スリーピング タイト 白肌の美女の異常な夜(スペイン映画・2011年) |
<テアトル梅田>
2012年10月2日鑑賞
2012年10月10日記
「眠れる美女」は川端康成の専売特許で、エロじじいの趣味の問題と思っていたが、『アンナと過ごした4日間』(08年)を観ると、尽くす愛、捧げる愛に感動!他方、「他人の不幸を唯一のなぐさめ」として生きているアパートの管理人の場合は?部屋への侵入と添い寝だけならまだしも、異常な行動がエスカレートしていくと俄然サスペンスタッチに。そして明かされる驚愕の真実とは?男は誰でもこんな妄想が・・・。イヤイヤ・・・。
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監督:ジャウマ・バラゲロ
セサル(アパートの管理人)/ルイス・トサル
クララ(アパートの住人、美人の独身女性)/マルタ・エトゥラ
マルコス(クララの恋人)/アルベルト・サン・ファン
ベロニカ(老婦人)/ベトラ・マルティネス
セサルの母親/マーガリータ・ロセト
ウルスラ(小学生の女の子)/イリス・アルメイダ
警視/マネル・デウソ
警官/トニー・コルヴィロ
警官/リカルド・サドゥルニ
警官/シャビエル・カルヴェット
2011年・スペイン映画・101分
配給/アルバトロス
<こんな妄想は男なら誰でも・・・?イヤイヤ・・・>
川端康成の『眠れる美女』(61年)はエロティックな男の想像力(妄想力?)をかき立てる小説だったが、それにヒントを得たドイツ映画が『眠れる美女』(05年)(『シネマルーム18』297頁参照)。これらの陰の主人公はもちろん「眠れる美女」だが、本当の主人公はいずれも初老の男。「眠れる美女」というテーマには性欲ギラギラの男は不向きだから、目の保養だけで十分という初老の男が主人公になるのは当然だ。しかし、谷崎潤一郎の小説『鍵』を読んでも、老人の性は何と悲しいものかという感が強い。
本作の原題は『MIENTRAS DUERMES』(君の眠る間に)、英題は『SLEEP TIGHT』(ぐっすり眠れ)だが、邦題は例によって説明調。「異常な夜」というから何が異常なのかというと、アパートの住人で美女のクララ(マルタ・エトゥラ)が異常なのではなく、異常なのは管理人のセサル(ルイス・トサル)だ。映画冒頭アパートの屋上に上り、自殺を試みようとするシーンが登場することで明らかなように、セサルは生きていること自体がイヤな性格らしい。つまり、人生に対する絶望感や自殺願望でいっぱいの男なのだ。したがって、彼にとってはクララのように無邪気で明るくセサルに対しても天真爛漫な態度を取ることができる人間は、それ自体が嫌悪の対象となるらしい。そんな男に見初められたクララ(?)はそりゃ不幸だが、さてセサルは管理人の特権を利用してクララに対して一体何を?
『アンナと過ごした4日間』(08年)も少し気味の悪い映画だった(?)が、そこから見えてくるのは無償の愛、尽くす愛だったから、結局は後味のいい映画になっていた(『シネマルーム23』80頁参照)。しかし、セサルの場合は?こんな妄想は男なら誰でも持つさ。一面ではそう言えるものの、イヤイヤやはりこれは・・・。
<見るだけなら。尽くすだけなら。しかし・・・>
『眠れる美女』では、男の目的は見ることだけだった。また『アンナと過ごした4日間』では男の目的は尽くすことだけだった。それだけなら、眠り薬を飲まされている美女の方も仕方ないかも知れないが、クロロホルムを嗅がされたうえ朝までベッドの傍で添い寝されるとなると・・・。本作はまず、日々の退屈な業務をくり返しているセサルが、管理人としての特権を使ってクララの部屋に入ってベッドの下に潜り込み、夜な夜なクロロホルムを嗅がせて眠らせ、クララの傍で添い寝する行動を追っていく。これによって「生きる理由が見つからない」「幸せになる能力が不足している」と自己分析していたセサルにも、生きる意味が見つかったらしい。
しかしジャウマ・バラゲロ監督は月火水と日々が進む中、セサルが取るそんな行動を丹念に追うだけで、セサルの心の中に秘めた目的を示してくれない。したがって、セサルの目的は常にクララを見るだけ、クララに尽くすだけかと一瞬思ってしまったが、ある日を境に異常な行動に・・・。最初それはクララが使っている歯ブラシを自分が使用し、翌朝それをクララが使用するのを楽しむ程度だったが、翌日からは・・・。ひょっとしてセサルが見つけた「生きる意味」とは、「他人の不幸を唯一のなぐさめ」として生きていくということ・・・?
<中盤からは、ちょっと食傷気味に・・・?>
本作はスペイン映画だが、スペインもイギリスと同じように階級や身分に厳しい社会らしい。それは、セサルが飼い犬だけを生きがいに1人孤独に住んでいる老夫人ベロニカ(ベトラ・マルティネス)を「ベロニカさん」と呼び、クララのことも「クララと呼んでいいのよ」と言われても律儀に「クララさん」と呼んでいることからもよくわかる。そんな礼儀正しく仕事に几帳面なセサルにアパートの住人たちはいつも感謝し、セサルは空気のような存在になっていたが、その実は・・・?
セサルがクララの歯ブラシを使うくらいはちょっとしたいたずらや好奇心と言えるかもしれないが、歯磨きのチューブに何らかの薬剤を注射器で入れたり、洗面台の隙間に怪しげな薬を塗り込んだり、挙げ句の果ては冷蔵庫の奧の方に腐った果物を入れたりし始めると・・・。そして、映画冒頭寝起きでもあれほど元気に動き回っていたクララの寝起きが悪くなったうえ、顔に吹き出物が出始めたり、身体に湿疹が出るようになると・・・。さらに洗面台を開けると大量のゴキブリが飛び出してくると・・・。『アンナと過ごした4日間』は気味悪いなりに涙を誘う感動作だったが、本作中盤からは、次々と続くセサルの異常な行動がちょっと食傷気味に・・・。
<この女の子の魔性ぶりは?秘密の共有は?>
小説の世界でも映画の世界でもかわいい女の子は純真無垢な存在として描かれることが多いが、現実は必ずしもそうでないことが多い。本作に見る小学生の少女ウルスラ(イリス・アルメイダ)を見ていると、かわいい女の子(?)にも魔性の女がいることがよくわかる。いくら管理人として住人から信頼されていても、夜ごとクララの部屋に入り込み朝5時に部屋を抜け出していれば、偶然誰かに出会うこともあるはず。それがたまたまウルスラのような女の子だったから、セサルはウルスラの出す取引条件を呑めば「秘密の共有」ができたが、こんな場合普通は要求がエスカレートしてくるもの。本作は後半からクララの恋人マルコス(アルベルト・サン・ファン)が登場してくる中、サスペンス色を強めていく。
いつものようにベッドの下に潜んでいたら、いきなり2人が入ってきてベッドの上でイチャイチャされたのではたまらない。そのうえベッド上での激しい行為(?)によって、セサルがベッドの下に装着していたクロロホルムの液がどっとセサルの顔に落ちてきたから最悪。意識朦朧となっていく中、セサルはどうやってクララの部屋から逃れるの?本作では2度3度と見せつけられるセサルの意外な才覚(?)による言い逃れが成功した後、遂にセサルとマルコスの対決シーンが登場し、警察官がやってくることになるから、そこらあたりのサスペンスはあなた自身の目でしっかりと。さらに、セサルが毎日クララに送りつけている迷惑メールの犯人を清掃係の女性の息子にしてしまうストーリー展開も意外にサスペンス色豊かだから、それもじっくりと。もっとも、セサルはこれらの「事件」について警察は騙せたものの、常にセサルの監視を続けているウルスラの目は・・・。本作ではこの女の子の魔性ぶりと、そこから生まれるサスペンスにも注目したい。
<このおぞましい結末を、あなたはどう見る?>
仲良くバカンスに出かけたはずのクララとマルコスがケンカしながらすぐに戻ってきたのは、どうもクララの妊娠が判明したためらしい。いつもコンドームをつけてコトに及んでいたマルコスにしてみれば、一体誰の子供だ、クララはいつ誰と浮気していたんだ、と怒ったのは男として当然だ。他方、クララとしても想像妊娠はありえても、マルコス以外の男の子供がありえないことは自分が一番よく知っているから、マルコスの心ない言葉が許せないのも当然だ。そんな口ゲンカを聞いてほくそ笑んでいたのがセサルだが、さてそのココロは・・・?
セサルの仕事ぶりにアパートのオーナーはいつも文句をつけていたから、セサルがいつクビにされるのかは時間の問題。そう思っていると案の定そのとおりになったが、それがちょうどマルコスの自殺騒動もしくは殺人事件の前だったことがセサルに幸いしたから、まさに禍福は糾える縄の如し・・・?他方、いくら妊娠問題でケンカしていても、マルコスの死亡という悲しい結果にクララが悲しみに沈み途方に暮れたのは当然。そして今、クララは生まれてきた子供と共にあるところに来ていたが、そこに届いたのがセサルからの手紙だ。セサルはずっと「僕がしたことを打ち明ける日を待っていた」らしいが、さてセサルがクララに対してしたこととは・・・?この何ともおぞましい結末を、さてあなたはどう見る?
2012(平成24)年10月10日記