天才スピヴェット(フランス、カナダ・2013年) |
<GAGA試写室>
2014年10月23日鑑賞
2014年10月24日記
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監督・脚本・製作総指揮:ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:ギョーム・ローラン
T.S.スピヴェット(10歳の天才科学者)/カイル・キャトレット
テカムセ・E・スピヴェット(スピヴェットの父、時代遅れのカウボーイ)/カラム・キース・レニー
クレア博士(スピヴェットの母、昆虫博士)/ヘレナ・ボナム=カーター
レイトン(スピヴェットの二卵性双生児の弟)/ジェイコブ・デイヴィーズ
G.H.ジブセン(スミソニアン博物館次長)/ジュディ・デイヴィス
グレーシー(アイドルを夢見るスピヴェットの姉)/ニーアム・ウィルソン
トゥー・クラウズ(無賃乗車のおじさん)/ドミニク・ピノン
2013年・フランス、カナダ映画・105分
配給/ギャガ
◆『アメリ』(01年)といえばジャン=ピエール・ジュネ監督、ジャン=ピエール・ジュネ監督といえば『アメリ』だが、『アメリ』はストーリーが面白いのではなく、メルヘンの世界の描き方が面白いもので、いわばジャン=ピエール・ジュネ監督の現代版おとぎ話だ。そんなジャン=ピエール・ジュネ監督にとっては、3Dの手法が一般化してきたことは大いにプラス。なぜなら、その独自のアイデアに満ちた映像を作り出すには、3Dは絶好の技術だからだ。
ジャン=ピエール・ジュネ監督流おとぎ話を展開するについては、主人公の設定が最大のポイントだが、彼は本作の主人公を、10歳の天才少年スピヴェット(カイル・キャトレット)と設定した。そのうえでストーリーの軸にしたのは、スピヴェットが発明した「永久機関」だ。おとぎ話として面白いのは、山と緑に囲まれたモンタナの牧場の大自然を抜けて、世界都市ワシントンD.C.への大陸横断の旅と、スピヴェットの家族模様。私はこの手の映画は基本的に苦手だが、「映画はこうでなくちゃ!」と手を打つ人も多いのでは・・・。
◆映画に登場する家族模様はいろいろあるが、本作に見る5人家族は特異中の特異。よく言えば個性的、悪く言えばバラバラだ。スピヴェットの父テカムセ・E・スピヴェット(カラム・キース・レニー)は、100年遅れて生まれてきた、身も心も考え方も純度100%のカウボーイ。母クレア(ヘレナ・ボナム=カーター)は、昆虫の専門家で、人生の大半を、小さな生き物を顕微鏡で観察し、それを“種”と“亜種”に分類することに費やしてきた。姉のグレーシー(ニーアム・ウィルソン)は、レッド・カーペットを歩くハリウッドスターやパパラッチに追いかけられるアイドルを夢見ている。そして、全くタイプの異なる二卵性双生児は、天才科学者のスピヴェットと、体格が大きく向こう見ずな性格で、学校の成績は悪い弟レイトン(ジェイコブ・デイヴィーズ)の2人だ。
そんな5人家族は、モンタナ州のパイオニア山地の谷間にある広々とした牧場に、ポツンと建つ一軒の赤い家で仲良く暮らしていたが、ある日レイトンが銃の事故で死んでしまったから、家族1人1人の心の中にポッカリと大きな穴が・・・。そしてそんな中、スミソニアン博物館から、スピヴェットの発明した磁気車輪がベアード賞を受賞したという知らせが入ったことから、スピヴェットに大きな転機が・・・。
◆そもそも10歳の男の子がたった1人でロクに金も持たないまま大陸横断の旅に出かけること自体が無理筋だが、本作では無賃乗車とヒッチハイクを軸としたスピヴェットのロードムービーが、いかにもジャン=ピエール・ジュネ監督流のタッチでおとぎ話風に描かれていくから、それに注目!もっとも、信号を赤に塗って列車を停止させたり、警備員の追跡を重い荷物を抱えながら振り切ったり、その(悪)知恵には感心させられるが、これは一般的には違法なものばかりだから、あまりマネはしない方がいい。あくまで、ジャン=ピエール・ジュネ監督の映画だからこそ許されるイタズラと理解すべきだ。
そんなロードムービーの中で知り合った無賃乗車のおじさんトゥー・クラウズ(ドミニク・ピノン)やヒッチハイクでお友達になったトラック野郎のおじさんのキャラが面白い。また、久しぶりにスピヴェットが実家に電話を入れた時の、両親と姉の反応も心温まるものだ。本作中盤は、このようなさまざまなエピソードの積み重ね(にすぎない)だが、それがジャン=ピエール・ジュネ監督特有のおとぎ話風の映像で語られると、それなりの世界に引き込まれていくことに。
◆おとぎ話には善玉だけではなく悪玉が必要だが、本作のそれは、スミソニアン博物館の次長G.H.ジブセン(ジュディ・デイヴィス)というおばさん。スミソニアン博物館の名前を、私は『ナイト ミュージアム2』(09年)(『シネマルーム23』未掲載)ではじめて知った。そして、そこにベアード賞なるものがあることは本作ではじめて知ったが、スピヴェットが発明したという磁気車輪には、どこまで価値があるの?ひょっとして、それがノーベル賞にも値するの?それがサッパリわからない。
そこで、私が注目したのは本作のパンフレットにある映画評論家の滝本誠氏のCOLUMN、「ジュネの3D新作『天才スピヴェット』は驚異の映像発明」には、「<永久>というから敷居が高すぎる、<半永久>にすれば・・・というのは素人考えか。スピヴェット提出のそれもむろん<半永久機関>といっていい。摩擦、摩耗が不可避な環境では<永久>はあり得ない」と書かれていること。そして面白いのは、そこで「ポン・ジュノのSF『スノーピアサー』において、スノーピアサーの動力は<永久機関>という設定であった」と書かれていること。
たしかにそうだ。スピヴェットの発明をちゃんと実用化すれば、『スノーピアサー』(13年)(『シネマルーム32』234頁参照)でポン・ジュノ監督が描いた「スノーピアサー」のような永久に走り続ける列車が作り出せるとしたら、そりゃ絶対ノーベル賞ものだ。もっとも、本作を鑑賞するについて、この手の「学術論争」「科学論争」がどこまで意味があるのかについては、さて・・・。
◆『英国王のスピーチ』(10年)(『シネマルーム26』10頁参照)でも、インド映画の『マダム・イン・ニューヨーク』(12年)(『シネマルーム33』参照)でも、ラストのスピーチが映画のクライマックスになっていた。それと同じように本作でも、スミソニアン博物館におけるベアード賞の受賞スピーチがクライマックスになる。こんな場合、日本人の挨拶はだいたいヘタクソな場合が多いが、いくら天才少年といってもわずか10歳のスピヴェットが大勢の科学者の前で行うスピーチとは?
「3つだけお話しします」という前置きでスピーチを切り出したスピヴェットは、まずはお礼と発明の説明を。そして、口ごもった後に語り始めた「第3」のお話は死んだ弟のこと、そして家族のこと。一体なぜ、スピヴェットはこんな場でそんな話を・・・?
◆「天才少年現る!」テレビがそんなニュースに飛びついたのは当然。そこでジブセン次長は、自分とスミソニアン博物館を売り込む絶好のチャンスとばかりに、さまざまな策を弄したが、テレビ局はテレビ局でさまざまな仕掛けを準備。さてその騙し合いは・・・?
他方、自宅のテレビに映し出されるスピヴェットの晴れ姿を観て、姉のグレーシーはまるで自分の夢がかなったかのように大興奮気味。しかし、さて父親は?そして母親は?そこから展開される何とも意外な展開は、ジャン=ピエール・ジュネ監督流のメルヘンというよりは大阪の吉本新喜劇風のドタバタ劇となる。しかし、そこで一気に表現される家族愛の姿には感動!こんな3Dを駆使したジャン=ピエール・ジュネ監督の現代版おとぎ話が好きな方には、きっとこたえられない映画になっているはずだ。
2014(平成26)年10月24日記