ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実(アメリカ・1974年) |
<シネ・リーブル梅田>
2015年4月29日鑑賞
2015年5月7日記
ドキュメンタリー映画史上最高傑作の1本が、リバイバル上映!時あたかも、4月30日はベトナム戦争終結40年の記念日(?)だ。
ベトナム(侵略)戦争反対!そんなデモ隊の声と共に学生時代を過ごし、ジョーン・バイズの『花はどこへ行った』を歌ったのが団塊世代の私たちだが、ベトナム戦争の真実をどのように理解すればいいの?
2001年の9.11テロ以降、人々の興味と関心はアフガニスタン戦争やイラク戦争に移っているが、ベトナム人民の苦しみと同じように、ベトナム戦争帰りの兵士たちの苦悩をどう理解すれば・・・?
また、今やベトナムにとってアメリカは「昨日の敵は今日の友」だが、「今日の敵」中国とどのように向き合えばいいの?そんなこんなの難しいテーマを、本作をネタにしっかり勉強したい。
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監督:ピーター・デイヴィス
製作:バート・シュナイダー&ピーターデイヴィス
撮影:リチャード・ピアーズ
ジョルジュ・ビドー
ジョン・フォコスター・ダレス
クラーク・クリフォード
ウォルト・ロストウ
ジョージ・コーカー
ランディ・フロイド・ノーマン
J・W・フルブライト
ロバート・ミューラー
スタン・フォルダー
ジョセフ・マッカーシー
ウィリアム・ウェストモーランド
ダニエル・エルズバーグ
チャン・ティン
ジエム・チャウ
ジョー・トレンデル
バートン・オズボーン
エドワード・サウダース
ジョージ・パットン3世
ウィリアム・マーシャル
グエン・ゴク・リン
ロバート・ケネディ
ユージン・マッカーシー
グエン・カーン
ゴ・ディン・ジェム
ゴ・バ・ダン
グエン・ティ・サウ
マクスウェル・ディラー
ボブ・ホープ
リンドン・ジョンソン
J・F・ケネディ
リチャード・ニクソン
ロナルド・レーガン
1974年・アメリカ映画・112分
配給/エデン
<ドキュメンタリー最高傑作の1本がリバイバル上映!>
1974年のカンヌ国際映画祭批評家週間でワールドプレミアが行われ、大絶賛されたのが本作。ところが、本作の公開については、当初配給を行うはずだった会社が政治的報復を恐れて配給を降り、年末になってようやくワーナー・ブラザースによる配給が決まり、12月20日にロサンゼルス、ウエストウッドのUSシネマで特別上映されたのが最初らしい。また、その後、ジョンソン元大統領の政策補佐官ウォルト・ロストウが自分の出演シーンの削除と、上映差し止め要求を裁判所に提出するなど、上映を妨害する行為が相次いだが、製作サイドは再編集を拒否して裁判が行われたらしい。その結果、翌1975年1月22日に最高裁が一般公開を認め、1月30日に一般公開が開始されたというから、さしずめ日本でいえば、猥褻か否かで最高裁まで争った武智鉄二監督の映画『黒い雪』(65年)や大島渚監督の映画『愛のコリーダ』(76年)のようなものだ。
さらに本作は、1975年の第47回アカデミー賞で最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。しかして、同年4月5日のアカデミー賞授賞式では、プロデューサーのバート・シュナイダーが受賞のあいさつでベトナム戦争とアメリカの良心について語り始めた時、司会を務めていたハリウッド最右翼のタカ派フランク・シナトラが「アカデミー賞に政治を持ち込むな」と抗議したところ、それに対してシャーリー・マクレーンが「映画は真実を見つめて平和に貢献しなければならない」と反論し、満場の喝采を浴びたそうだから、いかにも自由と民主主義の国アメリカの言論の争いはすごい。
2015年4月の今、なぜそんな映画が40年ぶりに日本でリバイバル上映?しかも、劇場は久しぶりに超満員で立ち見客まで出る状態だ。こりゃ一体なぜ?
<ベトナム戦争終結から40年!>
私は都市問題の講義をする時いつも、1970年の大阪万博の年を「昭和日本」が最も豊かだった年と位置付けて「時代区分」を行っているが、今や日本は既にそこから45年が経った。他方、1967年に大学に入学した私が、学生運動に明け暮れていた時の最大のテーマは「70年安保改定阻止」と「ベトナム戦争反対」だった。ベトナム戦争へのプロテストソングの代表曲であるピーター・ポール&マリー(PP&M)が歌った『500マイル』やピート・シーガ-やピーター・ポール&マリー、そしてブラザーズ・フォアらが歌った『花はどこへいった』は、どの集会でも歌われていたものだ。
そのベトナム戦争は、アメリカ軍が圧倒的な空軍力で「北爆」を続けていたにもかかわらず、1975年4月30日、旧南ベトナムの首都、サイゴン(現ホーチミン)の大統領官邸に白旗が掲げられたことによって、ほぼ15年にわたる戦争に終わりを告げた。これは、1974年4月に弁護士登録した私の弁護士1年目の活動が終わった年だが、ベトナム戦争がこんな形で終わったのは何とも意外だった。それから40年、朝日新聞は「新世代の米越 ベトナム戦争終結40年 上下」を、産経新聞は「サイゴン陥落 ベトナム戦争終結40年 上下」を、読売新聞も2015年4月30日付で「ベトナム戦争終結40年 戦後復興、発展に誇り」を載せた。中国の力が増大している昨今、「ベトナム戦争終結40年の総括」が不可欠だ。アメリカに負けた日本が今、強固な日米同盟を結んでいるのと同じように、ベトナムにとってアメリカは今「昨日の敵」から「今日の友」に転じている。それはそれで喜ばしい限りだが、それと対照的にベトナムは今、南シナ海の領有権をめぐって中国と激しく対立しているから、国際情勢の分析は難しい。
ベトナム戦争を描いた映画の代表作としては、『ディア・ハンター』(78年)、『地獄の黙示録』(79年)、『ランボー』(82年)、『プラトーン』(86年)、『7月4日に生まれて』(89年)等があり、ミュージカルでは『ミス・サイゴン』がある。そんな「ベトナム戦争終結40年」の今、あらためて本作を上映する意味をしっかり確認したい。
<日本の公開は?米国の再評価は?タイトルの意味は?>
日本では、全米初公開当時は劇場公開が見送られたが、1975年9月5日にNET(現テレビ朝日)が夜の11時15分からテレビ放映し大反響を巻き起こしたらしい。そして、1987年12月16日には、HRSフナイよりVHS版ビデオが発売されたが、既に廃盤。その後、2010年6月19日から行われた“ベトナム戦争勃発から50年 映画で見る戦争(ベトナム)の真実”と題された東京都写真美術館ホールでの企画上映において初の劇場公開が行われたそうだ。その上映用のマスターは、映画科学アカデミー所蔵の35ミリ・フィルムから作成されたハイビジョン・マスターを使用したノーカット無修正完全版。2010年の公開はDVD上映だったが、今回は初のハイビジョン素材(BD)での上映となるらしい。
他方、全米では、2001年9月11日の同時多発テロとその後のアメリカのアフガニスタンへの侵攻などを受けて、本作の再評価の動きが活発化したらしい。そして2002年6月25日にデジタル修復版マスターを使用したクライテリオン・コレクション版DVDが発売されてベストセラーを記録し、2009年2月13日には全米の劇場でリバイバル上映が開始されたらしい。
ちなみに、本作の題名となっている“ハーツ・アンド・マインズ”という言葉は、ジョンソン大統領が行った演説での「(ベトナムでの)最終的な勝利は、実際に向こうで暮らしているベトナム人の意欲と気質(ハーツ・アンド・マインズ)にかかっているだろう」という言葉から取られているそうだが、さて、そのココロは?アメリカにとってベトナム戦争は完全な敗北だったはずだが・・・。
<多彩な登場人物からベトナム戦争の真実をしっかりと!>
今や、アメリカではベトナム戦争は過去のものとなり、2001年の9.11テロ以降に起きたアフガ二スタン戦争やイラク戦争が興味の対象になっている。その結果、映画でも『ハート・ロッカー』(08年)(『シネマルーム24』15頁参照)や『アメリカン・スナイパー』(14年)(『シネマルーム35』24頁参照)、さらには『ネイビーシールズ』(12年)(『シネマルーム29』126頁参照)等々の名作が生まれている。しかし、本作に登場するリンドン・ジョンソン大統領、J・F・ケネディ大統領、リチャード・ニクソン大統領、ロナルド・レーガン大統領ら歴代アメリカ大統領の姿を見ていると、アメリカという超大国を良き方向に導いていくことがいかに大変かがよくわかる。
ちなみに、多くの日本人は、J・F・ケネディは理想の大統領だと思っているが、私が学生時代に勉強した日本共産党の必読文献であった『ケネディとアメリカ帝国主義』では、そのタイトルどおり、ケネディ大統領はアメリカ帝国主義という悪の権化であり、ベトナム侵略戦争の最大の責任者だと分析されていた。アメリカのために戦ったはずのベトナム戦争帰りの兵士たちの苦悩は、『アメリカン・スナイパー』が描いたイラク戦争帰りの兵士たちの苦悩と全く同じであることが、本作を観ればよくわかる。しかして、正義の名の下にベトナム戦争を遂行し、結局はアメリカを敗北に導いた歴代大統領や、ジョン・フォコスター・ダレス国務長官らの責任は?
本作は、北爆やナパーム弾、さらには枯葉剤等に苦しむベトナム人民の姿や、徹底的にアメリカ帝国主義に立ち向かう(北)ベトナム兵士の姿をはじめ、多彩な人物が登場しインタビューに答えているので、それに注目し、そこからベトナム戦争の真実をしっかりと学びたい。ちなみに、現在大阪では来る5月17日の「住民投票」に向けて、大阪都構想をめぐる賛成・反対両陣営の議論が盛り上がっているが、そこから大阪都構想の真実を導き出すのは難しい。しかし、それをしっかり学び投票するのが大阪市民210万人の歴史的使命だから、本作でベトナム戦争の真実を学んだのと同じように、大阪都構想についてもしっかりその真実を学び、それぞれの責任をもって投票したい。
2015(平成27)年5月7日記