シャンハイ(アメリカ映画・2010年) |
<GAGA試写室>
2011年6月7日鑑賞
2011年6月15日記
日米開戦直前、1941年10月の上海。上海万博70年前の「東洋の魔都」を舞台にうごめく諜報員たちの思惑とは?親友の死を調査する米国諜報員の目に見えてきたのは、空母「加賀」の寄港と800kg魚雷をめぐる巨大な秘密だが、その意味するものは?コン・リー扮する謎の中国人美女とチョウ・ユンファ扮するその夫、そして渡辺謙扮するタナカ大佐がストーリー形成の軸だが、恋愛模様も含めて時代感と緊迫感は満点。新たな日米中の関係を模索するためにも、本作からいろいろと学びたい。
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監督:ミカエル・ハフストローム
ポール・ソームズ(米国情報部諜報員)/ジョン・キューザック
アンナ・ランティン(アンソニーの妻)/コン・リー
アンソニー・ランティン(上海三合会のボス)/チョウ・ユンファ
リチャード・アスター(ソームズの上官)/デヴィッド・モース
タナカ(日本軍情報部の大佐)/渡辺謙
レニ(ドイツ領事館の技師夫人、ソームズの友人)/フランカ・ポテンテ
コナー(ソームズの同僚)/ジェフリー・ディーン・モーガン
スミコ(コナーの愛人)/菊地凛子
2010年・アメリカ映画・105分
配給/ギャガ
<舞台は上海!1941年!そこにうごめくのは?>
ここ10年で20回近くの中国旅行を経験し、上海には3、4度訪れたことがある私にとって、日米開戦前夜の1941年の上海を舞台とし、そこにうごめく日本、中国、アメリカ、ドイツの男女たちが織りなす権謀術策と愛の世界は必見!2010年5月から10月まで6カ月間開催された上海万博は7308万人を集める一大イベントとなった。黄浦江の東側に新たに開発された浦東(プートン)地区にそびえ立つ超高層ビル群は観光客を圧倒するが、他方でバンド(外灘)と呼ばれる黄浦江西側の浦西(プーセイ)地区一帯は今なお西欧列強が上海を租界地にしていた時の面影を残している。
本作の主人公はジョン・キューザックが演ずるアメリカ諜報員のポール・ソームズだが、①チョウ・ユンファ演ずる上海三合会のボスであるアンソニー・ランティン、②コン・リー演ずるその妻アンナ・ランティン、そして③渡辺謙演ずる日本軍情報部のタナカ大佐が同じくらいの比重でストーリー構成に関与しているから、実質的にはこの4人が主役!監督は『1408号室』(07年)で高い評価を得たという1960年にスウェーデンで生まれたミカエル・ハフストロームだが、私はこの作品を観ていないし、この監督の名前も知らなかった。しかし、本作をプロデュースしたのは1941年に上海の租界で生まれたマイク・メダヴォイで、本作の完成に執念を燃やしたらしい。1936年の上海を舞台にした『上海の伯爵夫人』(05年)はイマイチだった(『シネマルーム17』214頁参照)が、婁燁(ロウ・イエ)監督の『パープル・バタフライ(紫蝴蝶/PURPLE BUTTERFLY)』(03年)はすばらしかった(『シネマルーム17』220頁参照)。仲村トオルが章子怡(チャン・ツィイー)らと共演したこの映画は、1937年の日華事変開始直前、排日・抗日運動が盛りあがる1931年の上海を舞台とし、スパイが織りなす抗争の世界を圧倒的迫力で描いたたものだったが、本作冒頭が描く時代は日本が真珠湾攻撃を決行した1941年12月8日の約2カ月前の10月。今ソームズは日本軍に逮捕され、タナカから厳しい尋問を受けていたが・・・。
<物語は、さらに2カ月前から・・・>
あの時代の上海は、西欧列強はもちろん日本と中国との権謀術策がうずまく東洋の魔都。したがって、今厳しい尋問を受けている、今から2カ月前に上海にやってきた米国諜報員ポール・ソームズが、カジノで落ち合うはずだった親友であり同僚のコナー(ジェフリー・ディーン・モーガン)と落ち合うことができなかったうえ、その死体と対面せざるをえなかったのは仕方なし?いやいや、そうはいかない。上官のリチャード・アスター(デヴィッド・モース)から、コナーは上海三合会のボス、アンソニー・ランティン(チョウ・ユンファ)を捜査していたことを聞かされ、またあの日カジノで対決した美しい中国人女性アンナ・ランティン(コン・リー)がアンソニーの妻であることを知ったソームズは、当然のように親友殺害の舞台裏に深く突っ込んでいくことに。
友人であるドイツ領事館の技師夫人レニ(フランカ・ポテンテ)のツテで、アンソニーが主催するドイツ領事館のパーティーに潜り込んだソームズは、アンソニーからタナカ(渡辺謙)を紹介された。さらに、コナーの愛人だった日本人女性スミコ(菊地凛子)がコナー殺害のキーウーマンだということまで到達したが、さてその後は?ソームズがそんな情報をもらっているのは日本領事館に勤める米国の情報屋キタ(ペネディクト・ウォン)だが、コナーが暗殺されたということはキタにも危険が・・・。
あの時代、ヨーロッパでは既にナチス・ドイツがポーランド、フランス、オランダなどを占領していたが、アメリカは一貫して「我関せず」の姿勢をとり続けていた。しかし、日本の中国への侵攻姿勢が強まり、対米英開戦の気運さえ強まってくる中、上海におけるアメリカの情報機関はどこまでの活動を?
<アンナの正体は?アンナとソームズとの恋模様は?>
あの時代のスパイ映画に登場してくる主役クラスの人物はみんな一筋縄ではいかず、2つ3つの顔を持っているのは当たり前。カジノでソームズの前に現われた美女アンナはまさにそれで、ちょっと後をつけようとすると、たちまち用心棒がそれを阻止。ところが、ドイツ領事館のパーティーでは、アンナはアンソニーの妻として静かに寄り添っていたからそのギャップに唖然!コナーが隠し撮りをしていた多くの写真にはランティン夫妻とタナカの姿がたくさん写っていたが、これは一体なぜ?ソームズの調査によれば、政治家だったアンナの父親は南京事件を非難し日本軍に殺されていたから、アンナはアンソニーとの結婚によって安全を手に入れたうえで抗日レジスタンスと手を組んでさまざまな抗日活動を?もしそうなら、タナカがそれを許すはずはないが、クラブのショータイム中に日本軍将校を狙って起きた爆破事件もひょっとして黒幕はこのアンナ?
着任早々ソームズは上司であるアスターの忠告も聞かず、次々と各種陰謀の真相に迫っていったが、ここまで突っ込んでしまうと、タナカによる逮捕も仕方なし?アンナがアンソニーをホントに愛しているかどうかはよくわからないが、アンソニーがアンナを心から愛していることはラストにみせるアンソニーの行動によって明らかになる。そんな中、着任早々その存在感が次第に大きくなっていくソームズに対して、アンナはどんな感情を?革命の女闘士には恋心は縁遠いのかもしれないが、アメリカ人は自らの感情に忠実(?)だから、その目に見つめられるとアンナだって・・・?
<空母「加賀」が、上海に?>
日本海軍がハワイの真珠湾に結集するアメリカ艦隊と海軍基地に対して航空機による大規模な奇襲攻撃を仕掛ける構想をもとに、当時の連合艦隊司令長官・山本五十六が鹿児島の錦江湾を中心に猛訓練をしていたことは今でこそよく知られている。しかし、当時はもちろん重要な軍事上の秘密。戦艦「長門」を旗艦とする連合艦隊の大規模機動部隊が択捉島に終結していたことは1993年にNHKで放映された『エトロフ遙かなり』などで描かれていたが、これも当然重要な軍事上の秘密だ。日米開戦直後以降から日本海軍が世界に誇った戦艦が「大和」と「武蔵」だが、真珠湾攻撃に参加した航空母艦は「赤城」「加賀」「飛龍」「蒼龍」「瑞鶴」「翔鶴」のなど主力空母6艦だ。
今、中国は北海艦隊、東海艦隊、南海艦隊を充実させて外洋への進出を狙い、空母を建造中であることも公表したが、今から70年前の1941年当時は中国が空母を持つことなど夢のまた夢。大規模な航空機部隊による急降下爆撃や魚雷の投下が、艦隊に対してどの程度有効なのかは、真珠湾攻撃やハワイ、マレー沖でのイギリスが誇る戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」への航空機攻撃によってはじめて実証されたが、本作のスパイ合戦の中に登場する、800kg魚雷とは?
他方、空母「加賀」が上海の港に停泊していたという事実は本当にあったの?私の学生時代には、日米安保条約にもとづきアメリカの第7艦隊の原子力空母「エンタープライズ」が横須賀港に帰港することに対する反対闘争が展開され、1941年当時日本が上海に空母「加賀」を停泊させる必要性など全くなかったのでは?
<アメリカ人だけは例外?>
本作は上海を舞台として 諜報合戦を描く映画だから、ストーリーがややこしくなるのはやむをえない。ソームズが必死で調査を進めて行くにもかかわらず、アンナはもちろんアンソニーもタナカ大佐も多くを語らないため、ソームズが友人コナー暗殺の真相に迫っていくのは大変だ。本作では、タナカ大佐に扮する渡辺謙の他、スミコに扮する菊地凛子も名前が大きく紹介されている。しかし、実は菊地凛子の出番は非常に少ない上、役柄が役柄だけに(?)セリフも非常に少ないから、わずかの出番にしっかり注目したい。
ストーリー以外の本作の見どころは、あの当時の上海を再現した豪華なセット。それは映画全体を通じる本作の魅力だが、日本軍が遂に真珠湾攻撃を決行したとのニュースが流れ、上海が大混乱に陥るクライマックスの中でそれが顕著になる。その直前には、雨が降り注ぐ中、タナカ大佐VSソームズVSアンナVSアンソニーとの対決が描かれるが、その結末は?アンソニーからアンナの安全を託されたソームズは、アメリカ人であるという特権を利用して、「にわか妻」となったアンナと共にアメリカ行きの船に乗り込もうとするのだが、その前に立ちはだかるタナカはいかなる対応を。いよいよ日中全面戦争に続いて日米戦争が始まろうというのに、ソームズとアンナがアメリカに帰国するという結末には少し不満が残るが、全体としては見ごたえ十分だ。中国の海洋への進出という新時代を迎えて、新たな日米中の関係を模索しなければならない今、70年前のこんな物語からしっかり学ばなければ・・・。
2011(平成23)年6月15日記