殺人の疑惑(韓国・2013年) |
<シネ・リーブル梅田>
2014年12月3日鑑賞
2014年12月5日記
韓国の三大未解決事件の1つである「イ・ヒョンホ誘拐殺人事件」については既に『悪魔は誰だ(MONTAGE)』(13年)がすごい問題提起をしたが、本作はそれを全く違う視点から。
周りもうらやむ良好な父娘関係の中、娘はなぜ父親に対して「殺人の疑惑」を持ったの?公訴時効が迫る中、それはどこまで深まっていくの?
声紋鑑定で否定されれば、それでOK?いやいや・・・。さすが、韓国映画が描く、人間のドロドロ感はすごい。あっと驚く2つの結末は、あなた自身の目でしっかりと。
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監督・脚本:クク・ドンソク
チョン・ダウン(大学院生)/ソン・イェジン
チョン・スンマン(ダウンの父親)/キム・ガプス
シム・ミオク(ダウンの母親)/ソ・ガプスク
ハン・サンス(ハン・チェジン(被害者)の父、産婦人科医)/カン・シニル
シム・ジュニョン(スンマンの妻の弟)/イム・ヒョンジュン
キム・ジェギョン(ダウンの彼氏)/イ・ギュハン
ヨン・ボラ(ダウンと仲のいい女友達)/チョ・アン
チャン・ソクチュン(刑事)/キム・グァンギュ
ソン・グァンミン(刑事)/ハ・ギョンミン
ダウン(赤ん坊)/キム・ギョンホン、ハム・チェヨン
ダウン(幼少期)/パク・サラン
キム刑事/チェ・ウンソク
ミン刑事/キム・ホスン
同僚刑事/ユ・テソン
2013年・韓国映画・95分
配給/CJ Entertainment Japan
<本作も「イ・ヒョンホ誘拐殺人事件」を題材に!>
韓国には「韓国三大未解決事件」と呼ばれている①「華城連続殺人事件」、②「イ・ヒョンホ誘拐殺人事件」、③「カエル少年事件」があり、①の「華城連続殺人事件」は『殺人の追憶』(03年)で映画化されている。そして、②の「イ・ヒョンホ誘拐殺人事件」にインスピレーションを受けたチョン・グンソプ監督は、『悪魔は誰だ(MONTAGE)』(13年)で「ソジン誘拐事件」と名前を変えて映画にした。それに続いて、同じ②の「イ・ヒョンホ誘拐殺人事件」にインスピレーションを受けたクク・ドンソク監督は、「ハン・チェジン誘拐殺人事件」と名前を変えて、本作を演出した。
『悪魔は誰だ』は、「ソジン誘拐事件」について15年という公訴時効が完成してしまった後に起きる、全く同じ手口による「ポミ誘拐事件」がテーマだった。それに対して本作は、「ハン・チェジン誘拐殺人事件」の公訴時効完成直前に父親チョン・スンマン(キム・ガプス)が犯人ではないかという「殺人の疑惑」を描いた、娘チョン・ダウン(ソン・イェジン)による素人探偵のストーリーが、ストーリーの軸になる。そしてラストに見る、あっと驚く真相の暴露が見どころだ。
韓国では、去る11月27日にパク・クネ大統領の名誉を傷つけたとして在宅起訴された産経新聞の前ソウル支局長・加藤達也氏の第1回公判期日が開かれた。そこで加藤氏はきっぱりと罪状を否認したが、公判直後に、乗っていた車を韓国の保守系団体のメンバーらが取り囲み卵を投げつけるなどしたため、日本をはじめとする多くの先進国からの批判を受けることになった。そんな事実を踏まえながら本作を観ていると、韓国の刑事裁判や警察の捜査のあり方にはさまざまな問題があることがよくわかる。
<熱血刑事ではなく、最愛の娘が捜査の主役に!>
『殺人の追憶』(『シネマルーム4』24頁参照)や『悪魔は誰だ』(『シネマルーム35』参照)で評論したように、韓国映画には、韓国特有の重厚な刑事モノ・犯罪モノが多いし、誘拐をテーマとした名作も多い。そして、韓国には『殺人の追憶』や『悪魔は誰だ』に見る熱血刑事をはじめとして、熱血タイプの刑事が多い。しかして、本作では公訴時効完成まであと数日に迫る中、一般にも公開されている犯人の「肉声」を頼りに必死に容疑者を特定しようとしているチャン・ソクチュン刑事(キム・グァンギュ)、ソン・グァンミン刑事(ハ・ギョンミン)が登場するが、意外にも本作では彼らは脇役。本作における「捜査」の主役は、何とも睦まじい(世の一般の国から見ると、ちょっと気持が悪いほど仲の良い)、父1人娘1人の父娘関係にある、娘ダウンになる。
大学卒業を控えたダウンは、今マスコミ関係の会社への就職活動に励んでいたが、折しも、マスコミは近々公訴時効を迎える「ハン・チェジン誘拐殺人事件」の話題で持ちきり。就職の面接でそのテーマを尋ねられるかもしれないことを考えると、「犯人の肉声」を映画の中に取り入れた「あの映画」は必見!そこで、今日は彼氏のキム・ジェギョン(イ・ギュハン)、仲のいい女友達のヨン・ボラ(チョ・アン)と共に、映画『悪魔のささやき』を鑑賞することに。ところが、鑑賞後よくよく考えると、あの犯人の肉声はパパの声と実によく似ているうえ、あの「フレーズ」はパパからよく聞いていたものだったから、アレレ・・・。さらに、何とボラからも「あの声はパパの声そっくりね!いや、私は何もパパが犯人だと言ってるわけじゃ・・・」と言われると、少しずつ父親に対して「殺人の疑惑」が・・・。
さらに、ボラの話によると、素人探偵のように父親の素行を調査してみると、すぐに父親の浮気を発見したらしい。その手段は、まず父親のサイフの中身やケータイの登録履歴、そしてパソコンをこっそり調べること。サイフの中にラブホテルの会員証があったり、ケータイにどこかのオネーちゃんとの再三の発着信があったり、果ては、パソコンの中身はエッチものばかりだったりすると、「やっぱりお父さんも男よね」では済まないことに・・・。そこでダウンがボラの教えを実践してみた他、もう一歩進めて「尾行」作戦をとってみると、何と父親は・・・?そんなダウンの素人探偵ぶりは、どこまでエスカレートしていくの・・・?
<キーマン登場!「義兄さん」にやけに馴れ馴れしいが>
ダウンによる「素人探偵」だけでは大したネタがあがらなかったのは当然。しかし、中盤から突然「義兄さん、義兄さん」とやけに馴れ馴れしい口を利く男シム・ジュニョン(イム・ヒョンジュン)が登場し、スンマンに対してカネを要求し始めると、ストーリーは俄然緊張感を深めていく。いくら「お前には関係ない」と言われても、父親が何らかの弱みを握られ、脅迫されているのではないか?そう思うと、娘として放っておくわけにいかないのは当然。しかも、シムは父親に対して「娘に母親のことを知られてもいいのか?」と言っていたから、娘の私にも「知る権利」があるのでは・・・?
シムの口ぶりを聞いていると、スンマンはシムの口封じのためにこれまでにもかなりのカネを渡していたようだ。また、どこかの時点で「もうこれっきり」という約束を交わしていたようだが、シムから「そんな約束をしたことは覚えていない」とシャーシャーと言われると、どうしようもない。また今でも、ちゃんとシムの言うとおりにカネを渡せば、シムもそれ以上の嫌がらせをするつもりはなさそうだが、いかんせん今のスンマンには要求されるとおりのカネを払う余裕はなさそうだ。その結果、シビレを切らしたシムがスンマンの家に押しかけてきた挙句、目の前で、「娘に知られてもいいのか?」と父親が脅かされる様子を見ると、娘としては更にいろいろ調べなければならないことに・・・。
そこでダウンは、警察官志望の彼氏ジェギョンを通じて、先輩刑事たちからいろいろと「ハン・チェジン誘拐殺人事件」に関する情報を集めてもらうと、そこからは意外にも・・・?
<遂に逮捕!「声紋鑑定」の結果は?>
本作でダウン役を演じたソン・イェジンは、『私の頭の中の消しゴム』(04年)では、イケメン俳優チョン・ウソンを「お相手」に、泣かせる純愛ドラマのヒロインを演じ(『シネマルーム9』137頁参照)、『四月の雪』(05年)では、同じくイケメン俳優ペ・ヨンジュンを「お相手」に不倫ドラマのヒロインを演じた美人女優(『シネマルーム9』144頁参照)。ところが本作で彼女は、それらとはうって変わって、異常なほど仲のいい父親を信じたいと思いつつ、捜査(素人探偵?)を進めていくにつれて否応なく父親への「殺人の疑惑」を深めていくという、複雑な娘役を表情豊かに演じている。
したがって、ジェギョンを使った警察へのアプローチ等、自分の不穏な動きによって、公訴時効の完成を目前にして、父親に「殺人の疑惑」がかけられ、警察に逮捕されてしまうと、ダウンの心境は・・・?『悪魔は誰だ』でも、容疑者の「声紋鑑定」という科学捜査が大きな威力を発揮する様子が描かれていたが、「ハン・チェジン誘拐殺人事件」では、犯人の肉声がハッキリ残っていたから、連行したスンマンに同じセリフをしゃべらせ、その声紋を鑑定すれば、スンマンが犯人か否かは科学的にハッキリするはずだ。
本作が面白いのは、そんな捜査の「王道」とは別に、ダウンが死亡したと思っていた母親シム・ミオク(ソ・ガプスク)を弟であるシムが世話していることを知ったり、その母子手帳を探り当てて、ダウンを産んだとされている産婦人科医を訪れ、院長のハン・サンス(カン・シニル)から直接事情を聞くシークエンスが描かれることだ。しかも、このハン院長こそが「ハン・チェジン誘拐殺人事件」で無残な殺され方をしたハン・チェジンの父親だったから、このような不穏な動きをしているダウンを見て、何かがピンときたのは当然。しかも、ハン院長は15年前の犯人の肉声が今でもハッキリ耳に残っているため、「声紋より俺の耳の方が正確だ!」と主張。警察に逮捕されているスンマンを見ると、いきなり殴りかかったから、こりゃヤバイ。しかも、これによってスンマンは数日間意識を失ってしまい、声紋鑑定が実施できるかどうかが微妙なことになったから、ハン院長の暴力行為は無茶苦茶だ。
ここにも、韓国警察の捜査のあり方の問題点が顕著だが、この際それは横に置き、やっと実施することができた声紋鑑定の結果を固唾をのんで見守っていると・・・?
<無事に釈放!しかし、娘の喜びは・・・?>
受験の合否の結果発表や、プロポーズに対する彼女のOKか否かの返事等々、誰にでも人生に1度や2度は固唾を飲んで結果発表を待つことがあるものだ。しかし、刑事ならともかく一般人は、本作のクライマックス(?)に見るような、声紋鑑定の結果を固唾を飲んで見守ることはないはず。もちろん、スンマンもダウンもこれは人生初の体験だ。しかして、その結果はシロ。つまり科学的に調べた結果、スンマンの声はその犯人の声と一致しなかったわけだ。そうなれば当然、スンマンの逮捕は誤認逮捕だったことになるから、即釈放されるのは当然。逆にハン院長は「それはおかしい!」とわめき散らしたが、鑑定結果が出た以上、こちらもどうすることもできないのは当然だ。
しかし、鑑定結果を聞いても、ダウンはどうしても父親への「殺人の疑惑」が晴れないらしい。そこで釈放されたスンマンを乗せた車でダウンが向かったのは自宅ではなく、何とチェジン君を川の中に遺棄した殺人現場だ。つまり、ダウンは科学捜査に頼るのではなく、スンマンの良心に問いかけて、ホントに父親は犯人ではないことを確認しようとしたわけだ。時刻は公訴時効が完成する10分前。車の中のスンマンは、今なおそんな質問を投げかけてくるダウンに対して「俺は犯人ではない」と言っていたが、いよいよ時計の針が12時を指すと・・・。さあ、この緊迫のシーンはあなた自身の目でしっかりと。
<この結末は想定外。なぜこんなことに?>
さらに、ダウンの運転する車を追跡してきたのは、ハン院長の車。ダウンと同じようにハン院長も声紋鑑定の結果にはどうしても納得できないらしい。車の外で殺人の犯行現場を見ながらの父娘の「話し合い」が終わった後、スンマンは「さあ、家に帰ろう」と言って車の中に乗り込んだが、何とその車の横っ腹にハン院長は車をぶつけてきたから、大変。車の外にいたダウンは直接の被害は受けなかったものの、しばらく気を失っている間に2台の車は爆発を起こし、スンマンの死体を乗せたまま車は川の中へ転落していくことに。
なぜ、こんなバカな結末に?こんな結末は誰しも想定外のはずだ。これも一面では韓国警察のアフターケアが不十分なためと批判すべきだが、映画としてはそれなりに納得できる結論かもしれない。しかして、その後さらに明らかになるダウンの出生をめぐる衝撃の事実とは・・・?
<この父娘関係は理想的?それとも?何かのカラクリが?>
アンジェリーナ・ジョリーの熱演が光った、『チェンジリング』(08年)のタイトルの意味は、「取り換えられた子供」というものだった(『シネマルーム22』51頁参照)。また、どこの国でも生まれたばかりの赤ちゃんの取り違え事件はある。ちなみに、2013年には、出生直後に別の新生児と取り違えられ、以降60年間も本来と異なる人生を送ることを余儀なくされたとして、取り違えられた男性とその3人の弟が取り違えた病院に対して損害賠償を求めた事件で、東京地裁は2013年11月26日、3800万円(本人に3200万円、3人の弟に600万円)の損害賠償を命じる判決を言い渡したことが日本中の話題を呼んだ。
本作冒頭約10分間は、赤ん坊のダウン(キム・ギョンホン、ハム・チェヨン)、幼少期のダウン(パク・サラン)が登場し、気持悪いほどベッタリの、父1人娘1人の生活の様子が描かれる。かつてバブルの頃、一緒によく北新地で飲み歩いていた私の知り合いに、「大学生になった娘と今でも一緒に風呂に入っている」と自慢する親父がいたが、まさに本作に見るスンマンとダウンもそんな感じだった。ところが、ところが・・・。最後の最後になって明かされる、衝撃の真実とは・・・?
2014(平成26)年12月5日記