マリーゴールド・ホテルで会いましょう(イギリス、アメリカ、アラブ首長国連邦映画・2011年) |
<角川映画試写室>
2012年12月7日鑑賞
2012年12月8日記
少子高齢化が進む中で否応なく訪れてくる「老人問題」に日本は大変だが、同じ悩みを持つイギリスでは?『七人の侍』ならぬ「七人の老人たち」はなぜ、インドの高級リゾートホテル、マリーゴールド・ホテルでの老後生活という決断を?そして、「老人ホーム詐欺」まがいの事態の中、彼らはいかなる行動を?ホテルの若き支配人の恋愛騒動とホテル閉鎖騒動の中、七人の老人たちが下す更なる人生の決断とは?若者を含めた全般的な「内向き志向」の日本と比べ、70歳を超えてなお「外向き志向」で「前向き派」が多い彼らから、私を含めた団塊世代は何を学べば・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督:ジョン・マッデン
脚本:オル・パーカー
製作:グレアム・ブロードベント、ピーター・チャーニン
イヴリン(夫を亡くし途方に暮れる女性)/ジュディ・デンチ
ダグラス(ジーンの夫)/ビル・ナイ
ジーン(ダグラスの妻)/ペネロープ・ウィルトン
マッジ(結婚と離婚をくり返し孫もいる女性)/セリア・イムリー
ノーマン(独身の男性)/ロナルド・ピックアップ
グレアム(インドで少年時代を過ごした、元判事の男性)/トム・ウィルキンソン
ミュリエル(股関節の手術を受けるため渋々インドに来た女性)/マギー・スミス
ソニー・カプー(マリーゴールド・ホテルの若き支配人)/デヴ・パテル
スナイナ(ソニーの恋人)/テーナ・デサイ
カプール夫人(ソニーの母親)/リレット・ドゥベー
ジェイ(スナイナの兄)/シド・マッカル
アノキ(ミュリエル担当のホテルの女性従業員)/シーマー・アーズミー
2011年・イギリス、アメリカ、アラブ首長国連邦映画・124分
配給/20世紀フォックス映画
<『七人の侍』ならぬ「七人の老人たち」の決断は?>
黒澤明監督の『七人の侍』(54年)は日本映画最高傑作の一本で、これは『荒野の七人』(60年)としてハリウッドでもリメイクされた。あの当時は日本もアメリカも右肩上がりで何事にも元気が良かったが、今や日本をはじめ先進国はどこも少子高齢化が進み、老人問題が深刻になっている。それは日本が議会制民主主義のお手本としたイギリスでも同じだ。
本作は冒頭に『七人の侍』ならぬ「七人の老人たち」が人生の分岐点を迎え、その一人一人が「インドのマリーゴールド・ホテルで穏やかで心地よい日々を!」という決断を下す様子が描かれる。この描き方のスピードが、要領とスピードをモットーとしている弁護士の私には何とも心地よい。それは、40年間連れ添った夫を亡くし、途方に暮れているイヴリンを演ずるジュディ・デンチをはじめ、7人のベテラン名優たちの名演に負うところが大きいが、この描き方はやたら説明過多の傾向が目につく近時の邦画とは大違い。やはり映画はこうでなくっちゃ!しかして、「七人の老人たち」がそんな決断を下した、それぞれの人生の転機とは?
<「七人の老人たち」の人生の転機と決断とは?>
日本では多くの老人たちが下すべき決断は「どの老人ホームに入るか?」という「内向き志向」だが、本作で七人の老人たちが下した決断は「マリーゴールド・ホテルで穏やかで心地よい日々を!」という何とも「外向きな志向」。しかし、その決断に至るまでには7人それぞれの人生模様があり、それぞれの転機と決断があったのは当然だ。何から何まで夫に頼り切っていたため、夫が多額の負債を抱えたまま死亡したことすら知らなかったイヴリンの場合は、息子の勧めどおり長年住み慣れた家を売却することに同意のうえ、同居を勧めてくれる息子の誘いを断って、この決断を下したからすごい一歩を踏み出したことになる。
続けて他の6人それぞれの事情を述べれば次のとおりだ。
①ダグラス(ビル・ナイ)とジーン(ペネロープ・ウィルトン)夫婦の場合はイギリスに家を買うはずだったが、退職金を貸した娘が事業に失敗したため、予算の都合でやむなくインドを選ぶことに。
②ミュリエル(マギー・スミス)の場合は、股関節の手術を受けるについて、イギリスの病院なら半年待ちと言われたため、やむなく大嫌いなインドにやって来ることに。
③独り者のダンディ男ノーマン(ロナルド・ピックアップ)がインドにやって来た目的は、異国の地での最後のロマンスを求めるため。
④結婚と離婚をくり返し、孫もいるマッジ(セリア・イムリー)の目的は、お金持ちの夫探し。
⑤突然、判事を辞めたグレアム(トム・ウィルキンソン)はかつてこの地に住んでいたらしい。そして彼には数十年ぶりに会いたい「ある人」がいるのだが、さてその「ある人」とは?
<これは、タチの悪い「老人ホーム詐欺」?>
老後の安心を謳い文句にした高級老人ホームのはずだったのに、高い料金を払って入居してみるとその実態は?そんなタチの悪い「老人ホーム詐欺」は今後の日本で多発しそうだが、日本国内であれば事前に十分チェックすれば、その被害は防げるはず。しかし、七人の老人たちは、イギリスとインドが遠く離れているため事前に自分の目でチェックすることができなかったようだ。そのため、「神秘の国インドの高級リゾートホテルで、穏やかで心地よい日々を」との謳い文句と、美しいガイド写真を信用して多額の前払金を支払ったうえ、それぞれの希望と不安を持ってやっとマリーゴールド・ホテルに到着してみると・・・?そこには、眺めの良いテラス、明るい中庭、丸天井、屋根付きバルコニー、そんな謳い文句と優美なホテルの写真とは全然違うオンボロホテルが・・・。
英語が達者な若き支配人ソニー・カプー(デヴ・パテル)は陽気でおしゃべり、そして仕事には一生懸命だが、「改装中」という彼の言葉はホント?日本ではこんな事態になれば当然即「解約」だが、ソニーは「解約はOK。返金もOK。しかし、返金は3カ月後」等々巧みに言い逃れ。そのため既に前払金を支払っている七人の老人たちは現状を受け入れざるをえないことに・・・。七人の老人たちはマリーゴールド・ホテルにいかなる条件で長期滞在することになったのか?すなわち、単なる長期滞在なのか、月決め、年決めでの賃貸借契約なのか、それとも日本に多い会員制リゾートホテルの会員権購入のような特殊な契約なのか、そういった法的観点からの説明が全くないのが弁護士の私としては少し不満だが、本作は七人の老人たちの生きザマ描く映画だからそれは仕方なし。マリーゴールド・ホテルの「惨状」を見た七人の老人たちがそこで不動産に詳しい優秀な弁護士に相談すれば、その後の事態は本作とは全く違う展開になるはずだが、それは私の想像の世界だけで十分。皆さんは、その後の本作の展開をしっかりと。
<あなたは「前向き派」?それとも「後ろ向き派」?>
私は2000年8月に1回目の中国旅行をした。それから今日までの中国旅行は約20回になっているが、インドにはまだ行ったことがない。中国旅行ではさまざまなカルチャーショックを受けたが、本作を観ると、グレアムを除く六人の老人たちがはじめて訪れたインドでさまざまなカルチャーショックを受ける様子がよくわかり、面白い。そのキーワードは、第1に街中に溢れる人や車の多さ、第2に暑さと喧噪、第3に溢れる音と色彩、第4にインド式食事だが、さて六人の老人たちはそれにどう対処する(立ち向かう)のだろうか?
そんな時、人間は「前向き派」と「後ろ向き派」に分類することができる。まず、夫に頼り切っていた生活からの脱却=「一人立ち」を目指したイヴリンはブログを始めたうえ、仕事を探すため一人街の中へ。そんな前向きでチャレンジ精神旺盛なイヴリンの目の前に開けた新たな仕事とは?そんなイヴリンが前向き派なら、日々ガールハント(?)に勤しむノーマンやインドの名所観光に精を出すダグラスも前向き派。他方、股関節の手術を待ちながらあくまでイギリス人の医師による手術にこだわるミュリエルや、暑さにも食事にもやかましさにも我慢できないダグラスの妻ジーンは完全な後ろ向き派。そして、いくらお金持ちの男を探そうとしてもうまくいかないマッジもどちらかというと後ろ向き派だ。なお、7人の中で「判事」という最も社会的地位の高い職業にあったグレアムは、この街で暮らしたことのあるという変わり種だが、彼が毎日出向いている場所とは?子供の頃彼の家族の使用人として勤めていた家族の子供で無二の「親友」だったマノージを捜していたが、こんなに人口の多い街で「訪ね人」を見つけることなど可能なの?
はじめてマリーゴールド・ホテルに結集した七人の老人たちが少しずつ交流を深めていく中で最初に親しくなったのは、いつも優しく公平な態度で人と接するイヴリンと、どこか秘密めいた面を持ったグレアム。本作はそんなグレアムの秘密を巡って少しミステリーじみた展開を見せてくれるので、それにも注目!しかして、さてあなたは前向き派?それとも後ろ向き派?
<1人抜けてしまったが、残された6人は?>
七人の老人たちの正確な年齢はわからないが、グレアムを除いた6人は明らかに70歳を超えているから、いつあの世からお迎えが来てもおかしくない。そんな中、マノージとの感動的な再会を果たした一番若いグレアムが逝ってしまったのは意外だったが、マリーゴールド・ホテルに結集した七人の老人たちの1人が欠けたことは、残された6人の今後の生き方にいかなる影響を?それが本作後半から追加される新たなテーマだ。
本作は今や『007』シリーズのM(エム)役がすっかり定着してしまったジュディ・デンチを軸としたストーリーづくりになっているが、グレアムから「秘めた過去」を打ち明けられたイヴリンは、次には妻ジーンとの不仲(?)に悩むダグラスから一目置かれることに。他方、イヴリンだって生身の女だから、たまには泣きたい時もある。そんな時たまたまダグラスがその肩に手を置き、抱きしめたものだから、それを目撃したジーンは・・・?
他方、一人だけ車イス生活から抜け出せないミュリエルは、ある日ホテルでミュリエルの食事係をしている低層階級の娘アノキ(シーマー・アーズミー)から彼女の家族の家に招待されたことを契機として、大きく人生観を変えていくことに。インドの低層階級の人々は泥棒をはじめ危険人物ばかり、ましてそんな人たちが提供してくれる食事を食べるなんてもっての他。当初はそんな考え方だったミュリエルも、アノキの純粋で優しい心に触れてみると・・・。また、なかなか金持ちの男をひっかけられないマッジに対して、まめに彼女探しをやっていたノーマンはある日絶世の美女とまではいかないものの、それなりのいい女をゲット!こんな風に、グレアムは抜けてしまったものの、少しずつマリーゴールド・ホテルとインドという国になじみ始めた残りの6人は、やっとそれぞれの生き方を定めようとしていたが、そんな時マリーゴールド・ホテルの閉鎖という大問題が・・・。
<インド人の若者にも悩みと人生の転機が・・・>
英語に堪能なよくしゃべる陽気なインド人の若者ソニー。その姿を見て私は、このソニーを演ずる俳優デヴ・パテルはきっとあの映画の・・・?と思っていたら、案の上・・・。『スラムドック$ミリオネア』(08年)は「これぞボリウッド映画!」と満喫させてくれた名作だった(『シネマルーム22』29頁参照)。デヴ・パテルはそこでも熱演していたが、本作でも恋人のスナイナ(テーナ・デサイ)との恋に突進しつつ、両親が残したマリーゴールド・ホテルの再建のために必死に戦う若者像を熱演している。
ストーリーが展開するにつれて明らかになるのは、ソニーはボンベイで大成功している2人の兄に比べるとかなりの落ちこぼれと言うこと。また、上流階級に属するソニーの両親と兄たちは既にマリーゴールド・ホテルの売却を決め、早くソニーがボンベイに移り上流階級の娘を嫁にもらうことを期待していたから、急にマリーゴールド・ホテルにやって来た母親カプール夫人(リレット・ドゥベー)はソニーが自由奔放な今風の(?)娘スナイナと付き合っていることを知って猛反対。したがって、ホテル改装のための投資家との折衝というビジネス面と、スナイナとの恋の成就という色恋面の両方を合わせて進めていかなければならなくなったソニーはチョー大変。ところが、ある夜スナイナが約束どおりソニーの部屋に入り込み裸でベッドに潜り込んでみると、そのベッドには・・・。そんな大変なミステイクの結果、ついにソニーはマリーゴールド・ホテルを失ったうえ、スナイナとの結婚を諦めて両親や兄の住むボンベイへ移住することに。
もっとも、いったんはそう決断したものの、恋の道にそれほど詳しいと思えないイヴリンがソニーに対して与えたあるアドバイスによって、たちまちソニーは大変身!さあ、大いなる転機の中、ソニーはいかなる変身を!
<苦況の中、6人の新たな決断は?>
マリーゴールド・ホテルの売却とそれに伴う閉鎖!そんな決定によって、ソニーとスナイナのみならず、六人の老人たちもそれぞれ次の人生を決断せざるをえなくなったが、さてその決断とは?まず最初にイギリスへの帰国を決断したのは、ダグラスとジーン夫妻。逆に現地で新たな恋人を見つけたノーマンは、大胆にも現地での彼女との生活を決断。そして、それを見たマッジも「あなたは魅力的だ」というおだてに乗って、もう少し頑張って金持ち男を探してみようと決断したから、これも前向き。ここで意外な底力を発揮したのが、多分7人の中で最年長と思われるミュリエル。食事係の娘アノキとの出会いによって「後ろ向き派」から「前向き派」に変身したミュリエルは、股関節の手術を終え、少し歩けるようになると意外にも経営面において隠れた能力を発揮することに。
ソニーの新たな人生への決断と大変身は、かつてソニーの母親と父親の結婚の様子を知っているという老人のアドバイスもあって、頑なだった母親のスタンスをも変えてしまったからすごい。このように、人間一人一人の前向きの決断は、周りの人たちにも相互にいい影響を与えるものだ。前述のように、夫婦そろってイギリスへの帰国を決めたダグラスとジーン夫妻も、空港への道が渋滞する中、それぞれ更に新たな決断を下すことに。そして、そんなこんなのそれぞれの決断の中、最後に見せたソニーの決断とは?
2012(平成24)年12月8日記