後宮の秘密(韓国映画・2012年) |
<GAGA試写室>
2013年3月27日鑑賞
2013年3月30日記
王位継承をめぐる「毒殺」絡みの権力闘争はどこでも同じだが、本作は先王の愛妾をめぐる確執をテーマにしたところがミソ。「あまりにも脱ぎすぎ」「また脱いだ」との批判も何のその、美人女優チョ・ヨジョンの美しい肢体が全編のストーリーをリードするが、「伊達騒動」と同じように毒味役が血を吐いて倒れると・・・?「女は弱し、されど母は強し」のことわざがしっかり確認できること受け合いだが、それ以上に「女は恐ろしい」という実感が・・・。
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監督:キム・デスン
ファヨン(ソンワン先王の側室)/チョ・ヨジョン
ソンウォン大君/キム・ドンウク
クォニュ(ファヨンの元恋人、宦官)/キム・ミンジュン
大妃(ソンウォン大君の母)/パク・チヨン
クモク(ファヨンの侍女)/チョ・ウンジ
キム・ゲジュ(内侍監)/イ・ギョンヨン
薬房内侍監/パク・チョルミン
シン参判(ファヨンの父親)/アン・ソクファン
ユン・ジョンホ(大妃の側近)/チョ・ギワン
ソンワン(ソンウォン大君の異母兄)/チョン・チャン
2012年・韓国映画・122分
配給/ツイン
<この顔は、若い頃の古手川祐子・・・?>
「あまりにも脱ぎすぎ」「また脱いだ」等の批判もありながら、美人女優チョ・ヨジョンの大胆なラブシーンを売り物(?)に韓国で大ヒットしたのが本作。iPadの中国語字幕版ではほとんどカットされていたチョ・ヨジョンの数々の「濡れ場」を大スクリーン上で堪能できたのはラッキーだった。
冒頭に見る恋人のクォニュ(キム・ミンジュン)とのベッドシーンや、クライマックスに見るソンウォン大君(キム・ドンウク)とのベッドシーンは、『ラスト、コーション(色、戒/LUST,CAUTION)』(07年)とまではいかない(『シネマルーム17』226頁参照)が、日本でR-18指定にされたのは当然というかなりのレベル。そんなベッドシーンの数々を、私の目には若い頃の古手川祐子そっくりの美人女優チョ・ヨジョンが見せてくれるのだから、それだけで本作の評価はうなぎのぼり・・・。
<ソンウォン大君の悩みの大きさと深さは?>
豊臣秀吉の養子だった豊臣秀次は関白まで登りつめながら、淀君との間に秀頼が生まれると疎外され、結局28歳という若さで切腹させられることになった。このように、国家の最高権力者の跡目相続をめぐって血なまぐさい権力闘争が展開されるのは世界共通だ。小さい頃ソンワン王(チョン・チャン)の異母弟として肩身の狭い思いをしていたソンウォン大君は、ソンワン先王が逝去すると新しい王に。
もっとも、ソンワン先王の死亡はソンウォン大君の母親・大妃(パク・チヨン)とその側近ユン・ジョンホ(チョ・ギワン)らの陰謀によるものだったから、その後の政治の実権はソンウォン大君ではなく大妃が握ることに。そのため、ソンウォン大君の仕事はもっぱら子作りに励むことだけになってしまったのは皮肉。そのうえソンウォン大君が一目ボレしていた女が、「この世のすべての女性を手にいれられるのに、ただ一人決して手を出すことのできない」先王の愛妾ファヨン(チョ・ヨジョン)だったから、ソンウォン大君の悩みは大きくかつ深かった。プレスシートでキム・ドンウクは「ソンウォンの感性と悩み、その心理状態が一番酷似しているのは『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンが演じたキャラクターのように思っています。」と語っているが、なるほど、なるほど・・・。
<この毒殺事件の犯人は誰だ!>
日本ではお殿サマには「お毒味役」がついていたから、山本周五郎の小説『樅ノ木は残った』で有名な、江戸時代前期に仙台の伊達藩で起きたお家騒動である「伊達騒動」のような藩主の毒殺事件はめったに起こらなかった。しかし韓国では、日本と同じように毒味役の女官がついていたにもかかわらず、朝鮮王朝の第15代王・光海君を主人公にした『王になった男』(12年)を見れば、光海君がいかに毒殺を恐れていたかがよくわかる。
しかして、本作では、ファヨンの父親であるシン参判(アン・ソクファン)はソンワン先王に対する「毒殺の疑いあり」との嫌疑をかけられて処刑されてしまったが、ファヨンが集めた情報によれば、その毒殺を画策した犯人こそまさに大妃とその側近ユン・ジョンホだったから、ファヨンの大妃に対する怨みは相当なものに。ところが、ムリヤリ恋人のクォニュと別れさせられたうえ、イヤイヤ後宮に入ったファヨンは、ソンワン先王最愛の側室として男子を産んでいたから、ソンワン先王の時代からソンウォン大君の時代に変わると、彼女の立場が一層厳しいものになったのは仕方ない。そんな中、ファヨンは何とか大妃への反撃、復讐を考えていたが、いかんせん女一人の力では・・・。
<兄王が毒殺なら、ソンウォン大君も・・・?>
大妃は自分の政治的野望をいちいちソンウォン大君に相談することなく独断専行していたから、政治面においては操り人形、家庭面においては子供を産ませるためのセックスマシンと化していたソンウォン大君は面白くない。そんな中、大妃とソンウォン大君との間に大きな隙間風が吹き始めるとともに、ソンウォン大君がホレている女がこともあろうにソンワン先王の愛妾ファヨンであることがわかると、大妃が激怒したのは当然だ。しかして、大妃とソンウォン大君との「対立が」が極限まで達してくると、またしても大妃はソンウォン大君の毒殺を画策?いやいや、小さい時からずっと立場の弱い我が子を守ってきた大妃がいくら何でも・・・。誰でもそう思うはずだが、今は宦官として宮廷内に仕えているクォニュがソンウォン大君の毒味をした直後に血を吐いて倒れたから大変!さあ、この毒殺未遂事件の犯人は誰だ!ソンウォン大君は怒りに狂いながら自らの手で犯人を探っていくと、そこに浮上してきたのが実の母親の大妃。そんなバカな!と思いつつ、関係者を集めた中でクォニュに自供させてみると・・・。
罪刑法定主義が確立され、厳密な証拠法則が確立された現在でも殺人未遂事件の真犯人を発見するのは難しいのだから、この時代の韓国の後宮で王一人の捜査によって毒殺未遂事件の犯人をあぶり出すのは至難のワザ。本作ラストにかけての展開を見ていると、そのことがハッキリとわかるはずだ。
<いくら美人でも、やっぱり女は恐ろしい!>
本作で母親の大妃に甘える(?)ソンウォン大君の姿や、ファヨンにむしゃぶりつく(?)ソンウォン大君の姿を見ていると、男は何とさびしがりやでかつ単純な動物か、と思ってしまう。それに対して、平然とソンワン先王を毒殺したうえ、その責任をファヨンの父親シン参判に転嫁したり、ソンウォン大君を新王に据えて実権を握った後もさらに粛清を加速させていこうとする大妃の姿を見ていると、女の権力欲の凄まじさと女の恐ろしさがよくわかる。それに対して、最初に恋人のクォニュを失い、続いて夫のソンワン先王も失ったファヨンは、か弱いかわいそうな一人の女性。そう思っていると、何の何の、「女は弱し、されど母は強し」のことわざどおり、幼い世継ぎの命だけは何としても守り抜くと決意したファヨンが後半からクライマックスにかけて展開していく「権謀術策」(?)は大妃以上に恐ろしいから、それに注目!
面白さを増幅させているストーリーは、ファヨンの父親シン参判によって男性器を切り取られたため、宦官となり、大妃やユン・ジョンホたちの下で働いていたクォニュがファヨンと再会した後、なぜ彼女が後宮に入ったのか知ってからは、ファヨンのために命を投げ出そうとすること。言葉としては「あなたのためなら命も惜しまず、いつでも投げ出します」とは言えても、実際にそれをやるのは至難のワザ。しかし、クォニュの場合は・・・?クォニュがそんな犠牲を払ってくれることをわかった上で堂々と我が道を進み、挙げ句の果てはやっとベッドを共にすることができたと有頂天になるソンウォン大君の命までも・・・。
おっと少し筆が滑りすぎた。前半の可憐で美しいヒロインから、クライマックスで美しいけれども強くて恐い権力者に変容していくファヨンを演ずる美人女優チョ・ヨジョンの姿をあなた自身の目でじっくりと・・・。まったく、いくら美人でもやはり女は恐ろしい!
2013(平成25)年3月30日記