になりきるには芸のこやしをタップリ吸い込み、快楽のあり方を知らなきゃ。私にはそれは到底無理。しかし、そんなことを言えば主役の座はたちまちライバルに・・・。映画俳優はボクサーになったり、バレリーナになったり、本当に大変。監督が要求するそんな過酷な役づくりに応えてこそ、はじめてアカデミー賞に値するすばらしい演技に。ナタリー・ポートマン、アカデミー賞主演女優賞の受賞おめでとう!しかし、本番の舞台で最高のバレエを見せることができた代償とは?もっとも、これは一体どこまでが現実で、どこまでが夢?美しいバレエ作品を越えた、そんなミステリー劇の面白さに大拍手!
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監督:ダーレン・アロノフスキー
ニナ・セイヤーズ(バレリーナ)/ナタリー・ポートマン
トーマス・ルロイ(芸術監督)/ヴァンサン・カッセル
リリー(ニナのライバル)/ミラ・クニス
エリカ・セイヤーズ(ニナの母親)/バーバラ・ハーシー
ベス・マッキンタイア(ニナの憧れのプリマ)/ウィノナ・ライダー
2010年・アメリカ映画・110分
配給/20世紀フォックス映画
<『レスラー』も過酷だったが、本作も・・・>
ダーレン・アロノフスキー監督は、『レスラー』(08年)(『シネマルーム22』83頁参照)で主演男優のミッキー・ロークに本物のレスラーになるよう過酷な要求をした(?)が、本作では「白鳥の湖」の主役を射止めたニナ・セイヤーズ役のナタリー・ポートマンと、そのライバルとなるリリー役のミラ・クニスに本物のバレリーナになるように(?)と過酷な要求を!『ザ・ファイター』(10年)で第83回アカデミー賞助演男優賞を受賞したクリスチャン・ベールが歯を抜くなど徹底的にその役になりきったことはよく知られているが、バレエの経験があるとはいえ、ナタリー・ポートマンがここまで過酷な監督の要求に立派に応えるとは!
第83回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされたのはアネット・ベニング、ニコール・キッドマン、ジェニファー・ローレンス、ミシェル・ウィリアムズとナタリー・ポートマンだったが、本作の演技をみればやっぱりナタリー・ポートマンが最適!
<ダークな物語と「白鳥の湖」の融合は、誰の発想?>
チャイコフスキーのバレエ組曲「白鳥の湖」には白鳥と黒鳥が登場し、王子は花嫁選びに悩むことになる。しかし、本作はそんな「白鳥の湖」のストーリーをなぞったものではなく、『ブラック・スワン』というタイトルからイメージできるとおりの一種の心理スリラー劇。主役の座を狙ってライバルたちが抗争をくり広げる物語はいろいろあるが、本作のプレスシートによると、当初本作の脚本家であるアンドレ・ハインズによって書かれた『ブラック・スワン』の基になった物語は、まさにそれ。そして、そんなアイデアに「白鳥の湖」にまつわるストーリーを組み合わせることを思いついたのが、ダーレン・アロノフスキー監督だった。その結果登場したのが、ダークなライバル物語と「白鳥の湖」とが見事に融合した本作だ。
ナタリー・ポートマン演ずるニナは、今回斬新で創造性あふれる「白鳥の湖」の演出を目指す芸術監督トーマス・ルロイ(ヴァンサン・カッセル)の言葉によれば、可憐で繊細な白鳥役にはピッタリだが、自由奔放にして邪悪な黒鳥の踊りはイマイチ?黒鳥になりきるにはバレエの技術面だけではなく、人間的な面で変身しなければダメらしい。トーマス監督がニナに対してくり出すいろいろなチョッカイ(?)が純粋に芸術面からなのか、それとも女たらしの面からなのかは微妙だが、そんな過酷な要求にニナが戸惑ったのは当然。しかも、目の前には新人ながら、その性格と同じように自由奔放なバレエでトーマス監督の目を惹きつけるリリーがいたから、ニナがなおさら焦ったのは当然。このままでは主役の座をライバルのリリーに奪われるのでは?そんなプレッシャーが日増しに強くなってくると、ニナの目の前で展開される景色はなぜか奇怪なものばかりに・・・。さあ、ダークな物語と「白鳥の湖」を融合させた本作の面白さをじっくりと。
<芸術のためには、欲望の解禁が不可欠?>
俳優でも落語家でも遊びゴトはすべて「芸のこやし」だから、真面目な努力だけでは駄目!遊ばなあかん!勝新太郎も桂春団治もそういう主義だったし、今をときめく若手歌舞伎役者の中村獅童や市川海老蔵もそう?優等生タイプのニナに要求されたのはそれだが、だからと言って芸術監督自身がニナに対してキスを求めたり、きわどい会話に誘導したり、挙句の果ては自らの手で自らの局部をまさぐることを宿題として課したり、そんなやり方をあなたはどう評価?他方、ニナと正反対で万事享楽型(?)のリリーは、踊りも自由奔放なら男関係もそう。ドラッグ使用の快楽などは当たり前。そんな遊びなれた女リリーには優等生タイプのニナは目障りだろうが、それをうまく誘導、刺激、挑発、翻弄していくリリーのテクニックはお見事としかいいようがない。
母親エリカ・セイヤーズ(バーバラ・ハーシー)の愛情は認めつつも、いまだに12歳の女の子のように管理を強化する姿勢に反発したニナは、ある夜遂にリリーの誘惑に乗ってバーにくり出したから大変。はじめて飲んだドラッグの助けを借りて2人の男とのセックスはもちろん、一緒に自宅に戻ってきたリリーとは女同士でめくるめく激しい一夜を。人生にはこんな強烈な快楽もあったのだ。そんなことがわかれば、ニナの黒鳥役への理解が深まり、その踊りはより妖艶に、そしてより魅力的に?いやいや世の中そんな甘いものではない。翌朝のリハーサルに遅刻するという大失態を仕出かしたニナがそこで目にしたのは、主役にとって代わったようなリリーの踊りだった。これにニナが烈火のごとく怒ったのは当然だが、話を聞くとどうもリリーは昨夜ニナの家には泊まっていないらしい。そんなバカな!すると昨夜のあの快楽は夢?幻?私の頭は一体どうなってしまったの?こんな風に現実と妄想の世界が交互に出現しはじめたら、もはやニナのバレリーナとしての命は終わり?誰しもそう思うところだが、無我の境地に至ったところではじめて、常識では考えられないようなクソ力を発揮するのが人間?
<「白鳥の湖」のラストはこんな設定だった?>
私はバレエ組曲「白鳥の湖」は子供の頃を含めて何度か観たことがあり、大体のストーリーは知っているが、そのラストがどうだったかはちゃんと覚えていない。しかし本作における本番に向けてのリハーサル風景を見ていると白鳥が死亡し舞台の下に倒れ落ちるところでバレエは終わるらしい。もちろん落下する舞台下にはマットが敷かれているからプリマの身体は大丈夫で予定としてはヤンヤヤンヤの喝采の中、舞台下から再びニナが登場し観客の歓声に応えるというもの。そしてリハーサルでは何かとうまく進行できたがさて本番では?映画は終盤からラストに向けて次第に精神の不安定さを増大させ母親と決定的に決裂したり、挙句の果てはライバルのリリーをガラスの破片で刺し殺してしまうまでになるニナの姿を描いていく。しかも母親との大バトルは本番直前だし、リリーを刺し殺すのは出番と出番の合間だからそりゃ大変。そんな精神状態でホントにまともな踊りができるの?そんな心配をしていると、舞台の冒頭では誰の目にも明らかなチョンボを仕出かしたからトーマス監督はおかんむり。場合によれば公演の中止も。この公演に執念を燃やしてきたトーマス監督はきっとそこまで考えたはずだが、なぜか以降もり返してきたニナは白鳥のみならず黒鳥の踊りもパーフェクト。鬼気迫る踊りとはまさにこれを指すのだろう。圧倒的な迫力で踊り続けたニナのラストはいよいよあの落下シーン。そして落下した後の拍手は予測どおりだったが、さてその後の展開は?なるほど、ダークな物語と「白鳥の湖」の融合はこんなラストにしたことによって、その効果はパーフェクトに。ダーレン・アロノフスキー監督のアイデアに大きな拍手を送りたい。
<なぜか、恐くてイヤな夢を・・・>
昨夜は自宅で午後9時半から90分間のマッサージを受け、そのまま11時過ぎに就寝。ここ1週間続いた事務所機能の一部移転に伴う引っ越し作業の疲れや、毎週日曜日毎の恒例となっている17~20km走の疲れもあって、ぐっすり眠りに。予想通りそうなったのだが、夜中になぜか恐くてイヤな夢を・・・。
私の司法試験合格は1972年。そして弁護士登録は1974年。その資格に嘘偽りがあるはずはないが、夢の中ではなぜか私は司法試験の受験生の立場。それも私が受けた旧司法試験ではなく、新司法試験だった。夢の中で格闘していたのは、まず刑法。続いて行政法。夢の中味はここでは書かないが、とにかく恐くてイヤなもの。これでは俺の刑法は0点だし、行政法もなぜあんなバカな答案を?
<なぜ、こんな夢を?>
そんな後悔をしていたところで、目が覚めることに。そして目を覚ましてみると、寝汗でビッショリ。そのまま眠ったら絶対風邪をひくと思って起き出し、下着からすべてを着替えたうえ、今のうちに書いておかなければ朝になるときっと忘れてしまうと思い書いているのがこの原稿。まさに夢の中でそんな恐くてイヤな現実を体験したわけだ。そこで問題はなぜこんな夢を見たのか?ということだが、そりゃきっとナタリー・ポートマンがニナ役を演ずる中で体験した『ブラック・スワン』の、夢か現実かが渾然一体となった恐いミステリーを観てその評論を書いていたためだ。原稿はまだ途中だったので、異例だがこの夢の話を入れることで評論を完成させたい。そう考えて現実にここまで書いたら、再度ゆっくり眠れるはず。現在は夜中の3時半・・・。
2011(平成23)年3月28日記