五人の娘(五朶金花/Five Golden Flowers)(中国映画・1959年) |
<シネ・ヌーヴォ>
2013年1月2日鑑賞
2013年1月7日記
雲南省の大理を舞台とした金花と名乗る白族の美しい娘をめぐる、中国版「君の名は?」は意外にミステリアスな展開に?その多くはスレ違いが原因だが、そこには若い娘たちの嫉妬心も・・・。革命歌劇『白毛女』はOKだったが、文化大革命中、本作は「大毒草」とされたが、この程度で「資本階級のムードを宣伝する大毒草」に?そんな新生中国50年の歴史を考えながら、雲南版青春賛歌の楽しさをタップリと・・・。
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監督:王家乙
金花(人民公社の副社長、白族の娘)/楊麗坤
金花(製鉄所で働く、白族の娘)/王蘇婭
金花(トラクター運転手、白族の娘)/朱一錦
金花(牧場で子牛の世話をしている、白族の娘)/譚暁中
金花(湖のほとりで肥料の水草をとっている、白族の娘)/孫静貞
阿鵬(隣街の若い男)/莫梓江
画家/黄鐘
音楽家/閻傑
おせっかいおじさん/張雄
おじいさん/李文偉
製鉄所組長/王春英
小花/楊桂珍
小仙/李月娥
漁女/趙羽青
女性歌手/黄虹
1959年・中国映画・95分
配給/
<雲南省旅行の経験が大きなバックに!>
中国には多くの少数民族がいるが、その多くは雲南省や広西チワン族自治区に住んでいる。私は2004年11月28日から12月5日に「昆明、麗江、大理、雲南省大周遊8日間の旅」に出かけたが、昆明のペー族、ナシ族、ハニ族、麗江のナシ族、大理のペー族などはそれぞれ美しい民族衣装に身を包み、それぞれの伝統的な生活文化を守っていた。もっとも民族衣装を着た美しい娘さんたちとの写真撮影はすべて有料になっていたから、そこには観光化の弊害も顕著だったが、本作は1959年当時の大理の白族の美しい娘、金花(楊麗坤)を中心とした青春映画。いわば私の中学生時代、1960年代当初に観た日活青春映画と同じようなタッチの、とにかく明るくて楽しいもの。さらに、時代が新中国建国から10年後の1959年、文化大革命に入る数年前という最も中国が前向きに傾いていた頃の青春映画であることを強調するかのように、金花と金花に惚れる隣村の若者阿鵬(莫梓江)とのミュージカル仕立ての歌のかけあいから始まるところが面白い。
白族の娘である金花の住む街では三月街のお祭りが毎年のお楽しみ。そこで行われる恒例の競馬競技に参加した若者阿鵬はそこで出会った金花にひと目ボレ。美しい胡蝶泉のほとりで互いの気持ちを歌で語り合い翌年の三月街での再会を約束した阿鵬は、今画家の黄鐘、音楽家の閻傑と共に再び金花の住む街を訪れていた。ところが何とこの街の人民公社には金花という名の娘が100人あまりもいるらしい。これでは目的の金花を探すのは大変だが、阿鵬の愛がそんな障害に負けるはずはない。さて、昨年確かに自分の目で確かめた白族の美しい娘金花はこの街のどこで何を?白族の民族衣装はスクリーンで観るだけでも美しいが、本作をより一層楽しむことができたのは、2004年の雲南省の旅のおかげ。やはり何ゴトも「百聞は一見に如かず」だと、あらためて痛感!
<新鮮で意外なストーリー展開をじっくりと!>
『ロミオとジュリエット』は互いに一目ボレしながらちょっとした情報の行き違いによって大変な結果をひきおこしてしまったが、金花という名前だけを頼りに翌年再び街にやってきた阿鵬はまず湖のほとりで肥料の水草を取っている娘が金花だと聞き、そこに駆けつけると、それは同名の別人だった。金花が100人もいればお目当ての金花を探しあてるのは大変だが、それでも狭い街のことだから、一人一人しらみつぶしに訪ねていけば何とかなるのでは・・・。きっと現実はそうだろうが、それでは映画としては何の面白みもないことになってしまう。日本では戦後菊田一夫原作の『君の名は』が大ヒットしたが、そこでは東京の数寄屋橋で偶然出会った氏家真知子と宮春樹の2人が互いの名前を名乗らないまま半年後の再会を約束したため、さまざまな問題が生まれることになった。同作で有名になったフレーズが「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」だが、本作の場合は2人の再会にそれほどの困難はないはずだ。
ところで、本作は、近時の複雑に入り組んだステリー小説も顔負けなほど(?)、阿鵬が人民公社の副社長をしている本命の金花と運命の再会を果たすことについていろいろな邪魔を入れている。もちろん、それはちょっとしたスレ違いが多いから罪のないものだが、ストーリーの1つの軸になるのはトラクターの運転手をしている金花とこの金花と結婚した若者のちょっとした嫉妬心。何をわざわざ話をややこしくしているの?と思わないでもないが、いつの時代でも男と女の求め合う気持とそれがさまざまな障害の中で入り組むサマはこんなもの。その新鮮で意外にミステリアスなストーリー展開にビックリしつつ、それをじっくり楽しみたい。
<かつてはこの映画も「大毒草」・・・?>
同じ日に観た『白毛女』は、8つの『様板戯』(模範劇)、『紅色経典』(共産主義模範作品)の1つとして、1966年から77年に展開された文化大革命中も上映が許可されたらしい。しかしネット情報によれば、周恩来総理も絶賛し、主演女優の楊麗坤を2度も外国旅行に連れていったという本作は、文化大革命の中では資産階級のムードを宣伝する「大毒草」とみなされ、原作者の趙季康は大迫害を受けたらしい。また楊麗坤も迫害されて心身共にふみにじられる中、精神錯乱状態になったうえ、2000年に58歳で死亡したらしい。
本作には前述した3人の金花の他、製鉄所で働く金花、牧場で子牛の世話をしている金花という計5人の金花が登場するが、なぜ本作が大毒草とみなされるの?阿鵬が金や美貌を武器に本命の金花を含む5人の金花を次々とモノにしていくというストーリー展開なら「資産階級のムードを宣伝する大毒草」と批判されるのもわかるが、この程度の青春賛歌の映画でも文化大革命の時の毛沢東の芸術基準に従えば大毒草に?そう考えると文化大革命の恐ろしさにゾッとするが、本作はそんな時代を乗り超えて2000年に行われた全国百年の最優秀映画の選定過程ではトップテンに選ばれたそうだから、そんな本作の楽しさをじっくりと・・・。
2013(平成25)年1月7日記