レイン・オブ・アサシン(剣雨)(中国、香港、台湾映画・2010年) |
<テアトル梅田>
2011年9月1日鑑賞
2011年9月2日記
呉宇森(ジョン・ウー)監督が楊紫瓊(ミシェル・ヨー)と韓国の鄭雨盛(チョン・ウソン)を共演させた国際色豊かな武侠映画は、設定が異色!同時に、恋愛ドラマやホームドラマ的な色彩も強いが、武侠の冴えはさすが。そのうえ「くノ一」忍者ばり(?)のお色気サービスも・・・。難しいことは考えず単純に楽しめばいいいのだが、やはり動体視力の衰えた目にはこの種のアクションは少ししんどい・・・。
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監督:蘇照彬(スー・チャオピン)、呉宇森(ジョン・ウー)
製作:呉宇森、張家振(テレンス・チャン)
脚本:蘇照彬
曽静(ザン・ジン)/楊紫瓊(ミシェル・ヨー)
阿生(アシャン)/鄭雨盛(チョン・ウソン)
転輪王(ホイールキング)(暗殺集団〈黒石〉の首領)/王学圻(ワン・シュエチー)
綻青(ジャンチン)(〈黒石〉の女剣士)/徐熙媛(バービー・スー)
雷彬(レイ・ビン)(〈黒石〉の“飛空針”の使い手)/余文楽(ショーン・ユー)
細雨(シーユー)(〈黒石〉の女刺客)/林熙蕾(ケリー・リン)
彩戯師(マジシャン)(〈黒石〉の“炎剣”の使い手)/戴立忍(レオン・ダイ)
張人鳳(ジャン・レンフォン)(宰相の息子)/郭暁冬(グオ・シャオドン)
陸竹(ルージュー)(僧侶、細雨の師)/李宗翰(リー・ゾンファン)
チャン・キントン(雷彬の嫁)/江一燕(ジャン・イーイェン)
ツァイ夫人(曽静の家の大家)/鮑起静(パオ・ヘイチン)
ティール・ソード(コンドン派の女剣士)/呉佩慈(ペース・ウー)
イーター・ベアー(細雨を追う刺客)/呉飛霞(アンジェルス・ウー)
張海端(ジャン・ハイドゥアン)(宰相)/
2010年・中国、香港、台湾映画・120分
配給/ブロードメディア・スタジオ、カルチュア・パブリッシャーズ
<呉宇森監督の新たな武侠映画は?>
『レッドクリフPartⅠ』(08年)(『シネマルーム21』34頁参照)、『レッドクリフPartⅡ』(09年)(『シネマルーム22』178頁参照)を世界的に大ヒットさせた呉宇森(ジョン・ウー)が監督し、マレーシア出身の楊紫瓊(ミシェル・ヨー)と韓国のイケメン俳優・鄭雨盛(チョン・ウソン)との異色の共演を実現させた武侠映画は、オリジナル性豊かかつ楽しさいっぱい!映画冒頭に語られる、「2つに分断された達磨大師の遺体を2つとも手にした者が武術界の覇者になる」というテーマには多少違和感があるが、明の時代をバックとし、中国、韓国、香港、台湾の俳優陣を総動員した国際色豊かな武侠映画ともなれば、それもOK?
本作の主人公はあくまで既に50歳になろうとするアジア最強の女優・楊紫瓊だが、「黒石」という暗殺組織の一員で、高速剣法“辟水剣”の使い手だったという過去を消し去るため、顔の整形手術を受けるという発想はかなり奇抜。そのため、イントロ部分のみに登場し、宰相の張海端(ジャン・ハイドゥアン)とその息子の張人鳳(ジャン・レンフォン)(郭暁冬/グオ・シャオドン)を殺害する殺し屋・細雨(シーユー)を演ずるためだけに林熙蕾(ケリー・リン)を起用するとは、さすがジョン・ウー監督。整形手術をして名を曽静(ザン・ジン)と改めた細雨は、ツァイ夫人(鮑起静/パオ・ヘイチン)の家に下宿(?)して世捨て人のような生活を営んでいたが、手紙・小包の代理運送を営む優しい男・阿生(アシャン)(鄭雨盛/チョン・ウソン)と知り合うと、ツァイ夫人の仲介もあって2人はトントン拍子で夫婦に。ここまでの展開はまるでホームドラマのようだが、さてこの後の武侠の展開は?
<ベテランが演技力なら、美女はサービス精神で!>
曽静が整形美女(?)なら、鄭雨盛(チョン・ウソン)扮する阿生も実は?そんな阿生も本作前半ではかなりにやけた若者風(?)だから、あまり存在感がない。それに代わって重々しい存在感を示すのが、「黒石」のボス転輪王(ホイールキング)だ。この転輪王もラスト近くに至って、その実の姿が思わぬものであることが明らかにされるが、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『黄色い大地』(84年)から、近時は『孫文の義士団』(09年)までずっと第一線で活躍している俳優・王学圻(ワン・シュエチー)がさすがの演技力を見せている。
他方、ベテランが演技力なら、「私は色気で!」と武侠映画にあるまじき(?)大胆なヌード姿を披露するのが、元細雨であることがバレた曽静の退治に向かう女剣士・綻青(ジャンチン)に扮する徐熙媛(バービー・スー)だ。綻青は1度失われた命を転輪王によって救われたため、その弟子兼愛人(?)になった美女だが、性格はかなり悪そう・・・。本作では、演技力の王学圻に対して、邦画ならさしずめ山田風太郎の「くの一」忍者が似合いそうな徐熙媛のサービス精神に注目!
<こんな剣法、あんな剣法のアクションは?>
『グリーン・ディスティニー』(00年)が大ヒットした時はワイヤーロープを多用した中国武侠映画は新鮮だったし、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『HERO(英雄)』(02年)のアクションの面白さや、色彩の美しさも新鮮だった(『シネマルーム5』134頁参照)。しかし、こんな剣法、あんな剣法がどんどん進化し、本作のような目まぐるしいスピードになってくると・・・。『007』シリーズでも、近時の『007/慰めの報酬』(08年)ではその動きの速さに動体視力がついていかなくなったと書いた(『シネマルーム22』88頁参照)が、それは本作でも同じだ。もっとも、本作のジョン・ウー監督が親切なのは、前半と後半に曽静が体得した辟水剣の技術を巧みに解説してくれること。
曽静が細雨と名乗っていた時の恋人兼師匠が徳の高い僧侶・陸竹(ルージュー)(李宗翰/リー・ゾンファン)だが、曽静の辟水剣に4つの弱点があることを指摘した陸竹は自らの命を投げ打ってその弱点の克服に協力したから偉い。殺し屋の彩戯師(マジシャン)(戴立忍/レオン・ダイ)や飛空針の使い手・雷彬(レイ・ビン)(余文楽/ショーン・ユー)そして女剣士の綻青らを支配する「黒石」のボス転輪王は、武術界の覇者となるために達磨大師の2つの遺体を追い求めているのだから、強いのは当然。曽静に辟水剣を教えたのも転輪王だが、ずるいことに転輪王はそのすべてを教えず、4つの技術だけは隠していたらしい。そうすると、転輪王と曽静が対決するについて、曽静は決定的に不利?たしかにそれはそうだが、そこで役に立ったのが、映画前半に陸竹から教えてもらった弱点補強策だ。ジョン・ウー監督はワイヤーを多用して辟水剣の4つの弱点とその克服法を映像として示してくれるから、それをしっかり確認しながら曽静の剣のさえに注目したい。
<「仮死」の成否が物語構成の要?>
『ロミオとジュリエット』では、修道僧のロレンスが大公の親戚との結婚を強いられたジュリエットに仮死の薬を飲ませることによってそれを阻止しようとするのが物語構成の命。ところが、その計略を知らなかったロミオはジュリエットが死んでしまったと考えて、自分もその後を追うことに・・・。それと同じように(?)本作でも、これを飲んだら24時間心臓が止まり体温もなくなってしまうという「仮死の薬」が物語構成の要に?
その実験第1号は、女剣士の綻青。薬によって命を救われた綻青は以降転輪王のために尽くすことになったが、本作後半では曽静によって仮死薬を飲まされた阿生が24時間活動を停止することによって、曽静と転輪王との対決を演出(?)することになる。
もっとも、阿生はいったん仮死状態になってしまうのだから、阿生が生き返った時に曽静と転輪王の勝負がどうなっているかによってロミオとジュリエットのような悲劇が起こらないとも限らないが、そこはジョン・ウー監督がうまく処理している。こんな武侠映画でハッピーエンドがいいのかどうかは微妙なところ。さて、ホームドラマの結末のような本作のハッピーエンドを、あなたはどう見る?
2011(平成23)年9月2日記