300<スリーハンドレッド> ~帝国の進撃~(アメリカ映画・2014年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2014年6月22日鑑賞
2014年6月30日記
肉弾相討つスパルタ軍の「テルモピュライの戦い」から、「2匹目のどじょう」を狙った本作のテーマは「サラミスの海戦」に。さて、紀元前5世紀に起きたペルシャ戦争におけるサラミスの海戦を、トラファルガーの海戦や日本海海戦と比較してみれば・・・?
優秀だが残忍な女司令官という設定は面白いし、色仕掛けによる寝返り勧誘のストーリーも面白いが、それ以上に本作を楽しむには歴史のお勉強が不可欠だ。
しかして、「3匹目のどじょう」を狙うとしたら、きっとそのテーマはアテナイとスパルタが衝突した「ペロポネソス戦争」だ。
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監督:ノーム・ムーロ
脚本:ザック・スナイダー、カート・ジョンスタッド
テミストクレス(ギリシア連合軍の将軍)/サリバン・ステイプルトン
アルテミシア(ペルシア海軍の女指揮官)/エヴァ・グリーン
ゴルゴ王妃(亡夫レオニダスの意思を継ぐスパルタの王妃)/レナ・ヘディー
アエスキロス(ギリシア連合軍の参謀、元詩人)/ハンス・マシソン
クセルクセス王(大ペルシア帝国を率いる皇帝)/ロドリゴ・サントロ
スキリアス(ギリシア連合軍の切り込み隊長)/カラン・マルベイ
カリスト(スキリアスの息子)/ジャック・オコンネル
ダレイオス1世(前ペルシア王)/イガル・ノール
エピアルテース/アンドリュー・ティアナン
ディリオス/デビッド・ウェナム
ダクソス/アンドリュー・プレヴィン
アルタペルネス/ベン・ターナー
バンダリ/アシュラフ・バルフム
ワーナー・ブラザース映画配給・2014年・アメリカ映画・103分
<2匹目のどじょう(=続編)の設定は?>
ザック・スナイダーが脚本を書き、監督した『300 スリー・ハンドレッド』(07年)はモノトーンで劇画タッチの斬新な映像が魅力だったが、同時にストーリーもメチャ面白かった(『シネマルーム15』51頁参照)。「スパルタ教育」という言葉は誰でも知っているが、同作に見る「退却しない。降伏しない。ひたすら戦うのみ」という哲学(?)にその原型があることがよくわかった。また、歴史的な勉強の面でも、紀元前5世紀のペルシャ戦争や同作のタイトルとなり、同作がテーマとした、300人のスパルタ兵が100万人のペルシャ兵と戦ったという「テルモピュライの戦い」についてもはじめて具体的にイメージすることができたから有益だった。
しかし、同作は当然それ一本で完結すべきもの。だって、登場人物はほぼ全員がその戦いで戦死してしまったのだから、同作のヒットにあやかって2匹目のどじょう(=続編)を狙うのは土台ムリ。誰もがそう思うところだが、「テルモピュライの戦い」があれば、「サラミスの海戦」もあるさ!これは、日露戦争において旅順の攻防をめぐる「二〇三高地の激戦」があれば、「日本海海戦」もあるさ!というのと同じようなものだが、さてその意味は?
<サラミスの海戦とは?>
ネット情報によれば、「サラミスの海戦」とは「紀元前492年から448年まで起きたギリシャ─ペルシャ戦争の主要戦闘の中の一つだ。この戦いはほかの戦いであるマラトンの戦いとテルモピレーの戦いに比べて有名ではないが、この戦争はアテネ歴史の転換点になった。」と書かれている。また、パンフレットには、サラミスの海戦について「サラミスとはアッティカの西岸沖に浮かぶ歴史上名高い島で、トロイア戦争のおり、この島の英雄アイアースが将となって12隻の艦船を率いて参加したという。サラミスが不朽の名を歴史に刻むのは、ペルシアの王クセルクセスが率いる大艦隊とテミストクレスが指揮するギリシアの小艦隊が、島の東方とアッティカ半島とに挟まれた狭い海域で真っ向からぶつかり合い、国の存亡を賭けた一戦でギリシア方を勝利に導いたからである。」と書かれている。
第1作の舞台がスパルタなら、第2作の舞台はアテナイ(アテネ)。また、第1作が「テルモピュライの戦い」なら、第2作は「サラミスの海戦」だ。紀元前5世紀当時のギリシャは、スパルタ、アテナイ、コリントス、テーバイ等々の「都市国家」から形成されていたこと、当時のアテナイでは民主主義が発達していたことを、中高校生の時の歴史で学んだが、本作を見ているとそれがよくわかる。また、「マラトンの戦い」は、現在の42.195kmを走る「マラソン」の起源となったものだが、本作冒頭に描かれるのがそれ。東方の大帝国ペルシャによるギリシャへの侵攻をアテナイの将軍テミストクレス(サリバン・ステイプルトン)の巧みな戦いによって何とか阻止することができたのはラッキーだったが、テミストクレスによってダレイオス1世(イガル・ノール)を討たれたペルシャがその復讐に燃えたのは当然。そんな紀元前5世紀に起きたペルシャ戦争という歴史上の事実を、本作は虚実を取り混ぜながらいかにも劇画タッチでスクリーン上に表現してくれるから面白い。前作で描かれた「テルモピュライの戦い」でスパルタ王レオニダス1世率いるスパルタの精鋭300人がペルシャの大軍の前に全員壮烈な戦死を遂げたのは歴史上の事実。そこで、テミストクレスは来たるべきペルシャの来襲に備えて、スパルタの王妃ゴルゴ王妃(レナ・ヘディー)に対して連合軍結成の申し出を行ったが、さてゴルゴ王妃は・・・?
日本では卑弥呼が生まれたのが6世紀。その頃の中国は魏呉蜀の「三国志」の時代を終えた北魏の時代。それより約1100年も前、そしてイエス・キリストが生まれる500年も前にギリシャではこんな文明があり、こんな戦いがくり広げられていたわけだ。まずは、そんな歴史的状況をしっかりお勉強したい。
<良くも悪くも、女傑の設定が本作最大のポイントに>
戦争映画はあくまで男が主役で女は添え物、それが大前提だが、上半身裸の屈強な兵士たちが肉弾戦で切り結ぶシーンが多い本作で、刀剣の技術でも、海軍の指揮でも、さらに美貌でも男たらしの術でも超一流の女傑として登場するのがペルシャ海軍の指揮をとるアルテミシア(エヴァ・グリーン)。本作冒頭、当時の歴史的背景を語るのはゴルゴ王妃。ゴルゴ王妃の話によると、アルテミシアはギリシャ人だが、同郷の男たちに家族を虐殺され残忍な仕打ちを受ける中、ペルシャの使者に拾われ、最強の戦士に育て上げられたらしい。「心はペルシャ人」と豪語するアルテミシアは心からギリシャを憎み、ギリシャへの復讐を誓っていたが、そんなキャラクターの女傑の魅力度は?それが本作最大のポイントになる。
日本海海戦ではロシアのバルチック艦隊を率いるロシアのロジェストヴェンスキー提督の無能ぶりが際立っていたが、ペルシャ海軍の総指揮官としてのアルテミシアの能力はまずまず。個々の戦闘でテミストクレス率いる弱小なギリシャ連合軍に負けるのは、その戦闘を任せた将軍の無能ぶりを示すもので、アルテミシアの責任とは言えない。逆に、アルテミシアは敵の将軍テミストクレスの類まれなる指揮官としての能力を見抜き、これを味方に引き入れようとする策を巡らすから偉いものだ。まさに、紀元前5世紀における軍師・黒田官兵衛を地でいったようなものだ。さらに、女だから、色仕掛けも当たり前。『キネマ旬報』7月上旬号の秋本鉄二氏の連載『カラダが目当て リターンズ』では、「ギリシャの英雄に色仕掛けで迫り、美豊乳丸出しで首に剣を突き付ける。立ちマン&バックの濡れ場の激しさよ。エヴァ暴走中。もはや“肉食系”を超越して“猛禽系”だね。」と何とも過激に表現されているので、これも参考にアルテミシアを演ずるエヴァ・グリーンの熱演ぶりを楽しみたい。
<サラミスの海戦を日本海海戦などと比較すると・・・>
日露戦争における日本海海戦(1905年)は秋山真之参謀が編み出した「T字戦法」が有名。これは、敵艦隊の進行方向をさえぎるような形で自軍の艦隊を配し、全火力を敵艦隊の先頭艦に集中できるようにして敵艦隊の各個撃破を図る戦法だ。また、イギリスのネルソン率いるイギリス艦隊がナポレオンのフランス・スペイン連合艦隊を破った「トラファルガーの海戦」(1805年)では、ネルソンが採用した「ネルソン・タッチ」が有名。これは、敵の隊列を分断するため2列の縦隊で突っ込む、というものだ。しかして、紀元前5世紀のペルシャ戦争におけるサラミスの海戦の戦法は?
本作では、肉弾相討つ個人戦の迫力は十分だが、海戦における戦法がよくわからないのが残念。当時の海戦にまだ大砲がないのは当然だが、弓矢はあるから、矢に火をつけて射ることは可能。また、石投げ機のような武器もあるはずだから、まずはアウトボクシング風に、一定の距離を保ちながらの弓矢合戦、石投げ合戦になるのでは。ちなみに、『ベン・ハ―』(59年)におけるローマ艦隊とマケドニア艦隊との海戦や、『クレオパトラ』(63年)における地中海の覇権をめぐってのローマ軍とエジプト軍との海戦では、さまざまな戦法が描かれていた。ところが、本作ではそのような戦法をめぐる面白さがないのが少し残念。そのかわりに(?)本作では、砲丸投げの要領で大量の火薬を敵船に投げつけるという戦法や、精鋭を海中に潜らせて敵船に密着させるというユニークな戦法が、実戦に採用されているから、それに注目!これは、せっかく魅力的な肉体を提供してまで味方に誘い込もうとしたのにあっさり振られてしまったため、テミストクレスやギリシャに対する怒りがより強まったアルテミシアが編み出した戦法だが、さてその成否は?
もっとも、本作に見る海戦の主要な戦法は、船首を敵船の横っ腹に激突させた上での「切り込み突入」であることがよくわかる。源義経率いる源氏が平家を最終的に滅ぼした「壇ノ浦の戦い」(1185年)における船のスケールに比べると、本作に見る船のスケールは格段に大きいから、そのぶつかり合いは迫力満点。さらに、クライマックスでは、テミストクレスは馬に乗って船と船を駆け巡るから、それにも注目!
<3匹目のどじょうを狙うとしたら・・・>
ペルシャ戦争とは、紀元前499年から紀元前449年の三度にわたるアケメネス朝ペルシャ帝国のギリシア遠征を指す。この戦争の経緯を示す資料はヘロドトスの『歴史』だけらしい。が、このヘロドトスの名前を私は中学生の時に知っている。また、プルタルコスの『プルターク英雄伝』を私は小学生の時に読み、大いに興奮したことを覚えている。昨今はネットでいくらでも情報を集めることができるから、本作の評論を書くためにペルシャ戦争についてもあらためて勉強したが、この時代の歴史の動きは面白い。「テルモピュライの戦い」を描いた『300 スリーハンドレッド』に続いて、「2匹目のどじょう」を狙った本作は、サラミスの海戦をテーマにしたが、もし「3匹目のどじょう」を狙うとしたら、さてそのテーマは?
アテナイとスパルタが強力な連携を結んだことは本作ラストで描かれるが、ペルシャ軍を駆逐したのち、陸軍国から強力な海軍力を擁する海上貿易国家へと成長したアテナイと戦勝による見返りがほとんどなかった農業中心のスパルタとの対立が激化していった。その結果、エーゲ海交易の主導権を握られたスパルタはアテネと敵対するに至り、この対立が後のペロポネソス戦争に発展していくことになる。
したがって、「3匹目のどじょう」を狙うとしたら、そのテーマはまちがいなくこのペロポネソス戦争になるはずだ。これは同じ都市国家同士の戦いだが、そこには東洋からの侵略国ペルシャを駆逐するための戦いとはまた趣の異なった熾烈な様子が本作と同じ劇画タッチで勇ましく描かれることだろう。
2014(平成26)年6月30日記