ヒッチコック(アメリカ映画・2012年) |
<GAGA試写室>
2013年2月26日鑑賞
2013年2月28日記
ヒッチコック監督って誰?そんなことを言う人は観ても仕方ないが、『サイコ』(60年)や『鳥』(63年)を観て大ショックを受けた人には本作は必見!『サイコ』は、そしてあの「シャワー・シーン」はこんな風につくられたのか・・・。アンソニー・ホプキンスがいい。ヘレン・ミレンがいい。ドキュメンタリーでは「この味」は絶対出なかったのでは!そこで見えてくるのは、ヒッチコックも偉かったが、やっぱり男は女房次第ということ・・・。
本文はネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!
読まれる方はご注意ください!!
↓↓↓
監督:サーシャ・ガヴァシ
原作:スティーヴン・レベロ『ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ』改訂新装版(白夜書房刊)
アルフレッド・ヒッチコック/アンソニー・ホプキンス
アルマ・レヴィル(ヒッチコックの妻)/ヘレン・ミレン
ジャネット・リー(『サイコ』のヒロイン)/スカーレット・ヨハンソン
ウィットフィールド・クック(脚本家)/ダニー・ヒューストン
ペギー・ロバートソン(ヒッチコックの秘書)/トニ・コレット
ルー・ワッサーマン(ヒッチコックのエージェント)/マイケル・スタールバーグ
エド・ゲイン(実在の殺人鬼)/マイケル・ウィンコット
ヴェラ・マイルズ(『サイコ』のヒロインの妹)/ジェシカ・ビール
アンソニー・パーキンス(『サイコ』の主役)/ジェームズ・ダーシー
バーニー・バラバン(映画会社パラマウントの社長)/リチャード・ポートナウ
ジェフリー・シャーロック(映倫検閲官)/カートウッド・スミス
2012年・アメリカ映画・99分
配給/20世紀フォックス映画
<『ロスト・イン・ラ・マンチャ』は中途半端だったが>
構想10年、製作費50億円をかけたテリー・ギリアム監督の『The Man Who Killed Don Quixote』(ドン・キホーテを殺した男)の撮影は、相次ぐトラブルにより、わずか6日間で頓挫してしまったらしい。そして、03年に観た『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(02年)は、そんな映画『The Man Who Killed Don Quixote』(ドン・キホーテを殺した男)の撮影現場や舞台ウラを描いた映画だった(『シネマルーム3』183頁参照)。言ってみれば、『ロスト・イン・ラ・マンチャ』は『ドン・キホーテを殺した男』の撮影現場の姿をそのまま描き、これにコメントをつけただけの作品だったから、同じような作品としては映画撮影の現場をダイナミックに描いた邦画の傑作『蒲田行進曲』(82年)の方が断然面白かった。
しかして、ヒッチコック監督の名作『サイコ』(60年)の撮影風景に焦点を当てながらヒッチコック監督自身を描いた本作は?本作はヒッチコックと交流の深いスティーヴン・レベロの『ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ』を原作としたものだから、ドキュメンタリー映画とすることも可能だったが、それでは面白くない(?)ため、何とアンソニー・ホプキンスをヒッチコック役に起用!大監督の伝記映画になると、またあまり面白くないものだが、さて本作は?
<伝説のシャワー・シーンは、どの女優が?>
ヒッチコックは54本の映画を監督しているが、『サイコ』はヒッチコック最高のヒット作で、2012年、アメリカ映画協会がまとめたアメリカ最高の映画リストで18位になった名作。その『サイコ』で最も有名なシーンは、ヒッチコック監督好みの金髪女優ジャネット・リーが残忍に殺されるシャワー・シーン。その3分間のシャワー・シーンを撮影するために6日間もかかったらしい。そしてこれは、「ジャネットに迫真の悲鳴をあげさせるためにヒッチコックが氷のように冷たい水を使った」とか(これはウソ)、「このシーンで彼女が殺されることを、ヒッチコックが彼女には秘密にしていた」とか(これもウソ)、このシーンにまつわるさまざまな「伝説」が今日まで語り継がれているほど有名なシーンだ。
ヒッチコックは金髪女優が大好きだったことやその理由も本作を観てはじめてしっかり理解することができたが、当時ヒッチコックと最も「良い関係」を保っていた金髪女優ジャネット・リーを、本作ではどの女優が演じるの?それは私にとってはヒッチコックを誰が演じるかと同じくらい重要なポイントだったが、それはスカーレット・ヨハンソン。なるほど、なるほど、こりゃドンピシャ!
<なるほど、やっぱり男は女房次第・・・>
『サイコ』のシャワー・シーンは世界的に有名だが、ヒッチコックが仕事の上でも家庭の上でも愛妻アルマ・レヴィル(ヘレン・ミレン)に支えられていたことは、よほどのヒッチコック・ファンでなければ知らないはず。しかし本作を観れば、ヒッチコックも大阪の「王将」坂田三吉をはじめ(?)世の中の多くの成功した男と同じように、女房によって支えられていたことがよくわかる。そんな女房アルマを演ずるのはアンソニー・ホプキンスと同じくイギリスを代表するベテラン女優ヘレン・ミレン。ヒッチコックが金髪美女にうつつを抜かすことにずっと耐えている妻の姿や、逆にアルマが脚本家のウィットフィールド・クック(ダニー・ヒューストン)と共同の脚本作りに喜びを見出していることにヒッチコックが嫉妬する姿を見ていると、こんなセレブでも夫婦の嫉妬心のあり方は世の中一般の夫婦と何ら変わらないことがよくわかる。
本作でヒッチコック役を演じるアンソニー・ホプキンスを見ていると、シャワー・シーンの演出指導ではその激しさに驚くし、監督という仕事へのこだわりは「やっぱり」と思わせる演技力を示している。しかし、逆に「家庭人」としては意外に平凡で、どちらかというとだらしないダメ男という感じもうまく示している。それに対して、「妻なら全力でサポートしろ」とヒッチコックから言われた時に「過去30年、私は陰で耐えてきた。何年ぶりかで自分の仕事を楽しんで、非難される覚えはないわ!」と猛然と切り返すヘレン・ミレンの演技は迫力いっぱい。また、完成した『サイコ』が第1回関係者試写会で酷評され、落ち込むヒッチコックに対して、「解決策は一つよ。また、あなたと組むの」と宣言して「再編集」に取り組むアルマの姿は圧巻だ。ヘレン・ミレン演ずるこんなアルマを見ていると、なるほど、やっぱり男は女房次第・・・。
<今年も第85回アカデミー賞が発表されたが・・・>
今年も去る2月24日に第85回アカデミー賞が華々しく発表され、作品賞はベン・アフレックが監督・主演した『アルゴ』(12年)が、監督賞は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(12年)の李安(アン・リー)が受賞した。アカデミー賞の主演男優賞になかなか縁がないのがレオナルド・ディカプリオだが、アカデミー賞の監督賞に生涯、縁がなかったのがアルフレッド・ヒッチコック。『レベッカ』(40年)では作品賞、主演男優賞(ローレンス・オリヴィエ)、主演女優賞(ジョーン・フォンテイン)を受賞しながら監督賞はなしだったし、『ダイヤルMを廻せ!』(54年)、『裏窓』(54年)、『めまい』(58年)、『北北西に進路を取れ』(59年)、『サイコ』(60年)、『鳥』(63年)、『マーニー』(64年)等々すばらしい作品をいくつも世に送り出したのに、一つもアカデミー賞監督賞の受賞がないというのは実に不思議な話だ。
ヒッチコック監督の全盛時代は1950年代~60年代で、彼が死亡したのは1980年。したがって、没後既に30年以上経っているから若い人たちは彼のことをあまり知らないかもしれないが、「サスペンスの巨匠」と称えられているし、テレビでは何度もその作品が放映されているから、今なおその人気は健在だ。昭和の大横綱と称えられ、ヒッチコック監督と同じ1960年代に大活躍した大鵬(大鵬幸喜)が去る1月19日に死去した後、2月25日に国民栄誉賞が与えられたが、考えてみれば本来これは生前に与えられるべきものだ。それと同じように、少し異端派だった(?)かもしれないが、映画界に偉大な功績を残したアルフレッド・ヒッチコック監督には、今からでも遅くはないので本作を契機としてアカデミー賞は何らかの「特別賞」を授与すべきでは・・・。
2013(平成25)年2月28日記