もらとりあむタマ子(日本映画・2013年) |
<テアトル梅田>
2013年12月30日鑑賞
2014年1月7日記
2013年大晦日の紅白歌合戦で引退宣言をした大島優子に先立って、AKB48を卒業した「センター」の前田敦子の女優としての能力に注目!
「不機嫌は若い女の子だけに許された、専売特許的な魅力」らしいが、実家で食べて、寝て、マンガを読んでいるだけのバカ女の、どこに、どんな魅力が・・・?
春から始まるビバルディの『四季』は完結した美しい世界を描いているが、大学卒業後の秋から始まる『もらとりあむタマ子』の四季は、いかなる形で完結を・・・?
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監督:山下敦弘
脚本:向井康介
坂井タマ子/前田敦子
坂井善次(タマ子の父)/康すおん
仁(中学生、写真館の息子)/伊東清矢
坂井啓介(善次の兄)/鈴木慶一
坂井よし子(善次の義姉)/中村久美
曜子(アクセサリー教室の先生)/富田靖子
ビターズ・エンド配給・2013年・日本映画・78分
<行こうか?やめようか?大いに迷ったが・・・>
2013年大晦日の紅白歌合戦で大島優子がAKB48からの「卒業」を宣言したが、いち早く2012年8月に長年センターの座をキープしていたAKB48を卒業し、女優として映画の世界に殴り込みをかけたのが前田敦子。もっとも、最近の邦画のくだらなさを痛感している私は、傑作の評判が高い山下敦弘監督の『苦役列車』(12年)も、中田秀夫監督の『クロユリ団地』(13年)も観ていない。
『もらとりあむタマ子』は何度か予告編では観ていたが、山下敦弘監督との再タッグという注目点はあっても、わざわざ映画館まで足を運んで観てみようという気にはならなかった。しかし、今年の正月休みは比較的時間的余裕があったことと株主優待券が余っていたため、行こうか?やめようか?と迷っていた挙げ句、映画館に足を運ぶことに。
<十分アップに耐える顔と表情に拍手!>
私は約20年間、阪大の法律相談部の学生と毎年接しているし、年に一度の「ロイヤリング」の講義を通して法学部の学生諸君とも接している。その中で、20~22歳くらいの学生諸君の「ありよう」はわかっているが、そこで大いに不満なのは前向きの活発さがないこと。しかして、スポーツ用品店を営んでいる父親の善次(康すおん)のもとで暮らしている、本作冒頭にみる前田敦子扮するタマ子の姿をみていると、まさに今ドキの出来損ないの若者の典型だ。
タマ子は、今年3月、東京の城南大学国際学部国際学科を卒業したものの就職をせず(できず?)に甲府の実家に戻り、今も就職活動すらせず、食べて、寝て、マンガを読む生活を続けているらしい。私がいつも言っているのは、こんな若者が増殖すれば、日本はそのうち「中華人民共和国の日本自治州」になってしまうぞ、ということだが、意外なのは、そんなバカ者(?)タマ子の顔や表情が十分アップに耐えること。『ある愛の風景』(04年)(『シネマルーム16』70頁参照)、『悲しみが乾くまで』(08年)(『シネマルーム19』245頁参照)、『未来を生きる君たちへ』(10年)(『シネマルーム27』177頁参照)、『愛さえあれば』(12年)(『シネマルーム31』62頁参照)等にみる、スウェーデンの女流監督スサンネ・ビアの映画の特徴はアップを多用することだが、それが魅力を持つためにはアップに耐える俳優の演技力が不可欠だ。すると、これだけ無気力なバカ女を堂々とアップに耐えられる表情で演じられるのはすごいこと。さすが、AKB48のセンターを長年張ってきただけのことはあると、前田敦子の女優ぶりに拍手!!
もう一つ意外だったのは、テレビを観ながら父親の用意した食事を口に運んでいるタマ子が「ダメだな、日本は」とコメント(?)していること。タマ子がどこまでまともに考えてこんな発言をしているかわからないし、私の目には「食って寝てマンガ読んで。ダメなのは日本じゃなくてお前だ!」と叱りつける父親の言葉の方が説得力があるが、さてタマ子の本音は・・・?
<ビバルディの『四季』は春からだが、さて本作は?>
本作は、まさに今ドキの典型的なダメ娘が大学を卒業した後の一年間でいかに「変化」していくかを描いた一種の成長物語(?)。韓国の鬼才キム・ギドク監督の第11作目『春夏秋冬そして春』(03年)(『シネマルーム6』68頁参照)でも、ビバルディの協奏曲『四季』でも、季節は春から始まるが、タマ子の一年間を季節ごとに描く本作は、秋から始まり暑い夏で終わる。さて、それはなぜ?タマ子が大学を卒業したのは3月末だから、本作が描くような実家でのタマ子の怠惰な生活は4月から始まったはずだ。
父親の善次がなぜ母親と離婚したのかはストーリー上明かされないが、タマ子が電話で時々母親と連絡を取り合っていることは映画を観ていればすぐにわかる。また、父親の見合い話が持ち上がったことを知ったタマ子が唯一の友人である(?)中学生の男の子・仁(伊東清矢)を通じて、再婚相手の女性・曜子(富田靖子)をリサーチするところをみると、タマ子は父親の再婚が気になっていることがよくわかる。さらにタマ子が曜子に対して、父親のことを「一緒にいるといらいらしますよ。すね毛見てキレたことありますからね。一番ダメなのは私に家出てけって言えないところですよ。」と紹介(?)しているところをみると、善次はタマ子が就職もせず実家に戻ってくることに猛反対できなかったこともよくわかる。
本作のスタートは秋からだが、タマ子が大学を卒業してからこの秋までの期間もきっと食べて、寝て、マンガを読んでの毎日だったのだろう。しかし、こんな行動力あるタマ子を見ていると、またタマ子だってきっとバカじゃないから、冬になれば、あるいは春になれば、きっと何らかの変化が・・・。
<就職活動はやはりカタチから・・・?>
就職活動の第一歩は履歴書づくりだが、そこには写真を貼り付ける必要がある。したがって、娘からおこづかいをねだられても、それが面接用の写真を撮るためにまともな服を買うためらしいことがわかれば、父親としては悪い気がしないらしい。
荒井由美が作詞し、バンバンが歌った1975年のヒット曲「『いちご白書』をもう一度」の二番の歌詞は、「就職が決まって髪を切ってきた時 もう若くないさと君に言い訳したね」というものだ。春になり、美容院でそれまでの長い髪を切ったタマ子の心境は、バンバンが歌ったそんな学生運動の闘士の気持とは全然違うはずだが、それでもそれなりの決意と覚悟を固めたことはまちがいなさそうだ。
<タマ子はなぜ写真撮影を極秘で・・・?>
もっとも、今ドキ履歴書用の写真なんてプリクラ用でもパスポート用でも安くすぐに作れるはずだが、タマ子が専門の写真館での撮影にこだわったのは、なぜ?さらに、履歴書の写真撮影ならコソコソと写真館の息子で中学生の仁に撮影を頼んだりせず、堂々と父親に注文すればいいのに、タマ子がそれをできなかったのは、なぜ?それは、くしゃくしゃになってゴミ箱に捨てられているタマ子の履歴書に「今の自分は私ではありません。生きている以上、誰もが何かを演じている。私は誰かになっているときが一番自然に思えるのです。そんな私に新しい名前をつけてください」と書かれてあったことを見れば明らかだ。
なるほど、こんな風に悩んでいたからこそ、タマ子は写真撮影のことを仁に対して「これ、絶対誰にも言っちゃダメだからね!」と念を押していたわけだ。年頃の、しかも反抗期の(?)女の子とはかくもややこしい動物なわけだ。こんな映画を観ても、「就職活動はやはりカタチから」ということがよくわかるが、そもそも就職活動自体を否定すれば、タマ子の選択肢はもっと広がるのでは・・・?
<父親の再婚話には、やはり動揺・・・?>
本作を観ていると、年頃の娘、しかも一人娘を持つ父親の大変さがよくわかる。離婚後、一人でスポーツ用品店を切り盛りしながら、寄生虫のようなタマ子の食事の世話をしたり、掃除、洗濯までしてやっている父親の姿をみると、頭の下がる思いがする。私ならすぐに「家を出ていけ!」と怒鳴るところだが、善次はもともと料理などの家事全般が苦にならないらしい。さらに、善次の兄・啓介(鈴木慶一)や義姉・よし子(中村久美)から、善次に対してアクセサリー教室の先生をしている女性・曜子との再婚話が持ち込まれていたが、スクリーン上を見ている限り善次はあまり乗り気ではなさそうだ。
しかし、タマ子のようなぐうたら娘は早く家を追い出し、男やもめを続けている善次を世話してくれる優しい女性がいたら、早く再婚した方がいいことは誰が見ても明らかだ。もちろん、そのことはタマ子が一番よくわかっているから、再婚候補の女性・曜子に対して興味津々だったわけだが、現実に曜子に会ってみると、これが意外にいい女。こんな女性と再婚できるのならお父さんも幸せになれるのでは・・・。そんな気持が芽生えてきたから不思議なものだが、これこそタマ子が大学卒業後ぐうたら生活を続けてきた中で学んだ一つの人生観?
<ラストでは、タマ子と父親双方の成長を確認!>
父親の再婚話にタマ子が動揺したことはまちがいないが、本作ラストにみる父娘の会話をみているとタマ子の自立ぶりが明確になる。その会話とは、それまで娘に対する遠慮のために言えなかった「家を出ていけ!」という言葉を、善次がはっきりと娘に伝えたこと。この言葉は、曜子との再婚を前提にすれば当然のことだが、再婚しないことを前提として善次が娘に対して「出ていけ宣言」をすることができたのは、一体なぜ?山下敦弘監督が前田敦子をヒロインに迎えた本作のラストに訪れるそのシーンでは、そのことの意味をしっかり確認したい。
さらに注目すべきは、それに対するぐうたらなバカ娘・タマ子の反応だが、それはあなた自身の目でしっかりと!なるほど、なるほど。タマ子のようなバカ娘も、大学卒業後1年の間に、よくぞここまで成長したものだ・・・。
2014(平成26)年1月7日記