地獄でなぜ悪い(日本映画・2013年) |
<梅田ブルク7>
2013年9月29日鑑賞
2013年10月3日記
私の大好きな園子温監督が大監督になったと思ったら、なぜか急に10年前に書いていた脚本に回帰。将来、永遠に刻まれる一本を!そのためなら死んでもいい、という若き日の情熱が、今ヤクザの抗争の中で実現することに・・・。血の海がいい。10歳の少女のテレビCMがいい。映画バカや親バカ丸出しのヤクザもいい。そして、何よりもハチャメチャさがいい。『蒲田行進曲』(82年)を上回る(かもしれない)映画づくりへのパッションを、本作で!もっとも、こんな映画が好きか嫌いかは、あなたのご自由だが・・・。
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監督・脚本:園子温
武藤大三(武藤組の組長)/國村隼
池上純(池上組の組長)/堤真一
武藤ミツコ(武藤の娘)/二階堂ふみ
10歳の武藤ミツコ/原菜乃華
武藤しずえ(服役中の武藤の妻)/友近
平田鈍(映画マニア、ファック・ボンバーズの主催者)/長谷川博己
橋本公次(ミツコのファン、映画監督にまちがえられた青年)/星野源
佐々木鋭(平成のブルース・リー)/坂口拓
吉村みつお(ミツコのかつてのボーイフレンド)/永岡佑
木村刑事/渡辺哲
キングレコード、ティ・ジョイ配給・2013年・日本映画・130分
<「ヘンタイで何が悪い!」から、『地獄でなぜ悪い』まで>
私が園子温監督をはじめて知ったのは、『愛のむきだし』(08年)を観た時。試写の案内を見て、3時間57分という長尺に驚いたが、宣伝用DVDを借りて自宅で鑑賞してみると、なるほどこりゃメチャ面白かった(『シネマルーム22』276頁参照)。また、この映画ではじめて知った満島ひかりというえらくキレイな女優に一目ボレしたが、彼女はその後、『悪人』(10年)(『シネマルーム25』210頁参照)』や『川の底からこんにちは』(10年)(『シネマルーム25』164頁参照)等への出演、そしてNHK BSプレミアムドラマ『開拓者たち』への出演等が続く中、若手演技派女優として急速に成長した。そして、『夏の終り』(12年)では、年上の作家と半同棲生活を続けながら、再会したかつての恋人との愛欲にも身を委ねるという、若き日の瀬戸内寂聴先生が体験したヒロイン役(?)を見事に演じていた。
『愛のむきだし』は、後半からは「ゼロ教会」という新興宗教からの脱会をめぐるスリリングな展開になったが、前半はR-15指定らしく、盗撮とパンチラが満載!神父の父親から毎日懺悔を要求される中、自力でなんらかの罪をつくり出さなければならなくなった息子が思いついたのが盗撮。ところが実際にやってみると、盗撮は意外に面白く、かつ奥が深い・・・?その後も女装趣味にハマる中、満島ひかり演じるマリア様のような運命の女性に巡り合えたのはよかったが、どうもこの女性もヘンタイ気味?そして、「ヘンタイで何が悪い!」「これが愛なのだ!」という開き直り(?)から、怒涛の園子温ワールドが展開していったが、本作は『地獄でなぜ悪い』というそれ以上の開き直り(?)の映画だ。
『愛のむきだし』以降の園子温監督の作品は、『冷たい熱帯魚』(10年)(『シネマルーム26』172頁参照)、『恋の罪』(11年)(『シネマルーム28』180頁参照)、『ちゃんと伝える』(09年)(『シネマルーム23』221頁参照)と素晴らしい社会問題提起作が続いた。しかし、その後は『ヒミズ』(12年)(『シネマルーム28』210頁参照)、『希望の国』(12年)(『シネマルーム29』37頁参照)と少し方針を修正。そして、世界的に注目される大監督になった今、彼が原点に戻るかのように発表したのが本作だ。実は本作は、彼が約20年前の売れない時代に書いていた脚本を今回映画化したものらしい。彼はなぜ今そんな企画を・・・?
<映画づくりへの情熱は『蒲田行進曲』以上!>
本作の一方の主人公は、若き日の園子温監督を体現するかのように、映画づくりに執念を燃やす若者・平田鈍(長谷川博己)。そして、もう一方の主人公は、一人娘の武藤ミツコ(二階堂ふみ)の主演映画を作ることに執念を燃やす武藤組の組長・武藤大三(國村隼)だ。この二人がひょんなことで出会ったところから、敵対する池上純(堤真一)率いる池上組への殴り込みを、35mmフィルムで映画にするという荒唐無稽なストーリーが本作のポイントとなる。
高校生の時に、平田を中心に谷川カメラマン(春木美香)、御木カメラマン(石井勇気)という「映画バカ」が集まったファック・ボンバーズは、10年後の今も活動を続けていた。平田は「俺は、将来、永遠に刻まれる一本を撮る。それを撮れたら死んでもいい!」という想いを「映画の神様」との間で交わしていたが、現実は厳しく、「平成のブルース・リー」として10年間一緒にファック・ボンバーズで活動を続けてきた佐々木(坂口拓)は、「もう限界!」とばかりにファック・ボンバーズを去っていった。
他方、映画冒頭に、こりゃ一体ナニ?という状況下で登場するのが、10歳の時に歯ミガキのコマーシャルで大人気になった少女・武藤ミツコ(原菜乃華)。母親の武藤しずえ(友近)はミツコを将来の大女優に育てあげるのが夢だったが、武藤組と敵対していた北川会のヒットマンたちを過剰防衛で殺害した罪で服役することになったため、このコマーシャルは打ち切りに。そのミツコは10年後の今、母親の夢どおりに主演女優として映画製作に励んでいたが、なぜか突然、ボーイフレンドの吉村みつお(永岡佑)と駆け落ちしてしまったため、この映画製作は暗礁に乗りあげることに。そこで、武藤は必死でミツコのありかを追ったが、さてミツコは・・・?
30歳近くになっても、まだ高校生の時と同じように歴史に残る一本の映画づくりに執念を燃やし、それができたら死んでもいいと言い続ける平田が平田なら、主演女優の立場にありながら、そこからトンズラしたミツコもミツコ。そんな若者に何ができる!映画づくりへの情熱をトコトン楽しく、かつ正攻法で(?)描いた名作『蒲田行進曲』(82年)と比べると、そう思わざるをえないが、それが意外にも・・・。映画づくりはパッション。平田監督やファック・ボンバーズのような情熱さえあれば、その下に結集した、映画づくりに全く素人のヤクザ軍団にだって、『蒲田行進曲』のような名作が・・・。
<『座頭市』VS本作、ベネチアでは?トロントでは?>
本作は第70回ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門に出品されたが、惜しくも受賞はならなかった。しかし、第38回トロント国際映画祭で本作は、ミッドナイト・マッドネス部門の観客賞を日本映画としてはじめて受賞した。同映画祭は北米最大規模の映画祭で、審査員が賞を決めるコンペティションは無いが、観客投票で選ぶ「観客賞」が1978年から続いており、2003年には北野武監督の『座頭市』(03年)が同賞を受賞している。09年からは加えて、アクションやホラー作品を集めたミッドナイト・マッドネス部門と、ドキュメンタリー部門が設けられ、本作はそのミッドナイト・マッドネス部門の観客賞を受賞したわけだ。
『座頭市』は第60回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門で銀獅子賞(監督賞)を受賞している(『シネマルーム3』321頁参照)から、受賞結果だけを見ると、本作より『座頭市』の方が上かもしれない。しかし、エンタメ性の高さという意味では、両作品とも観客賞にふさわしいものだ。園子温監督は「こんな賞が欲しかった。この映画はこういう賞を求めてた。この映画がジャンプして喜んでいる姿が目に浮かぶ」とコメントしているそうだから、きっと「我が意を得たり」だろう。
本作については『キネマ旬報』10月上旬号における「徹底批評対談『地獄でなぜ悪い』」で、石飛徳樹氏と勝田友巳氏が対談しているが、そこでは当然、賛否両論が展開されている。私の目にも、真っ赤な血が大量に飛び散るばかりか、刀を持った橋本の右手が飛んでいくシーンや頭蓋骨を刀で真っ二つに斬られたまま橋本が喋りだしたり、歩きだしたりするシーンには違和感がいっぱいだった。しかして、あなたは観客の目で、本作をどう見る?
<二階堂ふみは、すでに宮﨑あおい超え!>
私は本作で武藤組の一人娘・ミツコ役を演じた二階堂ふみのことを、『ヒミズ』の評論で「この二階堂ふみは第二の宮﨑あおい!」と書いた。さらに、それは、一般的な美人といえないところが宮﨑あおいと同じなら、どんなケッタイな役でもやれそうなところも宮﨑あおいと同じ。そして何よりも目の力の強さが同じだから。
宮﨑あおいはNHK大河ドラマ『篤姫』(08年)以降、『オカンの嫁入り』(10年)(『シネマルーム25』160頁参照)、『わが母の記』(12年)(『シネマルーム29』218頁参照)、『北のカナリアたち』(12年)(『シネマルーム30』222頁参照)、『舟を編む』(13年)(シネマルーム30』未掲載)等に出演してきたが、私の目には一時の勢いはなくなっている感じがする。それに対して、本作に見る二階堂ふみは、ヤクザの娘という宿命を背負いながらも父親と母親の夢の実現に向けて主演女優への道を歩もうとする健気な娘の部分と、それを放り出してボーイフレンドの吉村みつおと駆け落ちしてしまうという今ドキのイケイケ娘の部分の両方をうまく表現している。さらに、私には全然わからないが、自分自身が「SHIBUYA109」のギャルの殿堂みたいな店に行って試着して決めたという、セクシーな黒の衣装がよく似合っているうえ、苦み走った(?)、程よい色気(?)がプンプン漂っているから、その魅力が満開。
『キネマ旬報』の対談でも、石飛徳樹氏は「ヒロイン・ミツコ役を演じた二階堂ふみはエロかっこよかったですね……すごくよかった!」、勝田友巳氏は「確かに今回は園子温監督作品のなかではエロは控えめ。二階堂ふみが一人で“エロ”の部分を背負っていました」と絶賛している。そんな彼女を見れば、今や二階堂ふみはすでに宮﨑あおい超え!
<こんな映画見たことない!これぞカイカン?それとも?>
映画は所詮エンタメだから、楽しめればいい。そんな割り切りをして、とことん楽しい映画づくりを目指す監督は、アメリカのクエンティン・タランティーノ監督をはじめ、全世界にたくさんいる。しかして、園子温監督もその一人・・・?しかし、本作冒頭に登場する、かわいい白いドレスを着た10歳のミツコが「全力歯ギシリLet’s GO!ギリギリ歯ギシリLet’s FLY!・・・」と歌い踊るテレビCMを見て、「何じゃこれは」と思った人は多いはずだ。
また、このミツコが一人で自宅に戻ってきた時、一面血の海となっている大きなリビングルームを滑り込むようにして台所まで到着し、そこで血まみれになって座り込んでいる池上と「ご対面」した時の会話にも度肝を抜かれるはずだ。もっとも、そんな天使のような(?)言動を見て、池上は10歳のミツコに言いようのない魅力と憧れを抱いたのだから、この男はかなりヘン・・・。しかし、武藤を襲うための北川会のヒットマンにすぎなかった池上が息も絶え絶えの中で復帰した後、いつまでも抗争を続けても仕方がないと現実路線に戻り、武藤とのホットラインでの話し合いによって「手打ち」を完成させたのだから、その手腕は大したものだ。その後も、池上は組事務所にミツコのポスターを貼ったり、ミツコを立派な女優にすることに男としてのときめきを感じたりと、ケッタイな任侠道を貫いてきたが、最後にはついに武藤との間で血で血を洗う大抗争に。
そんな殴り込みを35mmフィルムで撮影し映画にするという企画がハチャメチャなら、それまで刀など持ったこともないはずのミツコが、かつて藤純子が演じた「緋牡丹お竜」並みの刀アクションを披露するのもハチャメチャ。また、この抗争の中で武藤の首がスパッと切られて飛んでいくシーンがハチャメチャなら、抗争のメドがつきはじめた頃に木村刑事(渡辺哲)率いる武装警備隊が突入し、抵抗するヤクザはもちろん、谷川カメラマン、御木カメラマン達まで乱射して殺してしまうのもハチャメチャだ。ミツコのために命をかけて全力を尽くすと誓った橋本は、前述のように刀で頭蓋骨を真っ二つに斬られながらも、なおミツコの元へ。しかし、そのミツコは・・・?また、永遠に刻まれる一本を撮れたら死んでもいいと宣言していた平田も機動隊の銃の餌食になったはずだが、なぜ彼は皆が力を合わせて撮ったフィルムを抱えてわめきながら走り回っているの・・・。こんな映画見たことない。だけどこれぞカイカン。そう感じる人も多いはずだが、逆の人も・・・。
2013(平成25)年10月3日記