怪しい彼女(韓国・2014年) |
<TOHOシネマズ西宮OS>
2014年7月21日鑑賞
2014年7月25日記
ただ、明るく楽しいだけのコメディ映画?鑑賞前はそんな印象だったが、ちょっと太目ながら、演技力抜群のシム・ウンギョンのダイナミックな演技と歌唱力に脱帽!「一人二役」の映画は多いが、「二人一役」の面白さを堪能!
しかも、クライマックスでは、コメディ全開の中でもついホロリと・・・。ひょっとして、韓国版『〇〇の彼女』シリーズが、今後続々と・・・。
本文ははネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
脚色・監督:ファン・ドンヒョク
オ・ドゥリ(20歳の乙女)/シム・ウンギョン
オ・マルスン(70歳のおばあさん)/ナ・ムニ
パン・ジハ(マルスンの孫、ヒョンチョルの長男、バンドのリーダー)/ジニョン
ハン・スンウ(TV局のプロデューサー)/イ・ジヌク
パン・ヒョンチョル(マルスンの一人息子、国立大学の教授)/ソン・ドンイル
エジャ(ヒョンチョルの嫁)/ファン・ジョンミン
パク氏(マルスンの隣に住んでる男やもめ)/パク・イナン
パク・ナヨン(パク氏のオールドミスの一人娘)/キム・ヒョンスク
パン・ハナ(マルスンの孫娘、ヒョンチョルの長女、就活浪人生)/キム・スルギ
オクチャ(マルスンの天敵のおばあさん)/パク・ヘジン
2014年・韓国映画・125分
配給/CJ Entertainment Japan
<導入部の口論にはうんざり!しかし・・・>
本作導入部は、本作の主人公である70歳になったおばあちゃんオ・マルスン(ナ・ムニ)と、長男パン・ヒョンチョル(ソン・ドンイル)の嫁であるエジャ(ファン・ジョンミン)との確執が生々しく描かれる。韓国全体が貧乏な時代に、夫と死別しながら一人息子を女手ひとつで国立大学の教授サマまで育て上げたのがマルスンばあさんの自慢だが、そんな話をいつも聞かされる周りはうんざり。さらに、嫁と姑の確執はどこにでもある話だが、ヒョンチョルとエジャの長男パン・ジハ(ジニョン)、長女パン・ハナ(キム・スルギ)の教育方針から、毎日の料理の作り方まで、さらには朝の亭主の見送り方まで、何かと口やかましいマルスンにエジャはうんざり。これでは、自殺とまでいかなくても、エジャがストレスで入院という事態になったのも当然だ。
さらに、老人たちが憩うシルバーカフェでのマルスンの天敵のおばあさんオクチャ(パク・ヘジン)との口論を聞いていると、みんな言葉が汚いうえ、声が大きく、感情が露わなので、こんな言い方は良くないが、韓国語そのものを含め、韓国人同士のけんかにうんざりしてしまう。しかし、主役が同じマルスンでも、70歳のマルスンから、20歳のオ・ドゥリに変わってくると・・・。
<アイデアがグッド!青春写真館のネーミングも!>
「写真館」をテーマにした映画は過去いくつもあったが、本作でマルスンが目の前に見た写真館の名は、青春写真館。店頭に掲げられているオードリー・ヘップバーンの若き日の姿を見たマルスンは、自分の遺影にするための写真をきれいに撮ってもらおうと思いつき、ふらりと店内に入ったところ、店主は「私が50歳若くしてあげますよ」とおべんちゃらを。客商売は愛想が大切だから、これくらいのおべんちゃらは許されるだろうが、撮影を終わったマルスンが急ぎバスに乗り込んでみると・・・。
ここで、冒頭の女をボールに例えるナレーションが現実のものになるところが面白い。それは「10代はバスケットボール、20代はラグビーボール、30代はピンポン玉、中年はゴルフボール、それを過ぎた女はドッジボール」というものだが、さてそのココロは・・・?それはともかく、なぜ70歳のおばあさんの私に若い男たちが親しげに声をかけてくるの?さらに、男のサングラスに映る自分の顔を見ていると、男は何を勘違いしたのか、唇を近づけてくるではないか。これは一体どういうこと・・・?
本作のマルスンを「二人一役」で演じる、若き女優シム・ウンギョンを、若き日のヘップバーンそっくりの顔と決めつけていたのは私の勝手な妄想だったかもしれない。しかし、本作のチラシにうつる、白いブラウスに赤いスカートをはいたウンギョンを見れば、誰だってヘップバーンの若き日を妄想するはずだ。しかし、バスの車窓にうつるウンギョンの顔、そしてついにスクリーン上で大写しになるウンギョンの顔を見ると、残念ながらヘップバーンには程遠いもの・・・。一瞬そんな失望感に襲われたが、パンフレットを読むと、ウンギョンは『王になった男』(12年)で、イ・ビョンホン扮する光海君の毒見をして死んでしまう女官役だった(『シネマルーム30』89頁参照)そうだ。たしかにそのシーンは記憶がある。あの時の悲しい運命に沈んでいったチョイ役のウンギョンがバスの中での初登場以降は、「二人一役」で若き日のマルスン役を良くも悪くも「これぞ韓流!」という面白さで大熱演!
この写真館のアイデアはグッド!そしてまた、青春写真館というネーミングも!
<ヘップバーンとは大違いだが、このミステリー性が魅力>
近々、周防正行監督の『舞妓はレディ』が公開されるが、オードリー・ヘップバーン主演の『マイ・フェア・レディ』(64年)をもじったこの映画最大のポイントは言語(方言)。『マイ・フェア・アレディ』で、田舎の花売り娘・イライザから素晴らしい貴婦人に変身できたのは、礼儀作法の習得はもちろんだが、大前提は言葉だった。しかして、本作にみる、オ・ドゥリこと、みごと20歳に若返ったマルスンは、姿かたちだけみれば今どきの魅力的な女の子だが、いざしゃべらせてみると、若者言葉は一切使わない。方言丸出し、感情丸出しの大声でしゃべる姿は、まさに大阪のおばちゃんであり、70歳のおばあさんだ。あるシーンでは、電車の中で泣き叫ぶ赤ん坊に手を焼く若い母親に対して、あやし方から授乳の仕方までこと細かく伝授する20歳のオ・ドゥリの姿が登場するが、それにはビックリするばかりだ。
家出してしまったの?それとも、どこかで野垂れ死にしてしまったの?そんな心配をしていたオ家に、ちゃっかり下宿させてもらうことによって舞い戻った20歳のオ・ドゥリと、マルスンの昔の奉公人で、あくまでマルスンに忠実な老人パク氏(パク・イナン)とのやり取りも面白い。お嬢さんだったマルスンの姿をあこがれながら見ていたパク氏なら、今それと全く同じ顔で目の前にいるオ・ドゥリになぜ気付かないの?そんな脚本上の疑問はあるが、この際そんな細かいことは横に置き、20歳のオ・ドゥリと70歳の老人パク氏との心温まる交流を楽しみたい。パク氏にはいまだに嫁にいけない一人娘パク・ナヨン(キム・ヒョンスク)がいたが、パク氏とオ・ドゥリの仲を疑われるドタバタシーンも面白い。
また、本作のメインストーリーの一つになる、TV局のプロデューサーであるハン・スンウ(イ・ジヌク)がオ・ドゥリに惹かれたのも、オ・ドゥリの歌のうまさだけではなく、たぶんオ・ドゥリのこのミステリー性にあったはずだ。女をボールに例えれば、本作冒頭の説明が正しいのかもしれないが、そこにミステリアス性が加われば、若い女はまさに鬼に金棒だ。
<70年代後半の韓国の名曲が次々と・・・>
今や日本の音楽界は「AKB48」に席巻されているから、演歌を歌う若手女性歌手は影が薄い。それは韓国でも同じようだが、日本でも70~80年代に多くの名曲があったように、韓国でも70年代にはたくさんの名曲があったことがオ・ドゥリの歌声を聴いているとよくわかる。オ・ドゥリの天敵のおばあさんオクチャがシルバーカフェのカラオケ大会で得意げに自信曲を歌った後、「負けじ!」と登場したのが、20歳のオ・ドゥリ。そこで歌ったのが韓国で1975年に大ヒットしたという、演歌『白い蝶』だ。
1972年に14歳の中学生で『せんせい』でデビューした森昌子の歌の上手さは突出していたから、彼女はすぐにアイドル路線から大人の演歌路線に転換できたが、今『白い蝶』を歌っているオ・ドゥリは、ホントの年齢は70歳。したがって、その歌に込められた情感や表現力が突出していたのはある意味当然。そのため、この曲にじいさんばあさんたちがやんやの喝采を送ったのも当然だが、偶然その歌声を聴いたハン・スンウも「これはいける!」と判断。そんなわけで、本作では以降、同じ演歌の『雨水』(76年)やパン・ジハたちが主催する「半地下バンド」のボーカルとしてオ・ドゥリが歌う『ロスに行けば』(78年)等々をタップリ味わうことができる。さらに、本作のクライマックスでは「半地下バンド」がメジャーデビューする舞台で、パン・ジハが作曲したオリジナル曲『もう一度』が熱唱されるから、それにも注目!
日本では、演技と歌の両方をこなせる若手女優は少ない。目立った存在としては米倉涼子くらいしか思い浮かばないが、韓国にはシム・ウンギョンのような若手女優がゴロゴロ・・・?
<コメディ全開の中でも、ついホロリと・・・>
メジャーデビューの舞台に渋滞のため遅れそうになる、というのはパン・ジハの大失態。タクシーではダメと判断したジハは、自転車に乗り換えて猛スピードでぶっ飛ばしたが、こりゃ危険がいっぱいだ。やっと到着したと思った途端、車に跳ね飛ばされてしまったから、アレレ・・・。せっかくこの舞台を準備したスンウも「半地下バンドの出演は中止」と判断しかけたが、そこで「ジハのためにも残ったみんなでやろうよ!」と主張したのがオ・ドゥリ。そして、ジハの魂が乗り移ったかのようにオ・ドゥリが力強く歌った『もう一度』は観客の大喝采を受けて大成功だが、さてジハは?
あのぶつかりようではひょっとして「即死」と思ったが、現実は輸血すれば助かりそう。しかし、RHマイナスの血液が大量に必要らしい。ご存知のとおり、RHマイナスの血液は少ないが、今失踪中のマルスンばあさんの血液型がそれだ。しかし、20歳のオ・ドゥリに姿を変えているマルスンは、ある体験で血液を抜かれると70歳の姿に戻ってしまうことを知っていた。それはオ・ドゥリがマルスンであることを見抜いているパク氏とオ・ドゥリだけの2人のヒミツだ。孫のパン・ジハの命を助けるためにはどうしても自分の血の輸血が必要だが、オ・ドゥリは今やっとメジャーデビューできたばかり。オ・ドゥリの目の前には、歌手としての明るい未来が大きく開けてきたところだ。さあ、オ・ドゥリは、そこで、どんな決断を?
本作の中盤から後半にかけては20歳の女の子と70歳のおばあさんの両方を演ずるシム・ウンギョンのダイナミックな演技に圧倒されるが、クライマックスにかけては、コメディ全開の中でもついホロリとするシーンが・・・。なるほど、これなら本作が韓国で動員860万人を超える大ヒットを記録したことにも納得!『猟奇的な彼女』(01年)(『シネマルーム4』132頁参照)の大ヒットに続く本作の大ヒットによって、ひょっとして韓国版『〇〇の彼女』シリーズが今後続々と・・・?
2014(平成26)年7月25日記