127時間(アメリカ、イギリス合作映画・2010年) |
<GAGA試写室>
2011年4月6日鑑賞
2011年4月7日記
『リミット』(09年)は人為的な「密室」だったが、こちらは大自然が主人公に授けた試練の「密室」。右腕を岩に挟まれ身動きできない絶望的な状況下で5日間、主人公はいかに格闘し、いかなる決断を?主人公の熱演は認めるものの、「あのシーン」の賛否は分かれるはず。また、生還後の人生訓に、私は?
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監督・脚本・製作:ダニー・ボイル
原作:アーロン・ラルストン『127時間』(小学館文庫刊)
アーロン・ラルストン(クライマー)/ジェームズ・フランコ
ミーガン(渓谷で出会った女性)/アンバー・タンブリン
クリスティ(渓谷で出会った女性)/ケイト・マーラ
ラナ(アーロンの恋人)/クレマンス・ポエジー
アーロンの母/ケイト・バートン
ソニア(アーロンの妹)/リジー・キャプラン
2010年・アメリカ、イギリス合作映画・94分
配給/20世紀フォックス映画、ギャガ
<『リミット』は人為的密室!こちらは大自然の密室!>
95分間の舞台は、棺桶のような閉ざされた箱の中のみ。ロドリゴ・コルテス監督、ライアン・レイノルズ主演の『リミット』(09年)はそんな「アイデア勝負!」の面白い映画だったが、箱の中にはなぜかケータイが。それは人質から身代金を取るために人為的に仕掛けられた密室だったためだが、本作でクライマーのアーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)が閉じ込められたブルー・ジョン・キャニオンの洞窟は自然そのもの。
落石とともに谷底に落ちたアーロンの右腕は谷間に落ちてきた岩に挟まれ、一歩も動けなくなったから大変。もちろん、こんな大自然の中ではケータイは通じないし、いくら大声で呼んでも誰の耳にも届かない。『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)(『シネマルーム22』29頁参照)でアカデミー賞8部門に輝いたダニー・ボイル監督が用意した「密室」は、潜水艦でもなければ棺桶のような箱でもなく、そんな大自然の中だ。手持ちの食料や水はごくわずか。ナイフやクライミング・ロープそしてビデオカメラなどはリュックの中に入っているが、さてアーロンはいかにしてこんな密室から脱出を?
<最高の大自然から最悪の大自然へ!>
アーロンは技術者として働いているが、週末のクライマーこそが彼の真の姿らしい。一人車に荷物を積み込み、マウンテンバイクを疾走させる冒頭の姿はホントに楽しそうだが、すべて一人で計画し、すべて一人で行動することのリスク管理は?
何度も訪れているブルー・ジョン・キャニオンの渓谷はアーロンにとって第2の故郷だから、洞窟に行こうとして道に迷った2人の女性ミーガン(アンバー・タンブリン)とクリスティ(ケイト・マーラ)に道案内をするくらいは朝メシ前。もっとも、2人を秘密の入口に連れて行き、岩と岩の狭い隙間から真下に広がる泉にダイブさせるのはちょっとやり過ぎだが、根が陽気なヤンキー娘にはそんなハプニングもいいのかも・・・。2人の美女を楽しませ月曜日のパーティーに誘われたアーロンは最高の大自然を満喫したが、2人と別れた後、谷底で岩によって右腕を挟まれ身動きできなくなったアーロンは最悪の大自然を味わうことに。まさに天国から地獄へとはこのことだ。「冷静に考えろ」と心を落ち着かせ、脳みそをフル回転させ、万能ナイフで岩を削り始めたが・・・。
<命の期限は?アーロンの決断は?>
本作を観ていると、左手だけでここまでのことができるアーロンがいかに器用な人間であるかよくわかるが、もしこれがあなたなら?土、日、月と身動きがとれない状態が続く中、アーロンの体力と知力が徐々に失われていったのは当然。さて命の期限は?
震災などではそれは一般的に72時間と言われているが、救助のボランティアに従事しているアーロンならそこは心得たもの。クライミング・ロープで岩を吊り上げるのも無理。岩をいくら削っても無駄。食料や水はいよいよ限界。そんな中、アーロンの頭の中に次々とさまざまな幻想が浮かんできたのは仕方のないところだ。こりゃ、ヤバイ。幸い24時間が経過した日曜日には遺言のようなビデオ撮影をしたから、もし誰かが俺の死体を発見すれば、両親の元へ届けてくれるはず。しかし、今は生きることを考えなければ・・・。なぜ行き場所を誰かに伝えなかったのだろう?そんな反省も頭に浮かんでくるが、そのすべては俺の今までの人生が招いた結果。そんな中入り乱れた頭の中で、ついに下したアーロンの決断とは?
<これは実話!それでもなお主人公は・・・>
アーロンが下した決断は、きっと多くの人が予想できる想定内の行動のはず。しかし問題は、いかにしてそれを実行するか?またそれを実行できる気力があるか?ということだ。日本の侍は小さい時から切腹の作法を学んでいるからイザという時にはそれを実行できるが、アメリカ人にはとてもそれは無理?全米でわずか4館の限定公開だった本作が口コミで大人気となったうえ、ジェームズ・フランコが第83回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたのはダニー・ボイル監督のアイデアと演出のおかげだが、本作がクライマックスでみせる「あのシーン」はかなりキツイ。特に血を見ることが恐い私は正視できなかったが、何とこれは実話だったとは!
そのうえ驚くのは、本作のラストで語られる生還後のアーロンの人生。いくら週末のクライマーこそが俺の真の姿だといっても、死とスレスレの体験をすれば一応は懲りるはず。しかし、アーロンの場合は?それにしても、つくづく思うのは一人で行動する場合行き先は必ずメモに残しておかなければということ。かつて、アメリカンエクスプレスのコマーシャルでジャック・ニクラスが「出かける時は忘れずに・・・」とやっていたが、ひょっとして行き先のメモを残すことがアーロンが唯一学んだ教訓だとしたら?ホントにそれでよかったの?
2011(平成23)年4月7日記