2012年 08月 15日
凍える牙(韓国映画・2012年) |
洋12-92 ★★★★
<角川映画試写室>
2012年8月8日鑑賞
2012年8月14日記
自分で直接手を下さず犬を道具として使って殺した場合、それは「間接正犯」だが、果たしてそんなことが可能?乃南アサの原作がなぜ韓国で映画化されたのかは興味深いが、今ソウルの大都会を狼犬が疾走するのは一体なぜ?そして、それをバイクで追跡する新米女刑事の執念は・・・?美人すぎる女刑事が1人で主役になれず、ソン・ガンホの助けを借りたのは残念だが、いろいろと考えさせるネタが・・・。
本文はネタバレを含みます!!
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監督・脚本:ユ・ハ
原作:乃南アサ『凍える牙』(新潮文庫刊)
チョ・サンギル(中年刑事)/ソン・ガンホ
チャ・ウニョン(新米女性刑事)/イ・ナヨン
ソ班長(刑事)/シン・ジョングン
ク・ヨンチョル(警部に昇進したサンギルの後輩)/イ・ソンミン
オ・ギョンイル(第1の被害者)/カン・プン
ナム・サンフン(第2の被害者)/チョン・ミンソン
ミンジョン(第3の被害者、テシクの元恋人)/イ・ミナ
ミン・テシク(第4の被害者、建設会社の代表)/ト・ギソク
カン・ミョンホ(警察犬の元トレーナー、元刑事)/チョ・ヨンジン
カン・ジョンア(ミョンホの一人娘)/ナム・ボラ
2012年・韓国映画・114分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<日本の直木賞受賞小説が、なぜ韓国で映画化に?>
私は全然知らなかったが、本作の原作になったのは、1996年に乃南アサが直木賞を受賞した『凍える牙』。しかして、日本の直木賞受賞小説が、なぜ日本ではなく韓国で映画化に?本作のプレスシートの中には、その乃南アサが書いた「韓国生まれの『孫』」という「CONTRIBUTION」がある。それを読むと、日本では「映画という孫」の誕生にさまざまな苦労があり、結局誕生に至らなかったことがわかる。
他方、日本では2006年に始まった篠原涼子がバツイチで子持ちの美人刑事・雪平夏見を演ずるテレビドラマ『アンフェア』が大人気となり、以降スペシャル版や劇場版まで製作されたが、それは一体なぜ?そして、乃南アサの原作は2001年には天海祐希主演で、2010年には木村佳乃主演で2度もテレビドラマ化されているそうだが、なぜ映画化にまで至らなかったの?そこらあたりを対比して考えていけば、日本のテレビドラマや映画製作の裏側の事情に迫ることができて面白いのかも・・・?
<主役はどちら?ひょっとして・・・?>
本作でヒロインを演ずる新米刑事チャ・ウニョン(イ・ナヨン)はたしかに美人だが、何といっても元白バイ警官あがりの新米だから、いかにも頼りなさそう。したがって、ソウルで発生した奇妙な焼死体事件の捜査をソ班長(シン・ジョングン)から命じられた中年のベテラン刑事チョ・サンギル(ソン・ガンホ)は、きっと自殺だろうと推定されるそんな事件を担当させられること自体が不満なうえ、ウニョンのような手間のかかる新米刑事とチームを組めと言われたためにおかんむり。ところが、科学捜査班の検証の結果、①死体の太股には獣に噛まれた傷痕があり、②尿からは覚醒剤が検出され、さらに③腰のベルトのバックル内からはタイマーと点火装置が見つかり、引火性の強い化学物質が仕込まれていたことがわかると、俄然サンギルはこの事件に興味を示し始めることに。しかし、それはあくまで自分の出世欲のためだから、その動機はイマイチ不純だ。
本作は、後輩のク・ヨンチョル刑事(イ・ソンミン)に出世競争で先を越されたひがみ根性でいっぱいのそんなサンギル刑事と、彼のお荷物のようについて回る新米女性刑事ウニョンの凸凹コンビが主人公だが、さてどちらが主役?古くは『インソムニア』(02年)(『シネマルーム2』197頁参照)でヒラリー・スワンク扮する女性刑事が、新しくは去る7月7日に観た『プレイ 獲物』(10年)に登場する女性刑事が、それぞれハードな追跡劇に貢献していたが、本来ハードな刑事役が若い美人女優に荷が重いのは当然。すると男尊女卑の思想が強い韓国では、原作どおりに若い女刑事ウニョンに主役をやらせるのはムリだと考えて、サンギルのようなベテラン刑事を主役に?いやいや、ひょっとして本作のホントの主役は、後半からクライマックスにかけて大きな存在感を示す、チルプン(疾風)という名の狼犬かも・・・?
<間接正犯の典型だが、こんなことホントにできるの?>
刑法総論では「共犯」の章で、正犯と従犯を学ぶが、正犯には間接正犯もある。「間接正犯」とは、他人の行為を利用して自己の犯罪を実現する正犯のことで、本作に見るように、自分が直接手を下さず、訓練した狼犬を道具として使って、人を殺すのはその典型だ。
今は建設会社の社長に収まっているミン・テシク(ト・ギソク)は、元ヤクザらしくその人相はいかにも悪い。この男は昔は売春や麻薬組織に関わっていたようで、映画冒頭に焼死体となった男はその仲間だったらしい。サンギルとウニョンのソ班長への報告を無視した何ともうさん臭い捜査(?)によって、このテシクが闘犬賭博に関わっていたことが判明。さらに、狼犬によって喉元を噛み切られた第2の被害者ナム・サンフン(チョン・ミンソン)、テシクの元恋人で第3の被害者となったミンジョン(イ・ミナ)らもその仲間だったことが判明したから、捜査の焦点が警察犬のトレーナーだったという元刑事のカン・ミョンホ(チョ・ヨンジン)に移っていったのは当然だ。警察犬を扱った映画は『きな子~見習い警察犬の物語~』(10年)など数多いし、南極観測隊に同行したタロとジロを主人公とした心温まる映画もあるが、人間が犬を道具として使って人を殺すことなどホントにできるの?
乃南アサの小説がヒットしたのは、大都会を疾走する狼犬が突如人の前に現れ、その喉元を食い破るという猟奇殺人のもの珍しさが大きく寄与しているはずだが、ホントにそんなことが可能なの?
<ウニョンの捜査に見る、個人プレーの是非は?>
ロンドンオリンピックは8月12日閉幕したが、日本勢は卓球や水泳におけるチームプレーが光っていた。一人一人ではメダルに届かなくても、3人が、4人が力を合わせれば、というわけだ。これに対して韓国では、サッカー男子の3位決定戦後、日本に勝利した韓国の朴鍾佑(パク・チョンウ)選手が竹島(韓国名:独島)の領有を訴えるメッセージボードを掲げるという問題を起こしたが、これを見ると韓国はチームプレーより個人プレーの国?本作を観ていると、韓国では警察の捜査でもチームプレーが悪く、サンギルとウニョンの個人プレーが突出していることがよくわかる。
テシクの元恋人で第3の犠牲者になったミンジョンが出入りしていた売春組織のアジトへの「手入れ」を強行した際、名誉の負傷(?)を負ってしまったウニョンはソ班長から「お荷物」扱いされ、今は1人だけで警察犬の捜査を命じられていた。しかし、地道な捜査を続ければ、時として大きな成果が得られることもある。ソ班長の捜査では、ミョンホは警察を辞めているばかりか、既に死亡しているらしい。しかし、ウニョンが女性らしく地味で丹念な警察犬捜査を続けた結果、ミョンホは今も生きていることを突き止めたから立派なものだ。しかして、ウニョンはその情報をソ班長には報告せず、単独でミョンホが一人娘のカン・ジョンア(ナム・ボラ)と暮らしている古い民家に潜入!たしかに映画としてはその方が面白いし、ウニョン刑事の活躍ぶりも目立つが、何者かに襲撃されて意識を失ったうえ、家に火をかけられたから大変!さて、そんな捜査に見る韓国警察における個人プレーの是非は?
<そう一気にネタばらしをしてしまっては・・・>
松本清張原作の小説を映画化した『砂の器』(74年)はハンセン病について大きく社会問題提起をした映画であると同時に、刑事モノとしても最高傑作だった。本作中盤は、新米女性刑事ウニョンの活躍と、次第にウニョンの熱意を認めそれを支援していくサンギルの応援ぶりがポイントだが、焼け跡から見つかったミョンホの日記によって1つの例外を除くすべての事情が判明してしまうストーリー構成はいただけない。
その日記を読めば、ミョンホの一人娘ジョンアがどんな酷い目にあったのか?なぜミョンホが幼い狼犬をチルプン(疾風)と名付けて長年の訓練を施し、チルプンを使っての復讐を誓ったのかがわかるとともに、今それを着々と実行しているのだということがすべてわかってしまう。しかし、これでは興ざめだ。「わからない1つの例外」とは、地下の訓練場で発見されたマネキンが5体あったこと。4体については、既に死んでしまった3人に加えて現在消息不明のテシクがそのターゲットであることはまちがいないが、もう一人は誰?ラストに向けてはそれが唯一の興味になってしまうが、実はそのヒントも既に提示されているので、私の目にはそれはバレバレ。そう一気にネタばらしをしてしまっては・・・?こりゃ映画として、あまりに安易すぎるのでは・・・?
<最大の見どころは、チルプンとバイクの疾走シーンだが>
イ・ナヨンは『私たちの幸せな時間』(06年)ですばらしい熱演を見せていた(『シネマルーム13』99頁参照)し、『悲夢』(08年)ではキム・ギドク監督の難しい演出に果敢に挑戦していた(『シネマルーム22』232頁参照)。そんなイ・ナヨンが本作では新米刑事役に挑戦したが、私の目にはやはり刑事役には線が細すぎるし、美しい豊かな髪をたらしたままの刑事姿はキレイすぎるから、これでは刑事の仕事はとても無理?と思ってしまうところが本作の難点だ。
したがって、クライマックスに向けて本作最大の見どころとして展開される、疾走するチルプンをバイクに乗ったウニョンが追跡するというシーンもあまり現実味がなく、迫力があまり感じられない。もちろんイ・ナヨンはこの撮影に向けてバイクの練習を積んだはずだから、まっすぐ続く道路上での疾走シーンはもちろん、山中に入ってからの追跡でもそれなりの腕前は披露してくれるが、転んでしまった後は・・・?本作鑑賞の前日たる、8月7日の試写会で『ボーン』シリーズ最新作の『ボーン・レガシー』(12年)のメチャ迫力あるカーチェイスとバイクチェイスを観たこともあって、本作最大の追跡シーンの迫力は私にはイマイチ・・・。
<究極の選択は?その実行は?>
警察犬が犯人に向かって迫っていけるのは、トレーナーから犯人についての情報(=匂い)を与えられているから。チルプンとウニョンの疾走シーンを見るについては、それを前提にする必要がある。すると今、チルプンが走り続けているのは一体どこを目指しているの?また、そこには一体誰がいるの?本作中盤からは何かとウニョンの面倒見がよくなったサンギルがタイミングよくウニョンをフォローすることによって、「第五の男」がチルプンの犠牲になるのを避けようとする2人の思いが実現しそうになっていく。もちろん、そのためにはチルプンが飛び掛かる前にサンギルとウニョンが第五の男を逮捕し身柄を確保することが不可欠だが、サンギルとウニョンの力でそれは実現できるの?
8月10日に韓国の李明博大統領が竹島(韓国名:独島)に上陸したことによって、竹島問題は新たな火種を抱えこんだが、さて日本はどんな選択を?まだまだ究極の選択を下す時期ではないが、いずれ近い将来何らかの究極の選択をせざるをえなくなるのでは?しかしてスクリーン上では、今「第五の男」の首に食いついたチルプンの姿が!さあ、ここでサンギルとウニョンはいかなる究極の選択を?そして、その究極の選択を実行するのは、ウニョンそれともサンギル・・・?
2012(平成24)年8月14日記
<角川映画試写室>
2012年8月8日鑑賞
2012年8月14日記
自分で直接手を下さず犬を道具として使って殺した場合、それは「間接正犯」だが、果たしてそんなことが可能?乃南アサの原作がなぜ韓国で映画化されたのかは興味深いが、今ソウルの大都会を狼犬が疾走するのは一体なぜ?そして、それをバイクで追跡する新米女刑事の執念は・・・?美人すぎる女刑事が1人で主役になれず、ソン・ガンホの助けを借りたのは残念だが、いろいろと考えさせるネタが・・・。
本文はネタバレを含みます!!
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監督・脚本:ユ・ハ
原作:乃南アサ『凍える牙』(新潮文庫刊)
チョ・サンギル(中年刑事)/ソン・ガンホ
チャ・ウニョン(新米女性刑事)/イ・ナヨン
ソ班長(刑事)/シン・ジョングン
ク・ヨンチョル(警部に昇進したサンギルの後輩)/イ・ソンミン
オ・ギョンイル(第1の被害者)/カン・プン
ナム・サンフン(第2の被害者)/チョン・ミンソン
ミンジョン(第3の被害者、テシクの元恋人)/イ・ミナ
ミン・テシク(第4の被害者、建設会社の代表)/ト・ギソク
カン・ミョンホ(警察犬の元トレーナー、元刑事)/チョ・ヨンジン
カン・ジョンア(ミョンホの一人娘)/ナム・ボラ
2012年・韓国映画・114分
配給/ブロードメディア・スタジオ
<日本の直木賞受賞小説が、なぜ韓国で映画化に?>
私は全然知らなかったが、本作の原作になったのは、1996年に乃南アサが直木賞を受賞した『凍える牙』。しかして、日本の直木賞受賞小説が、なぜ日本ではなく韓国で映画化に?本作のプレスシートの中には、その乃南アサが書いた「韓国生まれの『孫』」という「CONTRIBUTION」がある。それを読むと、日本では「映画という孫」の誕生にさまざまな苦労があり、結局誕生に至らなかったことがわかる。
他方、日本では2006年に始まった篠原涼子がバツイチで子持ちの美人刑事・雪平夏見を演ずるテレビドラマ『アンフェア』が大人気となり、以降スペシャル版や劇場版まで製作されたが、それは一体なぜ?そして、乃南アサの原作は2001年には天海祐希主演で、2010年には木村佳乃主演で2度もテレビドラマ化されているそうだが、なぜ映画化にまで至らなかったの?そこらあたりを対比して考えていけば、日本のテレビドラマや映画製作の裏側の事情に迫ることができて面白いのかも・・・?
<主役はどちら?ひょっとして・・・?>
本作でヒロインを演ずる新米刑事チャ・ウニョン(イ・ナヨン)はたしかに美人だが、何といっても元白バイ警官あがりの新米だから、いかにも頼りなさそう。したがって、ソウルで発生した奇妙な焼死体事件の捜査をソ班長(シン・ジョングン)から命じられた中年のベテラン刑事チョ・サンギル(ソン・ガンホ)は、きっと自殺だろうと推定されるそんな事件を担当させられること自体が不満なうえ、ウニョンのような手間のかかる新米刑事とチームを組めと言われたためにおかんむり。ところが、科学捜査班の検証の結果、①死体の太股には獣に噛まれた傷痕があり、②尿からは覚醒剤が検出され、さらに③腰のベルトのバックル内からはタイマーと点火装置が見つかり、引火性の強い化学物質が仕込まれていたことがわかると、俄然サンギルはこの事件に興味を示し始めることに。しかし、それはあくまで自分の出世欲のためだから、その動機はイマイチ不純だ。
本作は、後輩のク・ヨンチョル刑事(イ・ソンミン)に出世競争で先を越されたひがみ根性でいっぱいのそんなサンギル刑事と、彼のお荷物のようについて回る新米女性刑事ウニョンの凸凹コンビが主人公だが、さてどちらが主役?古くは『インソムニア』(02年)(『シネマルーム2』197頁参照)でヒラリー・スワンク扮する女性刑事が、新しくは去る7月7日に観た『プレイ 獲物』(10年)に登場する女性刑事が、それぞれハードな追跡劇に貢献していたが、本来ハードな刑事役が若い美人女優に荷が重いのは当然。すると男尊女卑の思想が強い韓国では、原作どおりに若い女刑事ウニョンに主役をやらせるのはムリだと考えて、サンギルのようなベテラン刑事を主役に?いやいや、ひょっとして本作のホントの主役は、後半からクライマックスにかけて大きな存在感を示す、チルプン(疾風)という名の狼犬かも・・・?
<間接正犯の典型だが、こんなことホントにできるの?>
刑法総論では「共犯」の章で、正犯と従犯を学ぶが、正犯には間接正犯もある。「間接正犯」とは、他人の行為を利用して自己の犯罪を実現する正犯のことで、本作に見るように、自分が直接手を下さず、訓練した狼犬を道具として使って、人を殺すのはその典型だ。
今は建設会社の社長に収まっているミン・テシク(ト・ギソク)は、元ヤクザらしくその人相はいかにも悪い。この男は昔は売春や麻薬組織に関わっていたようで、映画冒頭に焼死体となった男はその仲間だったらしい。サンギルとウニョンのソ班長への報告を無視した何ともうさん臭い捜査(?)によって、このテシクが闘犬賭博に関わっていたことが判明。さらに、狼犬によって喉元を噛み切られた第2の被害者ナム・サンフン(チョン・ミンソン)、テシクの元恋人で第3の被害者となったミンジョン(イ・ミナ)らもその仲間だったことが判明したから、捜査の焦点が警察犬のトレーナーだったという元刑事のカン・ミョンホ(チョ・ヨンジン)に移っていったのは当然だ。警察犬を扱った映画は『きな子~見習い警察犬の物語~』(10年)など数多いし、南極観測隊に同行したタロとジロを主人公とした心温まる映画もあるが、人間が犬を道具として使って人を殺すことなどホントにできるの?
乃南アサの小説がヒットしたのは、大都会を疾走する狼犬が突如人の前に現れ、その喉元を食い破るという猟奇殺人のもの珍しさが大きく寄与しているはずだが、ホントにそんなことが可能なの?
<ウニョンの捜査に見る、個人プレーの是非は?>
ロンドンオリンピックは8月12日閉幕したが、日本勢は卓球や水泳におけるチームプレーが光っていた。一人一人ではメダルに届かなくても、3人が、4人が力を合わせれば、というわけだ。これに対して韓国では、サッカー男子の3位決定戦後、日本に勝利した韓国の朴鍾佑(パク・チョンウ)選手が竹島(韓国名:独島)の領有を訴えるメッセージボードを掲げるという問題を起こしたが、これを見ると韓国はチームプレーより個人プレーの国?本作を観ていると、韓国では警察の捜査でもチームプレーが悪く、サンギルとウニョンの個人プレーが突出していることがよくわかる。
テシクの元恋人で第3の犠牲者になったミンジョンが出入りしていた売春組織のアジトへの「手入れ」を強行した際、名誉の負傷(?)を負ってしまったウニョンはソ班長から「お荷物」扱いされ、今は1人だけで警察犬の捜査を命じられていた。しかし、地道な捜査を続ければ、時として大きな成果が得られることもある。ソ班長の捜査では、ミョンホは警察を辞めているばかりか、既に死亡しているらしい。しかし、ウニョンが女性らしく地味で丹念な警察犬捜査を続けた結果、ミョンホは今も生きていることを突き止めたから立派なものだ。しかして、ウニョンはその情報をソ班長には報告せず、単独でミョンホが一人娘のカン・ジョンア(ナム・ボラ)と暮らしている古い民家に潜入!たしかに映画としてはその方が面白いし、ウニョン刑事の活躍ぶりも目立つが、何者かに襲撃されて意識を失ったうえ、家に火をかけられたから大変!さて、そんな捜査に見る韓国警察における個人プレーの是非は?
<そう一気にネタばらしをしてしまっては・・・>
松本清張原作の小説を映画化した『砂の器』(74年)はハンセン病について大きく社会問題提起をした映画であると同時に、刑事モノとしても最高傑作だった。本作中盤は、新米女性刑事ウニョンの活躍と、次第にウニョンの熱意を認めそれを支援していくサンギルの応援ぶりがポイントだが、焼け跡から見つかったミョンホの日記によって1つの例外を除くすべての事情が判明してしまうストーリー構成はいただけない。
その日記を読めば、ミョンホの一人娘ジョンアがどんな酷い目にあったのか?なぜミョンホが幼い狼犬をチルプン(疾風)と名付けて長年の訓練を施し、チルプンを使っての復讐を誓ったのかがわかるとともに、今それを着々と実行しているのだということがすべてわかってしまう。しかし、これでは興ざめだ。「わからない1つの例外」とは、地下の訓練場で発見されたマネキンが5体あったこと。4体については、既に死んでしまった3人に加えて現在消息不明のテシクがそのターゲットであることはまちがいないが、もう一人は誰?ラストに向けてはそれが唯一の興味になってしまうが、実はそのヒントも既に提示されているので、私の目にはそれはバレバレ。そう一気にネタばらしをしてしまっては・・・?こりゃ映画として、あまりに安易すぎるのでは・・・?
<最大の見どころは、チルプンとバイクの疾走シーンだが>
イ・ナヨンは『私たちの幸せな時間』(06年)ですばらしい熱演を見せていた(『シネマルーム13』99頁参照)し、『悲夢』(08年)ではキム・ギドク監督の難しい演出に果敢に挑戦していた(『シネマルーム22』232頁参照)。そんなイ・ナヨンが本作では新米刑事役に挑戦したが、私の目にはやはり刑事役には線が細すぎるし、美しい豊かな髪をたらしたままの刑事姿はキレイすぎるから、これでは刑事の仕事はとても無理?と思ってしまうところが本作の難点だ。
したがって、クライマックスに向けて本作最大の見どころとして展開される、疾走するチルプンをバイクに乗ったウニョンが追跡するというシーンもあまり現実味がなく、迫力があまり感じられない。もちろんイ・ナヨンはこの撮影に向けてバイクの練習を積んだはずだから、まっすぐ続く道路上での疾走シーンはもちろん、山中に入ってからの追跡でもそれなりの腕前は披露してくれるが、転んでしまった後は・・・?本作鑑賞の前日たる、8月7日の試写会で『ボーン』シリーズ最新作の『ボーン・レガシー』(12年)のメチャ迫力あるカーチェイスとバイクチェイスを観たこともあって、本作最大の追跡シーンの迫力は私にはイマイチ・・・。
<究極の選択は?その実行は?>
警察犬が犯人に向かって迫っていけるのは、トレーナーから犯人についての情報(=匂い)を与えられているから。チルプンとウニョンの疾走シーンを見るについては、それを前提にする必要がある。すると今、チルプンが走り続けているのは一体どこを目指しているの?また、そこには一体誰がいるの?本作中盤からは何かとウニョンの面倒見がよくなったサンギルがタイミングよくウニョンをフォローすることによって、「第五の男」がチルプンの犠牲になるのを避けようとする2人の思いが実現しそうになっていく。もちろん、そのためにはチルプンが飛び掛かる前にサンギルとウニョンが第五の男を逮捕し身柄を確保することが不可欠だが、サンギルとウニョンの力でそれは実現できるの?
8月10日に韓国の李明博大統領が竹島(韓国名:独島)に上陸したことによって、竹島問題は新たな火種を抱えこんだが、さて日本はどんな選択を?まだまだ究極の選択を下す時期ではないが、いずれ近い将来何らかの究極の選択をせざるをえなくなるのでは?しかしてスクリーン上では、今「第五の男」の首に食いついたチルプンの姿が!さあ、ここでサンギルとウニョンはいかなる究極の選択を?そして、その究極の選択を実行するのは、ウニョンそれともサンギル・・・?
2012(平成24)年8月14日記
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