リメンバー・ミー(アメリカ映画・2010年) |
<角川映画試写室>
2011年7月6日鑑賞
2011年7月7日記
このタイトルは日本人にもわかりやすいが、チューブのあの名曲が描く世界とは全く異質。父親との確執に悩むのがジェームズ・ディーン演じた青年だけではないことを、『トワイライト』シリーズで大ブレイクした若手イケメン俳優ロバート・パティンソン扮する青年が実証!互いに心に痛手をもつ若い男女は、いかにそれを乗り越え、恋愛を成就させるの?無名新人の脚本ながら、ストーリー展開は奥が深い。3.11東日本大震災を日本人が永久に忘れることができないのと同様、ニューヨーク市民にとって「あの事件」は永久に・・・。
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監督:アレン・コールター
タイラー・ホーキンス/ロバート・パティンソン
アリー・クレイグ/エミリー・デ・レイヴィン
チャールズ・ホーキンス(タイラーの父、弁護士)/ピアース・ブロスナン
ダイアン(タイラーの母)/レナ・オリン
キャロライン(タイラーの妹)/ルビー・ジェリンズ
エイダン(タイラーの親友)/テイト・エリントン
レス(タイラーの継父)/グレゴリー・ジュバラ
ジャニン(チャールズの秘書)/ケイト・バートン
クレイグ警部(アリーの父)/クリス・クーパー
アリーの母/マーサ・プリンプトン
2010年・アメリカ映画・113分
配給/ツイン
<このタイトルから、何を連想?>
「リメンバー・ミー」(Remember me)は英語の初心者でも容易に理解できるもので、「私を忘れないで」とか「私のことを覚えていて」という意味。就任9日目にして震災復興担当大臣を辞任した松本龍氏は7月5日の辞任会見で、小説家のカズオ・イシグロの著作『わたしを離さないで』を挙げ、「ネバー・レット・ミー・ゴー(邦題『わたしを離さないで』)。そういう意志で、私は被災された皆様から離れませんから。一兵卒として努力していきたい」と話したそうだから、かなりの文学的素養の持ち主?それを映画化した『わたしを離さないで』(10年)は、「提供」と「終了」をキーワードとし、臓器を含むあらゆる人間の身体のパーツを提供することを任務として作り出された3人のクローン人間を主人公とした何とも重厚な映画だった(『シネマルーム26』98頁参照)。また、そうだからこそ、『わたしを離さないで』というタイトルがいかにもピッタリだった。
他方、「リメンバー・パールハーバー」はアメリカ人には今なお骨身に染み渡った言葉だが、今の日本の若者には既に死語?それに対して『リメンバー・ミー』はチューブが88年に歌った名曲のタイトルとして使われていたから、ラブソングのタイトルには最適。本作のタイトル『リメンバー・ミー』の対象はもちろんニューヨークに住む主人公だが、同時にニューヨーク市民にとっては未来永劫、絶対に忘れることのできない「あの事件」も・・・。
<ヴァンパイヤ映画より、こっちの方が断然・・・>
本作の主人公タイラー・ホーキンスを演ずるのは、『トワイライト』シリーズで一躍世界的寵児となった25歳のイケメン俳優、ロバート・パティンソン。本作の企画は、ウィル・フィルターズという無名新人の脚本から始まったらしい。
タイラーの父親チャールズ(ピアース・ブロスナン)はニューヨークの高層ビル内に事務所を構える超リッチなやり手弁護士だが、今22歳を迎えようとしている息子のタイラーは父親への怒り、世の中への怒りを露わにしながら日々を過ごしていた。本屋でバイトをしながらNYUの聴講生をしているタイラーが安アパートで共同生活しているのは、同じNYUに通うお調子者の友人エイダン(テイト・エリントン)。エイダンとの悪ふざけが原因でタイラーもエイダンもクレイグ警部(クリス・クーパー)に逮捕されてしまったのだが、クレイグ警部の娘アリー・クレイグ(エミリー・デ・レイヴィン)にエイダンが目をつけ、タイラーにちょっかいを出させたのはちょっとした復讐心を満足させるため?そして、そんな中で展開するタイラーとアリーの再生の物語とは?無名新人のそんな脚本は、きっと自分の体験が元になっているのだろう。
そんな脚本に目をつけたのが『トワイライト』シリーズで大ブレイクする前のロバート・パティンソン。彼はこんな無名の脚本を映画化するために自ら主演する他、初の製作にも進出したというから偉い。純真無垢な精神を持っているにもかかわらず父親や社会に反発し、まっとうな道を進めない若者、といえば『理由なき反抗』(55年)、『エデンの東』(55年)、『ジャイアンツ』(56年)のジェームズ・ディーンを思い出すが、さて本作でロバート・パティンソンはどんな演技を?私の目には『トワイライト』シリーズよりこっちの方が断然いいが、いかんせん流行しか見ない今ドキの若者は?
<理解と寛容は、悩みと苦しみの共感と共有から!>
本作は決して難しい映画ではないが、いくつかの点で注意していなければストーリー展開が読めない恐れがある。その第1が映画冒頭の、ニューヨークのブルックリンの地下鉄ホームで起きる事件。幼い女の子とその母親を2人組の若者が襲い、バッグを奪った上、犯人を凝視する母親を射殺するという痛ましい事件が発生。警察が駆けつけ一連の処置が終わった後、少女の父親がホームに落ちていた亡き妻の結婚指輪を拾い、少女を抱いてホームの階段を降りていく。ほとんど何のセリフもないまま約10分間展開されるこのシークエンスは一体何を意味するの?
第2は、22歳になろうとするタイラーがウォール街にあるカフェで手帳に何かを書いているシーン。ガンジーいわく「全ての行動は無意味かもしれない。それでも行動すべきだ」などのナレーションに乗せてタイラーが書いているのは、8年前に自殺した兄マイケルに宛てた手紙だが、当初のシーンではそれがわかりにくいので要注意。また、このカフェは全編にわたって再三登場するとともに、チャールズの秘書ジャニン(ケイト・バートン)がいつもボスのためここにコーヒーを買いに来ているからそれにも注目!
その他本作にはいろいろ注意しなければならないことがあるが、そこから読みとれるのは、兄の自殺に悩み、今またキャロライン(ルビー・ジェリンズ)の話を聞こうともしない父親チャールズとの確執に悩むタイラーの現実であり、幼い頃に母親を失ったあの女の子アリーが心に大きな痛手を負いながら父親のクレイグ警部の下で生きてきたという現実だ。最初は復讐心から発したタイラーのアリーへの接触は、その後次第に深い愛に変わっていくのだが、そんな2人の理解と寛容は悩みと苦しみの共感と共有から!
<タイラーの行動は、私の目には多少駄々っ子気味?>
チャールズが経営する法律事務所の受付や立派な執務室(もちろん広い個室で、朝食を食べるためのテーブルまで完備?)、そして20人以上が座っている大会議室などを見ると、チャールズがいかに稼いでいるニューヨークのやり手弁護士かということがわかる。チャールズが前妻ダイアン(レナ・オリン)と離婚した理由は明確には語られないが、長男マイケルの自殺やダイアンが再婚した継父の下で生活している妹のキャロラインが絵の才能が開花したという話に何の興味も示さないチャールズの姿を見ていると、ほぼ推測がつく。つまり、仕事が忙しすぎて家族のことにかまっていられないことがその最大の原因?しかし、そんなことを言えば、弁護士生活を37年間も続けて、今62歳になっている私だって・・・。
はじめてタイラーから紹介されたガールフレンドのアリーと3人で食事をするチャールズの姿はいかにも洗練された大人のものだし、事務所に乗り込んできた息子に冷静に対応する姿も落ち着いたもの。また、警察沙汰になったタイラーを弁護士として合法的に釈放させてやり、料金を請求しないところにも大人の風情(?)が・・・。この映画を観ていると、タイラーの父親への反発はわかるが、エイダンとつるんでのドンチャン騒ぎやケンカ、そしてキャロラインが通う名門小学校でみせる荒ワザ(?)などのタイラーの行動は、若干駄々っ子気味?
他方、娘と2人暮らしの父親クレイグがアリーのことをあれこれ心配するのは当然だが、恋人ができたアリーにとっては父親の干渉がうっとうしい(うざい?)のは当然。その結果アリーはクレイグの家を飛び出し、タイラーとエイダンが住む安アパートに転がり込み2人は結ばれるのだが、それだけですんなり恋が成就するはずはない。さあ、若干駄々っ子気味の行動が目立つタイラーだが、互いの悩みと苦しみを共感、共有する中、アリーとの真の恋愛を成就させることができるの?また、あれほど対立していた父親との和解に至ることができるの?それはアリーも同じで、一人娘を心配するあまり過激な行動に至ったクレイグとアリーとの和解は?
<あっ、このシーンは?この仕掛けに星5つ!>
映画冒頭の殺人事件が起きたのがいつのことかは明らかにされないが、本格的ストーリーが展開していくのはそれから10年後のこと。あの時11歳だった少女アリーも今は21歳になっていたし、タイラーには22歳の誕生日を祝う会をキャロラインが開いてくれるシーンが登場する。抽象的にいえば、共に家庭内の悩みを抱える若い2人が、それを克服して2人の純愛(?)を成就させることができるかどうかが本作のテーマ。そしてそれは、共に確執を抱える父親との間で和解が成立し、タイラーとアリーが心の深部を打ち明けることができればきっとかなうはず。しかし、今年3月11日に発生した東日本大震災に見るように、人間の営みの積み重ねや若い男女相互の努力だけではどうにもならない現実もある。
本作には、立腹したタイラーがチャールズの事務所を訪れ、その度にチャールズの秘書ジャニンに諭されるシーンが数回登場する。そこでは、チャールズの事務所がどんな超高層ビル内にあるのかについて観客は誰も興味を示さないが、ラストに向けて、ある事件をきっかけとしてはじめて穏やかな気持でタイラーがチャールズの執務室に入るシーンが登場する。チャールズの留守中の執務室に1人で入ったわけだから、ホントはチャールズのパソコンを操作したりしてはダメなのだが、チャールズを待つ間にタイラーが操作したパソコンの画面上で見たものとは?そこに入ってきた秘書ジャニンとの間で交わされる会話をみれば、これによってタイラーとチャールズの和解が成立したことが確認できるが、そこからカメラはどんどんズームアウト(映画検定3級の知識で説明すれば、これはレンズが被写体から遠ざかること)していき、チャールズの事務所が入っている超高層ビルの全貌をとらえていく。さて、ニューヨークのこの日はいつ?そして、この日にはどんな事件が?あっ、このシーンは?と一瞬思ったが、その後スクリーンは一瞬真っ暗に!この仕掛けのすばらしさに星5つ!
2011(平成23)年7月8日記