グォさんの仮装大賞(飛越老人院/FULL CIRCLE)(中国映画・2013年) |
<GAGA試写室>
2013年11月26日鑑賞
2013年11月29日記
『胡同のひまわり』(05年)で父子の確執を描いた張楊監督が、老人ホームでくすぶる(?)老人たちを主人公に、温かい笑いとユーモアそして感動と涙の物語を。そのテーマは邦題どおりの「仮装大会」、その手法は「飛越老人院」という原題のとおりの老人ホームからの飛び出しだ。
老人問題は、私たち団塊世代にとってもすぐ間近。老人ホームへの入所だけでその孤独から逃れることは不可能だが、こんな映画を観てパワーを吹き込みたい。敬老の日の上映会を企画するとともに、是非日本版のリメイクを!
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監督・脚本:張楊(チャン・ヤン)
グォさん(老葛)/許還山(シュイ・ホァンシャン)
チョウさん(老周)/呉天明(ウー・ティエンミン)
リー夫人(李老太太)/李濱(リー・ビン)
老人ホームの院長/顔丙燕(イエン・ビンイエン)
/王徳順(ワン・ダーシュン)
/蔡鴻翔(ツァイ・ホンシアン)
/チャン・フアシュン
/リォウ・ジアン
グォさんの息子(大葛)/韓童生(ハン・トンション)
/タン・ズオフイ
グォさんの孫(小葛)/高歌(ガオ・グー)
/斯琴高娃(スーチン・ガオワー)
/陳坤(チェン・クン)
コンテンツセブン配給・2012年・中国映画・104分
<老人問題と家族の絆問題の現状は、日本も中国も同じ>
少子高齢化を迎えている日本では、今後長期の人口減少過程に入り、2060年の日本人口は8674万人になると推計されている。私は、来る12月3日に加古川商工会議所で「地方都市のまちづくり」というテーマで講演するが、そこでのネタの一つが元岩手県知事・増田寛也氏が主催する人口減少問題研究会が『中央公論』2013年12月号に発表した「壊死する地方都市」。その内容は、2040年には地方が消滅し、「極点社会」が到来する、というものだ。
他方、中国では去る11月12日に閉幕した中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)で、1980年に導入された「一人っ子政策」を緩めることを決定した。これは「計画生育政策」(一人っ子政策)という基本的な国策は維持するものの、一方が一人っ子である夫婦は2人目の子どもを出産することができるという政策の実施を始動し、出産政策を徐々に調整・改善し、人口の長期的な均衡発展を促してくことを目指したものだ。しかし、これまでも高額の「罰金」を支払えば2人目を産むことが許されるという運用がなされていたこともあり、今後この「緩和策」がどのように運用されるかは不透明だ。
日本の大阪万博は1970年、中国の上海万博は2010年と、中国は日本より40年遅れている、というのが私の持論。しかし、こと老人問題と家族の絆問題の現状は日本も中国も同じだ。そのことが、本作を観ていると実によくわかる。
<あの名優、あの名監督が続々と登場!>
私は2004年6月19日から7月30日まで、シネ・ヌーヴォで開催された「中国映画の全貌2004」で一挙に31本の中国映画を観た後、今日まで300本近くの中国映画を鑑賞してきた。その中で、中国を代表する、あの俳優、あの監督をたくさん見てきたし、強く印象に残る人たちも多かった。しかして本作には、グォさん(老葛)には『孔子の教え』(11年)の許還山(シュイ・ホァンシャン)が扮し、チョウさん(老周)には『古井戸』(87年)(『シネマルーム5』79頁参照)、『變臉 この檻に手をそえて』(96年)(『シネマルーム17』399頁参照)、『CEO(最高経営責任者)』(02年)(『シネマルーム17』335頁参照)の監督である呉天明(ウー・ティエンミン)が扮している。
本作は若い女性院長(顔丙燕)が仕切っている老人ホームが舞台。妻を亡くし息子夫婦にも見放されたグォさんを、老人ホームで温かく迎えてくれたのがチョウさんだ。ホームは既に定員でいっぱいだったが、ホームのリーダー的存在であるチョウさんが「俺の部屋は2人部屋だが、相棒のOKをとれば3人でもいいだろう」と頼み込んだことによって、いわば「お目こぼし」的にグォさんは自分の寝床を得ることができたわけだ。
さらに驚くべきは、アルツハイマーを患い娘の顔すら忘れているのになぜかチョウさんを自分の夫だと思い込み、何かと身の回りの世話をするリー夫人役を、『初恋のきた道』(00年)(『シネマルーム5』194頁参照)、『花の生涯~梅蘭芳~』(08年)(『シネマルーム22』223頁参照)の李濱(リー・ビン)が演じていること。本作の主役はグォさんとチョウさんの2人だが、リー夫人をはじめとする70代、80代の老人俳優たちが本作全編にわたって存在感を見せつけてくれる。美男美女が登場する純愛モノもいいが、たまにはこんな老人ばかりの映画もいいのでは・・・。
<目標さえあれば、老人パワーは全開!>
敬老の日にさまざまな催しモノが開かれるのは日本も中国も同じだが、本作の物語は、チョウさんが天津で開催される「仮装大会」にホームの仲間たちで出演しようと提案したところからスタートする。日本では『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』が大人気で、1975年から40年近く続いているが、本作の仮装大会はいわばその「老人版」と考えればいいもの。チョウさんの提案に最初は恐る恐るだったものの、1人2人と手を挙げていくシーンが面白い。中国は共産党が支配し、何でも上からの決定を押しつけるものかと思っていたが、何の何の、ここにみる老人たちの民主主義的意思決定の様子に感心!
それはともかく、仮装大会へ「参加決定」をした後の、老人たちの張り切りようには驚く他ない。老人たちの運動には太極拳がベストだろうが、そこでの練習風景を見ると、何と西城秀樹のヒット曲『ヤングマン』に乗って激しい身ぶり手ぶりのアクションも・・・。これを見れば、「ホーム内で事故が起きたら責任を持てない」と考える院長が「激しい運動は禁止!」と命令したのはやむをえないだろう。しかし、ハードな練習のせいで、2人が首や腰にケガをしたことによって「仮装大会への参加は禁止!」と宣告されしまったのは想定外だった。
日本でも『死に花』(04年)では4人の70歳超の老人軍団が悪ガキ顔負けの「銀行強盗で17億円を奪う!」という目標に向けて老人パワー全開!となった(『シネマルーム4』338頁参照)が、本作ではせっかく仮装大会への出場という目標で「老人パワー全開!」となっていたのに、アレレ・・・。ひょっとして、これですべて挫折してしまうの・・・?
<監獄からならぬ、老人ホームからの「大脱出」は?>
11月25日に観た『大脱出』(13年)は、脱出不可能な監獄からの「大脱出」をテーマにした面白い映画だった。これによって、「潜水艦モノは面白い」に続いて、「脱獄モノにハズレなし」ということが実証されたわけだ。しかして、本作中盤には監獄からの「大脱出」ならぬ、院長の監視の目がひかる老人ホームからのグォさんとチョウさんを中心とする数名の「大脱出」がテーマとなる。
『大脱出』での面白さは、脱獄に向けての知的ゲームの面白さの他に、シルベスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーという2大スターによる肉弾相撃つアクションだったが、本作にみる「大脱出」の面白さは、老人たちの知恵が絞り出す騙しのテクニック。チョウさんたちが最初に企画した仮装大会の出し物は「マージャンパイ」だったが、そこでケガ人が出てしまった今となっては、人数を縮小し、動きの少ない出し物にすることが不可欠。そこで考案されたのが「三面鏡」、つまり1人の人間が三面鏡の前で展開する動作を三面鏡に映った3人が同じ動作をすることによって笑いを誘うパフォーマンスだ。今や廃棄物になってしまった人間が被る大きなマージャンパイを捨てることを名目に、グォさんとチョウさんが立案した院長の目を欺く計略とは・・・?
<老人たちのロードムービーは開放感でいっぱいだが>
ホーム内の老人たちはみんなホントは家族との楽しい生活を夢見ながらもそれができず、やむをえずホーム内に「収容」され、「隔離」されている老人たちだ。したがって、ホーム内ではそれなりに仲良く暮らしているものの、内心はさびしさとやりきれなさでいっぱい。ところが、そんな老人たちもホームから解放されると、はるか天津までのバス旅行は遠足気分になってくる。道端に咲く美しいひまわり畑を見せるのが張楊監督流であることは明らかだが、馬の一群の疾走シーンを見せるのはダレ流だろう。
まんまと老人ホームからの「大脱出」を成功させたことに老人たちは万々歳だが、ここで明らかになったのがチョウさんの病気。膀胱癌の末期症状というから余命が長くないのは当然だが、チョウさんの最後の願いだという仮装大会の出場までチョウさんの命はもつの?そんな心配と、仮装大会への大きな期待を抱えながら、おんぼろバスはチョウさんの運転によって一路天津に向かっていたが、老人ホームからの「大脱出」に驚いた院長たちの追っ手はすぐそこに。その結果、遠足気分で川辺に座り食事休憩している一行たちと、そこに追いついた「追っ手」たちがくり広げる、「戻れ!いや戻らない!」の議論の結末は如何に?
ちなみに、『グォさんの仮装大賞』という本作の邦題は、天津で開催される仮装大会をイメージしたものだが、原題の『飞越老人院(老人ホームを飛び出して)』は、監獄からの「大脱出」ならぬ、老人ホームからの「大脱出」をイメージしたものだ。しかして、あなたはこの邦題と原題、どちらが好き?
<父と子、孫、三代の絆と確執は?>
私が札幌の裁判所で担当していた遺産分割事件は近々解決の見込みとなったが、弁護士生活を40年間やっていると、家庭内の法的紛争はさまざまだということがよくわかる。青島での仮装大会を無事成功させ、20点満点をとった老人たちへの「なぜこの仮装大会への出場を決めたのか」という司会の質問に対して、チョウさんが日本に行ったまま連絡が取れない娘を思い出しながら語る「秘話」には、思わず大粒の涙があふれ出すはずだ。ここは、きっと『胡同のひまわり』(05年)(『シネマルーム17』415頁参照)で1976年の文化大革命終焉後の、中国30年の歴史の中、北京の胡同を舞台とした父子の確執を温かい目で描いた張楊監督が「泣かせ所」としてひそかに狙っていたシークエンスだろう。
他方、張楊監督が本作のメインストーリーとして描く父と子、孫三代の絆と確執は、グォさんとその息子の大葛(韓童生)、孫の小葛(高歌)の関係として生々しく描かれる。孫の結婚式に祖父が招かれないというのが異常事態なら、一人で勝手に結婚式に出向き、20万元という金だけ渡して帰るというのも異常。さらに、後日息子がその金を突っ返すために老人ホームを訪れるというのは、よほど大きな父子の確執があるのだろう。父子のケンカぶりを見ていると、弁護士としてはそれなりに双方の言い分を理解できるが、本作最大の見どころは、おんぼろバスを追いかけてきた孫とグォさんとの2人の語り合い。3羽のすずめをめぐるこの話し合いで、流される涙と男同士のハグ(?)は、長く目に焼き付く名シーンになるはずだ。
『胡同のひまわり』にみた父子の確執は張楊監督自身の体験談らしい(?)が、本作にみるグォさん、大葛、小葛の父子孫三代の絆と確執の描き方は張楊監督ならではの心温まるものだから、じっくりと味わいたい。
<セリフはなくとも、目に焼き付く名シーンをじっくりと>
チョウさんの最後の願いの一つは、老人ホームを抜け出し、みんなで楽しくワイワイやりながら仮装大会へ出場することだが、もう一つの願いとは?それは、仮装大会終了後の司会者の質問に答えたように、日本に行ったまま連絡がとれなくなっている娘との再会。また、そこまではムリだとしても、せめて中国と日本をつなぐ海を見ることだ。しかして、仮装大会を無事終えた老人たち御一行は、息も絶え絶えなチョウさんの「海を見たい」との声を聞いて、天津の美しい海辺に。張楊監督はこのシーンでは誰にもセリフをしゃべらせず、砂浜の上にそれぞれ好きなポーズで座らせ、夜が明けていく美しい海の向こうを見つめている姿を、美しい音楽をバックに映すだけにしている。仮装大会への出場を終えたグォさんたち御一行やそれを追っかけてきた中で奇しくも一緒に仮装大会に参加することになった院長や、小葛たちは、それぞれどんな思いでこの美しい海を見ているのだろうか。セリフはなくとも、目に焼き付くこの名シーンをじっくりと!
ちなみに、日本には中国以上に美しい海がたくさんあるし、仮装大会だって中国以上にテレビで定着し、国民的行事になっているのだから、本作のような映画はすぐに日本版でリメイクできるはず。高倉健は先日11月3日に文化勲章を受章したうえ、『あなたへ』(12年)(『シネマルーム29』210頁参照)では相変わらずいい味を出していたし、八千草薫は『くじけないで』(13年)で、吉行和子は『燦々 さんさん』(13年)で、それぞれ味のあるおばあちゃんパワーを発揮している。このように、日本でも中国と同じように老人役に適した名俳優は多い。張楊監督のような若手が多くの「かつての名優」を起用してこんな名作を作ったのだから、日本でも是非若手監督が本作のリメイクに挑戦してほしいものだ。
2013(平成25)年11月29日記