エンド・オブ・ホワイトハウス(アメリカ映画・2013年) |
<アスミック・エース関西支社>
2013年5月10日鑑賞
2013年5月13日記
訪米した韓国の朴槿惠大統領の議会での演説が注目されたタイミングで、本作の試写を!訪米した韓国首相を射殺し、合衆国大統領を人質にした北朝鮮のテロリストの要求は・・・?制圧されたホワイトハウス内に潜入した元シークレットサービスは「約束する。必ず救出する」と宣言したが、さてその孤独な戦いは?ありえない想定(?)をいかにスペクタクル・エンタテインメントとして構成?それが本作のポイントだが、いやいやこれは現実にも想定可能?観客にそう思わせたら、本作は大成功だが・・・。
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監督・製作プロデューサー:アントワーン・フークア
マイク・バニング(元大統領付きのトップシークレットサービス)/ジェラルド・バトラー
アラン・トランブル(下院議長)/モーガン・フリーマン
ベンジャミン・アッシャー(合衆国大統領)/アーロン・エッカート
リン・ジェイコブズ(シークレットサービス長官)/アンジェラ・バセット
フォーブス(元シークレットサービス)/ディラン・マクダーモット
ルース・マクミラン(国防長官)/メリッサ・レオ
マーガレット・アッシャー(大統領夫人)/アシュレイ・ジャッド
カン(韓国首相に付き添う警備責任者、テロリスト集団のリーダー)/リック・ユーン
エドワード・クレッグ(将軍)/ロバート・フォスター
リア・バニング(バニングの妻)/ラダ・ミッチェル
2013年・アメリカ映画・120分
配給/アスミック・エース
<よくぞこんな邦題を!そして何とタイムリーに!>
北朝鮮の建国の父、金日成の生誕101周年となる4月15日を軸として、北朝鮮の実権を握った3代目、金正恩がミサイルを発射する可能性や南北の武力による「聖戦統一」に走るのではないか、という可能性が強まり、韓国、日本そして米国はこれに大きく反応した。今のところ、その現実的な危機は薄れたようだが、さて・・・?
他方、5月8日には新しく大統領に選出された韓国の朴槿惠大統領が訪米し、アメリカ議会で「挑発は絶対に成功しない」などと述べて北朝鮮に核開発の放棄と対話を呼びかけるとともに、「日本は正しい歴史認識を持たなければならない」と述べたことが大きなニュースになった。流暢な英語によるその演説ぶりは堂々たるもので、多くの議員から盛んな拍手を浴びていたが、小泉純一郎元首相ですら未だアメリカ議会で演説していないことを考えれば、韓国とアメリカとの蜜月ぶりがよくわかる。アメリカにしてみれば、頼りない日本の自衛隊よりも韓国軍の方が命を賭ける相手として信用できる、ということなのかも・・・。そんな政治状況下で公開されようとしているのが本作だ。
訪米した韓国の首相がホワイトハウスの大統領執務室でベンジャミン・アッシャー大統領(アーロン・エッカート)と会見中、武装テロ集団によってホワイトハウスが襲撃。アッシャー大統領と韓国首相らは地下の危機管理センター、通称「バンカー」に逃避したものの、首相に付き添っていた警備主任カン(リック・ユーン)が突如テロリスト集団のリーダーたる本性を暴露して首相を暗殺するとともに、アッシャー大統領やルース・マクミラン国防長官(メリッサ・レオ)らを人質に。さあ、このテロリスト集団の正体は?彼らの要求は?そして、彼らに制圧されたホワイトハウスは?大統領は?本作の原題は『OLYMPUS HAS FALLEN』だが、邦題はもっと露骨な『エンド・オブ・ホワイトハウス』。よくぞこんな邦題を!そして、何とタイムリーにこんな映画を!
<空からのリアルさは?陸からは?>
近時日中の緊張感が高まっている尖閣諸島では、連日中国の海洋監視船「海監」と日本の海上保安庁の巡視船が角を突き合わせているが、4月23日に発生した中国空軍機40機超の飛来にはビックリ。そのため、自衛隊機F15によるスクランブル発進が急激に増えている。しかし、さすがに東京の首相官邸の上空を身元不明の飛行機が飛ぶという事態は発生していない。身元不明機が領海、領空を越えて日本に侵入してきた場合、当然自衛隊機がスクランブル発進し、場合によれば首都に近づく前に撃墜してしまうはずだから、現実的にはそんな危険は想定できないはずだ。
しかして、本作のまず第一の想定は、身元不明の1機の大型輸送機がワシントン上空に侵入してきたところから始まる。途中、輸送機は警告を発した米軍戦闘機2機をガトリング砲で撃墜しながらアッシャー大統領が韓国首相と会談しているホワイトハウスに向かったから、大変。しかし、ホワイトハウスに設置された地対空ミサイルによる迎撃はかわされたものの、何とか到着した米軍エアフォースからのミサイルがヒットし、輸送機はワシントン記念塔に激突、墜落したからひと安心。そう思った途端、攻撃の第2幕はホワイトハウスのフェンス近くにいた2人の観光客の自爆によって門が破壊されると同時に、得体の知れない武装集団がホワイトハウス内に突入したところから始まった。ホワイトハウスの警備員や本作の主人公マイク・バニング(ジェラルド・バトラー)が元所属していたシークレットサービスは徹底抗戦したが、綿密に計算された奇襲作戦とよく統率された行動力によってわずか13分でホワイトハウスは制圧されることに。これは、「ホワイトハウス有事」への対応は15分間かかるとされていたマル秘情報を、テロリストたちが熟知したうえでの計算されつくした行動だったことは明らかだ。
この手の映画は何よりもリアルさが大切。いくら構想が面白くても、「ホワイトハウス制圧」にリアルさがなければ、『エンド・オブ・ホワイトハウス』という邦題は白けてしまうはずだ。その点、私の目には陸からの攻撃はなるほどと納得できるリアルさだが、空からの攻撃はイマイチ・・・?UFOがはるか上空から降り立ってきたのならともかく、こんな巨大な輸送機がワシントン上空に突然現われるなんてことは、いくら何でもありえないのでは・・・?
<テロリストたちの要求は?その狙いは?>
本作のメインは、後半から見るバニングによる大統領の奪回作戦の展開。ホワイトハウス内を熟知するかつて大統領側近だったシークレットサービスのバニングは、まずかくれんぼのようにホワイトハウス内のどこかに隠れているはずの大統領の一人息子コナーを救出。続いて大統領を奪回するべくカンとの対決に臨むわけだが、その際必要なのはテロリストたちの情報だ。大統領執務室に潜入したバニングは武器と共に必要な通信手段を充当し、副大統領が死亡、大統領も人質となっている今、アメリカ合衆国の大統領代行として指揮を執る下院議長アラン・トランブル(モーガン・フリーマン)やシークレットサービス長官リン・ジェイコブズ(アンジェラ・バセット)らと連絡を取り合いながら、ただ一人孤独な戦いを展開していくことに。
テロリストたちが北朝鮮の武装勢力であることはすぐに判明したが、トランブル下院議長らが集合する米国国防総省、通称「ペンタゴン」の会議室にはそれ以上の有力な情報はなし。したがってたった一人潜入しているホワイトハウス内からそれを探り伝えるのがバニングの役目だが、他方バニングが大統領を奪回するためには、テロリストたちの要求を明確に把握する必要がある。エドワード・クレッグ将軍(ロバート・フォスター)からは、信頼されているシークレットサービスでありながら大統領夫人マーガレット・アッシャー(アシュレイ・ジャッド)を死に追いやるという失敗をしでかし、その後は閑職に追いやられたはずのバニングを信頼できないとの声もあがったが、「バニングは信頼できる男です」というジェイコブズ長官の意向を受けたトランブル下院議長は断固それを却下。すべての情報をバニングに伝え、大統領と合衆国の命運をバニングに委ねることに。テロリストたちの要求は、①日本海域に停泊している米軍第7艦隊の撤退、②韓国と北朝鮮の間にある軍事境界線周辺(非武装中立地帯)から28,500人の米軍全員を撤収させること、だが、そんなことを認めたら韓国は72時間以内に北朝鮮の手に落ちることは明らかだ。さあ、この要求に対するトランブル下院議長の対応は?
<「米国はテロリストとは交渉しない」、はずだが?>
カンが韓国首相はあっさり銃殺したのに、合衆国大統領は殺さず人質にしたのはなぜ?それは第1に自分たちが攻撃されないための担保とするため。第2に人質の解放を条件に自分たちの要求を認めさせるためだ。すると、大統領代行となったトランブル下院議長が人質となった大統領(の命)を見限りさえすれば、第1の目的も第2の目的も達成できないことになるから解決は簡単。しかも、常々「米国はテロリストとは交渉しない」と言っていたはずだ。
そんなリアリズムの立場(?)に立てば、「大統領の息子コナーがテロリストの手に落ちれば大統領はテロリストの要求に屈服せざるをえないだろう」とのトランブル下院議長の発言はいかがなもの?また、カンが核爆弾作動コードを入手するべく、そのコードを知るマクミラン国防長官たちに多少の暴力行為(?)を伴いながらの尋問(?)を加えただけで、大統領が安易に(?)コードをバラす許可を与える様子を見ていると、これもいかがなもの?と思わざるをえない。核爆弾作動コードがテロリストたちの手に渡ればアメリカ合衆国全体が吹っ飛ぶのだから、そのリスクに比べれば大統領や国務長官たち側近の命は軽いもの。人質にはかわいそうだが、その犠牲を覚悟でテロリストたちを制圧するべく強行突入を!私情を排してそう命令するのが大統領代行たる下院議長の使命であるはずだし、それこそが「米国はテロリストとは交渉しない」というスタンスに合致するものだが、さて本作は?
それではシークレットサービスのバニングを主人公としたスペクタクル・エンタテインメントとしての本作が成り立たないこともわからないではないが、本作のそこらあたりのつくりは少し甘いのでは・・・?
<この「裏切り者」の要否は?>
『ダブル・ジョパディー』(99年)(『シネマルーム1』38頁参照)で私が大好きになった女優アシュレイ・ジャッドが、冒頭のシークエンスだけであっけなく死んでしまうのは少し残念だが、それは映画の構成上仕方なし。また、本作では人質になるだけのアッシャー大統領より、下院議長としてアメリカの危機に対応するトランブル下院議長の存在感の方が大きくなるのも仕方なし。さらに、本作では狙いどおりバニングが終始一貫していい味を出しながらスペクタクル・エンタテインメントの主役をこなしているし、テロリストのリーダーたる敵役のカンも冷酷な味をうまく出し、バニングと好対照をなしている。そこで私が疑問に思うのは、かつてバニングと同じチームを組んでおり、今回は韓国首相の警備担当をしていたフォーブス(ディラン・マクダーモット)の本作における役割だ。
フォーブスは韓国首相やアッシャー大統領たちと共に「バンカー」内に入ったが、そこでカンが本性を暴露するとフォーブスもそれに呼応する行動を見せたから、これには大統領たちはビックリ。まさか、シークレットサービス内部に裏切り者=テロリストとの通謀者がいたとは・・・。そこでのフォーブスとアッシャー大統領との短い会話にも注目だが、いくら何でも現役のシークレットサービスと北朝鮮のテロリストとの事前の共謀とは現実離れしており、ありえないのでは?というのが私の感想だ。ホワイトハウス内で一人孤独な戦いを展開しているバニングが突如フォーブスと出くわすシーンもストーリーとしては面白いが、そこで旧交を温め(?)油断する想定にすれば、いくらバニングが強くてもすぐにフォーブスに殺されてしまうはず。たまたまフォーブスがカンの名前を口に出したことによってバニングの頭の中に「?」の信号が点火し、逆にフォーブスはバニングに殺られてしまうのだが、最後にフォーブスが見せる反省(?)も少し不自然。そんなあれこれを考えると、本作におけるこの「裏切り者」の要否は?
2013(平成25)年5月13日記