僕の大事なコレクション(アメリカ映画・2005年) |
<ホクテンザ2>
2006年5月5日鑑賞
2006年5月8日記
タイトルからは一体何の映画かサッパリわからないうえ、「ウクライナでの自分探しの旅」というテーマも何となく難しそう。しかし、1館だけでひっそりと上映される映画にも、時々「掘り出しモノ」がある・・・。島国ニッポン人にはわかりにくい東ヨーロッパの地図を思い浮かべながら、民族問題とりわけユダヤ人問題の複雑さと深刻さを勉強してみよう。そうすれば、「先祖探しの旅」はすなわち「自分探しの旅」だということが、あなたにもわかるはず・・・。
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監督・脚本:リーブ・シュライバー
原作:ジョナサン・サフラン・フォア『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』(ソニー・マガジンズ刊)
プロデューサー:ピーター・サラフ
ジョナサン(ユダヤ系アメリカ人青年)/イライジャ・ウッド
アレックス(通訳兼ガイド)/ユージーン・ハッツ
アレックスの祖父/ボリス・レスキン
リスタ(老嬢)/ラリッサ・ローレット
ワーナー・ブラザース映画配給・2005年・アメリカ映画・105分
<ウクライナあれこれ・・・>
この映画は東ヨーロッパのウクライナが舞台。といっても、「ああ、あそこか」と東ヨーロッパの地図を思い浮かべることができるのは、よほどの勉強家。島国ニッポン人たちは、西ヨーロッパの地図は知っていても、東ヨーロッパになるとほとんど何の知識もないはず・・・。ウクライナはロシアのすぐ西に位置している、「ソ連の穀倉」と呼ばれる肥沃な黒土地帯。他方、ウクライナの西側には、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーがあり、南西にはルーマニアがある。そして、ウクライナの首都はキエフ。1886年の原発事故から満20年を迎えた今年、日本でもさまざまな新聞特集が組まれているチェルノブイリはウクライナの北部にある。また、ウクライナ出身の有名人は、①小説家のゴーゴリ、②作曲家のプロコフィエフ、③ピアニストのホロヴィッツ、そして④女優のミラ・ジョヴォヴィッチらとのこと。
<島国ニッポン人には難しい人種問題・・・>
ここまでは一般的知識として資料を読めば誰にでもすぐにわかることだが、難しいのは東欧の民族問題と人種問題。とりわけ、ユダヤ人問題は1939年のナチスドイツによるポーランドへの侵攻と、ユダヤ人虐殺の歴史、そしてそれに伴うユダヤ人の東欧諸国から世界中への亡命の歴史があるため、問題は複雑かつ深刻。パンフレットによると、ニューヨークには、ウクライナ出身のユダヤ人が集中的に住んでいるエリアである「リトル・オデッサ」があるとのこと。これは多分「リトル東京」と同じようなものだろう。
また、旧ソ連は国内のユダヤ人を積極的に国外に移住させる政策をとったため、「リトル・オデッサ」には1970年代以降、旧ソ連からのユダヤ人が急増し、さらにロシア人やウクライナ人の移民も増えたとのこと。ちなみに、「リトル・オデッサ」とは、ウクライナの都市オデッサから付けられた名前。このような形で、ウクライナ、ユダヤ人、アメリカがつながっているわけだ・・・。
<原作+監督+プロデューサーの三位一体体制が実現したが・・・>
パンフレットによれば、この映画が実現したのは、①ジョナサン・サフラン・フォアの原作を、②俳優としてキャリアを重ねてきたリーブ・シュライバーが、自ら脚本を書きかつ監督をつとめ、③難航したプロデューサー探しの末、やっとピーター・サラフとめぐり会えたことによるもの、らしい。と言われても、まず100人のうち100人の日本人がチンプンカンプン・・・?だって、この①②③の説明の中に、知っている人物は誰もいないはずだから・・・?
<三位一体体制の坂和流解説>
そこで多少私が勉強した知識をここに書いておく必要がある。まず原作者は、1977年ワシントンDC生まれというからまだ若い。2002年に出版された彼の長編処女小説『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』は、ハードカバー版は米・欧全土でベストセラーとなり、ペーパーバック版も人気を博しているとのこと。そう聞けば、ひょっとしてこの映画の主人公ジョナサンは原作者自身のこと、と考えてしまうが、パンフレットによればどうもそうらしい・・・。つまり、彼が大学3年の夏に祖父の半生を知るためにウクライナを訪れた時の体験談をまとめたのがこの小説。
次に、脚本・監督のリーブ・シュライバーは『スクリーム』1、2、3などに出演した俳優で、1967年サンフランシスコ生まれ。ところが、彼も両親はドイツ系で、母親はユダヤ人とのこと。そのためか、彼はジョナサン・サフラン・フォアの原作に魅了され、原作者と語り合った結果、映画化権を獲得できたとのこと。
さらに、こんなマイナーな映画(?)をプロデュースするのが難しいことは当然だが、年間150本もの脚本を読んでいるというピーター・サラフが目をつけたのが、このリーブ・シュライバーの書いた脚本だったというわけだ。いい映画が生まれるためには、それぞれの立場の人たちの執念が必要だが、それプラス、三位一体体制が不可欠であることを実感!
<ヘンな主人公は?>
この映画の主人公ジョナサン(イライジャ・ウッド)は、この「リトル・オデッサ」に住むユダヤ系アメリカ人の青年。彼は自らを「コレクター」と称しているが、映画の邦題とされている『僕の大事なコレクション』とは、先祖に関するものなら何でもオーケーというヘンなもの。つまり、祖母の入れ歯、兄が使い捨てたコンドーム、弟が使っていた歯列矯正器具、父が捨てた何かのチケットの半券、母のくれた1ドル札、そして祖父が遺したバッタ入りのペンダントヘッドなどの「ガラクタ」ばかり・・・?ジョナサンは、それらを1つずつビニール袋に入れて壁に貼りつけている。
しかし、そんなものをじっと1人で眺め悦に入っているジョナサンの姿を見れば、こいつはヘンな奴と思うのが当然・・・。今日はとうとう祖母が亡くなったが、その祖母が死ぬ直前にジョナサンに残してくれたのは、1枚の古ぼけた写真。祖父とナゾの女性が一緒に写った写真の裏には「アウグスチーネとトラキムブロドにて」というメモが。そこでジョナサンは、祖父とアウグスチーネがたどった人生を探すため、1人、ウクライナのトラキムブロドへ旅立つことに。さて、彼は一体どんな思いから、この旅を思い立ったのだろうか・・・?
<これもヘンなウクライナの2人は・・・?>
ジョナサンがヘンな奴なら、彼をウクライナ空港に出迎えに来た通訳兼ガイドのアレックス(ユージーン・ハッツ)も、そしてその祖父(ボリス・レスキン)もヘンな奴・・・?パンフレットによれば、ユージーン・ハッツ自身も、18歳でウクライナからアメリカに渡ってきた移民。そしてパンクバンドのメンバーとして活躍しているが、映画はまるで素人とのこと。しかし、彼はその地のままに(?)、アメリカ文化が大好きなウクライナの青年をうまく演じている。
最初からジョナサンのことを「ジョンフェン」と呼ぶくらいだから、彼の英語能力がかなり怪しげなことはたしかで、その通訳の怪しさがこの映画の面白さの1つなのだが、字幕だけからではその怪しさが十分伝わってこないのは少し残念・・・。
彼の祖父は、目が見えるくせに見えないと言い張って、盲導犬の「サミー・デイビスJr.Jr.」と一緒でなければ行動しないと言い張るこれもヘンな奴・・・?当初は、単なるわがままな頑固者だけという印象だったが、ジョナサンとともにトラキムブロドへの旅を続けていく中、次第に彼も真剣な姿に。そして、トラキムブロドへの旅が終わったところで、彼がとった行動とは・・・?
<ウクライナのひまわり畑には誰が・・・?>
「目の見えない」祖父の運転する車で、ジョナサン、アレックス、祖父の3人+サミー・デイビスJr.Jr.1匹の旅が始まった。この映画の見どころの1つは、自然豊かなウクライナの田園風景。といっても、実際に撮影したのは、ウクライナの田舎にほぼそっくりということで選ばれたプラハ周辺とのこと・・・。
アレックスのヘンな翻訳によれば、ジョナサンの「難(かた)い人探し旅」の日程は3日間らしいが、写真に書いてあったトラキムブロドは一体どこに・・・?情報は旅途中での聞き込みだけという頼りない状況の下、3日目にたどり着いたのが、ひまわり畑の中にポツンと建っている1軒の家。「トラキムブロドはどこにあるの?」と訪ねるアレックスを驚いた顔で迎え、3人を家の中へ迎え入れたのは1人の老嬢(ラリッサ・ローレット)。驚いたことに彼女の家の中には、ジョナサンと同じようにいっぱいの収集物が・・・。さらに驚いたのは、ここがそのトラキムブロドだということ。そして、アウグスチーネはこの老嬢の妹とのこと・・・。すると、ジョナサンの祖父とアウグスチーネとの間には、ここでどんな物語があったのだろうか・・・?
<先祖探しの旅は、自分探しの旅・・・?>
老嬢とジョナサンやアレックスの祖父たちとの会話。そこで、老嬢の口から語られる驚くべき事実。そして、老嬢が案内してくれたお墓に眠るトラキムブロド村の人たちの物語。それは、ナチスドイツの侵略と虐殺というジョナサンやアレックスのおじいさんたちが直面した悲しい現実に、ジョナサンやアレックスもしっかりと目を向けなければならない物語だった。しかし、ジョナサンやアレックスのような孫の世代においては、そんな物語は本来遠い過去のもの。したがって、よほど何かのこだわりを持っていなければ、興味を持つこともないうえ、そこにたどり着くこともないはずのもの・・・。
したがって、ジョナサンが1枚の写真だけを手がかりにアメリカからウクライナを訪れ、トラキムブロドを探しに出た旅は、形のうえでは先祖探しの旅だったが、ホントは自分探しの旅・・・?この3日間の貴重な体験によって、ジョナサンは自分がなぜコレクターとなったのか、そして自分は一体何を求めていたのかが明確になったはず・・・。それはとてつもなく難しい「探し物」だったが、今やその価値は十分に・・・。
<これはメッケもの!>
この映画は、「映画通」の私も事前情報が全くなく、大阪では天六の「ホクテンザ2」1館だけで上映しているもので、私はそれを新聞宣伝で知ったもの。そこには、メガネをかけた特徴あるジョナサンの顔があり、その上には「『これはメッケもの!』と映画通のマスコミが絶賛!」という宣伝文句が謳われている。しかし、これだけではやはり観てみようという動機づけにはならなかったが、事前にパンフレットをパラパラとめくっているうちに、やはりこれは観ておこうと決心したもの。そして、鑑賞後の感想は、「これはメッケもの!」・・・。あるんだね、時々こういう映画が・・・。
2006(平成18)年5月8日記