ロスト・イン・北京(苹果/Lost in Beijing)(中国映画・2007年) |
<シネ・ヌーヴォ>
2013年1月2日鑑賞
2013年1月7日記
サントリー・ウーロン茶で有名な、可憐で美しい女優・范冰冰(ファン・ビンビン)がド派手なセックスシーンに挑戦!ややもするとそこばかり強調されるが、本作の本質は何とも意味深な邦題に・・・。窓拭きの夫が見ている前でレイプされた挙げ句に妊娠。しかし、子どものできない夫婦にしてみれば、これはひょっとして朗報?四人四様の思惑が交錯する中、無事生まれた男の子を軸に展開する4人の人生模様は?経済成長を遂げた現代北京だが、カネがすべての時代状況の中で失われた人間性は、一体どこに・・・?
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督:李玉(リー・ユー)
苹果(ピングォ)(足ツボマッサージ師の女性)/范冰冰(ファン・ビンビン)
林東(リントン)(足ツボマッサージ店のオーナー)/梁家輝(レオン・カーフェイ)
安坤(アン・クン)(ピングォの夫、窓拭き)/佟大為(トン・ダーウェイ)
王梅(ワン・メイ)(リン・トンの妻)/金燕玲(エレイン・チン)
小妹(シャオ・メイ)/曾美慧孜(ツアン・メイホイツ)
2007年・中国映画・109分
配給/オリオフィルムズ
<注目は范冰冰だが、本作の本質は・・・?>
中国の美人女優・范冰冰(ファン・ビンビン)は今や、章子怡(チャン・ツィイー)以上の人気で、私は『花都大戦 ツインズ・エフェクトⅡ』(04年)(『シネマルーム9』53頁参照、『シネマルーム17』108頁参照)、『墨攻』(06年)(『シネマルーム14』286頁参照、『シネマルーム17』128頁参照)、『新宿インシデント』(09年)(『シネマルーム22』未掲載)、『孫文の義士団』(09年)(『シネマルーム26』143頁参照)、『ソフィーの復讐』(09年)(『シネマルーム23』147頁参照)、『新少林寺』(11年)(『シネマルーム27』47頁参照)、『運命の子』(10年)(『シネマルーム28』155頁参照)を観ている。その范冰冰が足ツボマッサージ嬢の苹果(ピングォ)に扮して、セックスシーンやレイプシーンにも大胆にチャレンジしたのが本作。原題は『苹果』だが、『ロスト・イン・北京』という邦題は何となく意味深・・・?
『レ・ミゼラブル』(12年)のヒロイン・ファンテーヌは幼い子どもがいることを隠していたことがばれたため、働いていた工場をクビにされてしまったが、苹果も 安坤(アン・クン)(佟大為/ トン・ダーウェイ)という夫がいることを隠していたため、ある日マッサージ店のオーナーである林東(リントン)(梁家輝/レオン・カーフェイ)からレイプまがいの行為を受けてしまうことに。そこまでならよくある話(?)だが、本作はビルの窓拭きをしている夫の安坤がそのレイプシーンを窓越しに目撃していたというから凄い。怒り狂って社長室に乗り込んできた安坤だが、あの行為はホントにレイプ?
本作の注目はそんな過激な体当たり演技もいとわない美人女優・范冰冰だが、実は本作の本質は・・・。
<この「災い」は、ひょっとして「福」に?>
映画冒頭、若くてキレイな風俗嬢を1000元で買っている林東社長の姿が描かれる。女の子の方も割り切ったもので、これは現代北京の1つの風物詩?ひょっとして、この女の子が范冰冰と思ったが、実はこれはホンの導入部。しかし、この導入部とその後の展開の中で、足ツボマッサージ事業で成功し、妻の王梅(ワン・メイ)(金燕玲/エレイン・チン)と共に大邸宅に暮らしている林東が、ビジネス面では成功したものの、王梅との間に子どもが生まれないことに悩んでいることがよくわかる。年齢的にももう中年だから、このまま王梅との夫婦生活をくり返していたのでは子宝に恵まれるのはとてもムリ。そんな風に思っている時、どうもあの1回のレイプ(合意のセックス?)で苹果は妊娠したらしい。すると、俺たち夫婦に子どもが生まれないのは俺のせいではなく、王梅の方に原因が・・・。安坤からの2万元の慰謝料請求を断固拒否していた林東だったが、妊娠を知った苹果から子どもを堕ろすという言葉を聞くと、林東は俄然慌ててある提案を・・・。
張藝謀監督の『活きる』(94年)(『シネマルーム2』25頁参照)のテーマは「人生はあざなえる縄の如し」だったが、林東にとってもあのレイプ(合意のセックス?)はたしかに悪夢だが、それによって苹果が妊娠し、子どもに恵まれることになれば、まさに災い転じて福と為す、かも・・・。
<奇妙な被害者意識から、奇妙なベッドインに!>
弁護士の私の目でみると、あの泥酔状態の苹果からあんな風に誘われたら、林東の行動は仕方のないところ。したがって、苹果や安坤からレイプだと主張されて裁判になっても、きっと勝てるはず。また安坤から慰謝料として2万元を要求され裁判されても、せいぜい林東が言うとおり、2000元も払えばOKで、この裁判も勝てるはず。さあ、その本筋の展開や如何?
そう思っていると、本作はまったく別の方向に行ってしまう。すなわち、安坤は林東が要求に応じないと見るや、次のターゲットを妻の王梅の方に向け、これを脅かしにかかるわけだ。しかし事の次第を聞かされた王梅は夫に対して怒り狂うだけで、安坤の要求に応じるそぶりを見せなかったのは当然。そもそも、安坤の戦略の立て方が根本的にまちがっているわけだ。ところが、本作が面白いのは、夫を奪われ、妻を奪われたという共通の被害者意識から安坤と王梅の間に奇妙な連帯意識が生まれたばかりか、互いに自分の夫や妻に対する復讐の気持も込めてこの2人がベッドインを果たすこと。この人間心理は何とも面白い。しかも、それが継続する中、林東からの安坤と苹果に対する提案(和解案)とは別に、王梅は林東に対してある提案をすることに・・・。
<この2つの契約は有効?それとも公序良俗違反?>
私は弁護士として、生まれてくる子どもを軸とした本作のような人間模様の処理をしたことはないが、本作のような事例は現実にもありうる話。そこで、弁護士としての私が興味を持つのは、本作にみる2つの提案(契約)だ。
まず、安坤が林東と苹果に示す契約の骨子は、①苹果が無事に子どもを生み、その血液型から林東の子どもだと認定できれば、以降林東の子どもとして育てる。②その場合、林東は安坤と苹果に対して慰謝料2万元の他10万元を支払う。③子どもが無事に生まれるまで苹果は林東の屋敷で生活する。というものだ。こんな難しい合意内容をきっちりした契約書にするのは弁護士でも大変だが、さすがビジネスマンとして大成功している林東は、お手の物。4人は無事契約書への調印を終えたが、さてこの契約は有効?それとも公序良俗違反?
次に、王梅が林東に対して提案する契約は、もし林東の思い描く計画がボツになったら財産の半分を自分によこせ、という恐ろしいもの。さて、この契約は有効?それとも、これも公序良俗違反?
<ラストに向けて、あっと驚く展開に!>
月満ちて苹果の身体から無事生まれてきたのは玉のような男の子。こうなれば金はいくらでも持っている林東は喜び勇んで契約書どおり安坤と苹果に金を支払い、たちまち「親バカ」ぶり(?)を発揮し始めたから面白い。この契約はあくまで四者の合意で調印したものだから、このような結果になれば本来それぞれの立場で満足すべきだが、現実にはここで安坤が意外な行動に出ることに。
その伏線は、安坤が子どもの血液型を書き換えてくれと医師に依頼するシーンにある。もちろん医師はそんな要求を断固はねつけていたが、1500元から3000元、3000元から4000元とワイロ(?)がつり上がるにつれてそんなインチキがまかり通るのが、金のためなら何でもありという現代の北京流?安坤にしてみれば、子宝に恵まれて今や幸せの絶頂にある林東が憎らしくなり、10万元という金をもらっても全然満足できなかったらしい。その結果起きたのが安坤によるあっと驚く赤ん坊の誘拐事件だが、王警部の捜査によって比較的簡単に安坤が逮捕され、赤ん坊を確保できたのは幸いだった。ところが、無事赤ん坊が戻ってきたところで林東が王警部から告げられたのは、DNA鑑定の結果この赤ん坊の父親は林東ではなく安坤であることが確定したということ。すると、あの血液型による判定は一体何だったの?俺は欺されていたの?しかし、今や目の前にいる赤ん坊を見れば、科学的に誰の子であるかはどうでもいい。とにかく、この赤ん坊の父親は俺だ。そのように林東は言い張ったが、さてそれは・・・。
このラストに向けてのあっと驚く展開は出色の出来だ。この赤ん坊の母親はもちろん苹果。それだけはハッキリしているが、苹果のレイプ騒動、妊娠騒動、契約書調印。そして今・・・。所詮根無し草のような男2人は今後一体どう生きていくの?さらに、王梅が林東との間で交わしたもう一つの契約の行方は・・・?
2013(平成25)年1月7日記