トランス(アメリカ、イギリス映画・2013年) |
<GAGA試写室>
2013年9月10日鑑賞
2013年9月13日記
本作のテーマは、ズバリ「記憶の中へ!」。このテーマの難点はメチャ難しいことだ。催眠療法で失くしたキーを発見できたのなら、強奪したゴヤの名画のありかだって、記憶の中をたどれば思い出せるはず。理論的にはそのとおりだが、主人公の頭の中はゴチャゴチャになっているから、その読み解き方は大変だ。しかして、中盤の意外な展開から、ラストの驚愕の結末へ。さすが、ダニー・ボイル監督の手腕とも言えるが、やっぱりちょっと難解・・・?
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監督:ダニー・ボイル
サイモン(アート競売人)/ジェームス・マカヴォイ
エリザベス・ラム(催眠療法士)/ロザリオ・ドーソン
フランク(ギャングのリーダー)/ヴァンサン・カッセル
ネイト(ギャングの一味)/ダニー・スパーニ
ドミニク(ギャングの一味)/マット・クロス
リズ/ワハブ・シーク
2013年・アメリカ、イギリス映画・101分
配給/20世紀フォックス映画
<「魔女たちの飛翔」が消えた日に、ゴッホの名画が!>
本作冒頭は、アート競売人サイモン(ジェームズ・マカヴォイ)のナレーションによって、絵画のオークション・システムと、名画を強奪しようとする悪い奴らからいかにして名画と我が身を守るか、と言うマニュアルが長々しく語られる。その基本はとにかく貴重な絵画を避難させることだが、その時の心得は決してヒーローになろうとしないこと。例えば、強盗から銃を付きつけられ、命の危険がある時などは、率直に名画を差し出せということだ。
ゴヤの傑作「魔女たちの飛翔」が2750万ポンド(約40億円)という高値で競り落とされた瞬間、オークション会場にガス弾が投げ込まれたことによって、参加者が大混乱に陥る中、サイモンは「魔女たちの飛翔」をバッグに入れて地下金庫に向かったが、実はそこには、サイモンの仲間であるギャングのリーダー、フランク(ヴァンサン・カッセル)が銃を持って待ち構えていた。したがって、そこで銃を付けられたサイモンはマニュアルどおりに「魔女たちの飛翔」を差し出すだけという「手筈」だったのに、なぜかサイモンはちょっとした隙を見つけてフランクの首にスタンガンを突きつけたから、フランクはビックリ。怒ったフランクはサイモンの頭を殴りつけてバッグを奪い、外で待っていた仲間のネイト(ダニー・スパーニ)、ドミニク(マット・クロス)と合流したが、なぜサイモンは突如「筋書き」にない行動を・・・?それがちょっとしたハプニングだったら笑い話で済むが、隠れ家に戻ったフランクたちがバッグの中を見たら、そこには額縁だけで肝心の絵が入っていない。さぁ、大変!これはサイモンの仕業に違いないと睨んだフランクは、頭を殴られて意識を失い入院中のサイモンの回復を待つとともに、サイモンの家の中を家探ししたが、「魔女たちの飛翔」は見付からなかった。
奇しくも、9月9日にはゴッホが1888年に描いた「モンマンジュールの日没」がホンモノであることがゴッホ美術館から発表された。そんなめでたい日に、ゴヤの傑作「魔女たちの飛翔」が奪われる映画を観ることになったのも、何かの因縁・・・?
<「記憶」の中へ!こりゃどこかで観たテーマ・・・>
『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)で第81回アカデミー賞監督賞、作品賞等8部門を受賞し(『シネマルーム22』29頁参照)、続く『127時間』(10年)でもアカデミー賞作品賞などにノミネートされた(『シネマルーム26』15頁参照)ダニー・ボイル監督が描く本作のテーマは、ズバリ「記憶」の中へ!つまり、フランクから思い切り頭をどつかれたことによって記憶の一部を喪失してしまい、「魔女たちの飛翔」がどこにいってしまったのかがサイモン自身もわからなくなってしまったため、「魔女たちの飛翔」を捜し出すために、フランクたちはサイモンの記憶の中に入り込まざるをえなくなったわけだ。あった、あった、そんな映画!レオナルド・ディカプリオが主演した『インセプション』(10年)(『シネマルーム25』未掲載)がそうだったし、日本でも『悪夢探偵』(06年)(『シネマルーム13』392頁参照)『悪夢探偵2』(08年)(『シネマルーム22』未掲載)がそんなテーマの映画だった。しかし、この手の映画の欠点(?)はわかりにくいことで、私の採点はいずれも星3つだった。
催眠療法は、依存症からの脱却、苦痛や恐怖のコントロール、減量、更に記憶を甦らせる心理療法の一つとして活用されており、それなりの実績もあることはまちがいない。しかし、ホントにどこまでの効用があるの?何ゴトにも疑い深い私は、サイモンが美人の催眠療法士エリザベス・ラム(ロザリオ・ドーソン)の催眠療法によって、いとも簡単にあれこれと従っていくことにビックリ。エリザベスの話によると、5%の人間は非常に暗示にかかりやすいタイプで催眠療法に適しているそうだが、それってホント?いくら拷問しても口を割らないサイモンを見て、こりゃ催眠療法しかないと判断したフランクは、失くした車のキーを見つけたいと偽ってサイモンをエリザベスのクリニックに行かせたところ、キーの発見に大成功!これなら多少料金がかかっても、催眠療法でサイモンの記憶の中に入り、サイモン自身の口から「魔女たちの飛翔」の隠し場所を吐かせるのが一番。フランクはそう判断したが、どっこいエリザベスも相当なしたたか者だ。サイモンの胸に隠しマイクが付けられているのを発見したエリザベスは、マイクに向かって「聞いている人と話がしたい」と告げ、フランクとの面会が設定されたが、さあそこでエリザベスはどんな要求を・・・?
<同等の立場とは?ここらがちょっと不明確?>
エリザベスがフランクに要求したのは、フランクのパートナーになること。フランクはそれを催眠療法によってサイモンに「魔女たちの飛翔」のありかを吐かせた時の「分け前」の要求だと理解し、その額を3パーセントと提示したが、いくら何でもそりゃケチり過ぎでは・・・?エリザベスが言う「パートナーになること」の意味は「同等の立場になること」だそうだが、本作に少し不満なのは、ここらがちょっと不明確なことだ。フランクがそれを了解したことによって、その日からエリザベスの本格的な催眠療法が始まったが、サイモンの記憶の中に入り込み、「魔女たちの飛翔」のありかを吐き出させることは、エリザベスの能力を持ってしても容易ではなかったようだ。
サイモンが「魔女たちの飛翔」をバッグに隠す時に額縁の中味をナイフで切り取り、それを身体に巻きつけて、バッグには額縁だけを入れたこと、そして、フランクに殴られた後やっと立ち上がって急いで外に出た時、急に掛かってきた携帯電話に出ようとしたところ、若い女性が運転する赤色の車に跳ねられてしまい、そのまま病院に行ったらしいこと、まではうまく吐き出させたが、肝心の「魔女たちの飛翔」の所在までは、なかなか到達できなかった。さあ、ここから先の催眠療法の効用は・・・?
<催眠療法によるエリザベスの支配はどこまで・・・?>
スクリーン上で見る催眠療法を見ていると、エリザベスは思いのままにサイモンの記憶を支配しているようだが、こんなに簡単に人の記憶の中に入り込めるの?サイモンの深層心理の中には、フランク達に対する恐怖つまり「魔女たちの飛翔」のありかを吐いたら「お役ご免」とばかりに殺されてしまうのではないか、という恐怖があることはまちがいない。したがって、エリザベスの説明によれば、それを取り除かなければ目標に到達しないそうだが、さてそれはどうやったらできるの?また、サイモンの説明によれば、バクチ依存症だったために多額の借金を抱えてしまったサイモンは、その借金の肩代わりをしてくれたフランク達への協力を余儀なくされたそうだが、それなら、なぜ筋書き通りに協力せず、オークション会場の地下室で予定外の行動をとったの?
本作中盤は、催眠療法士にしては色気があり過ぎるなと思っていたエリザベスが、意外にもサイモンではなくフランクとベッドインする情熱的なシーンを含めて、催眠療法による懸命の追及が続く。しかし、これを見ている私たち観客は振り回されるばかりだ。こんな風にエリザベスを通じてサイモンだけでなく、フランクまでも支配し、更に観客まで支配すれば、ダニー・ボイル監督はさぞ楽しいだろう。しかして、サイモンの記憶の中にあった、もう1つのどうしても忘れたいと願っていたこととは・・・?
<あっと驚く展開に!なるほど、こんな忘れたい記憶が!>
誰でも忘れたい記憶はあるものだが、エリザベスはその巧みな催眠療法によってサイモンが持つフランク達の恐怖を忘れたいという記憶を払拭することに成功したようだ。しかし、その催眠療法でサイモンが持っていた、もう1つのどうしても忘れたい記憶に向かうと、スクリーン上はあっと驚く展開になっていく。そう言えば、サイモンがはじめてエリザベスのクリニックを訪れた時、エリザベスはかすかに驚いた表情を見せていたが、それってどんな意味が?本作中盤には、なるほどエリザベスとサイモンの間にこんなストーリーがあったのか、という真実が生々しく描き出されていく。
そもそも、エリザベスのような女性催眠療法士が男性患者と恋に落ちることは一般論としては避けたいが、現実の世の中にはよくあること。しかし、本作に見るサイモンの外見のカッコ良さとは正反対に、彼はバクチ依存症から抜け出せないダメ男であったうえ、付き合った女は独占しなければ我慢できないほど極度に嫉妬心の強い男だったようだ。そんな男は、女がやっと別れることができたと思ってもストーカー行為をくり返すから、そこで催眠療法士だったエリザベスが案じた一計は、催眠療法を使ってサイモンの記憶からエリザベスを消していくことだ。弁護士増員時代を迎えた今は弁護士倫理も厳しく問われる時代になっているが、そんなエリザベスの行動は催眠療法士の職業倫理に違反しないの?そんな疑問もあるが、それは別問題として、ダニー・ボイル監督が描く中盤の意外な展開に注目!
<一気に驚愕の結末に!>
前述のように、本作中盤にはあっと驚く展開が待っているが、エリザベスの催眠療法が進む中で見せるクライマックスに向けての驚愕の結末は、まさに2012年のロンドン・オリンピック開幕式の総監督を務めたダニー・ボイル監督ならではのものだ。私を含む多くの観客がずっと気になっていたのは、逃走しようとしているサイモンを轢いてしまった赤い車を運転していた若い女性。これって、一体誰?サイモンの記憶の中はあれやこれやでゴチャゴチャだから、ひょっとしてその記憶が混乱していると、この若い女がエリザベスだと錯覚することもあるのでは?そして、もしサイモンがそんな錯覚をすると、その時にサイモンが取る(であろう)行動とは・・・?
人間には誰にでも欲がある、というフランクの言葉は説得力十分だが、カネのためにフランクと組んで「魔女たちの飛翔」の強奪を狙ったサイモンは、更なる欲を出してこの絵を独り占めしようとしたの?エリザベスの催眠療法の中で断片的に抽出されてくるサイモンの記憶の中はホントにゴチャゴチャしているから、それをスクリーン上で見る私たち観客も大変だ。フランクはギャングのボスだから拳銃くらい持っていても不思議はないが、そのフランクとベッド・インしたエリザベスの手によってその拳銃が活用されていく後半は、エリザベスが単なる美人催眠療法士ではなく、『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチのように見えてくるうえ、その存在感がグッと高まってくる。ラストに向けては結局、エリザベスの催眠療法の活用によって、すべての事態を思い出したサイモンが、あの赤い車の置いてある駐車場に向かうのだが、さて、その車のトランクの中に入っていたものとは・・・?そんな驚愕の結末は、あなた自身の目でしっかりと!・・・。
2013(平成25)年9月13日記