最後の晩餐(中国、韓国合作映画・2014年) |
<シネ・リーブル梅田>
2014年3月12日鑑賞
2014年3月14日記
『紅いコーリャン』(87年)と『黄色い大地』(84年)が中国映画の代表だが、「80后」「90后」の若者が増えた今、中国映画も大きく様変わり!近時の中国美女の基準は「白富美」だが、本作のヒロインはなぜ「分手合約」(別離契約)を?
前半のコメディタッチの「化かし合い」から、後半はがぜん難病モノ、純愛モノに!
「一粒で二度おいしい」展開を楽しみつつ、クライマックスでのプロポーズが、三度目の正直になるのか否かに注目!
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監督・脚本:呉基桓(オ・ギファン)(韓国)
俏俏(チャオチャオ)(陶芸家)/白百何(バイ・バイホー)(中国)
李行(リー・シン)(料理人)/彭于晏(エディ・ポン)(台湾)
周蕊(チョウ・ルイ)(リー・シンの婚約者)/呉 佩慈(ペース・ウー)(台湾)
毛毛(マオマオ)(チャオチャオのゲイの友達)/蒋勁夫(ジアン・ジンフー)(中国)
リー・シンの母/林美秀(リン・メイシュウ)(台湾)
元名小店の店主/于彦凱(ユー・イェンカイ)
CJ Entertainment Japan配給・2013年・中国、韓国合作映画・103分
<中国映画も大きく様変わり!>
私は中国映画が大好きで、『坂和的中国電影大観 SHOW-HEYシネマルーム5』と『坂和的中国電影大観 SHOW-HEYシネマルーム17』を出版し、中国語で『电影如歌 一个人的銀幕筆記』も出版した。私が「中国映画、恐るべし」と思った代表作は、中国第5世代監督を代表する張藝謀(チャン・イーモウ)監督の『紅いコーリャン(紅高粱/Red Sorgham)』(87年)(『シネマルーム5』72頁参照)と陳凱歌(チェン・カイコー)監督の『黄色い大地(黄土地/Yellow Land)』(84年)(『シネマルーム5』63頁参照)だが、それ以外にも、とにかくすごい名作が多い。これらは1980年代半ばの作品だが、それから30年。中国映画も大きく様変わりした。
張藝謀(チャン・イーモウ)ら第5世代監督は今や重鎮となり、ハリウッドに進出して活躍している。そして今や、姜文(チアン・ウェン)、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、張元(チャン・ユァン)、張楊(チャン・ヤン)、婁燁(ロウ・イエ)ら第6世代監督が中国映画の中心になっている。また、ハリウッド映画が「アメコミもの」を中心として大作化、娯楽化してきたことに対応して、中国映画でも『PROMISE(無極)』(05年)(『シネマルーム17』102頁参照)や『LOVERS(十面埋伏)』(04年)(『シネマルーム5』353頁参照)、『レッドクリフPartⅠ』(08年)(『シネマルーム21』34頁参照)、『レッドクリフPartⅡ』(09年)(『シネマルーム22』178頁参照)等の娯楽巨編が続々と生まれてきた。また、香港を拠点とする程小東(チン・シウトン)、王家衛(ウォン・カーウァイ)、徐克(ツイ・ハーク)監督らの香港映画との交流も盛んになっている。
他方、私は中国のテレビドラマは全然観ていないが、中国でもテレビでは日本や韓国と同じように若者向けの恋愛モノ(純愛モノ)が大はやりらしい。中国は今や「80后」「90后」の若者ばかりになっているのだからそれも当然だが、そんな中で本作が2013年に公開され、約30億円の興行収入となる大ヒットになったらしい。なるほど、中国映画も今や大きく様変わりしたわけだ。
<原題と邦題は大違い!“分手合約”とは?>
私の中国語の勉強は丸4年になったから、原題の“分手”の意味が「手を分かつ」「別れる」という意味であり、“合約”の意味が「合同」と同じ「契約」という意味であることがすぐにわかる。したがって原題は“別離契約”となる。近時は婚姻届を出すと同時に離婚する場合の条件を定めた「離婚契約」を交わすことがあるらしいが、“別離契約”とは一体ナニ?
それは本作冒頭に示されるとおり、一流シェフを目指す李行(リー・シン)(彭于晏/エディ・ポン)からのプロポーズを受けた、食器デザイナーを目指す俏俏(チャオチャオ)(白百何/バイ・バイホー)が、お互いの夢をかなえないまま結婚するのは嫌だという理由で交わしたもの。男の方は「君が作る器に、僕の作るトマトとじゃがいもと干し筍のスープを」という夢だけでチャオチャオとの結婚を可能と考えたわけだが、女の方はより現実的でシビアだったというわけだ。2人がサインした「別離契約」は行きつけのカフェのマスターに預けられたが、さてこの「別離契約」にはいかなる法的効力が?
そんなことを考えることも少しは必要かもしれないが、本作を鑑賞するについては、そんなことより「別離契約」を交わしたことによる2人の頑張りぶりの方が大切だ。5年間の努力の甲斐あって、今チャオチャオは上海で食器デザイナーとして独立し、北京で個展を開くまでになっていた。他方、リー・シンは今や3つ星レストランのイケメンシェフとなっていたうえ、中国版の『料理の鉄人』のようなテレビ番組の決勝戦4人枠に入るほどの有名人に。互いにここまで自分の夢を実現できたら、2人のゴールイン=結婚はすぐ間近。リー・シンはもちろん、観客はみんなそう思ったはずだが・・・。
<今ドキの中国の若者事情は?結婚事情は?>
私の友人で神戸国際大学教授の毛丹青氏を主幹とする雑誌『知日』は、中国の若者たちの大人気になっている。2012年夏の上海ブックフェアの会場で私はその熱狂ぶりを体感したが、その人気は更に広がる一方だ。また、私は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」をiPadでやっているが、それを見ても中国の若者たちのネットを通じた情報交換のスピード感とボリューム感がよくわかる。さらに、本作のパンフレットにある、沖縄生まれ東京育ちの29歳、中国在住8年目のファッションブロガー・TOKYO PANDAが書いた「映画から垣間見える、いまどきの中国若者事情」を読むと、中国人女子たちの多くの関心ごとである「結婚」の実情がよくわかる。尖閣諸島問題をはじめとして日中関係が険悪になっている今、「それがどうした?」と言われるかもしれないが、映画大好き人間の私としては、中国映画を通じて日中間の交流に役立ちたいと考えている。
日本では草食系男子が増殖する中、女性にプロポーズすらできない男が増えている。また、リスクを恐れて自分の本音を語ることが少なくなる風潮の中、恋愛に精を出す若者は男女ともどんどん減っているらしい。韓国の若者たちの恋愛事情は、多くの韓国映画やテレビドラマで明らかだが、さて本作にみるリー・シンとチャオチャオの恋愛事情は?
5年の期間が過ぎた今、チャオチャオのケータイにリー・シンからの電話が!そこで二度目のプロポーズが聞けると期待したチャオチャオだったが、リー・シンからもたらされたのは、自分ではない婚約者チョウ・ルイ(呉佩慈/ペース・ウー)と近いうちに式を挙げるという知らせだった。さあ、そんな最悪の事態の中、チャオチャオはどんな対応を?
<そこまでやるか!さすが中国はスケールがデカい!>
本作中盤は韓国人の呉基桓(オ・ギファン)が監督した映画らしく、韓国ドラマ風のコメディ的展開になる。チャオチャオを演じたバイ・バイホーは「大陸で今最も輝くスターとして人気急浮上中の女優」と書かれているが、かつて「中国四大女優」と呼ばれた章子怡(チャン・ツィイー)、周迅(ジョウ・シュン)、徐静蕾(シュー・ジンレイ)、趙薇(ビッキー・チャオ)、さらには余男(ユーナン)等のような女優としてのすごいインパクトはない。むしろ、今ドキの中国人女子たちが憧れる中国美女の基準たる「白富美」(色白、お金持ち、美しい)のすべてを併せ持ったチョウ・ルイを演じたペース・ウーの方が絶世の美女にふさわしい。したがって、本作を観ている観客は誰しも、今やシェフとして大成功したリー・シンが昔の恋人チャオチャオに固執せず、「白富美」が揃ったチョウ・ルイと結婚するのは当然と納得するわけだ。
ところが、実はそれが世紀の大芝居だったというのが本作前半のオチだ。そのコメディタッチの展開に一役買うのがオネエ言葉でしゃべる、チャオチャオの女子トモでゲイの毛毛(マオマオ)(蒋勁夫/ジアン・ジンフー)だ。2人の新居からウエディングドレスの試着まで付き合わされたチャオチャオは、決定的な敗北感を味わわされたが、何とこれがすべて再度のプロポーズをチャオチャオから断られないためのテストであり、チョウ・ルイの協力を得たうえでの世紀の大芝居だったとは。そこまでやるか!さすがに、中国はスケールがデカい。
失意の中で上海に戻ろうとしていたチャオチャオを思い出のカフェに呼んだリー・シンは、“別離契約”を前提としたうえで、心からの再度のプロポーズの言葉を熱く語り、チャオ・チャオも内心「やった!」と叫んだが・・・。
<後半は、あっと驚く「難病モノ」へ!>
江崎グリコは「一粒で二度おいしい」が売り文句。それと同じように本作は、前半のコメディタッチの恋愛ゲームから、後半は一転して「難病モノ」「純愛モノ」に転換していくが、さてその味は・・・?
チャオチャオは今、リー・シンからの心からの二度目のプロポーズを聞き、その幸せ度は最高潮。その幸せをすぐにマオマオに電話で伝えていたが、そこで急に咳き込むと、手のひらには血が・・・。私はこれはてっきり、かつて「不治の病」と言われた結核だと思ったが、実はガン。チャオ・チャオにはこの5年、リー・シンには告げずにいたそんな秘密があったのだ。もっとも、初期の治療を済ませたことによって、その「再発」は「宝くじに当たるくらいの確率」と言われていたはず。そのため、チャオ・チャオは安心していたのに、幸せの絶頂に立った今、そんな宝くじに当たるなんて・・・。その結果、リー・シンのプロポーズに対し、喜んで「OK」と答えようとしていたチャオ・チャオは、再びわかったようなわからないような言い方で、プロポーズを拒否。これにリー・シンが怒り狂ったのは当然だが、さてその後の難病モノ、純愛モノの展開は?
ここでもリー・シンの前から姿をくらませてしまったチャオ・チャオの側にずっとつきそって世話をしているマオマオがキーパーソンになってくる。リー・シンはマオマオからいかに情報を集め、真実に近づいていくのだろうか・・?
<クライマックスは三度目のプロポーズ!その結末は?>
難病モノ、純愛モノの代表は、邦画では『愛と死をみつめて』(64年)と『世界の中心で、愛を叫ぶ』(04年)(『シネマルーム4』122頁参照)、韓国では『私の頭の中の消しゴム』(04年)(『シネマルーム9』137頁参照)だが、難病モノ、純愛モノはその後も次々とつくられている。最近の邦画では、北川景子主演の『抱きしめたい―真実の物語―』(14年)がその代表だ。そのストーリー展開はほとんどすべて想定の範囲内だが、涙もろい私はその展開の中で思わず涙を・・・。
本作のクライマックスは、リー・シンが出場している料理バトル番組の、「甘さ」をテーマにした決勝戦の勝負。他の3人はそれぞれ工夫をこらした趣向で勝負に挑んでいたが、そこでリー・シンがつくったのは、あの「トマトとじゃがいもと干し筍のスープ」だ。しかも、リー・シンはその完成品を審査員の前にではなく、観客席で応援しているチャオ・チャオの前に。これには実況中継中のテレビ局は大あわてだが、たまにはこんなハプニングもいいのでは・・・。
決して甘くはない「トマトとじゃがいもと干し筍のスープ」を口にするチャオ・チャオに対して、今リー・シンは三度目のプロポーズ!同時に、以前よりずっと高価なダイヤ入りのエンゲージリングを!さあ、チャオ・チャオはこれを受けとってくれるのだろうか?そして、今度こそリー・シンに対して「YES!」の返事をしてくれるのだろうか?そんなフィナーレは、あなた自身の目でしっかりと。
2014(平成26)年3月14日記