馬々と人間たち(アイスランド他・2013年) |
<GAGA試写室>
2014年11月10日鑑賞
2014年11月13日記
アイスランドってどこにあるの?そこには「ポニー」より小さいアイスランド馬がたくさんいるらしいが、そこでの「馬々と人間たち」の生活は?
人が乗ったままでの雄馬と雌馬の交尾、馬の寒中水泳(?)、馬の腹をかっ切り、腹の中に入っての吹雪よけ。あっと驚くそんなシーンも、アイスランドでは日常のこと!
都心生活がすべての多くの日本人も、たまにはこんな映画でホッとしてみては・・・?
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監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
コルベイン(独身男)/イングヴァル・E・シグルズソン
ソルヴェーイグ(コルベインの求婚を待ちこがれる未亡人)/シャーロッテ・ボーヴィング
ヴェルンハルズル(ウォッカを求めて海へ入る男)/ステイン・アルマン・マグノソン
グリームル(柵を壊すのが趣味の男)/キャルタン・ラグナルソン
エーギットール(柵とトラクターが自慢の男)/ヘルギ・ビョルンソン
ヨハンナ(馬のトレーナー志望のスウェーデン娘)/シグリーズル・マリア・エイルスドティール
フアン・カミーリョ(乗馬観光に参加する外国人旅行者)/フアン・カミーリョ・ロマン・エストラーダ
オリ(グリームルの息子、乗馬観光を主催する男)/
2013年・アイスランド・ドイツ・ノルウェー映画・81分
配給/マジックアワー
<アイスランド馬ってナニ?その主演作とは?>
私はドラマ性のある映画が好きだから、基本的にドキュメンタリー系の映画は好きではない。本作もタイトルどおり、「馬々と人間たち」のさまざまなエピソードをドキュメンタリー風に撮影した81分の映画だと理解していた。しかし、第16回アイスランド・アカデミー賞(エッダ賞)で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞、視覚効果賞を受賞し、第86回アカデミー賞で外国語映画賞アイスランド代表になったうえ、第26回東京国際映画祭のコンペティション部門で最優秀監督賞を受賞したと聞き、やはり観ておかなければ、という義務感半分で試写室へ。
「ポニー」は肩までの高さが147cm以下の馬の総称だそうだが、その存在は『風と共に去りぬ』(39年)の後半のストーリーでよく知っていた。しかし、アイスランドにそのポニーよりさらに小さい、「体重330~380Kg、体高132~142cmほどの小型の馬で、9世紀末にノルウェーから渡来して以来、アイスランドでのみ1100年以上も交雑することなく保たれてきた純血種」のアイスランド馬がいることは全く知らなかった。しかも、北極圏に近い、本作の舞台となったアイスランド共和国では、馬を持つというのはすごく当たり前のことらしい。日本ではもちろん、ヨーロッパでも馬を飼って世話をすることは大きなお金がかかるので、お金持ちや貴族の人しかできないが、アイスランドでは本作のような風景はどこにでも見られるというわけだ。
意外に思われるかもしれないが、私は犬や馬が大好き。したがって、全体を通したドラマ的な脈絡のないまま紡がれていく本作の各物語が、馬の瞳をきっかけに始まる、というアイデアは大いに気に入っている。「北欧の国アイスランド生まれのとびきりユニークな映画」、「愛らしいアイスランド馬が映画初主演、知られざる彼らの魅力全開」と解説されているとおりの、まさに「馬々と人間たち」(の物語)を心行くまで楽しみたい。
<ビックリした馬の生態その1 交尾>
馬を主人公にした映画は多い。ハリウッドでは『モンタナの風に抱かれて』(98年)、『シービスケット』(03年)(『シネマルーム4』65頁参照)、『戦火の馬』(11年)(『シネマルーム28』98頁参照)等がある。また、邦画では『雪に願うこと』(05年)(『シネマルーム11』81頁参照)、『三本木農業高校、馬術部』(08年)(『シネマルーム21』199頁参照)等がある。ちなみに、『三本木農業高校、馬術部』では、リアルな馬の出産シーンが感動的なシーンになっていた。しかし、馬の「交尾」を大きなスクリーンで堂々と見せてくれた映画は本作くらいだろう。
本作の第1話には、独身男コルベイン(イングヴァル・E・シグルズソン)が実にカッコよく白い雌馬を乗りこなすシーンが登場する。アイスランド馬は背が低い分だけ当然足も短いから、サラブレッドの競走馬のような疾走感はないが、ショットグラスを持って乗っても中身がこぼれないと言われるほどの安定した歩き方が特徴らしい。そんなアイスランド馬で疾走してもスピードはそれほどでもないが、カッコよさはかなりのものだ。
もっとも、第1話ではそんなカッコいいシーンよりもコルベインの雌馬グラウーナと、コルベインからの求婚を待ちこがれている子持ちの未亡人ソルヴェーイグ(シャーロッテ・ボーヴィング)の雄馬ブラウンとの交尾シーンにビックリ!人間と違って動物の欲情の示し方は露骨だから、柵を壊して外に飛び出したブラウンは、コルベインを乗せたままのグラウーナを目がけて一直線。この雄馬の欲情を受け入れようとする雌馬は、もはや人間の制御が効かなくなり、ご主人様を乗せたままブラウンとの交尾を始めたから、いやはや・・・。この結果、グラウーナは何ともかわいそうな結末を迎えるのだが、それはあなた自身の目でしっかりと。
<ビックリした馬の生態その2 ザブンと冷たい海の中へ>
第2話には、むさ苦しいおやじ(?)ヴェルンハルズル(ステイン・アルマン・マグノソン)が馬に乗ってザブンと冷たい海の中に入り、はるか遠くを進んでいくロシアのトロール船にたどり着こうとする姿が登場する。背中に人間を乗せて、「犬かき」ならぬ「馬かき」で波に逆らって洋上の船まで泳ぎ着くのは、馬にとって大変な苦労だろう。私は、中学生の頃にラジオでよく聴いた、講談『寛永三馬術』が大好きだった。小説でも、曲垣(まがき)平九郎、向井蔵人、筑紫市兵衛の3人を主人公とする物語はメチャ面白かった。そこでのキーワードは人馬一体だ。『三国志』で有名な、後に曹操が関羽に贈ることになる名馬「赤兎馬」を、董卓が呂布に贈るストーリーをみても、武将にとって「人馬一体」は、生きていくための大切な要素だ。
そんなことを考えながらスクリーン上にみる「人馬一体」の勇姿を応援していたが、何とそれはウォッカの大好きなヴェルンハルズルがロシア船からウォッカを仕入れるため(の暴挙?)というから恐れ入る。やっとの思いで到着したにもかかわらず、このロシア船にはウォッカを積んでいなかったから、残念。もっとも、人馬一体で船までやってきたヴェルンハルズルの努力に敬意を表した船員たちは、ウォッカ以上に強い酒を売ってくれたから、ヴェルンハルズルは大喜び。しかし、この酒は「そのまま飲むな」と注意されるほど度の強いものだった。私はアルコール度数50%前後の中国の名酒・白酒を飲んでひっくり返ったことがあるが、再び「人馬一体」となって海の中に入り込み、海中で既にチビリチビリ原液のままで飲んでいたヴェルンハルズルは、さて、陸に上がってから大丈夫?さあ、そこから展開されるあっと驚く風景に注目!
<馬をめぐる人間たちの確執、抗争は?>
本作は馬をメインとしたストーリーが多いが、第3話だけは馬をめぐる生々しい人間たちの確執、抗争ドラマになる。人間は、秩序を大切にする人間と自由な雰囲気を好む人間の2種類に分かれる(?)が、この両タイプの人間が仲良くなることはまずない。したがって、本作にみる、柵とトラクターが自慢の男エーギットール(ヘルギ・ビョルンソン)と、柵を壊すのが趣味(?)の男グリームル(キャルタン・ラグナルソン)の対立は仕方ない。しかし、せっかく馬が逃げ出さないためにエーギットールが精魂込めて作った柵を、グリームルが実力で壊すのは、やはり如何なもの・・・。弁護士の目でみても、これは明らかな器物損壊罪だ。
しかし、グリームルの方は柵を壊す際にはずみで目に大ケガを負ってしまうし、グリームルをトラクターに乗って追いかけたエーギットールは、道を踏み外して真っ逆さまに転落。アレレ、その結末は・・・?
<カウボーイならぬ、ホースウーマンの勇姿に拍手!>
アメリカの西部劇にはカウボーイがよく登場するが、本作の第4話では、馬のトレーナー志望のスウェーデン娘ヨハンナ(シグリーズル・マリア・エイルスドティール)の活躍が描かれる。馬の調教の第1歩は馬に手綱をつけることだが、それをスムーズに行うためには人間が馬に信頼されることが不可欠。今、ヨハンナは気に入った牡馬ロイズカに手綱をかけようとしたが、自由の好きなロイズカは数頭の仲間とともに逃走。そこからヨハンナは1人でこの馬たちを連れ戻す旅に出かけることに。
馬たちを発見したヨハンナがどのようにしてロイズカたちを連れ戻すのかのお手並みは、あなた自身の目で確認してほしいが、その見事な活躍に拍手!さらに、ヨハンナはその途中で有刺鉄線で両目に怪我をして倒れているグリームルを発見し、その保護にも成功!そのカッコよさはハリウッドの西部劇の大スター、ジョン・ウェインを彷彿・・・?
<ビックリした馬の生態その3 極寒の国はこんな事も!>
韓国の済州島では大侑ランド射撃場という観光地が有名だが、それ以外にも乗馬を売りにした観光地がたくさんある。しかして、第5話(ラスト)には、オリが主催する乗馬観光の場面が登場する。馬のトレーナー志望のスウェーデン娘ヨハンナの見事な手綱さばきに憧れた、旅する青年フアン・カミーリョ(フアン・カミーリョ・ロマン・エストラーダ)はこれに参加したが、彼に割り当てられた馬はオールド・レッドという、名前のとおり年寄り馬だったらしい。そのため、疲れ切り、みんなから後れを取ったフアン・カミーリョは、吹雪の荒野をさまようはめに。
そこで見るあっと驚くシーンは、ナイフで馬の腹を割き、その中に潜り込んで一晩を明かすというもの。フアン・カミーリョがなぜそんな知恵を持っていたのかはともかく、第26回東京国際映画祭上映後のQ&Aレポートでのベネディクト・エルリングソン監督の言葉によると、「これはアイスランドでずっと昔からやられている方法で、あのような非常に厳しい天気の中で自分を守るために、生存するためにとられてきた方法」だというから、ビックリ。なるほど、ドキュメンタリー風の映画もたまに見ると刺激があって、いいものだ。
<秋になれば・・・。大団円の姿は?>
パンフレットには「アイスランドについて」の説明があり、そこではアイスランド馬について詳しく解説されている。それによると、「近年は海外での人気が高まり、盛んに輸出されている。アイスランド国内で約8万頭、全世界では約25万頭が飼育されている(2012年、アイスランド・レヴュー誌)」そうだが、本作ラストでは秋を迎えた季節での大団円の姿が描かれる。
大量に柵の中に追い込まれる馬たち。これは、この会場に参加している村の人たちによってこれから買い取られる馬たちだ。村人たちは柵の中に入り、それぞれ気に入った馬を選び、それを今度は柵の外に広がった自分の柵のエリア内へ誘導していく。一頭一頭の値段がどのようなシステム(セリ?)で決まっていくのかはこのシーンだけではわからないが、何とも楽しそうで壮大な風景だ。多くの日本人はビルの谷間の中で毎日スーツを着て生活しているが、もし可能なら1カ月くらいはこんな生活をしてみたいものだ。
映画には必ずしもストーリーを求める必要がないことを、本作を観て納得。馬の好きな人には無条件で楽しんでもらいたいものだ。ただし、ある意味で非常に残酷なシーンもあるので、ご用心を。
2014(平成26)年11月13日記