サラの鍵(フランス映画・2010年) |
<GAGA試写室>
2011年11月15日鑑賞
2011年11月17日記
「フランスの恥部」ともいうべき、ヴェル・ディブ事件とは?『黄色い星の子供たち』(10年)でそれを学んだ私は、強制収容所に入れられたサラの取材に自分の人生を重ねていく女性ジャーナリストの生きザマに深く感銘!もし「あの戦争」を、そして強制収容所からユダヤ人が生き延びていれば・・・。取材を通じて明らかにされるサラの人生について、島国ニッポンの私たちも関心を持たなければ・・・。
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監督・脚本:ジル・パケ=ブレネール
原作:タチアナ・ド・ロネ
ジュリア・ジャーモンド(アメリカ人女性記者)/クリスティン・スコット・トーマス
サラ・スタルジンスキ(ユダヤ人の少女)/メリュジーヌ・マヤンス
ジュール・デュフォール(サラをかくまった老夫婦の夫)/ニエル・アレストリュプ
ベルトラン・テザック(フランス人のジュリアの夫)/フレデリック・ピエロ
ウィリアム・レインズファード(成長したサラの息子)/エイダン・クイン
エドゥアール・テザック/ミシェル・デュショーソワ
ジェヌヴィエーヴ・デュフォール/ドミニク・フロ
マメ(ベルトランの祖母)/ジゼル・カサドシュ
ミセス・スタルジンスキ(サラの母)/ナターシャ・マシュケヴィッチ
ミスター・スタルジンスキ(サラの父)/アルベン・バジュラクタラジ
レイチェル/サラ・バー
ゾイ・テザック(ジュリアの1人娘)/カリーナ・ヒン
リチャード・レインズファード(サラが結婚したアメリカ人)/ジョージ・バート
成長したサラ/シャーロット・ポートレル
2010年・フランス映画・111分
配給/ギャガ
<物語は「ヴェル・ディブ事件」から>
あなたは、1942年7月16日、17日にフランスで起きたヴェル・ディブ事件を知ってる?今、夫のベルトラン・テザック(フレデリック・ピエロ)と1人娘のゾイ・テザック(カリーナ・ヒン)と共にフランスのパリで幸せに暮らしているアメリカ人女性記者ジュリア・ジャーモンド(クリスティン・スコット・トーマス)はこの事件のことをよく知っていたが、一緒に働くアメリカ人の若い記者ですら何も知らなかったから、あなたがこれを知らないのはやむをえない?私も6月10日に『黄色い星の子供たち』(10年)を観たことによってはじめてヴェル・ディブ事件を知ったが、「内向き志向」が強まる昨今の日本では、TPP問題とは別に意識的にこういう勉強を強めていく必要があるのでは。
『黄色い星の子供たち』はフランス人美人女優メラニー・ロラン扮する看護士の目を通じて巨大な屋内競輪場(ヴェルディブ)に集められたユダヤ人たちの姿を描いた(『シネマルーム27』118頁参照)が、逮捕されて集められた1万3000人ものユダヤ人たちが水もトイレもないこの建物の中で2日間も過ごすのは大変。父ミスター・スタルジンスキ(アルベン・バジュラクタラジ)、母ミセス・スタルジンスキ(ナターシャ・マシュケヴィッチ)と共に観客席の一部に陣取った10歳の少女サラ・スタルジンスキ(メリュジーヌ・マヤンス)は、トイレに行くこともできないまま・・・。
<ジュリアのジャーナリスト魂の源泉はどこに?>
『黄色い星の子供たち』は歴史上の事実としてヴェル・ディブ事件を取り出し、強制収容所から脱走することによってあの時代を生き抜いた1人のユダヤ人少年と、それを支えた多くの善意のフランス人たちの姿を描いた。それに対してタチアナ・ド・ロネの原作を映画化した本作は、2009年の今、雑誌の特集記事のためにヴェル・ディブ事件とサラ・スタルジンスキへの取材を開始したジュリアの目を通して、ヴェル・ディブ事件を契機としたフランス在住の多くのユダヤ人たちの悲惨さとサラの数奇な運命を描いていく。
ジュリアは今ヴェル・ディブ事件の担当となったが、それと軌を一にするかのように、夫の祖母マメ(ジゼル・カサドシュ)からパリのマレー地区にあるアパートを譲り受けたため、夫と共にその改装を楽しみにしていた。ところが調べていくと、マメがこのアパートを入手したのは1942年8月。つまり、ヴェル・ディブ事件の直後らしい。ここはユダヤ人がたくさん住んでいた地区だし、マメたちはなぜ戦争中に引越しを?
本作の原題は『Sarah’s Key』。そして、邦題も『サラの鍵』。なぜそんなタイトルが付けられているのかは、映画が始まればすぐにわかる。1942年7月16日の早朝いきなり部屋をノックして闖入してきたフランス警察(ナチスではなく、フランス警察!)から2日分の荷物を持って集まるよう命令されたサラは危険を感じ、とっさに弟を納戸の中に隠してキーをかけた。恐がる弟には、いつものように「かくれんぼ」だからすぐに迎えに来ると約束して。ところが、両親と共にヴェルディブに収容されてしまったサラは今や不安でいっぱい。早く家に帰り、弟を納戸の中から出してやらなければ・・・。今ジュリアが改装しているアパートが、もしサラの弟がカギをかけられたままでかくまわれた納戸のある部屋だとしたら・・・。ニッポン国ではジャーナリストの取材魂の劣化も著しいが、そんな疑惑を持ってしまったジュリアのその後のジャーナリスト魂の展開は?
<奇跡の源はやっぱり「性善説」・・・>
1万3000人のユダヤ人たちがヴェルディブから各地の強制収容所に送られるについては、まず男と女子供に分けられ、次に幼い子供たちが母親から分けられていく姿は『黄色い星の子供たち』で観た風景と同じ。また、『黄色い星の子供たち』では主人公の男の子たち3人が収容所から逃走したが、本作でもサラは自分が病気の時に介抱してくれた女の子と2人で一緒に脱走するからその風景も同じ。そして、ユダヤ人の子供たちの脱走に、善意のフランス人たちの手助けがあったことも共通している。それが本作では、鉄条網の隙間から逃げようとするサラたちをいったんはとがめた看守と、サラたちが救いを求めた村の中に住むある老夫婦の姿の中に描かれる。
看守は2人の脱走を一瞬見逃すだけだからまだ簡単だが、老夫婦の夫ジュール・デュフォール(ニエル・アレストリュプ)は死にかけのユダヤ少女のためにドイツ人医師を呼んでやったり、どうしてもパリに帰り弟を救い出さなければと訴えるサラの熱意に負け、偽装工作までしてパリに赴くのだからこちらは命がけ。結果的にはサラの迎えを納戸の中で待っていた弟の姿は悲惨なものだったが、これらのフランス人たちの行動はまさに性善説の表れ。サラが奇跡的にあの時代を生き延びることができたのは、やっぱり「性善説」。
<取材に没頭する中、夫婦仲は?>
『黄色い星の子供たち』は史実にもとづくストーリーとして次々と衝撃的な現実がスクリーン上に展開されたが、本作の「つくり方」はそれとは大きく異なり、ヴェル・ディブ事件とサラのその後の生きザマを仕事として追っていく中で、1人の女性としてのジュリアの生き方に焦点があてられる。ジュリアは、建築家で今は北京に進出しようとしている夫ベルトランと1人娘のゾイと共に仲良く暮らしていたが、この取材に没頭していく中で夫との対立が次々と。その第1は「サラの鍵」事件を知った以上、とてもマレー地区のアパートを改装してそこに住むことはできないとジュリアが言い始めたこと。
そして第2は、45歳にして待望の第二子を妊娠したことをジュリアが大喜びしたにもかかわらず、ベルトランは「この年ではとても父親になどなれない」と父親になることを断固として拒否したことだ。夫の意外な対応にとまどったジュリアは、出産か中絶かについて明確な結論を出せないまま取材に突き進んだ。そして、ある日ホロコースト記念館を取材したところ、逮捕されたユダヤ人の膨大な情報がパソコンに入力してあると聞き、館長に対して自分のアパートの住所を告げると・・・。
もうこうなりゃ、とことん事実を突きとめるしかない。今やマメのアパートにサラたちユダヤ人一家が住んでいたこと、そして両親はアウシュヴィッツで死亡したことは明らかになったが、サラとその弟は?ジュリアの妊娠をめぐって少しギクシャクし始めた夫婦仲は、これ以上ジュリアがサラたちの取材に没頭したら、一体どうなるの?
<大人のサラを演ずるすごい美人女優に注目!>
本作は後半からラストにかけて急に登場人物が増え、ストーリー展開が複雑になってくるから要注意。『黄色い星の子供たち』は、あの戦争を生き抜いて無事終戦を迎えた主人公の登場でクライマックスを迎えたが、もしサラもあの戦争を生き抜いていたら?ジュリアならずともそう考えるのは当然だが、終盤に向けてそんな中突然大人になった、しかもすごい美女に成長したサラ(シャーロット・ポートレル)がスクリーン上に登場してくるからそれに注目!サラが村の老夫婦にかくまわれ、そのまま無事終戦を迎えたとすれば、その後のサラの人生は?もし誰かと結婚して子供を産んでいるとしたら、サラやその子供たちは今どこに?サラは生きている!あの過酷な状況の中を老夫婦たちの善意のおかげで生きている!そう確信したジュリアは夫の反対を押し切って子供を産む決意を固めるとともに、サラを探す旅は更なる佳境に。
<あれから2年、舞台はアメリカに。そして、君の名は?>
本作はクライマックスにかけて更に登場人物が増えるとともに、舞台がアメリカに移るからストーリーはさらに複雑になってくる。あれから2年後。ジュリアは今かわいい女の子を連れて1人アメリカに住んでいたが、まだサラ探しの旅は終わっていないようだ。しかして、今取材(?)しているのは、ジュリアがサラの息子だと確信している男性ウィリアム・レインズファード(エイダン・クイン)。しかし、ウィリアムにとって「あなたはサラ・スタルジンスキを知りませんか?」とか「あなたの母親はユダヤ人ではありませんか?」と聞かれることは不愉快極まりないもの。したがって、この「取材」が不成功に終わったのは当然だ。しかし、ウィリアムが今臨終の床に伏している父親リチャード・レインズファード(ジョージ・バート)を見舞いに行き、その話をすると意外にも・・・。自分の生き方と重ね合わせるかのように続いたサラを訪ねるジュリアの旅は、遂にここまで。
本作のラストは、2歳になる娘と共にジュリアが再びウィリアムと会うシーン。ジュリアの登場によって思いもかけなかった過去を暴露され、さらに臨終の床にあった父親から意外な最後の言葉を聞かされたうえ、母親サラが残した貴重な日記を読むことになったウィリアムが心を大きく乱したことは当然だが、今その心は安定しているようだ。ウィリアムが女の子に対して「お名前は?」と聞くと、女の子の答えは・・・。そんな会話をきっかけにジュリアとウィリアムの会話は弾んだが、実は女の子が答えたのは、抱いていたぬいぐるみの犬の名前。そこであらためてジュリアに対して女の子の名前を聞くと、その名前は私が直感したとおり・・・?この感動的なラストを前に、私の目にはドッと涙が・・・。
2011(平成23)年11月17日記