ワールド・ウォーZ(アメリカ映画・2013年) |
<TOHOシネマズ梅田>
2013年8月17日鑑賞
2013年8月21日記
バンパイア映画もゾンビ映画もさすがに飽きてきたが、ブラッド・ピットがレオナルド・ディカプリオと争ってまで映画化した本作は?『28日後...』(02年)、『28週後...』(07年)に連なるゾンビ映画正統派の系譜と、本作での新たなアイデアには一見の価値がある。しかし、家族の絆の強調(しすぎ)はいかがなもの・・・?また、韓国、イスラエルという米国の同盟国が舞台になるのに、日本が全く登場しないのはなぜ?まあ日本の現状を考えると、米国からこの程度に見られるのは仕方ないかもしれないが・・・。
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監督:マーク・フォースター
原作:マックス・ブルックス『ワールド・ウォー・ゼット』(文藝春秋刊)
ジェリー・レイン(元国連捜査官)/ブラッド・ピット
カリン・レイン(ジェリーの妻)/ミレイユ・イーノス
セガン(在イスラエル軍人)/ダニエラ・ケルテス
ティエリー(国連事務次長)/ファナ・モコエナ
レイチェル・レイン(ジェリーの長女)/アビゲイル・ハーグローヴ
コニー・レイン(ジェリーの次女)/スターリング・ジェリンズ
スピーク(米軍特殊部隊員)/ジェームズ・バッジ・デール
空挺部隊員/マシュー・フォックス
バート・レイノルズ(元CIAエージェント)/デヴィッド・モース
2013年・アメリカ映画・116分
配給/東宝東和
<本作のゾンビの特徴は?>
バンパイヤ映画と並んで最近はゾンビ映画も多いが、70年代に流行ったゾンビ映画と明らかに一線を画し、新たなゾンビ映画(の面白さ)を確立させたのは、『28日後...(28DAYS LATER)』(02年)(『シネマルーム3』236頁参照)と、その続編たる『28週後...』(07年)(『シネマルーム18』364頁参照)だった。そこに登場するゾンビは、狂暴でスピード感にあふれていた。したがって、そんなゾンビが群れとなって押しかけてくると、もうお手上げ。ゾンビに噛みつかれた人間は次々と感染し、新たなゾンビに・・・。
妻のカリン・レイン(ミレイユ・イーノス)を助手席に、長女のレイチェル・レイン(アビゲイル・ハーグローヴ)と次女のコニー・レイン(スターリング・ジェリンズ)を後部座席に乗せたジェリー・レイン(ブラッド・ピット)の車は今交通渋滞に巻き込まれていたが、この渋滞ぶりはちょっと異常!「お盆休み」の渋滞なら交通情報でその程度が知らされるが、今はラジオのニュースもない。そんな中、猛スピードで暴走してきたトレーラーのため大混乱に陥った現場に、ウイルスに感染したゾンビたちが群れをなして押し寄せてきたから大変!元国連捜査官だったジェリーはそんな中でも冷静にゾンビの動態を観察し、噛まれた後12秒間で人間はゾンビに変わることを発見したが、今そんな「知見」を得て何の役に立つの?
冒頭に見る群れをなしたゾンビは『28週後...』と同じような狂暴性とスピード感が特徴だが、さて本作のゾンビには、その他どんな特徴が?それは音に反応することだ。つまり、本作のゾンビは音を立てなければ動きもスローで行動も穏やかだが、ひとたび大きな音を聞きそれに反応すると・・・。
<発生源は?広がりは?ゾンビ対策の指揮は誰が?>
本作はマックス・ブルックスによって2006年に発表された、感染による終末後を描いた小説『World War Z:An Oral History of the Zombie War』(日本では「ワールド・ウォー・ゼット」として2010年発売)。そこでは、カオスとなった世界を生き残った者たちの記録が、それぞれ一人称で語られるらしい。その原作の映画化権をブラッド・ピットがレオナルド・ディカプリオと争ってまで獲得し、主演したのは、その物語のスケールの大きさに魅かれたためだ。『28日後...』はある「感染症」によって「無人の街」となってしまったイギリスのロンドンと、第42封鎖隊がいるとラジオ放送されたマンチェスターが舞台だった。また『28週後...』も汚染されたロンドンの復旧、復興計画が進む中での「再度の感染者発生!」と「感染者識別不能。全員射殺せよ」というドラマの展開がポイントだった。そこでは、ウイルスを封じ込めるための焼却としてナパーム弾を第1街区に投下するという「決断」が下されたが、本作のスケールはそれとは全く次元の異なる世界的規模だ。
中国で発生したらしい「そのウイルス」は、たちまち爆発的な勢いで世界中に広がっていったらしい。ジェリーが住んでいるフィラデルフィアでの感染が広まったのは今朝からだが、既にアメリカの各地、世界各地はこの感染によってパニックとなり、何とアメリカ合衆国大統領も副大統領も死亡。そのため指揮機能を失ったホワイトハウスに代わって、今は洋上の空母アーガスが国連指揮艦としてゾンビ対策の指揮をとっていた。過去現実に発生したエボラ出血熱やSARS騒動でも、その広がりとそれに対する対策が大問題となったが、本作に見るその広がりは全くの想定外だ。もっとも、国連をゾンビ対策の指令塔にしたのは、ジェリーを元国連捜査官という設定にしたため。しかし、現在起きている「エジプト騒乱」に対する国連の無力ぶり(?)をみれば、本作に見るゾンビ騒動について、ホワイトハウスに代わって国連が指揮を執るというのは、ちょっとムリなのでは・・・?
<ジェリーの任務は?なぜ韓国とイスラエル?日本は?>
本作は後半になって、イギリスのウェールズにあるウイルス研究所が舞台となってスリリングな展開を見せるが、それはネタばれになるので本書では一切触れないことに。ただ、そこではジェリーの自己犠牲も厭わない崇高な精神と実行力が、ある貴重な発見をすることになるので、それに注目!
今ジェリーは、あのパニックの中で携帯にかかってきた国連事務次長ティエリー(ファナ・モコエナ)からの電話によって、家族ともども空母アーガスの中にあった。空母アーガスに結集している優秀なウイルス学者たちは、新たなワクチンを開発するための方策をいろいろと議論していたが、そのためには世界各地から最もホットな情報を集めることが不可欠。そこでティエリーは、かつてエボラ熱などの伝染病の調査に当たり、紛争国で調停役を務めていたジェリーを適任と見込んで呼び寄せたわけだ。そこで与えられたジェリーの任務は、一人の若手学者を連れて韓国の米軍基地に行くこと。それは、感染報告のメールを最初に送信したのが韓国の米軍基地だったためだが、私が不思議に思ったのは、本作では日米安保条約によって強固な同盟関係にある日本の存在感が全くないことだ。
米軍との共同軍事演習もさかんで、今や米軍が日本以上に頼りにしている韓国から、次にジェリーが飛ぶのはアメリカと同じく強固な同盟関係にあるイスラエル。それは、韓国の米軍基地に投獄されていた元CIAエージェントのバート・レイノルズ(デヴィッド・モース)からエルサレムが感染情報をいち早く察知し、「壁」を築いて感染者を遮断したという話を聞いたためだ。そんなストーリー展開を見ていると、日本から空母アーガスにどんな情報が提供されていたのか、さらにこの時日本でのゾンビの広がりはどうなったのか等が全く描かれていないことに、少しイライラ・・・。
<イスラエルの「壁」を考える>
戦後の「東西冷戦」を象徴していた西ドイツと東ドイツの壁が崩壊したのは、中国における天安門事件の発生と同じ1989年。他方、モーゼに導かれた「出エジプト記」以来の悲願であった、ユダヤ人の国家イスラエルが建国されたのは、第2次世界大戦終了後の1948年(1948年5月14日に独立宣言、1949年5月11日に国際連合に加盟)。しかし、その直後からイスラエルとアラブ諸国は、第1次中東戦争(1948~49年)(別名は独立戦争(イスラエル側呼称))、第2次中東戦争(56年)(別名はスエズ危機)、第3次中東戦争(67年)(別名は6日戦争)、第4次中東戦争(73年)(別名は10月戦争、ラマダン戦争(アラブ側呼称)あるいはヨム・キップール戦争(イスラエル側呼称))をくり返し、今もなおその火種は残っている。建国以来ずっとそんな現況下にあるイスラエルでは、ヨルダン川西岸地区に高さ8m、全長約700kmにわたる「分離壁」が建設されている。2002年に開始されたこの工事は2006年4月現在、約400kmが建設済みらしい。その目的は「テロ対策用」とされているが、実際は占領地の一部を併合する形で建設されているため、2004年7月にハーグの国際司法裁判所は占領地での壁の建設は違法との判断を下している。しかして、本作で韓国からイスラエルへ飛んだジェリーが見た巨大な「壁」は、そんなテロ防止用の壁ではなく、ゾンビの襲来を防ぐためのバカ高い壁だ。
そんな壁づくりの指揮をとったのはユルゲン・ヴァルムブルンというモサドの高官だが、韓国に赴いたときのジェリーと若きウイルス学者との会話同様、ここでのジェリーとユルゲンとの会話は興味深い。2人の議論のポイントは、10人が10人言っていることは信用してはダメで、10人のうち1人はあえて違う意見を言わなくてはダメだということ。そんな「異端派」の主張を現実化させたのがゾンビ防止のためにイスラエル全土にめぐらされた高い壁だが、そのおかげで現在イスラエルだけはゾンビの襲来を免れているらしい。漢民族の帝国に異民族が侵入してくるのを防ぐため、中国では秦の始皇帝が紀元前2世紀に「万里の長城」を築いたが、まさにその現代版の「壁」がイスラエルで完成していたわけだ。そう考えると、やはり国家のリーダーたる者に「国家百年の計」を講じる義務があることは明らかだ。
8月8日に観た山崎貴監督の『永遠の0』(13年)のVFX技術は美しかったが、本作における巨大なイスラエルの壁を乗り越えようと群がるゾンビの大群も見モノだ。このシーンは、いわば肩車の大規模バージョン。当初はいくら何でもそりゃムリだろうと思いながら見ていたが、安心しきったイスラエル国民が壁の中で歌え踊れのドンチャン騒ぎをしていると、音に対して反応するゾンビたちのエネルギーは増幅し、遂には・・・。
<後半のパートナーはイスラエルの女性兵士>
今ドキの多くの日本の若者は、イスラエルは「国民皆兵」の国であるばかりか、女性にも兵役の義務があることを知らないだろう。本作後半にジェリーのパートナーとして登場するイスラエルの女性兵士セガン(ダニエラ・ケルテス)の姿は、どこかから与えられた平和の中に浸ってしまい、投票権の重要性すら忘れてしまった、そんな日本の若者(バカ者?)に大きなインパクトを与えるはずだ。遂に壁の中に侵入してきたゾンビによって、イスラエル国民が大混乱に陥る中、ゾンビ退治のヒントをつかんだジェリーは、セガンと共にイギリスのウェールズにあるウイルス研究所を目指したが、ゾンビの攻撃の前にセガンは左腕を噛まれてしまったから大変。そこで瞬時に下したジェリーの処置は、セガンの左腕の切断という荒療治だった。それを敢行したジェリーも立派なら、その痛みとショックに耐えたセガンも立派だ。
ゾンビとの攻防戦の中でウェールズに飛ぶ専用機をダメにされてしまったジェリーとセガンは、たまたまその時飛行場に乗り入れていた大型民間機に無理ヤリ乗り込み、その機をウェールズに向かわせることに成功。しかし、この民間機の中にもウイルスに感染したゾンビが発生したから、さあそれに対する、ジェリーの対処法は?舞台がイスラエルからイギリスのウェールズに向かうシークエンスは私の目にはいかにも唐突で不自然なことが多すぎるが、映画的興奮度は十分。したがって、このシークエンスについてはあえて理屈を考えず、少しバカになって楽しむことが肝要だ。
<家族の絆と社会的任務、どちらが大事?>
本作は「家族」あるいは「家族の絆」を全面に押し出したのが特徴で、元国連捜査官であるジェリーがしぶしぶ今回の任務を承諾したのも、承諾しなければ妻と2人の娘が空母アーガスでの安全なベッドが確保できなくなるかららしい。しかも、全世界の人々を救うためという崇高な任務に出発したジェリーには、妻とプライベートな会話をするための専用の電話が与えられ、当初は毎日のように(?)この電話を使ってラブコールしていたが、そりゃいかがなもの・・・?もちろん、危険な任務に夫を送り出したカリンが夫のことを心配するのは当然だが、心配のあまり電話すると、たまたまその時ジェリーは韓国の米軍基地におり、音に敏感に反応するゾンビの間をぬって飛行機に給油をしていた最中だった。映画を観るときに、携帯の電源をOFFにするのは最低限のマナーだが、元国連捜査官というプロ中のプロであるジェリーがそんな危険な任務に従事している時に携帯が鳴り、これに反応してゾンビが活動し始めたから大変!いくら何でも、ここまで家族の絆を優先するのは、プロ意識に欠けるのでは・・・。
私は別に家族の絆と社会的な任務を互いに矛盾するものと捉えるわけではないが、本作冒頭でかなりしつこく描かれるジェリーと家族の絆や、任務の遂行中でも時々みせる、カリンとのラブコール(家族の絆)はいかがなもの・・・?
<後半からクライマックスにかけての息詰まる展開は?>
本作のような映画はハッピーエンドが約束ゴトだから、ジェリーがフィラデルフィア→空母アーガス→韓国→イスラエル→イギリスのウェールズと活動を広げていく中で、ゾンビ退治のためのヒントをつかみ、特効薬=ワクチンの開発に成功する結末に至ることは目に見えている。ところが、大型の民間ジェット機が不時着する中で、パイロットや乗員全員は死亡したものの、大ケガを負いながらかろうじて生き残ったジェリーとセガンが目標とするウェールズのウイルス研究所を訪れると、そこの所長以下のスタッフはかなり奇妙な雰囲気。傷ついたジェリーの治療はしてくれたものの、互いに疑心暗鬼の中、ジェリーの身の処し方は?
ここから展開される、ウイルス撃滅ワクチン開発に向けてのジェリーのアイデアはユニークだが、ハッキリ言って私たちにはわかりにくい。そのポイントは「毒をもって毒を制す」ということ。つまり、ゾンビの一番強そうなところに同時に弱さが併存しているから、そこをつけばいいということだが、さてそのアイデアとは?ここウェールズのウイルス研究所に、エボラ熱、天然痘等々のウイルス見本が山ほど置いてあるのは当然。毒をもって毒を制するためにジェリーはまずその毒を手に入れなくてはならないが、その保管室がある棟は既にゾンビによって制圧ずみ。さあ、ジェリーはそこにどうやって侵入して毒を入手し、毒を制するのだろうか?
ここでもポイントになるのが、ゾンビは音に反応するという習性だが、このクライマックスにおけるジェリーの活躍ぶりと丁半バクチと全く同じような生死をかけた決断ぶりは、あなた自身の目でしっかりと。
2013(平成25)年8月21日記