マップ・トゥ・ザ・スターズ(カナダ、アメリカ他・2014年) |
<テアトル梅田>
2015年1月11日鑑賞
2015年1月14日記
デヴィッド・クローネンバーグ監督の『コズモポリス』(12年)は最悪だったが、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を争い、ジュリアン・ムーアが主演女優賞を受賞した本作も、私は苦手。
ハリウッドのスターを夢見る若者たちの青春群像劇はさわやかだが、それとは正反対の病的な人間ばかりが集まったドタバタ劇のサマは・・・?
顔に火傷のある少女と中年のハリウッド女優を軸として展開される、タイトルどおりのドロドロ劇の根源は近親相姦!ええっ、それってナニ?そんな興味とドロドロ劇の好きな人は必見だが、さてあなたの評価は?
本文ははネタバレを含みます!!
それでも読む方は下の「More」をクリック!!
↓↓↓
ここからはネタバレを含みます!!ご注意ください!!
↓↓↓
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
ハヴァナ・セグランド(落ち目の有名女優)/ジュリアン・ムーア
アガサ・ワイス(顔に火傷の跡があるスタッフォードとクリスティーナの娘)/ミア・ワシコウスカ
スタッフォード・ワイス(有名な心理学者)/ジョン・キューザック
ジェローム・フォンタナ(リムジンの運転手、駆け出しの俳優)/ロバート・パティンソン
クリスティーナ・ワイス(スタッフォードの妻)/オリビア・ウィリアムズ
ベンジー・ワイス(スタッフォードとクリスティーナの13歳の息子、有名子役)/エバン・バード
クラリス・タガート(ハヴァナの母、ハリウッドスター)/サラ・ガドン
2014年・カナダ・アメリカ・ドイツ・フランス合作映画・111分
配給/プレシディオ
<クローネンバーグ監督作品は要注意!本作も賛否両論>
デヴィッド・クローネンバーグ監督が第80回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたヴィゴ・モーテンセンと組んだ『イースタン・プロミス』(07年)は、ロンドンを舞台として生きるロシアン・マフィアの実態を暴いて見せてくれた面白い映画だった(『シネマルーム19』199頁参照)。しかし、同監督が本作でもリムジンの運転手ジェローム・フォンタナ役として登場するロバート・パティンソンと組んだ『コズモポリス』(12年)は、全然ワケのわからない映画で、私の採点は星2つだった(『シネマルーム30』未掲載)。そんなクローネンバーグ監督が一見華やかだが、ドロドロとしたハリウッドの世界を描いたのが本作だ。本作には役を必死で追い求めている、今はちょっと落ちぶれた女優ハヴァナ・セグランド(ジュリアン・ムーア)が主役として登場するが、『マップ・トゥ・ザ・スターズ』というタイトルどおり、表に見えるセレブな生活ぶりとは異なり、裏では猛烈な葛藤が・・・。
本作は2014年のカンヌ国際映画祭でパルムドール賞こそ獲れなかったものの、ジュリアン・ムーアが主演女優賞を受賞した作品。しかし、専門家による本作の評価は、賛否両論が大きく分かれている。また、本作の「ユーザーレビュー」を調べてみると、①「実際のハリウッド・セレブの人格や今のポジションなどを基に作ってあるので、まず出てくる人物を始めから誰だか分かってないと見ていて辛い」、②「そこへ来て、難解な映画となっているので、娯楽を求めて見る人には退屈」、③「主役の演技は凄いのだが、おばちゃんだし、生々しいので、そういうのを受け入れる人でないと不快に思う」、と率直な意見があり、私もこれに大賛成だ。ちなみに、どこが難解?誰がおばちゃん?そして、どのシーンが生々しいの?それは、あなた自身の目でしっかりと。
<顔に火傷の女性がロスに!それがストーリーの軸に!>
冒頭、空港から出て、ジェローム・フォンタナ(ロバート・パティンソン)が運転する車(本来は、これがリムジンだったはず?)に乗り込む若い女性がアガサ・ワイス(ミア・ワシコウスカ)。このアガサが、本作のストーリーの軸になっていく。もう一つのストーリーの軸になるのが、大女優として知られている母クラリスの亡霊に苦しめられている中年女優ハヴァナが、クラリスの出演した映画『盗まれた水』のリメイク版の主役を獲得するべく奮闘するストーリー。ハヴァナが今、テレビにも出演している有名な心理学者スタッフォード・ワイス(ジョン・キューザック)のセラピー治療を受けているのも、そのためだ。
事前の情報では、アガサは顔と身体にひどい火傷を負った女性ということだったが、もともと個性的な顔立ちのミア・ワシコウスカの顔の火傷はほとんど髪で隠されているから、ほとんどわからない。また、両手にも長い手袋をしているうえ、唯一見せるジェロームとのラブシーンでも、「私、身体に火傷があるから」とのセリフで全く肌を見せないから、アガサの火傷のひどさは全くわからない。ところで、アガサはなぜこんな火傷を負っているの?そして、アガサがロスに1人で戻ってきたのは、一体何のため?
<青春群像劇?いやいや、ヘンな奴ばかりのドロドロ劇!>
2015年のNHK大河ドラマとして始まった『花燃ゆ』は、長州・萩の小さな私塾・松下村塾に集う若者たちの爽やかな青春群像劇だが、本作はその正反対で、登場人物はヘンな奴、もっとハッキリ言えば病的な奴ばかりが集まったドロドロ劇だ。スタッフォードのセラピーを受けているハヴァナの異常性は明白だが、13歳にしてスターになっているスタッフォードの息子ベンジー・ワイス(エバン・バード)も薬物依存症らしい。私は「非ホジキンリンパ腫」が何を意味するのかサッパリわからないが、ベンジーが訪れた病院では、そんな大病を患っている女の子を見舞ったこともあって、ベンジーは変な夢(幻覚?)に襲われることに・・・。また、スタッフォードの妻クリスティーナ・ワイス(オリビア・ウィリアムズ)は、息子ベンジーのステージママとして大活躍の様子だが、冒頭に登場した女性アガサが、ハヴァナの個人秘書の職を得て撮影所に出入りするようになると、少しずつ怪しげな雰囲気に・・・。
クローネンバーグ監督の映画は、大監督にふさわしく説明不足(?)なので、ストーリー展開は読みにくいが、中盤に展開されるアガサがベンジーを訪れるシーンや、その会話を聞いていると、ワイス家には何か重大な秘密があることが暗示されていく。それが、具体的に明らかになるのは、今から7年前にアガサが家に放火し、自らも火傷を負ってしまったらしいということだ。それがわかると、次にはなぜアガサがそんなことをしたのかが問題になるが、それが後半から少しずつ解き明かされ、ドロドロ劇がより悲劇的な様相を深めていくので、それに注目!近時、昼ドラでも、『真珠夫人』(02年)や『赤い糸の女』(12年)、『幸せの時間』(12年)のようなドロドロ劇が流行っていたそうだが、そんなドラマが好きな人は、きっと本作を気に入るはずだ。
<姉と弟で結婚式ごっこ?そのココロは・・・?>
ハヴァナが顔に火傷のある女の子アガサを個人秘書に採用したのは、友人の紹介。火と水をキーワードとしてすぐにアガサを気に入ったにもかかわらず、日常的に接していると、やはり個性の強い女同士はうまくいかないらしい。しかし、自分の排便姿まで堂々とアガサに見せていたハヴァナが、一転してアガサを叱りつける姿を見ていると、こりゃ病的としか言いようがない。もっとも、高価なソファを生理の血で汚されたらカッカするのは当たり前。そこでハヴァナから情け容赦ない「口撃」を受けたアガサの対抗策は・・・?
他方、薬物を絶ち、やっと念願の作品に出演していたベンジーだったが、共演の子役がえらく目立っているのが気に入らないらしい。そこでコトある毎にこの子役に当たっていたが、ベンジーはよく幻覚を見るから、その行動は怖い。アガサの場合は、明確に殺人罪もしくは傷害致死罪だが、ベンジーの場合は心神喪失、心神耗弱の主張が通るかもしれないものの、外形的にはハッキリ殺人罪だ。後半からクライマックスにかけて、そんな行為に及んでしまうこの姉と弟は、父スタッフォード、母クリスティーナの下で一体どんな育て方をされたの?
どうしてもそんな問題に突き当たってしまうが、そこで思い出話として語られるのが、この姉弟はよく「結婚式ごっこ」をして遊んでいたということ。しかし、それって一体ナニ?姉と弟で「結婚式ごっこ」は、ちょっとおかしいのでは・・・。日本では3親等以内の結婚は法律で禁じられている(民法第734条)が、それはアメリカでも同じはず。ところが、話の端々から、父親のスタッフォードと母親のクリスティーナはどうも実の兄と妹らしいことが語られるが、ええー、そんなことってあるの・・・?
クローネンバーグ監督作品は、こんなワケのわからない話から何か恐ろしい世界に私たちを引き込んでいくことに・・・。「2度と家に入るな」との忠告にもかかわらず、母親のクリスティーナに会うためにアガサが家の中に入り込んでいることを発見したスタッフォードが、アガサに対して取った行動とは?さらに、そんな父と娘のケンカ(?)に絶望した母親クリスティーナが取った行動とは?それはあなた自身の目でしっかり確認してもらいたい。何とも後味の悪いラストに、私はしばらく席を立つことができなかったが、それって、この映画が名作だってこと?それとも・・・?
2014(平成26)年1月14日記